第14話 青妃横暴

黎翔と凰琳は後華宮の敷地に戻った。

「凰琳、無理はしないでおくれ?我はやはりやめておくべきだと思うんだ」

「心配してくださるのですね…大丈夫ですわ、無理はいたしません。勅命を果たすだけですもの」

遠くから鳴韵が来るのが見えた。

「一介の妃が皇太子殿下のお側に侍るのはあってはなりませんわ。院宮へご機嫌伺いに参られるのでしょう?行かれませ」

「あ、あぁ…」

黎翔の姿が院宮へと消えると鳴韵に拝跪した。

「青妃様にご挨拶申し上げます」

「ん…?そなたは誰?年が近い者であるようだし、皇太子殿下とお話ししていたでしょう?不愉快よ」

想像以上に鳴韵の気位は高いようだ。

「申し訳ございません…私は妃が1人、照と申します」

鳴韵の探るような表情があからさまな侮蔑に変わった。

「あぁの照王が娘でしたか…二代しか歴史を紡いでいない王の娘など、長い歴史を持つ青羅の王公主とは本来話せませんのよ?それも初代照王は大家との血筋の繋がりはないという噂もございますし…?あら、気に障ったのならごめん遊ばせ」

凰琳は表情を変えず、怒るどころか微笑んだ。

「でしたら私は王公主殿下とお話しできるのはとても光栄なことですわね。嬉しゅうございます」

まさか微笑まれると思っていなかったのか、鳴韵は癇癪をおこしたようにわめいた。

「なっ…そ、そなたは妾に跪くのではなくっ平伏するべきなのよっ!…妾がそなたに礼儀作法というものを教えてあげますわっ」

早く平伏せよと命じてきた。本来、凰琳の方が身分が高いので礼をとる必要はなかった。それに一介の妃といえども女官ではないので跪くだけでも十分なのだ。

「失礼…いたしました…」

「せ…青妃様、そろそろ紫蓮宮へ参られませんと…」

金鈴が落ち着かないように声をかけた。

「そうね、行くわ」

鳴韵はそう言って立ち去った。

「照子妃殿下…」

「良い。金鈴、早くお行きなさい。怪しまれてしまいますわ」

「はい…失礼いたします…」

その後も鳴韵の凰琳に対するは続いた。もはやそれは陰湿ないじめだった。

1週間が過ぎ、凰琳はすっかりやつれてしまっていた。

「凰琳。…凰琳…?」

「あっ…何でございましょう?鸞様」

「疲れて…おらぬか?今日は義父上ちちうえがいらしたが…」

丁度その時金鈴が入ってきた。

「恐れながら…子妃殿下」

「金鈴…?わかった、わ…」

「どうしたのだ?」

凰琳ははかなげに笑った。

「何でもございませんわ。青妃様にお呼ばれされてしまいましたの。お父様には後程お伺いいたします」

そうして凰琳は室を出た。

すぐさま黎翔は昇勇を呼び出した。

「昇勇」

「はい、こちらに」

「凰琳を追い、真に歓談かどうか見て参れ」

「御意に」

昇勇はすぐに追いつき、陰ながら見ていた。いくらかたって大丈夫そうだと離れようとしたとき、鳴韵の怒った声が聞こえてきた。

「そなたっ…なんと申したっ…!?」

「明日の宴で付き従いますことはご容赦を…」

「このっ…がっ…!」

鳴韵が手を振りかぶったので凰琳は衝撃を覚悟したが、いつまでも襲って来ることはなく、音だけが響いた。

「なっ…」

「青妃様、お手をおあげなさいますな」

「そなたっ…なぜかばった!妾が正式に皇太子妃となった暁には厳罰に処しますわよっ!名を申せっ」

その声に庇った者が答えた。

太監タイカンの念と申します者…」

「気が失せたわ。念、照を連れて出てお行きっ」

昇勇に支えられて帝子宮を出た。

「昇勇、大事ないですか…?」

「はい、子妃殿下がご無事でしたら」

「鸞様にはご報告なさらないで。明日には明らかになることです。お義父様とうさまの意に反してはなりませんわ」

「御意に…」

明日は青羅の歓待の宴だ。そこで鳴韵の資質が問われ、問題がなければ子妃の1人として迎えられることになっている。

だが…その宴がどんな意味をなすことになるかはその時の誰も知らないことだった。

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