交戦

 港区に混乱渦巻く最中、フェアのアジトにもまた火の手が襲いかかっていた。工場の中では消火活動が続き、一人がルドルの元へと駆け寄る。


「おい、何でこの一大事にコーダーはいない!」

「仕方なかろう、今日は元々用事があった。今仲間が探している、あいつも気がついているはずだ、すぐに見つかる。それまでの辛抱だろう」

「そうかよ、じゃあいっちょ踏ん張ってみせるさ」


 男は再びひるがえり火をおさめるのに加勢した。ミシェリはルドルに近づき話しかける。


「コーダーの信頼は厚いねえ」

「少し心が痛むがな」

「はは、本当に思っているやつはそんな表情をしない、俳優には向いていないね」

「む、それはいかん。悟られては困る」


 片手で顎を押さえ、表情をいじるルドル。遠くから、工場の外から声が聞こえる。


「襲撃だ、軍の奴らだ!」

「ルドル、どうする!」


 それにすぐ答える。


「迎撃だ! コーダーが来るまで持ちこたえるぞ、それから一斉に反撃する!」

「よし来た!」


 クラッシュと違い、意見の統一は容易、これがフェアの強みだ。だが工場の裏口から人が来た、見覚えのない、いやフェアの人間ではないだけで誰なのかルドルは思い出す。


「お前は、クラッシュの……」

「お前たちもか、俺達も襲撃にあっている、ルーグからの伝言だ。共闘に応じる、クラッシュは軍と戦う!」


 ルドルは少し考え込み、返事をする。


「わかった、非常事態だ俺が許可する。前線にも伝えよう、港区は俺達の場所だ、守り通すぞ」

「……今だけは感謝させてもらうぞ。それでどうする」

「お前たちとの施設の中間地点に、高台に俺達の仲間が店を開いている。街を見渡せるからそこを中継して最低限の連携を取ろう」

「……けっ、そんなことまでしてやがったのかよ。まあいい、伝えよう、“空間式”でいいな」


 空間式とはテレパシーの種類であり、心に訴えかけるタイプと異なり、特定のポイントに声を響かせる。こちらのほうが遠距離の会話に向いているのだ。


「ああ、うちにも一人いたはずだ」

「じゃあ頼むぜ」


 帰っていく男を尻目に、ルドルが言葉を漏らす。


「コーダーは流石だな」

「どういうことだ」


 ミシェリが聞く。


「予想通りってことさ、クラッシュはギリギリまで答えない、けれど最後はすがってくるってな」

「ふうん」


 よくわからないといった表情のミシェル。


「コーダーはこの先も見ているってことだ」

「へえ」

「さて、俺達も働くぞ」

「ふふん、こういう荒事を待ってたんだ」


 両拳を打ち合わせ、鼻息を荒らげるミシェル。


「加減しろよ、お前の所為で味方を巻き込んだら洒落にならん」

「大丈夫、あたしだって馬鹿じゃない」


 そうでもないから心配、言いかけた言葉を飲み込むことにルドルは成功した。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 殲滅部隊の現場指揮を執るカーレンが少し離れた、作戦本部を兼ねた車両の中で檄を飛ばす。そこでは多くがモニターを確認し状況の把握に努めている。カーレンは近くの補佐に話しかける。


「状況を伝えろ!」

「現在フェアとの戦闘を開始、ヒーロー七名が突入、十の小隊と残りのヒーロー五名が支援しています」

「クラッシュの方は」

「優勢に進めています、ですが敵も応戦し、時間が掛かると」

「ならばそちらに人員を割くよう伝えろ、押し込むぞ!」


 走り去った補佐を尻目に、慌ただしく人が走り回る中、カーレンは誰にも聞こえぬ大きさで話す。


「これでいいのですね、ケニー大佐」


 カーレンはほくそ笑む。






 フェアの工場敷地、鋼材が転がる中で激しい戦闘が続いていた。不可視の攻撃を、しなるムチのような業がイービルを圧す。二メートルの巨体、肉体強化能力を持つイービルがそれを受け止め、ヒーローごと放り投げる。


「ぐあっ」

「そのまま落ちて死ね!」


 しかし空中で別のヒーロー、飛行能力を持つものが助ける。


「くそっ、次から次へと、洒落臭え!」


 手足を自在に伸ばすイービルはそれを撃ち落とすべく蹴りを放つ、すんでのところでかわされるが態勢を崩し落下していくが、なんとか着地に成功していた。戦場は拮抗している。ヒーローの連携は巧みで、この日のために訓練を積んでいたのだ。対するフェアも能力者力で勝り、強引に返す。ミシェリも合流しており、闘いの中にあった。


「っしゃああ!」


 ミシェリが長い鉄パイプを触れば細長い針の束に形を変え、彼女は跳躍して放つ。軍の包囲網に降り注ぎ、悲鳴が響く。ヒーローの一人が接近し、雷撃を伴う拳を見舞う。


「サイキックか、この距離なら――!」


 だが攻撃が届く瞬間、弾き飛ばされ服が切り裂かれた。


「あらら、大丈夫かよ。鉄も切る風圧だ、死んでたらごめんなー」


 軽く言い放つ姿は、イービルとして“真っ当”である。


 だがそこで崩れても、音速で動くヒーローが救い出し治癒を施すヒーローが直ぐに傷を癒やす。その間は防御に長けた、障壁を生み出すものが守りを固める。集団戦に向いたヒーローを上手く配置することで、個々の能力差を埋める。それで対抗しているヒーロー側だが、フェアの非能力者は銃撃で倒れ、軍の戦闘員の負傷者は少ない。少しずつヒーローたちが圧し始めていた。


「――おいおい、好き勝手やってるなよ」


 どこからともなく、男が現れた。ヒーローの一人が振り向き、誰何する。しかし返事を、誰だか分かる前に、腹に拳が突き刺さり、近くにいたフェアの男が声を上げた。


「コーダー!」

「おう」


 フェアのリーダーであり、最高戦力が合流を果たした。

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