52話 スターウォッチング

 夜の帳は落ち、辺りは真っ暗。


雲は晴れ、月明りの中を進んでいく。




「……もう体はいいのか?」




 狼煙台の置かれた場所。 焚き火にあたる男に声を掛けた。


ボロボロの衣服、仕立ての良い制服はサバイバル生活で傷だらけだった。




「……君か。 珍しいな、君から声を掛けてくるのは」




 木で作った椅子に腰を掛け、夜空を見上げていた機長。


やはり体調がすぐれないのか、声に元気がない。




「お邪魔だったか?」




「はは、気を遣わなくていいさ」




 近くに美人のCAもいた。


いい雰囲気を邪魔したのだったら、正直すまん。




「それでどうしたかね? 何か問題でもあったかい?」




「ん、ちょっと火を貰おうかなと思ってさ。 ああ、それと、俺はここを離れようと思うけどいいよな?」




 突然の俺の申し出に機長は特に驚いた様子もなく、答えた。




「構わないよ。 君なら大丈夫だろう。 ……ただ、頼みがある。 九十九君も連れて行ってやって欲しい」




 九十九君ってイケメンか。




「彼は皆の期待に応えようと無理をしすぎてしまう。 日に日にやつれていく彼を見ているのは、正直なところ一番辛いよ」




 たしかに、だいぶ痩せていたな。




「あなたも人の事言えないでしょう……。 ちゃんと休んでくださいね?」




「ははは……。 それでどこへ行くんだい?」




 なんだもうすでにいい雰囲気じゃないか。


憑き物が落ちたような表情をしているし。


 意外とやるなぁ、機長。 




「反対側の浜辺まで行こうと思ってる。 まだ行けるか分からないが、たぶん大丈夫だろう」




 湖の向こう、森で見えないが指で示す。


湖から流れる川を下っていく。 運が良ければそのまま浜辺まで行ける。


 筏でも作ろうかな。




「逆側でも船が来ないか、見張りをしたほうがいいだろう?」




「……そうか。 君は、この島をどう思う?」




 不意に真剣な表情を見せる機長。


焚き火はゆらゆらと揺れて陰影を深くさせている。


 この島、か。




「どうかな? まだ全然見れていないけど、不思議な場所だよ」




「不思議な場所か……」




 そう言って機長は空を見上げた。


輝く星々が真っ黒闇に点々としている。




「私はこんな場所は知らない。 少なくとも私たちが飛んでいた場所には存在しない場所だ。 ……見てくれ」




「ん?」




 機長は空を見上げろという。


やはり見えるのは月と無数の星だけ。




「無限に見える星々も、ちゃんと規律がある。 私たちの祖先はそれを読み、時にドラマを作り、動物や幻想の生物を作り出したものさ」




 理科の授業が始まったのか?


イカン。 急に眠気が……。




「ちゃんと聞きたまえ……! 私は最初の日から星を観測し続けた。 まぁ私の趣味でもあるのだが。 いいぞ、天体観測は。 悠久の彼方に飛び立つようでなぁ……」




「……」


 


 腹減ってきたな。


今日は何を食べようか。 久しぶりに海老が喰いたい。


 うむ。 早く海に行って捕まえよう。




「――無限の宇宙旅行、それが天体観測なのだよ!!」




「はぁ……」




 脱線した話ほど長いのはなんでだろうね。




「しかし、この壮言な星空を見ても私の心は何も揺れ動かない。 まるで作り物を見ているような、もの悲しさすらある」




「ふぅん?」




 俺には本物にしか見えないが。


マニアにしか分からない違いがあるんだろうか。




「まぁこの話は君ぐらいにしかできないがね。 救助を待つ者達の心を壊しかねない。 希望を奪いかねない……。 それに私がおかしくなったと思われるだけかもしれないしね」




「俺はいいのかよ……」




 俺の言葉に機長は愉快気な顔を見せる。




「ははは。 君は大丈夫だろう? 最初に見た時よりもよほどいい顔をしているよ。 精気に満ちた、羨ましいほど、爽やかな顔をしている」




 そうだろうか?


多少日焼けはしたが、無精ひげも生えて爽やかとは程遠いと思うが……。




「……そうか?」




 小さく笑う機長。


俺は分かってますって感じがイラっときた。




「そろそろ休みましょう? 夜風は冷えますから」




 CAからフブ漬けを出してきた京都の奥様のような笑みを向けられる。


邪魔だから帰れの合図だな。 これから二人でお楽しみですか?


