第13話 青妃之望

「あぁ、お姉様…妾はずっと帝都こちらにいらすとばかり…」

灑葉の甘えた声に瑞華がぴしゃりと叱責した。

「世をお治めくださる大家の御前ですよ。青羅とは失礼な国主の室をお持ちですこと…それとも妾が不出来な妹にしてしまったと言うのかしら…?」

青ざめた顔で灑葉は深く礼をとった。

「失礼をお許しください…お姉様におかれましてはご機嫌麗しゅう…」

「良い。久方ぶりね、灑葉」

場の空気が落ち着いた。

「大家、長らくお待たせして申し訳ございません。夫王と共にお目通りをと思っておりましたが、妹長公主の来宮が早くこのような形となりました。もしや大家の御手を煩わせはしまいかと…」

「ありがとうございます、姉上」

瑞華はくるりと振り返り、鳴韵を見た。

「そなたが鳴韵殿下?」

「はい、叔母様。お会いできて光栄ですわ」

瑞華は冷ややかな目で笑った。

「大人びていらっしゃるし…随分と人の上に立つことに慣れているよう。青羅は安泰ですわね」

「ありがたき幸せ…なれど、妾は皇太子妃になるために参りました。青羅には優秀な弟王子が数多あまたおりますから」

暎帝が玉座から身を乗り出した。

「皇太子妃には…」

「大家」

瑞華が視線で止めた。

「母君からお聞きでしょうが、皇太子妃はいずれ皇后として冊立されることが多いのです。は許されませんよ?」

鳴韵が強気の表情で微笑んだ。

「存じております。次代の大家の妃ですもの」

瑞華はほぅっと溜め息をついた。

「あくまでも側妃ではなく皇太子妃なのですね」

「はい、そうですわ」

「皇太子殿下に御認め頂かねばなりません。まずは大家に帝子宮で過ごす許可を頂き、帝子方、妃嬪方に御認め頂かれませ」

暎帝は許すとだけ答えた。

「では青妃様、となられますよう」

鳴韵は満足そうに笑った。

だが暎帝の表情は曇っていた…賢王たる暎帝と灑葉の礼儀を仕込み、指導をしたのは他でもない瑞華。その時のことを思いだし、鳴韵を可哀想に思いながらも必要なことだと自身を納得させた。

瑞華は多くの人との交わりのなかで礼儀を覚えさせるため、人々の前で失敗させるのだ…果たして気位の高い鳴韵は耐えられるかどうか…。

鳴韵が帝子宮へと移動している間、瑞華と暎帝は話し合い、皇太子夫妻を呼び出すこととなった。瑞華と入れ替わりで皇太子夫妻が入ってきた。

「お呼びと伺い、参上しました」

2人が礼をしようとすると暎帝は免じた。

「礼は良い。従姉の鳴韵が参ったことは聞き及んでおろう。彼の者は皇太子妃にならんとしておる。よって、余は試練を課す。凰琳、皇太子妃であることを明かすな。公的な場で礼を失した時に廃位とす。そうでなくば、鳴韵も諦めぬだろう」

凰琳はふわりと微笑み、胸に手をあてた。

「ご心配なく。一介の妃として接せよとの御命にございますね?」

暎帝はすまなそうに言った。

「そうだ…」

「拝命いたします、お任せを」

黎翔が大きな声で言った。

「父上っ!我はっ…」

暎帝は黎翔に厳しい目を向けた。

「妃は受け、それを支えることもできぬのか…?」

「いえ…お許しください」

「妃を信じよ」

「はい…凰琳、宮は動かぬよな?」

「えぇ、お側におります、鸞様」

凰琳は黎翔を力づけるように微笑んだ。

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