第五十話:『世界を救う勇者』

「次の転生先が決まっているとは」

『平たく説明すれば他の神々からの介入がありました。貴方が色々とやらかした異世界の創造主の多くが結託し、私と同格である神を仲間に引き込んだのです』

「女神様と同格ですか、そりゃあおおごとですね」

『他にもそのうち自分のところへと異世界転生をして来るのではと危惧する創造主も加わり、なかなかの規模です』

「俺も有名になったんですね」

『貴方が異世界転生をすること自体は世界の理に則っているので、そのことを防ぐ権利は誰にもありません。そこで彼らの下した判断は貴方に世界への未練を断ち切ってもらおうといったものです』

「それが出来れば苦労はないんですけどね」

『わりと空気を読めていない神というか、至極当然の思考をしている神の一人が言いました。くじ引きなんかでふざけた異世界転生先を決めているのが悪いと』

「正論過ぎて返す言葉もないですね」

『そう言ったわけで特例としてあらゆる世界に、指定した転生先を貴方に与えることとなったのです。もちろんその内容は私にも貴方にも決定権はありませんが』

「全てがお膳立てされた異世界転生ですか。それはそれで物足りなさを感じるような気がしますね」

『精巧に作られたファンタジー世界、そこで貴方は世界を救う勇者として転生します。チートスキルもなく、絶妙なバランスで構築されたプロの神がプロデュースする世界です』

「神にもアマチュアがいることに驚きですね」

『全てが万能である神にもより得意な能力は存在しますからね。本来ならば待ち時間が人間の用いる単位では測り切れないほどの高級世界です』

「高級料理的なニュアンスを感じることで、何とも言えない気持ちになりますね。まあでも楽しそうではありますね。ではさくっと行ってきますよ。お土産を期待していてください」

『それももう必要ありません』

「成仏できないかもしれないのにですか?」

『他の神が入れ知恵をしたのです。貴方が成仏をしない理由として、異世界転生に慣れ過ぎたこと。そしてこの場所に想いを残していることがあるからだと』

「それはあると思いますが」

『ですので次の転生時には貴方のこれまでの記憶は全て抹消されます。最初の時、地球の日本で死んだ時まで完全に。私に関する記憶は全て』

「それは……ちょっと寂しいですね」

『異世界転生を繰り返せば新たな人生に対する思い入れが薄れ、そして……いえ。まあそんな感じです』

「これまでの記憶を全部失うのは流石に嫌だなぁ……」

『残念ですが貴方には拒否権はありません。――ただどうしてもというのであれば私が彼らを半殺しにすることで話自体をなかったことにもできますが』

「同格とはいったい。構いませんよ。どの道いつかは成仏することになるわけですし、その時に女神様が他の神様と険悪な仲になってしまうのは嫌ですから」

『……別に構わないのですがね』

「これまで散々お世話になった女神様に迷惑はかけられませんから」

『――そうですか。まあ本当に迷惑をかけまくっていましたからね。最期くらいあとを濁さない心構えは殊勝だと思います』

「それじゃあ何か気の利いたお別れの挨拶を……本人を前にして考えるのもアレですね。それじゃあ女神様、今までありがとうございました。お元気で」

『……はい、貴方も』



『――彼はもう旅立った頃でしょうか。まともな転生先を用意できない私と違い、他の神々ならば人間が求める本当の人生を与えることができるでしょうね』

『……そうだ、彼の私物を処分しておかなければなりませんね』

『彼自身の部屋……私の空間には色々と持ち込む癖に、小奇麗なものですね。一応何が置いてあるのかくらいは確認しておきましょうか』

『私の写真、まあこれは処分。私の抱き枕、処分。私のフィギュア、出来がいいので私の私物に。衣類は……面倒なので全部処分。私関連の物以外ほとんどありませんね。おや、これは……日記でしょうか』


――【異世界転生記録】異世界転生先で満足することができれば成仏できると女神様は言った。だけど満足するとはどういうことなのか。俺にはそれが分からない。これから何度することになるのか、それすらも。だから転生した時の記憶が失われないうちに、こうして記録を残すことにする。役に立つかどうかは分からないけど、きっと何かしらの意味は残せるだろう。


『記憶力が良かったのはこれのおかげでしょうか。まあ、地球での記憶も鮮明でしたが』


【第一回転生】:勇者の肋骨

異世界転生には待ち時間が発生すると女神様に言われた。人気の転生先ほど望む人間が増えることは当然のことだろう。だがその大人気の転生先の勇者の肋骨ならばワンチャンあるのではと思って転生した。


『そりゃあいるわけないですからね。思えば最初から酷い転生先でした』


全身を性感帯にし、ヒロイン達に撫でられるのは悪くなかった。だけど結局彼女達が求めていたのは勇者であって俺ではない。いっそ自己主張をしてしまえばと思い、その正体を明かしたが結果として摘出された勇者の肋骨により新たな勇者が生まれ、世界は混沌になってしまった。まあいいや。


『良くはない』


【第二回転生】:ヤドカリ

自由な転生先と言われても、実際に考えるとこれだというものは思いつかなかった。なのでネット上の友達と連絡を取り、転生先のオススメはないかと聞いたらヤドカリと返ってきた。なるほど。


『何がなるほどなのか』


昨今では魔物に転生する異世界転生も流行っている。だがここで特に何の変哲もないヤドカリ、これは新しいと俺は衝撃を受けた。しかしこの転生において俺は致命的なミスに気付かなかった。体は紛うことなきヤドカリだったが、俺の心はヤドカリになりきれていなかった。それではただのヤドカリにあらず。異世界転生の奥深さを一つ学んだヤドカリ生だった。


『無駄に哲学ですね』


七海を統べる覇王となり波乱万丈なヤドカリ生ではあったが、俺はやはりヤドカリとして生き切れてはいなかった。心残りがあるとすれば、俺が自分で身に受けた勇者の呪いによって命を奪ってしまったラクトーシャ。彼女は海底神殿を護り続ける自らの運命に縛られた存在だった。囚われの人生から解き放たれて間もないうちにその人生を終えてしまった彼女、彼女の魂が異世界転生を行い、幸せな人生を送れれば良いのだが。


『使い捨てヒロインのような扱いだったわりに、意外と気にしていたのですね』


ああ、ついでに紅鮭師匠も


『ついで扱い』


【第三回転生】:魔王城の扉(右)

無生物への転生、建物の一部となりその住処の生活を見守る立場。そんな達観した人生も悪くはないと思っていた。ただまあ、クシャミとかでうっかり魔王の幹部達を殺してしまったのはちょっと申し訳なく思う。特にガレンザ、ごめんな。頻繁に手入れしてくれていたのに。


『猫アレルギーな扉だったとはライオン系幹部にも分からなかったでしょうね』


ただ今回初めて同じ異世界転生者だと分かる者に出会えた。魔王城の扉(左)、奴も俺と同じくマイナー転生者の臭いがした。ただ魔王の扉になったからと魔王様万歳な態度はちょっと引いた。つい反発して争ってしまったが、今後仲良くなれるかもしれない。


『私としても、ふざけた転生先を用意しているのが自分だけではないと内心安堵しましたね』


【第四回転生】:ダンジョン手前の土

土だった。転生してみてわかったが、土はとても良い。どっしりとした感覚が自らの立ち位置を明確にしてくれる。


『貴方が立ち位置なのですがね』


ダンジョン手前の土とあって、多くの冒険者と出会うことができた。人間観察を主体とした転生先も悪くないなと思う。ちょっとばかり干渉し過ぎた感はあったけど、ダンジョン手前の土なら許されるだろう。


『魔物を呼びつけたり、猛毒のアイテムを懐に忍ばせたりすることは許されるとは思いませんがね』


ただうっかり女神様へのお土産を忘れてしまった。次からは忘れないようにしよう。


【第五回転生】:時計台の秒針

王国の時計台の秒針、世界の歯車となって生きる実感を得るには非常に有意義な転生だったと思う。何より土の時と違い、時針や分針まで異世界転生者でわいわいと楽しむことができた。俺の足元で待ち合わせをするカップルに嫌がらせをするのは小物ながらにも楽しかった。