 


「今日はここで休もうかな」




「毒蛇に噛まれても知りませんよ?」




 はい。 邪魔者は帰ります。






◇◆◇






 翌日、早朝。


水場の拠点では全員が集まり、機長が皆にとあることを告げていた。




「この二人は女性陣の水浴びを知っていて覗きを犯した。 しかも全裸で乱入し、女性の一人を押し倒して暴行を加えたらしい。 よってこの水場の拠点から追放することに決定した」




 機長の言葉に俺とイケメン君に女性陣の視線が突き刺さる。


俺には犯罪者を見るような目つきで。 イケメン君には驚きと、落胆、それに裏切ったことへの怒りか。




「二人には罰として島の逆側に行ってもらい、そこで海の監視をしてもらう」




 俺の希望だが、罰として考えればかなり重い刑罰だろう。


水場の治安の維持の為に利用された感じかな。


 別に構わないけどね。




「みんな……すみませんでした。 覗きなんて最低なことをしてしまって……」




 頭を下げたイケメン。




「英斗君……」




「おっさんにそそのかされたのね……可哀想……」




「英斗君になら、見られてもいいんだけどなぁ……」




 あれ? おかしいなぁ。


真摯に頭を下げただけで、一気にイケメンを見る目が変わった。


 まるで俺がイケメンをそそのかして覗きに連れて行ったんだろう、そんな感じの雰囲気に。




「二人はすぐに荷物をまとめて出て行ってくれ」




「へーい」




「はい」 




 俺たちは歩き出す。


荷物を取りに戻り、合流するとやけ嬉しそうなイケメンが待っていた。




 これから向かうのは未知の場所。 


おっさんとイケメン、二人の新しい冒険の始まりだ!!




「おっさん、なに変な格好でキメてんの?」




 カッコつけてたら、ギャルが現れた。 




「私も行くから。 というより、私たちだけどね!」




 荷物を持った女性たちが姿を見せる。


柔らかな笑みを見せるお嬢様に、相変わらずピンクの服に身を包む亜理紗。 その傍には黒髪短髪が仏頂面そっぽを向いている。 




「ん? お前も行くのか?」




 それにもう二人、貧乳ポニーテール眼鏡とオカッパ頭の女性。




「わ、私は、別に! 千春がどうしてもついていくって言うから!!」




「……綾子ちゃん。 そんなんじゃ可愛くないですよ? ……私にはお二人の行く末を見守る義務がありますから!」




 二人? イケメンとお嬢様かな?


なかなか鮮烈なプロポーズだったからな。 気になるのも仕方ないか。




「ダメなんて言わないよね、おっさん?」




 安全を確保してから、迎えに行くつもりだったんだけど。


まぁ、なんとかなるだろう。




「言うわけないだろう、リサ?」




 朝の柔らかな光りに照らされ、輝かんばかりの笑顔を見せるギャル。


男二人の冒険も面白そうだったが、やっぱり華があるのはいいな。


あれ、男二人に女六人? これはハーレムってやつじゃないか?




「山ピー! ウサギさん見つけるですよぉ!!」




「あっ! なに抱きついてるのよぉ!?」




 両腕に亜理紗とリサの胸が当たる。




「イデデデっ……!?」




「調子に乗るなよ……。 でも……ゴメン。 私が騒いだせいで、追放なんかになっちゃって……」




 黒髪短髪に尻を抓られた。


よく分からんが、なんか落ち込んでる。




「気にするな。 おまえのせいじゃないさ」




 機長の策略だ。




「英斗君……ずっと一緒です……」 




「理子……!!」




 あっちは手を取り合い完全に二人の世界に入っている。


ダメだな。 あんな緩み切っていてはすぐに死ぬぞ。




「――んん゛っ!?」




「おらっ! さっさと行くぞ〜〜」




 俺はイケメンの小尻を叩き、出立の鐘を鳴らす。


乾いた良い音は、すっきりと晴れた青空に響き渡る。


 


 俺たちは水場の拠点を離れ、上流へと進みだした。


この島での新たな生活が幕を開けるのだった。








To Be Continued……////






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無人島パラドックス――我、無人島にてイケメンに勝利せり―― 大舞 神 @oomaigod

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