争いの行方

 カーターの帰還によって、状況は一変した。向かってくるヒーローを一蹴し、フェアの前に立つ。力の差を目の当たりにし、ヒーローたちの足が止まる。


「くっ、強化能力者だとは知っていたが、これほどとは……!」

「囲め! 一人で向かうな、一斉に掛かれ!」


 遠距離攻撃で牽制するも、他のイービルが無力化し、ミシェリがそこに向かって吶喊する。


「あたしが、あたしたちが黙ってみているかよ!」


 得てしてこの世界、イービルはたった一人が戦況を変えてしまう。ここにいるヒーローでは、抑止力足り得ないのか。だがヒーローの一人が、空を舞う男が鼓舞する。


「持ち堪えろ! 増援が来る、正念場だ!」

「「――おお!」」


 未だ戦意は落ちていない、ヒーローが目の前のイービルを、悪意を許すはずがない。彼らはそういう風に出来ているのだから。


「はああ!」


 ヒーローは手を伸ばし、大きく振りかぶると地面に叩きつける。一直線に伸びたそれは五メートル先までを分断する。避けきれなかったイービルは衝撃で弾き飛ばされる。ヒーローたちから見て右側にボウリング玉くらいの大きさの鉄球を、別のヒーローが磁力で放つ。砲弾も斯くやという速度で着弾すると地面を砕き、数メートルに渡って衝撃が起きる。近くにいる兵士が次の鉄球を渡せばまた放ち、接近を許さない。その内の一つが、狙いを定めてコーダーを倒さんと放たれた。


「吹き飛べ!」


 だがコーダーは顔色一つ変えず、腰を落として両手を突き出した。


「――受け止めるつもりか!」

「おらっ……! ――ぬああ!」


 勢いを堪え、一メートル後退するがそれだけ。イービル側から歓声が上がる。気勢が増し、巨漢のイービルが前に出る。


「いっくぞお」


 大声で叫べば、フェアの面々は耳をふさぎ姿勢を低くした。それにヒーローたちが、気づき切る前に、男は息を吸い終えていた・


「――――!!」


 声にならぬ声、物理現象を伴った咆哮。十メートル以上離れた、後方の兵士たちもたたらを踏む。ヒーローの一人が目や耳から血を吹き出させ倒れた。回復しようと女のヒーローが近づくが、ミシェリの方が早い、カウンター気味に手に持つ槍で突き刺す、すんでで躱すが肩を貫かれた。


「ぎゃああ!」

「へっ! あたしも接近戦が得意さ!」


 一人、また一人とヒーローが倒れていく。フェアにも被害は出ているが、量で言えば圧倒的に兵が多く倒れる、軍側である。しかし増援は絶えず、諦める気配がない。ミシェリが文句を吐く。


「――こいつら、おかしいんじゃないか! そんなに死にてえのか」


 ヒーローを槍の持ち手で殴り、骨の砕ける感触がした。それでもヒーローの眼は死んでおらず、燃えたぎっている。まるでなにかの“機”を待っているような。その時彼女にテレパシーで声が届いた。


「――なんだ、今……。――、――はあ!? ああ、そうか、わかったよ」


 食い下がるヒーローを引き剥がすと、味方に叫び話しかける。


「おい、お前ら今すぐ――」


 その声はかき消される。空からの音、プロペラの回転音。攻撃ヘリが向かってくる。それにはミサイルが装填されており、戦場の上空を通り過ぎる。同時にヒーローたちが撤退する。ミサイルは発射され、工場の中腹に直撃した。閃光と爆音、熱波がフェアを襲う。ミシェリも伏せるが危うく飛ばされそうになる。見れば更に向かってくるヘリがある。工場の方でルドルが手を降っているのが見えた。


「……、そうかい、そうかよ!」


 一直線にそちらへと向かう。背中にヘリから銃弾が飛んでくるがなんとか躱して近づく。


「こっちだ」

「ボケ! ちゃんと前もって――」

「お前に言ったら相手に感づかれるだろうに」


 後ろからコーダーが話しかける。顔を赤らめるが、言い返す間もなくルドルに先導され、炎の中へと消えていく。最後に彼女が空を見上げたとき、遠くに見えるクラッシュの工場が崩れ落ちていく様子だった。






 その日、港区は軍に奪還され、クラッシュ、フェア、そしてもう一つの組織。三大勢力と呼ばれた者達、その全てが街から消えた。文字通り、爆発の中に消え去ったのだ。

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