第12話 幻の住人

 話してみるとグリムは意外(?)といいやつだった。

 うしろポケットに両手入れて歩く系かと思ってごめん。

 あの歩きかたってなんか手が拘束される感じでイヤなんだよな~体のバランス崩れるし。

 俺たちは寮長の案内でそのまま寮の周りを一周していままさに寮に戻る途中だ。

 グリムもチャリを押しながら俺らと一緒に帰宅しようとしている。


 だが、このチャリからずっと異音がしていた。

 その音はネジ的な部分から発せられてる気もするがそうでもない気もする。

 見るからにやっつけカスタマイズだ。

 チャリラルキーでも下層の種類だろう。

 このチャリは三途の川にレッツゴーでもいいかもしれない。

 俺がその立場なら円盤投げの要領でぶん投げてやるね。

 不法投棄なんてのは先進国のエゴだ。

 あの川は鉄の死をも受け入れる、そう鉄さえも包んでくれる!!


 海釣りの失敗のオチが長靴なのはなぜなんだ? それと同じ真理。

 長靴なんてそうそう海に落ちねーぜ? 落ちるとすればそれはつまり人もろともだ、結果、海も三途の川も人の死を受け入れる。 


 俺を見たグリムの――なんか昇天してる。という言葉が聞こえなかったわけでもない。

 そのごほかにパンチがありそうな市民に会うことはなかった。

 あのレベルの住民が出現すると世界のCPUの消費が激しいからしょうがない。

 

 「いや、まさかあそこで放置プレイするとは思わなかったわ~。ほんとどうしようかと思ったぜ。学園ドラマで先陣きってアカペラ歌ったのに誰も追ってこなかった

くらいのハズさだな」


 グリムは焦ったようにさっきの話を蒸し返してきた。

 俺の放置がそうとうはずかしかったらしい。

 勇み足で歌ったけど誰もついてこないってのは相当ハズいな、考えただけで背筋に悪寒が走る。

 いや、だけど二番目に参加して、あとがつづかないほうがもっとハズいかもしれない。

 

 「ちょっと見切りすぎた。見切り品よりも見切った。んで発車してしまった」


 「だと思ったよ」


 俺の予想通りだ。


 「つーかおまえが新しい寮生なんだってな?」


 「ああ、そう。朝比奈涼介よろしく」


 「おう。じゃあ俺ももう一回自己紹介する。俺は村雨聖夜」


 「あれっ!? 町晴邪朝じゃないのか?」

 

 「涼介。おまっ、それイジりすぎ」


 俺を呼び捨てかよ。

 けどなれなれしくもあり心地よくもある。

 たしか44フォーティーフォーマグナグラサンの奥の目は優しげだった。

 きっとグリムは良いやつだ。

 寮では上手くやれる気がする。


 「グリムくん。昨日から楽しみにしてたもんね~?」


 「寮長それはいわない約束だろ。まるで俺がチャリごとスタンばってたみたいになるから」


 「いやいや、朝比奈くんがくるのちょー楽しみにしてたじゃない?」


 ほ~だからあのタイミングででてきたのか? 俺がくるのを楽しみにしてたと、な、いいとこあるじゃん!!



 ようやく寮が見えたきた、そこに謎の人影が横切っていった。


 「寮生か」


 グリムは瞬時に目の色を変えて首のボンボンを数珠的に手首に巻いた。

 寮長も――あっ、と声をもらした。

 グリムそれなにに使うんだよ、また見切ったのか? だがその人物は一軒家である寮と民家のあいだを通り抜けていっただけだった。

 我が寮が近道&抜け道的に利用されてる……ん? 我が寮?

 なんだか俺はすでに寮の一員になった感覚だった。


 けど、一瞬幻の佐藤かと思ったぜ。

 誰か知らないけどこんなとこを通っていくなよ、ややこしい。

 でもワクワクしてきたこれは射幸心に近い。

 なぜなら”幻の住人”を見れるかもしれないからだ、ワクワクしないほうが難しいだろ。

 

 グリムは――ちょっとコンビニ寄ってくわ。って感じにあのチャリを寮の前に停めた。

 寮の真ん前に停めんのかい!!

 小脇にお面を抱えたグリムと、溜息をもらして残念がった寮長は自分たちの部屋に戻っていった。

 俺も自分の部屋に戻るか、すでに届いてるはず荷物を解体して整理しないと。

 寮についての説明は結局聞けずじまいだが屋根がある建物にさえいれば死ぬことはないだろう。


 廊下の隅にはシャモシャモが吹き溜っていた。

 ちゃんと掃除しろよ!?

 あっ、ラッキーしゃもしゃもあった、ラッキー!!

 今日だけで三つのラッキーしゃもしゃも発見したってことはちゅうしゃもしゃも当たるじゃん。

 けど駅前のラッキーしゃもしゃも持ってきてないや、残念。


 俺がひとりしゃもしゃもに浮かれていると見慣れない人物がひとり俺の背後を通っていった。

 こいつも寮生に違いない。

 寮長でも、グリムでも、あの全裸の男でもない。

 となると残るは髑髏山か佐藤だな、だが佐藤はこの寮のみんなにとって未確認の寮生。

 ……こいつは必然的に髑髏山ということになる。


 佐藤はそうそう姿を見せないからな、えっ、えー!!