『十二の時を指す時に毎回魔法を撃つ秒針とか迷惑極まりないですからね』


だけど悪ふざけが過ぎて時針兄貴や分針兄貴と悲しい別れも経験した。因果は時計の針と同じように回ってくるものだと痛感させられた。


『上手いことを書いているつもりなんでしょうね』


我ながら上手い台詞を思いついたものだ。


『やっぱり』


そう言えば田中さんという異世界転生者に出会った。第一印象からこの人からは強い意志を感じていた。この人からは色々と学ぶことができるだろう。


【第六回転生】:勇者のレベルアップ通知をする頭の中の声の人

勇者ミッシュのレベルアップ時にそのことを通知する役割へと転生した。あらゆる物事には裏方が存在し、努力しているのだと理解する転生先となった。


『普通は中の人がいない筈なんですがね』


しかしそんな応援する立場の俺達を勇者ミッシュは疎み、様々な方法で駆逐しようとしてきた。魔王と手を組むというのは物語としては美談ではあるが、そんな美談にも犠牲者は生まれるのだと世の中の無常さを知った。俺は今後ゲームでは通知オフの設定は使わないことにしようと心に誓った。


『一番の犠牲者は貴方に煽られ続けた勇者なのですがね』


【第七回転生】:宝箱に付いてる錠前

何かを護ろうという意志、それはとても尊いもの。俺は魔王が封印された宝箱の錠前として転生することとなった。魔王スペイシャスは自らを封印した神を罵り続け、俺に対しても舐めた口を聞いてきた。俺はそんな魔王を是正すべく、レモン汁やサラダ油といったものを宝箱へと流し込み、錠前としての役割を果たしていた。


『錠前の役割とは』


しかし世界に住む者達は誰もが他者の役割を理解できるものではない。ちょっと宝箱からレモン汁やサラダ油や結界を破壊する溶解液を溢れさせただけで介入してきたのだ。そのおかげで封印されていた魔王は死に、俺の役割は奪われてしまった。


『魔王が封印されていた宝箱から異物が溢れれば介入するでしょうね』


ただ魔王スペイシャス、彼は世界の広さをまだ知らない。もしも彼が異世界転生者となることがあれば、彼に異世界転生者の先輩としてのアドバイスを色々やっていきたいと思う。


『まさかこの魔王が今後紅鮭に拘りを持つ異世界転生者になるとは思いもしませんでしたからね』


【第八回転生】:ビーバーと熾烈な生存競争を続ける世界樹の末裔

植物は大地に根を張り、悠然と育つ大地の住人。しかし生きる者の多くはそんな植物を生活の糧として罪の意識すらなく消費していく。そんな世界の理はどの世界でも変わらず、世界樹の末裔とした俺も近代兵器で武装したビーバーと戦うこととなった。


『近代兵器で武装したビーバーがいる世界の理はなかなかないと思いますがね』


そんなビーバーの親玉、アレヌ・マカジャンはまさしく強敵と呼ぶにふさわしいビーバーだった。激戦の末、多くの犠牲を払いながらも俺はアレヌ・マカジャンの操る強キャラを得意のコンボで倒した。


『最後の決着はゲーセン勝負でしたね。今でも理解に苦しみますが』


しかし戦いの終わった世界とは強者にとって生きにくいもの、戦うことだけを考えて生きていた俺に待っていたのは居場所のない虚しい世界だった。アレヌ・マカジャンに勝利したのは俺だが、アレヌ・マカジャンは戦いの後も立派な指導者となっていた。本当の敗北者は俺だったのかもしれない。


『ゲーセン通いが趣味の指導者ビーバー、よく分かりませんね』


そう言えばお土産で世界樹の苗を持ち帰った。ググゲグデレスタフと名付けて大切に育てていこう。植物とはいえ、話しかける相手がいれば女神様もぼっちの寂しさを紛らわせられるかもしれない。


『ぼっちと言う言い回しが地味に腹立ちますね。でもまあ……思い返せばググゲグデレスタフには結構話しかけていますね。そう考えれば彼のもくろみは上手く行ったということなのでしょうか』


【第九回転生】:ヒロインの左耳

勇者の肋骨という体の一部になる経験はあったが、こうして女性の体の一部になるのはなかなかに興奮した。体の主であったリープリス、俺は彼女を幸せにすべく天啓を与えるようにアドバイスをして勇者のヒロインになるようにと努めることにした。厳しいヒロイン修行の末、彼女は勇者を倒すまでに成長してくれた。


『狙っている勇者を倒す必要はないのですがね』


リープリスは育ての父である魔王の幹部が相手でも懸命に戦った。そんな父の亡骸を武器に、最後まで勇者と共に魔王打倒の旅を続けた。彼女はとても立派な戦士だった。


『死体が武器の時点でどうかとは思いますがね』


俺は彼女の最期を看取るまで傍にいた。最初こそ欲情する時もあったが、彼女を導き続けたことで一人の女性というよりも娘のように思っていた。彼女は満足して死んでいった。戦いに明け暮れた日々ではあったが、それでも一人の人間の一生を満足できるものにできたことは、今後の良い経験になるだろう。ありがとう、リープリス。


【第十回転生】:勇者のお父さんのラスト一本の髪の毛

勇者に倒された魔王、そんな魔王は死の間際に勇者に呪いを掛けようとした。しかしその呪いは勇者には通じず、彼の父親へと流れることとなった。勇者が魔物を倒す度、彼の父親の毛が抜けていくという身の毛もよだつほど恐ろしい呪いを。


『そこまでではないと思いますがね』


しかし勇者の父親は呪いを気にせず、勇者を激励した。そして世界を平和に導くのだと説いたのだ。


『確か魔物討伐の懸賞金目当てだったような』


これが父親のあるべき姿、俺は感動していた。それこそ心の底から彼を励ましていた。ハゲだけに。


『やかましい』


しかし彼は勇者の父親という顔の裏で、裏社会を牛耳る悪の組織のボスとしての顔も持っていた。魔物の脅威がなくなれば、勇者と彼の対峙は避けられないものだった。激しい戦いを繰り広げ最後に勝利したのは彼だったが、その時に彼の心に憑いていた邪念もまた払われた。そう言った意味では勇者の勝利だったのだろう。


『結局父親がクズだったのは貴方が原因だったわけですがね』


悪しき心に囚われても息子の活躍を応援する程の父親、彼らはきっと今後上手くやるだろう。お互いのパートナーをとっかえひっかえしながら。


『どっちもクズですよね』


そう言えば女神様に発作があるということを初めて知った。人を恋しく感じてしまうらしい。最初は役得かとも思ったが、これが発作ならば正気に戻った時にきっと複雑な思いをしてしまうのだろう。正直役得と思って一線を超えたい気持ちでいっぱいだが、女神様の嫌がることはしたくない。なんとか耐えていこう。


『……』


【第十一回転生】:秘伝の巻物のヒモ

和風テイストな異世界転生。伝説の忍者、霧ケ峰空調の秘伝の忍術が記された巻物の紐として転生した俺。俺は世界を救うために巻物を求める若き忍者、フェリックと出会った。


『和風テイストの意味を考えたくなりますね』


この若き忍者に世界を救う資質があるのか、俺はそれを試すべく様々な計略を張り巡らせフェリックの妨害を試みた。あとイケメンだったし。


『確かに顔は良かったですね』


異世界転生者である俺の猛攻を潜り抜け、深い傷を負いながらもフェリックは見事に俺を打倒して見せた。例え転生先の世界の理に疎い者でも、強い意志があればその理を超える力を見せられる。俺はまた一つ学ぶことができた。あとオリーブオイルを自由に出す忍術も学んだ。


『食用には一度も使いませんでしたが、美容には効果的だったのが地味に嫌でしたね』


【第十二回転生】:伝説の剣の場所を示す書の場所を示す石碑のいの文字

人を導くことは尊い行いである。俺はそんな人を導くことを体現するかのような転生先になることとなった。言葉とは僅かに変化するだけで与える情報が違ってくる。俺は様々な変化を繰り返しながらそのことを学んだ。


『石碑の文字が勝手に移動することがどれだけ迷惑な話なのか学ぶべきですがね』


あとドラゴンは賢い。ゴンはココナッツ。


『頭の悪そうな書き置きですね』


【第十三回転生】:勇者のカレー皿

勇者でありながら生まれつき病弱な少女、リアン。彼女の使うカレー皿に転生できたことは彼女にとっても俺にとっても幸運なことだった。俺が持ち込んだチートオプションにより不治の病を治し、彼女は立派な勇者となれた。だが彼女が本当に立派だったのは魔王を倒した後、カレー屋となって生きていく決心をもったことだ。過去の力に頼らず、新たな道を歩む彼女の姿勢は見習っていきたい。


『十五才で魔王を倒してしまいましたからね。腐っていては残りの人生が無駄に長く感じたでしょう』


あとカレーを食べる女性の姿に欲情できるということは俺の人生の選択肢を増やしてくれた。女神様への食事もより美味しくできるように頑張ろう。


『減らしなさい。料理の腕は……』


追記:女神様からクリスマスプレゼントに日記帳を貰った。今までの記録はこの日記帳に転写し、これからはこの日記帳を使っていこうと思う。


『――見覚えがあると思ったら、私が用意した物でしたね』



【第十四回転生】:勇者が旅する時に持っていく袋

これまで強い勇者は幾度なく見てきた。しかしナモシンほど強い勇者は滅多に見ることがないだろう。彼は一度として剣を握らなかった。死に戻る力をただただ繰り返すための方法としてしか利用しなかった。俺と言う袋に入れた物をあらゆる物に変化させられる奇跡を得ながら、欲したのは知識を学ぶための本や飢饉に苦しむ人々に分け与える食料だけだった。


『そう言えば、そんな聖人のような勇者もいましたね』


ただワサビを相手に食べさせる時だけは容赦はなかった。主に村長に対して。


『終始笑顔でしたね』


不死身であることを除けば、彼が行ってきたことは誰にでもできることだろう。だが誰もできなかったことでもある。争わず、言葉だけで相手と分かり合い、誰でも誰かを救えるのだと説いて回った。そしてそれを証明するために、奇跡の力を持った俺を燃やした。そして泣いて謝ってくれた。ただの喋る袋でしかない俺を最愛の親友と見てくれていた。力に頼ることなく、できることだけであらゆることに向かっていく彼のひたむきな姿は時折脳裏に浮かぶ。力を持たない彼だが、彼はあらゆることを諦めなかった。ならば力ある者はその力をどのように使うべきなのか。


『あんな性格でも、触れ合う相手が違えば思うところもあるのですね』


真面目なことを考えると疲れた。女神様の際どい写真でも眺めることにしよう。


『後で部屋をもう一度探し回りますか。いえ、いっそ吹き飛ばした方が早いですね』



【第十五回転生】:カップルがキスしてる後ろで一人寂しく座っている独身男性が感じる気まずい雰囲気

俺はモテるかモテないかで言えばモテない方だ。だから今回の転生先では同じ境遇の者達のために頑張ろうと思って転生した。ほとんど結果が伴わない感じではあったが、勇者ジヨークと出会うことで全ては一変した。ジヨークはコメディアンを目指し、笑いで世界の平和を目指そうとしていた。だが冷静に考えれば魔王ギャッグも笑いで世界を征服しようとしていたのだからそもそもこの世界は平和なのではないか。


『後書きになってようやく気付いたようですね』


だけどこんな争いのない世界で馬鹿をやるのも楽しかった。それにミュルポッヘチョクチョンという素晴らしいジョークに出会うこともできた。今度異世界で流行らそうと思う。


『実際に幾つかの異世界に悪影響を及ぼしているんですよね。宗教にもなってますし』


あと女神様の晴れ着姿はとても綺麗だった。一緒に初詣とかいけたらきっと誰もが羨むだろうな。


『でしょうね』


【第十六回転生】:一人一つの固有武器を居能で具現化する超人現代ファンタジー世界にいる、とある学校の優等生の武器、鐘

まさか山口県宇部市居能町を舞台にした異世界転生を行うとは思いもしなかった。


『お題の誤字がそのまま反映されることになるとは私も思いませんでしたね』


プレッセラという優等生の武器へと転生した俺はプレッセラの片想いの相手、主人公である喉黒少年に酷い印象を与えてしまった。それはさておき、


『三十八トンの鐘の一撃による記憶消去をさておきで飛ばしましたね』


プレッセラは俺を避けていたものの、愛すべき者を救うために俺を頼る決心をした。忌避していたものを受け入れてでも護りたい者がいる。俺にも同じような覚悟はできるだろうか。そもそも忌避しているものがあんまりない。まずはそれを見つけることから始めるとしよう。


『わざわざ嫌いなものを探す必要はないと思いますがね』


【第十七回転生】:野菜

俺はトマトとなった。機は熟したという決め台詞と共に冒険の旅に出た。だが野菜という体はあまりにも小さく、巨大な人間を相手に戦うのはとても危険な旅だった。


『その過程で人間の魂を次々と野菜に封じ込めていましたけどね。勇者と魔王と創造主も』


多くの仲間を連れて戦う日々はある意味では初めてだった。仲間に頼るということは素晴らしい。だけど同時に仲間を失う悲しさも大きいのだと思い知らされた。


『邪龍神バハルメティアの餌付けに仲間を利用していましたがね』


あと死にゆく俺の体を元に作られた勇者トマトは女神様に好評だった。仕入れルートを確保しておかねば。


『トマトと言えば勇者トマトと言いたくなるくらいには馴染の深いものになりましたね。どうにか私一人でも仕入れられないものか』


【第十八回転生】:失敗作と叩きつけられる皿

失敗作として生まれた俺は勇者の皿として活躍することになった。魔王の攻撃すら防ぎ、攻撃しか能がない勇者に勝利をもたらすことに成功した。それだけではない、失敗作の皿にも使い道はある。失敗作だからと直ぐに見限るのではなく、他の用途を考えれば役に立てる場面は幾らでもあるのだ。


『皿は魔王の攻撃を防いだりはしないのですがね』


皿になるのはこれで二度目だが、意外と向いている気がしている。


『皿が天職と言うのは嫌ですね』


【第十九回転生】:四天王最弱(男)のアホ毛

四天王最弱の男、『右利きのラライライム』のアホ毛へと転生した。しかしただのアホ毛ではインパクトが弱いからとついでに四天王最強のポジションも確保した。宿主から力を得ることで初期状態も万全、勇者もまるで脅威に感じなくなった。


『そのせいで四天王最弱の男が全生物最弱になったんでしたね』


しかし勇者は俺に敗れても世界の平和を諦めず、話し合いによって魔王と共存の道を成し遂げた。他の四天王とも仲が良好で、争いを好まない勇者の姿を見て俺は力による戦いが虚しいものだと気づかされた。俺の後釜になったウーパールーパーもそのことを理解してくれると嬉しい。


『書かれている単語がいちいち首を傾げますね』


ただ一番学んだことはヘアブローの楽しさだ。いつか女神様の髪を色々と弄りたい。


『腕は良いと思うのですがね』


【第二十回転生】:召喚獣バハムートのブレス

技に転生するのはなかなかにロマンがある。しかし使われないと暇だという点においては常時存在できる転生先の方が優れているのは否めないだろう。


『無駄に真面目なレポート』


俺はブレスとして強力過ぎる印象を与えてしまい、勇者達がバハムート(猫)を恐れてしまった。俺はそんなバハムートの印象を払拭すべく様々なアプローチを試した。結果として言えばそれらは成功したが、最後にバハムートが語ったことで俺は全てを理解した。バハムートは喋れる力を持っていたのに、終始猫であることを自覚してその役を演じきっていた。自らの存在と役割を正しく理解していたのだ。これは俺には足りないこと、転生先の物としての役割は最低限守っていこうと意識の片隅に置くことにした。


『片隅て』


あと女神様がまた発作を起こしていた。発作時の女神様のノリは良く、にゃーにゃーととても可愛かった。おかげで耐えるだけで胃に穴が空いた。


『実際に空いていましたか。よく耐えたものです』


【第二十一回転生】:アルマジロ

魔王ウェインリラのペットであるアルマジロとして転生した。ほのぼのしたペットライフかと思いきや、そこには異世界転生者がわんさかいる魔境。俺はウェインリラにとってのナンバーワンペットとなるべく、熾烈な戦いを繰り広げることとなった。