 6号室に入ったぁぁ!!

 じゃあこいつが佐藤? ふつうの青年だけど。

 いきなり遭遇って俺はついてるのか? それともビギナーズラックか?

 いや、ラッキーしゃもしゃも三つ使ってちゅうしゃもしゃもと交換しなかった恩恵が訪れたということかもしれない。

 い、いきなり佐藤出現しましたー!! 確変入りまーす!!

 どうする? みんなに知らせるか知らせないか? でもみんなが待ち望んでいた人物だ、この喜びは分かち合ったほうがいい。 


 「あっ」


 6号室から住人がふたたびのけぞるようにして顔を見せた。


 「きみが新しい住人?」


 「そうだけど」


 「やっぱそっか。俺は髑髏山」


 「ど、髑髏山? だって……? 6号室はたしか佐藤って……」


 「あっ、くそっ。寮長その話もうしてたのか。しくじった」


 「えっ?」


 「俺はなにかのときのために常にアリバイを作ってるんだよ」


 オカルト大好きは伊達じゃない。


 「なぜに?」


 「とりあえず中に入れ」


 俺はいわれるがままに髑髏山の部屋に入った。

 部屋の中がヤケに広い。

 頭の中で間取り図を浮かべてみる。

 ああ、そういうことか、ここって5号室と6号室が繋がってるんだ。


 「新人ってことだから教えてあげよう。つまり俺が佐藤でもあり髑髏山でもある。これはトップシークレットだ。誰かに話すと地獄の首都までいってもらうことになる」


 な、な、なんと!?

 髑髏山は佐藤と、ど、同一人物だったのか? それじゃあ佐藤は姿を見せないわけだ。

 そしてこの部屋の構造もそういうことか、だ、だがなぜそんなことを? にしても――地獄の首都ってフレーズハリウッド的、小比井では無理だろう。


 「それでも俺が誰かに話すといったら」


 とりあえず訊いてみた。


 「俺のいる組織をなめるな。”殺人的スケジュールで人を殺す”なんてのは朝飯前だ」


 ただのブラック企業じゃん。


 「俺はFBIの潜入捜査官。エージェント髑髏スカル


 エ、エフ、ビー、アイだと。

 この寮ヤベー!! 

 あんたはいったい何歳だよ? スカルってそれは髑髏を意味するコードネーム? ねぇ、そうなの? コードネームってやつなの? ちょーカッケーじゃん!?

 ミッションをインポッシブルしちゃう系、あるいはインポッシブルをミッションしちゃう系。


 だから俺いま巻き込まれてるけど――本当は巻き込むつもりはなかったんだ。っぽい扱いを受けてるのか? 髑髏山って飛行機の羽に飛び乗ったり暴走列車の線路のレール変えたり車体もろとも伸身宙返りしたりすんのかな? おっ……これはマッド、いや、バッドになったときにハカセのライバルじゃん。

 ハカセ、髑髏山とならバッチバチに火花散る研究所で最後のボタン押せそうだ。


 「FBIってあのFBI?」


 「そうだ」


 髑髏山はインポッシブルの主役のようにいった。

 あっ、俺は気づいてしまった。

 ハカセのバッドサイエンティスト化を止めるためにこの寮に潜入してるんだな。

 いや、この町はもっと犯罪のニオイがする。

 駅前で争ってる総長、それにあの歯医者も激ヤバ薬品密輸してそうだし。

 そしてサルエルの義理の兄あにさんなんて、いまどこのムショにいるかわかんねーし、おお~断然クライム感溢れてきた。

 ほとばしるね~。


 謎のドリルねーちゃんもいるんだっけ? これはもうFBIのXファイル担当捜査官きちゃうくらいだな。

 よし、俺はこの秘密を抱えて生きてこう。


 「こんなことを思ったことはないか? ある有名超能力者が――しばらくいくと赤い橋が見えます。そこから突き当りを右に曲がると煙突があります。なんでそんなに周りくど・・った?と」


 くど・・った。「くどいことをした?」か、FBIの専門用語でたぁー!!


 「思ったことあです」


 「じゃなくて最初から何番地のどこどこってピンポイントで当てろや!!」


 きゃぁぁ!! す、鋭い、さすがはFBI。

 FBIは伊達じゃない。

 あんなのグーグルマップで一発っす!!


 「その通りっす!!」


 「けどきみもなかなかの洞察力だね。相当金田一読み込んでるんじゃないかい?」


 「えっ、なんというか。おじさんが三巻と七巻持ってるんで」


 「ということはきみも推理エリート一族か?」


 「それほどでも」


 「スカウトがくるかもしれない?」


 「マ、マジですか?」


 「いまのキミの能力ならドラフト三位はかたい」


 髑髏山ってドラフト会議の潜入捜査官まで任せられてるのか。


 「さ、三位。ちなみにFBIのですか? それともMI6とかNSAとかCIAとか、あるいはFSB?」


 「KFCだ」


 「ケー? エフ? シー?」


 はて?


 「KGBじゃなくて?」


 「ああ、KFCだ」


 「えっと、それっていったい?」

 

 「ケンタッキー。ンタッキーライドキン。通称ケンタだ」


 ――じゃあボスはカーネルですね? 俺はそうしか返せなかった。

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