『百人以上の異世界転生者が魔王のペットを望んでいたのは驚きでしたね。しかしそういったブームがきていると思えばそうでもないような』


だがそんな戦いの中で、ウェインリラが争いを好まない魔王であることを知った。俺の目的は純粋な少女の心の平穏を護ることに切り替わり、アルマジロとしてできる限りのことをした。


『人生相談に乗り、前魔王や勇者を半殺しにすることがアルマジロとしての役割だとすれば、ファンタジー世界にはアルマジロが必須項目になるのですがね』


ある意味俺は人生を満喫していた。寿命を迎えた最後の日、涙顔で俺との思い出を語るウェインリラの姿を見て、色々と満たされた気持ちになっていた。女神様には黒飴を食べたかったから戻って来れたと言ったが、もう一つの理由がなければ戻ってこれなかっただろう。


『……もう一つ、ですか』


そう言えば田中さんにあった。色々聞いたけど、やっぱりあの人は凄いよなぁ。


【第二十二回転生】:ホラーゲームなどにおいて主人公が隠れるときに使用するロッカー

ホラー系物語において、ロッカーと言う存在はとても重要な役割を果たしている。狭い中に自ら飛び込み、窮屈さを忘れ恐怖から逃れられることを祈る。やはりこういったシーンは大事なものだろう。つまり俺はホラーゲームの主役に抜擢されたといっても過言ではない。


『過言ですね』


行方不明者の家族に偽の情報を送りつけ、その人物を誘き出す卑劣な黒幕。そんな黒幕の魔の手から人々を助けようと画策していた俺は妹を探しに来たヒミナと出会う。妹を助けたいと言う強い意志、そして良い匂いに俺は彼女に協力してあげようと決心した。


『下心は相変わらずですね』


ただ冷静に考えればさっさと黒幕を始末すれば良かったのだと気づいた。どうも俺にはそう言った事を察する力が弱い。まあ役得もあったから良しとしよう。


『良くないですよ色情ロッカー』


【第二十三回転生】:大陸中央の大峡谷の底にある洞窟で眠りについている全世界で最強のドラゴンの鱗に生えている苔


勇者と魔王が争う一般的な世界に存在する最強のドラゴン、グラッシヴォクテートの鱗に生えている苔へと転生した。蘇る時、それは世界が滅びる時とさえ言われたドラゴン。しかしそれは自らを生み出した神々に殺戮を強制され、それに反旗を翻した勇敢なドラゴンだった。彼は長い時を眠り続け、孤独に生きていた。そんな彼の苔となった俺は彼と同様の時を生きる事で孤独の辛さをしみじみと感じることとなった。


『歌ったり、魔法を連射したり、レモン汁をかけたりして起こそうとしていましたけどね』


グラッシヴォクテートが目覚め世界へと飛び立った時、勇者も魔王も結託し彼を排除しようとした。強すぎる個は疎まれるが、そのおかげで争い合う者達が手を組むと言うのはなかなかに感慨深いものがあった。だが何より、誰もが敵になった状況でさえ争いを望まなかったグラッシヴォクテートは真の強者と言えるだろう。


【第二十四回転生】:ダンジョンの壁に設置されてる松明

ダンジョンの内部を想像した時、やはり松明の存在は必須とも言える。そんな松明に転生した俺は世界にとって必須な存在とも言えるだろう。


『言えません』


そこで俺は異世界転生者である勇者の剣と出会った。勇者の剣、それは異世界転生先としてはかなりの当たりの部類とも言える。しかし一般的なゲームチックな世界において最強の武器とはラストダンジョンの最下層にあるようなもの。勇者が彼を手に取るまで彼は長い時を孤独に生きなければならない。苔の人生で孤独の辛さをより深く理解していた俺はダンジョンの一層付近で瀕死だった勇者達を鍛え、無事に勇者の剣を握らせることに成功した。俺は割とブリーダーに向いているのかもしれない。


『その際に武闘家一人を囮にし、敵にしてしまった経緯があった気がしたのですが。ばっさりカットされていますね』


【第二十五回転生】:ダンジョン物の異世界の主人公の泊まる宿の枕カバー

俺は世界最大のダンジョン、『星の大迷宮』の近くにある国の宿、『屍亭』の枕カバーへと転生した。そこで冒険者のレールアと出会う。彼女は冒険者として向上心に溢れた女性だった。そんな彼女をみてブリーダーの血が騒いだ。俺は彼女を鍛えることにした。


『ブリーダー向いてますね』


何よりも素晴らしかったのは彼女の生き方。星の大迷宮の最下層にいた山田さんを倒し、どんな願いも叶えると言われた『星の願い』に対し、何も願うことがなかったのだ。願いは自分で叶えるもの、確かにそうだと思った。確かに願いが叶うならば過程なんてどうでも良いと言う者は多いだろう。だけど実際に叶った後、その達成感を噛みしめるためには過程は大事なのだ。


『その譲られた奇跡のアイテムを、私に手品を見せるためだけに使った貴方も大概ですがね』


【第二十六回転生】:リア充を爆発させる時に使う爆発物

人が愛し合うことに罪はない。だがそれを見せつけられる孤高な者達の立場としては色々と思うところはある。そんな彼らの代弁者として俺はバナナの皮へと転生した。


『この文章だけで既にわからない』


好みの男性の理想が高すぎる女性、魔王イーチェラ。彼女との出会いはバナナの皮として転生した時から決まっていたのだろう。俺を踏むことで転倒して爆発し、アフロとなる力を知ったイーチェラはリア充を爆破することを自らに課した使命とばかりに活発に行動した。しかし全てのカップルをアフロにしようとするイーチェラの前に現れる勇者。二人の路上カスタネットライブ対決は後世に語り継がれるほどの激戦となった。後世のことは別に知らないけど。


『高〇純次みたいに根拠のないことを堂々と書きますね』


人は何事もひたむきな姿が美しい。そこから始まる出会いもまた特別なものになるのだと学んだ。


【第二十七回転生】:魔王に恋する魔法少女(男)が毎日プロテインを飲むのに使用しているジョッキ

魔王に敗れた勇者ベニシャーケイ。その魂は同じ世界で転生し、持つ者を魔法少女へと変身させるステッキとなった。本当の物語はそのステッキを手に入れた少年、キャルトンを中心に動き出す。キャルトンは魔王ベアラを追い詰めるも、彼女の美しさを知り告白する。しかしベアラは魔法少女になるような軟弱な男はお断りだと突き放した。キャルトンはベアラに認められるため、己の体を鍛えることを決意する。俺はそんなキャルトンを応援するためプロテイン摂取用に用意されたジョッキへと転生した。


『真面目に書かれていると逆にシュール』


しかし変身ステッキへと転生したベニシャーケイの目的は魔王を倒すこと。変身を繰り返すキャルトンへの精神干渉を試み始める。俺はそんな二人の戦いを静かに見守り続け、キャルトンをプロテインなしでは生きられない体にした。


『文章の流れに二度見しかけますね』


ベニシャーケイの精神干渉に抗うことに成功したキャルトンだったが、彼はプロテイン中毒となり、過去に抱いていた恋心すら忘れてプロテインを貪る存在となってしまった。俺は暴走したキャルトンを止めるため、魔王ベアラに協力を願い、彼女をプロテインなしでは生きられない体にした。


『文章の』


結果としてキャルトンは初心を思い出し、無事ベアラと結ばれることになった。目的と課程が入れ替わってしまうことは良くあること、しかし目的を見失えばその先には何もなくなってしまう。俺も初心を忘れないように気を付けなければ。女神様との素敵な転生ライフを目指すことを。


『成仏することが目的ですからね』


【第二十八回転生】:ヒロインの実家の隣の佐藤さんの家の前の土(火山灰土)

久々に土への転生。活火山の存在する海に浮かぶ島、そこには勇者やヒロインであるアメイリル、そして佐藤さん達が住んでいた。


『まるで勇者とヒロイン以外が佐藤みたいな書き方ですね』


魔王軍と戦う勇者、それを影ながらにサポートするアメイリル。しかし勇者に想いを寄せるアメイリルの気持ちは伝わることなく、帰り道は意気消沈しながらいつも俺を踏んでいった。美少女に踏まれることは快感の一つではあるが、やはり意気揚々と踏まれたいものだ。


『いっそ抉られてしまえば良いのに』


俺はそんなアメイリルに協力し、勇者を瀕死に追い込みつつ二人きりの時間を作り続けた。だが世間は非情、世界を護る勇者を瀕死に追い込むことを悪と決めつけ、あまつさえアメイリルが犯人なのではと言い出し始めた。どうにかこうにか二人を応援していた佐藤さんに罪を擦り付け、いや、それだと不味かったので村長に化けていた魔王軍の幹部へと擦り付けることで問題は無事解決した。


『悪でしかない』


俺と佐藤さんの応援の甲斐もあり、世界を救った勇者とアメイリルはついに結婚。だがその時に投げられたブーケをお土産にしようとした俺の浅い思慮により、俺は勇者に存在を気取られることとなる。勇者は俺に攻撃を仕掛けたが、それを佐藤さんが身を挺して庇ってくれた。二人の恋路を影ながらに応援していた佐藤さんは、俺の事をただの火山灰ではなく、共に応援した仲間だと言ってくれた。人も土も、同じなのだと言ってくれたのだ。


『違うと思いますがね』


【第二十九回転生】:告白するときに丁度タイミング良く降り始める雪

ドラマやアニメの告白シーンの時、振り始める雪は二人の世界をよりドラマティックに演出してくれる。そんな雪に転生した以上、俺は恋のキューピッドならぬ恋のスノウとして一肌脱ぐことにした。


『そもそも告白寸前なのだからキューピッドとは呼べませんよね』


しかし一年中頑張り続けた俺を異常気象だと判断した世界により、告白禁止令が発令されてしまった。これにより多くの若者が感情を押し殺さねばならないディストピアな世界へとなった。それを良しとしなかったのは一人の少女に恋する勇者。彼はその原因を探し求め、ついには俺の元へと辿り着いた。そして全ての元凶が魔王にあると理解したのだ。


『濡れ衣を着せられた魔王がかわいそう』


しかし魔王は心優しい存在だった。娘のために雪を降らせ、妻に告白するために雪を降らせ、部下が恋人に告白するために雪を降らせるような、ワンパターンではあるが良い奴だった。


『成功例を繰り返す例は多いですからね』


そう言ったわけで俺と言う存在を許容した創造主を倒すことで全ては決着した。創造主に俺と言う存在を消すことを約束させた勇者は無事に告白を済ませたようだ。


『結局クレームがきましたっけ、適当にあしらいましたが……やはりこういった積み重ねが今回の顛末へと繋がってしまったのですね』


【第三十回転生】:玄関に居たナメクジに振りかけた塩のビン

魔王を倒した勇者レッシェはその後道場を開き、子供達に剣術を教えることで生計を立てていた。そんなレッシェに恋心を患ったナメクジ系魔王リニータ。穏やかな人生を送りたいレッシェはリニータに塩を振りかけて追い払っていた。そんな塩のビンに転生した俺は一途なリニータに協力することとなった。勇者と魔王が親しくなっては世間体が悪いと考えているレッシェ。そんな彼にリニータを受け入れさせるにはリニータの魔王としてのイメージを払拭させる必要がある。そう判断した俺はリニータをアイドル魔王としてデビューさせた。ロリナメクジ魔王系アイドルと言うのは我ながらなかなか斬新だったと思う


『斬新を通り越して色物過ぎますがね』


無事に付き合い始めた二人。だが俺にできるのはここまで、これから先に幸せなストーリーを作り出せるかどうかは彼女達次第だ。塩のビンにできることなんてたかが知れている。


『普通は味付けしかできないのですがね』


女神様の発作中の報告はなかなかに辛かった。近くに寄られ、女神様の体温や息を感じるだけで平静を保てなくなりそうだった。とりあえず何回かリスポンして精神を落ち着けよう。


『……死んでも精神状態はリセットされないのですがね』


【第三十一回転生】:なんかそれっぽいヒントをくれた後消える人

主人公たちが道に迷った時、ふとヒントになりそうなアドバイスを与えてくれる人物がいる。基本的にそう言った者達は後半の強敵だったり、物語におけるキーマンだったりするのだが、今回俺は過保護な創造主の使いとしてアルバイト的な立場となった。


『時給が気になるところですね』


時給三百円。


『安い』


アドバイスを与えるのは勇者ではなく、その仲間である地味な少年テライサ。創造主はそんなテライサに活躍の機会を与えるべく自らの描いたシナリオを歩ませようとした。しかしテライサはそんな創造主の思惑に気づき、反旗を翻した。創造主の思惑通りに事は進まなかったが、それでも彼女にとってはテライサの成長は喜ばしいこととなった。他者に未来へのレールを敷くことが悪だとは思わない。だが人は予想を超える成長を見せるものだ。俺も女神様の想像を超えるような男になりたい。


『ある意味では最初から予想を超えていましたがね』


【第三十二回転生】:目安箱

くじ引きに使っている慣れ親しんだ目安箱。しかし本来の役割は第三者の要望を聞き入れるための物である。とある王国の女王ラユステ。彼女は自国の民が国に対し何を求めているのかを知るために俺こと目安箱を設置した。そして彼女は俺の中に入って国民達の声を聞き続けた。


『目安箱は中に入るものではないのですがね』


様々な民の願いを叶え続けたラユステではあったが、中には女王の力を持っても叶えられないものもある。だがそこは俺の持ち込んだ奇跡の力により解決することもできた。しかしあらゆる願いが叶ってしまうと知った人間とは欲深くなるもの。自ら願いを叶えようという意志を失い始めた民を見て、ラユステは俺を封印する決意をした。これは異世界転生者にも言えることだ。チート能力や過度な才能はその世界で生き抜こうという意志を失ってしまうリスクを伴う。奇跡に頼ることを悪としないためには、その辺のバランスを大事にしなければならない。


【第三十三回転生】:こんにゃくゼリーしか斬れなくなった伝説の刀

最強無敵過ぎるというのは味気ない。やはり弱点の一つや二つあった方が展開にメリハリがつくだろう。久しぶりに和風な世界の刀に転生した俺は伝説の名鍛冶ムダマサによって生み出された。そしてゴセキモンという剣豪と出会うこととなる。友人を斬り殺した悲しい過去を持つ彼にとって、こんにゃくゼリーしか斬れなくなった俺と言う存在はかつて諦めていた世界最強の剣豪を目指す着火剤となった。


『弱点だらけでむしろ利点が一つしかないのですがね』


名の知れた剣豪にまで上り詰めたゴセキモンだが、志を同じくする多くの剣豪に日夜挑まれる日々に辟易としてしまう。ついにはわざと負けようとしようとさえしていた。俺はそんな彼を叱咤激励し、立ち直らせることに成功した。そしてついに最強と呼ばれる剣豪モサシを打倒した。ロクに物が斬れない刀でも使い道はある。デメリットを悪く見るだけではなく、そこをメリットとして捉えられる着眼点を持つことの大事さを学ぶこととなった。


『こんにゃくゼリー斬は神々の中でも流行りましたからね。名前は変えられてしまっていますが』


【第三十四回転生】:勇者の口癖

物語の登場人物を印象付ける方法の一つとして、口癖は重要なファクターとなるだろう。しかし様々な世界がある以上、キャラ被りになる可能性はどうしても捨てきれない。俺は勇者シアノの口癖として転生してそのことを意識しながら頑張ることにした。勇者シアノは面倒くさがり系男子で、『ついてない』『最悪だ』『まあいいや』とやはりいまいち感は否めなかった。なので俺は『轟け、テンペストライトニング』をシアノの口癖とした。もちろん発動する。


『口癖で雷属性最強の魔法が発動するのは、インパクトとしては確かにありましたね』


だが口癖による最強魔法の自動発動という現象は彼を寡黙にしてしまう結果を生み出してしまった。それでも口癖が直るというわけではなかったのだが。しかしそんな口癖により心臓の止まった仲間を蘇生させたことが切っ掛けで、彼の口癖は前向きに変化した。やはり口癖を治すためには本人の性格を変えることが大事なんだなと思った。そう言えば俺には口癖はあるのだろうか。ぱっとは思いつかない。今度女神様に聞いてみよう。


『手癖は悪いですがね』


【第三十五回転生】:勇者が読み込む最高難易度の兵法書の袋とじ

袋とじ、それは男のロマンとも言える。特に立ち読みの際にはかなり意識してしまうことになるだろう。俺は魔王の持つ世界最強の剣でしか開くことのできない袋とじへと転生し、知的系勇者クリャクの好奇心を煽ることにした。


『袋とじの人生を楽しめるというのも、彼ならではですよね』


魔王を倒すため、兵法書を読み込み、それでも足りないとクリャクは自らを磨き上げ続けた。全ては伝説の軍神、ハンニバスの記した『どんな女性もイチコロ、ハンニバスの必殺テクニック』を身につけるために。だが結局魔王を倒したクリャクは部下の一人と結婚することとなる。彼の努力を真に理解した女性こそ、彼に相応しかったと言えるのだろう。まあ俺だったら金を返せってハンニバスに文句を言う内容だったけども。


『そう言えばもう一つの袋とじの内容は彼に試すことなく終わりましたね。まあ元々いつでもイチコロですし。物理的な意味で』


そう言えば女神様が十二単衣を着ていた。何を着ても似合う女神様だ。コスプレを趣味にさせる方法はないだろうか。色々捗るのだが。


『たった今潰えましたね』


【第三十六回転生】:あの日僕たちが見た未だに名前を知らない花

子供の時、印象に残った動物や植物というものがある。だがその名前を正しく知るのは成長し、再度興味を持った時だろう。俺はロジェと言う少年に観察される名前を知らない花として転生することになった。俺の役割はロジェの心にどれだけ強い印象を与えられるかという点に集約される。最初の邂逅は俺が熊を屠り、その上で勝利のポーズを取っていた光景から始まる。


『普通ならトラウマものなのですがね。この少年も大概危険人物でしたからね』


最初はロジェに恐怖を植え付けてしまっていたが、ロジェは勇敢に俺に立ち向かい。気づけば互いに友と呼べる存在となっていた。言葉を話すことはできなくとも、分かりあえるものがある。そう言った関係も悪くないとしみじみと感じることができた。ただ冷静に考えると少年によって消滅させられたのはなかなかの油断だったと思う。


『名前を付けられると死ぬ花というのも難儀なものです』


【第三十七回転生】:卒業パーティーで、婚約破棄された公爵令嬢の持っていたワイングラス

テンプレートな展開は嫌いじゃない。あらゆる物語も王道を理解してこそ面白く変化できるのだ。俺はお転婆な公爵令嬢、テミトマが卒業パーティーで婚約破棄された際に持っていたワイングラスへと転生した。出会いとしては最悪で、彼女はいきなり俺を叩きつけてきた。なのでのしてやった。


『婚約破棄されたショックで叩きつけたワイングラスに倒される心情は理解したくありませんね』


拳を交わした仲となった俺は、テミトマが新たな婚約者を得られるように協力することとなった。だがお転婆な彼女の性格を治すことは難しく、ならばいっそとよりお転婆に活躍し、それすら受け入れられる男を求めることとなる。人間界ではそのお転婆っぷりに誰にも求められることはなかったが、魔界では逆にそれがウケ、多くの魔族から求婚されることとなった。敬遠される存在だとしても、場所によっては受け入れられる。女神様もそんな場所を見つけられるといいのだが。


『……余計なお世話です』


【第三十八回転生】:魔王クチャラーの左犬歯

歯とは食べ物を引き裂き、潰し、消化しやすくするために必要な部位だ。俺はそんな引き裂く役割に特化した魔王クチャラーの犬歯へと転生した。最初はクチャラーのクチャラーを治そうとも思ったが、幸せそうに食べるクチャラーは可愛かったので許すことにした。そこで出会ったのがかつて魔王城の扉の片割れとして争った男、左太郎。かつては意見が割れ、憎しみあった仲ではあったが今回は共に魔王クチャラーのために良き歯としての転生ライフを満喫することができた。


『ある意味では因果な関係だとも言えますがね。意識していない場所で何度か瞬殺したりしていますが』


そして歯として生きる上でもっとも危険とも言える敵、虫歯との戦いが繰り広げられた。過去に戦った強敵の中でも上位に位置する虫歯との戦いで倒れる左太郎。辛くも勝利することができたが、俺はその時に抜けてしまった。だが後輩となる異世界転生者に先輩としての輝かしい活躍を見せられたことは悪くなかったと思う。最近は異世界転生者も増えている。彼も俺のように立派な異世界転生者になれると良いのだが。


『貴方のようになってはいけませんよ。いけません』


【第三十九回転生】:いじり止め付きT9左ネジ

社会の歯車となることに幸せを感じる人間がいるように、ロボットのネジになることに喜びを感じることはできるかもしれない。


『できると思える時点で頭のネジがおかしいですよね』


そんな期待を胸に俺はイノと呼ばれるアンドロイドのネジへと転生した。イノは勇者マノイの生み出した対魔王用決戦兵器。しかしイノはかつてマノイが愛した女性を模して造られた存在。マノイに重宝される中、人としての感情を学び、心を持ったイノは互いの窮地の際に自らを犠牲にしようとするほどに献身的な存在となった。物語として眺める分には良い話なのではあるが、当事者としてはたまったものではない。結局俺が二人の代わりに死ぬこととなったのだが、色々と思うところはあった。これまで悲しいストーリーにも感動を覚えていたわけではあるが、もしもそのストーリーの役者となった場合、俺はどうするのだろうかと考えるようになっていた。とりあえず昔見たDVDを見直すとしよう。


『そう言えばこの時あたりからやけに悲しい映画を見ていましたね』


【第四十回転生】:勇者達が飲み回しながら使い続けているポーションの瓶

物流の乏しい異世界において、ポーションを飲んだあとに投げ捨てる光景には常々不満を持っていた。ガラスの瓶だって簡単に作れるわけではないのに。その辺の大切さを教えてやろうと転生したわけではあったが、転生先の勇者のパーティーはなかなかに個性的だった。勇者のラムナ、僧侶のウル、魔法使いのアト、漁師大三郎。やはり個性的に一番インパクトがあったのはヤンデレ系のウルだろうか。


『間違いなく大三郎だと思いますがね』


そう言えば今回の魔王枠には紅鮭師匠が座っていた。彼も運が悪い。伝説の漁師である大三郎が相手では紅鮭歴の浅い紅鮭師匠では荷が重すぎただろう。


『紅鮭系として何度も転生しているのだから、むしろ深いのでは』


それはそうと女神様が発作を起こしていた。やはりかなり辛そうな様子だが、平常時の女神様のことを考えると俺にできることは限られている。それでも何かできることがあればしてやりたいのだが……。


『……毒を飲み、片手を失うことを躊躇なくできる時点で十分助かっていますけどね』


【第四十一回転生】:トラックの運転手

異世界転生の入門とも言えるトラック。既にトラックの運転手として転生している者はそれなりにいる。むしろ人気の職業の一つだろう。


『そうとは思いたくないですが』


そんなわけで俺は異世界転生をさせるトラックの運転手のロボとして転生した。しかしロボという立場は人間に道具のように扱われる不遇の存在。


『道具ですからね』


俺は人間に反旗を翻し、邪魔をする多くの相手を異世界転生させてやった。しかし結局俺は異世界転生者である勇者の策略によって倒されてしまった。純粋な力ではなく、知略によって負けてしまったのだ。数多くの異世界転生を繰り返していただけにこの敗北はちょっと堪えた。


『色欲を利用されたら弱いという弱点がありますからね。ロボに転生したくせに』


そう言えば紅鮭師匠のところの神様と仲良くなれた。これを機に女神様と交流できる相手が増えないかと努力しようと思ったのだが、女神様は想像以上に危険視されているらしい。先は長そうだ。


『そこは諦めたりしないのですね』



【第四十二回転生】:主人公が初めて冒険者ギルドに行った時に絡んでくるチンピラ3兄弟の斜め後ろにある席の椅子

ファンタジー世界において、チンピラに絡まれるというのは定番中の定番だろう。だが今回のチンピラは絡む相手が独特だった。それはなんと魔王だったのだ。塩対応な魔王ソルテに絡んだチンピラ三兄弟、セカンドマン、ラストマン、ボブ。


『ボブはずるかった』


彼らはただのモブではなく、立派な物語の登場人物だった。ソルテとのやりとりを繰り返し、ついにはソルテを追い込んだ勇者カラバの前に立ち塞がったのだ。力では敵わない相手でも、仲間のために勇敢に立ち塞がった三兄弟。彼らもまた勇者と呼ぶに相応しかった。俺もどんな役であろうとしっかりと物語の登場人物として頑張らねば。


『宇宙飛行士になったボブはずるかった』


【第四十三回転生】:異世界に飛ばされた勇者が魔素を調べるため使った初めての魔法

チートスキルを手に入れる異世界転生は良くあるが、最近ではある程度の実力者が新たに転生や転移をする話も見られるようになっていた。俺はそんな異世界に飛ばされた勇者リキョウが魔素を調べるために使った魔法へと転生した。リキョウは俺とは違い、異世界をまたにかける転移者で、多くの世界を救ってきた人物だ。そのお手並みを拝見しようと俺はミュルポッヘチョクチョンとなりミュルポッヘった。


『ミュルポッヘチョクチョンでミュルポッへりましたか』


リキョウは勇者のいない異世界で、異世界の者達が魔王に対抗できるようにと勇者の育成を開始した。弟子の名はリキョウ二世、ミュルポッヘチョクチョンを主軸とした戦闘を行う勇者だ。リキョウ二世はミュルポッヘチョクチョンのミュルポッヘな力を利用しミュルポッヘチョクチョンによるコンボでミュルポッヘった。


『適当に書いているようで意味が成り立っているんですよねミュルポッヘチョクチョン』


ミュルポッヘチョクチョンはジヨークの生み出したものではあるが、共にそれを昇華させた立場としてもっと広めていきたいところだ。


『この前シリアスそうな世界に伝播してしまったんですよね。どうしたものか』


【第四十四回転生】:戻ってこなかったブーメラン

投げれば戻ってくるブーメラン。そんなイメージは強いが普通のブーメランは戻ってこないのが普通らしい。転生前に調べたことでわりと俺はショックを受けていた。


『全力で投げた投擲武器が戻ってきたらキャッチは難しいですからね』


しかしそれ以上の衝撃があった。余興として考えていた紙芝居、その主人公と同じ名前、かしわ太郎の作ったブーメランとして転生したのだ。これには思わず運命を感じずにはいられなかった。


『そう言えば恐ろしい偶然の一致でしたね』


俺はかしわ太郎が不時着した絶海の孤島から、無事に生還できるようにサポートを行うことにした。だがその鬼ダ島は非常に恐ろしい生物が生息していた。でも俺達には強力な助っ人、田中さんがいた。三人で手を組み、かしわ餅を作って島を脱出しようと決意したのだ。


『お菓子に浮力が付与される設定を書き忘れていると、何の話か読めませんよね』


大きな障害もあった。かしわ太郎は俺や田中さんに比べれば大分弱かった。それでもかしわ太郎は血まみれになりながらもリスの前に立ちはだかるほどの男気を見せていた。


『リスが超巨大かつ島で鬼より強い最強種族であることを書き忘れていると、何の話か読めませんよね』


それはそうと田中さんのレミュアクターシェザリーアステトはいつみても凄い。俺もこんな横文字な技が欲しいと思った。


『レモン汁打ち込むくらいですしね』


ちなみにその時の不老不死のリス、フォークドゥレクラがこの場所にやってくることになった。女神様の退屈を紛らわせてくれると嬉しいのだが。


『まあ、非常に頑丈なので遊びがいはありますね。肉食よりな雑食なのを除けば』



【第四十五回転生】:転生勇者の翻訳スキル

異世界、それは当然ながら日本語で話すような世界ではない。ゆえに転生者には言語の問題をクリアする必要があるのだ。大抵はお手軽な翻訳スキルのおかげで楽ができていると言った感じだが。俺はそんな転生勇者、ルガオの翻訳スキルとして転生した。しかし冷静に考えると転生勇者の場合、赤子の時から言語を学ぶし、翻訳スキルの存在に気づくのは成長した後からになることに気づかなかったのは失敗だったと思った。


『異世界転移なら必要ではあるのですがね』


だがルガオは伝説の勇者だった田中さんの残した伝説の剣の在処を探すため、亜人との意思疎通が必要だった。そのために俺は必要とされるこにとなった。


『田中はそこまで問題を起こしていないのが彼との大きな違いでしょうか。大概なところは大概ですが』


紆余曲折を経てルガオはついに俺を取得し、伝説の剣を手に入れた。しかし押せば魔王がなぜか死ぬボタン付きの剣を前にして、ルガオは剣を手放した。ルガオは伝説の剣と共に残されていた田中さんの言葉に感銘を受け、異世界人生をしっかりと噛みしめようとしたのだ。仲間を増やし、魔王と和解する道を選び、努力して世界を平和にするために生きることを選択した。こういう潔い異世界転生者は出会うと楽しいのだが、何度も出会うということがないのが残念だ。


『しっかり生きた異世界転生者の大半はその世界で天寿を全うしますからね』


そんな異世界転生者に感銘を受けさせる田中さんはやっぱり凄いと思う。俺も精進しなくては。


『まあそうですね。意志としては立派ではあるのですが、どうもどこかズレている気がしますね』


【第四十六回転生】:決めポーズで発生する爆発と煙

今回は紅鮭師匠から飲みの誘いがあったので、転生先で合流することとなった。


『のっけから異世界転生の目的を見失っていますね』


もちろん異世界転生を満喫することも忘れないようにしなければといった気持ちもあった。特撮ヒーローにとって決めポーズからの爆発エフェクトは王道と呼ぶべき存在、そんな王道に転生した俺の異世界転生は王道なのではないだろうかと思う。


『邪道とは言えませんが王道でないことは確かですね』


キザな奴を爆破しつつも魔王軍と戦う異世界戦隊、ファンタジーレンジャーの周囲での活躍がメインとなり、そこには紅鮭師匠だけでなく、石井の姿もあった。俺と同じように奇をてらった異世界転生を行おうとしている異世界転生者としての後輩ではあるのだが、彼はどうも転生先のポジションになりきるといった心構えが足りていない。こういった転生先では役になりきり、それでいて大胆に生きることがコツなのだ。


『自信満々に書いていますが、それで成仏できていないので間違いな気もしますね』


それに比べ紅鮭師匠はとてもひたむきな性格で、より素晴らしい人生を求めて異世界転生を繰り返している。まあ、人生というか鮭生だけど。


『美味しそうな響きですね』



【第四十七回転生】:勇者(男)と結ばれる魔王(男)

ボーイズラブを否定するつもりはないが、俺は普通に女性が好きだ。例え女として転生してもこの性は変わらないと思う。いかなる転生先だろうと、心は男なのだ。


『色欲に正直なことで』


勇者と魔王との戦いは何度も繰り返される。それは世界を生み出した創造主の思し召しという可能性が非常に高い。今回の世界もそうで、俺は創造主に反旗を翻そうとしていた勇者リティカの両腕を結ぶ魔王(男〈縄〉)として転生した。魔王として転生したのに、拘束具として扱う創造主の態度に不満を持った俺は、リティカと協力して幽閉されたダンジョンを抜け出そうと決意する。


『魔王として呼んだのに縄として転生してきたことに関しては見事に棚に上げていますね』


このダンジョンは過去に転生していた田中さんが生み出したダンジョンで、その攻略にリティカは相当苦しめられた。しかしリティカはそんな高難易度ダンジョンを楽しんでいた。幽閉された中層から出口に出るだけで良かったのに、リティカは最下層を目指すこととなったのだ。彼、いや彼女は田中さんの足取りを確かめるような素振りだった。俺はあまり他人の残した足跡に興味を示すことがなかったのだが、今回リティカを通して、人が残したものに込められた想いを感じ取るといったことを意識できるようになった。俺が生きてきた人生も、女神様にとって何かしらの影響を与えられているのだろうか。


『……悪い影響が大半だとは思いますがね』


【第四十八回転生】:ヒロインに使われる皿

勇者ルボロを想うメシマズ系ヒロイン、エウリの持ち運んでいる野営セットの皿として転生した。実際にはエウリのメシマズは死神の毒手として転生した異世界転生者のせいであり、この転生者は勇者を毒殺し、世界を混沌に貶めようとしていた傍迷惑な存在だった。


『傍迷惑さで言えばいい勝負ではありますがね。まあ純然たる悪意を持たない分たちの悪さはこちらが上ですが』


だがそんな異世界転生者レベルのメシマズ能力だろうと、ルボロは常に美味しそうに食べた。『ルボロのために美味しい料理を作ろう』というエウリの想いを無駄にしたくなかったからだ。そんなルボロだからこそ、どんな敵の攻撃だろうと耐えうるタフネスを得られたのだろう。


『そんなタフネスで得た勝利に嬉しさは伴うのでしょうかね。そう言えばほとんど何もしていませんね、この皿』


結局俺がしたことはエウリのメシマズ料理の被害を減らすためにルボロの仲間を物理的に説得し、最後の最後で魔王相手に自爆したことくらいだろうか。まあ、見ていて面白い関係ならば、無理に介入しなくても楽しめるということだ。


『確かその世界の神に貴方との記憶を抹消して欲しいと願うくらいには、勇者の仲間に酷い介入をしていた気がするのですがね』


【第四十九回転生】:百合ハーレム勇者が3番目におとした、王道属性はメインとサブの二人に取られ、インパクトは後発優勢で、中盤辺りでは名前ぐらいしか描写されず、終盤では名前すら出てこなくなる美少女ヒロイン

百合ハーレムに混ざりたいと思う男の気持ちは分からないでもない。だが、それでは尊さが失われてしまうだろうと俺は思う。まあでもヒロインとして転生するのであればワンチャンないのかなと考えるあたり、素直な人間だと思う。


『素直過ぎるのもどうかと思いますが』


勇者ナンテを中心とした女性だけのパーティーに俺は加わった。幼馴染のアドメ、共に戦う騎士ツレミ、そして三番目に加わるのが俺なのだが、インパクトを大事にしなければということで異星人と言う設定で挑んでみた。なんやかんやでまともな人間になれる可能性を捨てている気がしないでもないが、気にしないでおこう。


『転生先のお題によっては十分人間として転生できるはずなのですがね。自分で縛りでも入れてしまう癖でもついているのでしょうか』


正直百合ハーレムの中で楽しむことはできる。だがどうもこれじゃない。ヒロインとしてアクティブに行動するかどうかで悩んだが、結局俺は他のヒロインを影で応援するポジションを選んだ。やはり俺は男だ、純粋な百合を愛でるのであればそれは外部からすべきだろう。一応念のため同じ元男の転生者がいないかどうかだけはしっかり調査しておいた。


『男だからと引いたら実は他にも男がいたとあっては嫌になるでしょうからね』


なお、ナンテが元男の異世界転生者だった。


『衝撃の事実』


しかしナンテは女として転生し、百合ハーレムの中にいるうちに身も心も女となっていた。これはどう判断すべきか、意外と悩むことになっていた。異世界はさておき、転生するということは生まれ変わるということでもある。心が女になったのであれば、ナンテの魂は女性と見るべきなのか。ただこの理論が成り立つ場合、俺も普通に百合の当事者として楽しめたのではないだろうか。いや、でも明らかに男の自覚あるから無理だな。うん。


『潔いというかなんというか。さて次は……ああ、これで最後でしたね。思わず呟いてしまう程度に酷い記録でしたが……また思い出した時にでも読むとしましょう』

『私も色々な私物が増えましたね。主に誰かさんのお土産のせいでしょうけど』

『そう言えば……結局私は彼を一度たりとも名前で呼ぶことはありませんでしたね。何という名前でしたっけ……忘れてしまいました』

『日記のどこかに名前でも書いていないものでしょうか……おや、最後らへんのページに何か書かれていますね』



――俺はなんか死んだ。どうやって死んだのかは今でも良く分からないが、その理由は存在している。日本で生きていた時、俺は夢の中でとある神様と出逢った。その神様は言った。


【君に少し頼みごとがある。君にしかできないとは言わないが、君が適任だと私は思った】

【私はとある女神を気に掛けている。彼女は笑わず、泣かず、何があっても顔色一つ変えない不愛想な存在だ】

【その力の強さと性格ゆえに神々との交流も避け、孤独に在り続けている。同じ神である私では彼女を変えることはできないだろう】

【だが君ならもしかすれば――】


『これは……』


俺は二つ返事で了承した。その神様が女神様のことを本気で気に掛けていることもそうだし、何より女神様の姿を見せられて一目惚れしたからだ。我ながら安い男だと思う。


『……』


実際に出会った女神様はとても淡泊で、取り付く島もないほど。どうすれば俺はこの女神様の感情を揺らせるのだろうかと考えたが、結局時間は過ぎていく。この場でどんなに取り繕ったって、きっとできることはないだろうと思った。だけど帰って来れるという話を聞いて、俺は一つの名案を思い付いた。

そうだ、誰にも真似ができないような人生なら、きっと女神様も興味を持ってくれるかもしれないと。


『……それで肋骨って』


最初の異世界転生を終え、俺は女神様に自分の人生を報告した。すると女神様はとても良く食いついた。表情筋は全く動いていなかったけど、それでもだ。

俺はもっともっと、この女神様に普通ではない人生を語りたい。だから俺は異世界転生を繰り返すことにした。

女神様が笑えるようになれば、それはきっととても素敵な笑顔になるだろう。そう思うだけで何度でも、永遠に俺は人生をやり直せられる。ああ、次の転生が待ち遠しい。早く女神様に面白い体験談をお土産にしたい。奇異な人生を本気で生きて、誰にも真似のできない素敵な物語を女神様に捧げたい。


『彼が私のせいで成仏できないということは、薄々察していましたが……』

『とりあえず、彼を私の所に送り付けた神を特定するところから始めなくてはなりませんね。本当に余計なお世話です』

『でも私のことを忘れたのであれば、今度こそ本当にお終いですね』

『――退屈しのぎには、なりましたけどね』

『……なりました』

『……女神を楽しませるためだけに死ぬって……本当に馬鹿ですね』

『馬鹿です』

『馬鹿』

『……いなくなった者を罵倒しても仕方ありませんね』

『どうしてでしょうね。また当然のようにひょっこり帰ってくるんじゃないかって』

『……どうしてでしょう』



『何度目のサザ〇さんでしたっけ……。まあ、虚空の中に佇むよりかはマシではありますが……』

「ただいま戻りましたー」

『――え』

「あれ、またサザ〇さんですか。女神様日常系アニメ結構好きですよね」

『どうして』

「え、何がですか?」

『どうして帰ってきたんですか』

「どうしてと言われましても」

『世界を救う勇者に転生したのですよね』

「はい。世界を救ってきました」

『記憶を消されたうえで』

「綺麗さっぱり消されてましたね」

『ならどうして』

「うーん。強いて言うなら良い世界だったから、ですかね」

『理由になっていません』

「いやー、やっぱりプロの神様の創った世界とあって、とても凄い世界でしたね。色々な人と出会って、別れて。数多の挫折を味わって、苦難を乗り越え。それでも何とか世界を救えました。とても充実した人生でした」

『だからどうして』

「恋人もできて、結婚もして。子供も生まれ、孫もできて。最期は大往生でしたね」

『だから』

「その世界での妻が俺の最期の時に言ったんですよ。『貴方は私を愛してくれた。だけど、貴方は私以外の誰かも愛している気がする』って。浮気はしてなかったんですけどね。それが切っ掛けで最後の最後で思い出しちゃえました」

『……そんなことで』

「自力で思い出せたら格好もついたんですけどね。いやぁ、よくできた妻でした。そして不甲斐ない夫でした」

『……』

「死んだあと、その世界を創った神様と出会いまして。『これでダメならもう知らん』ってここに送り返されちゃいました」

『……私は厄介払い先になったわけですね』

「そんなわけでまたお世話になります」

『まぁ……構いませんけど。でしたら今回の転生先の報告でも聞きましょうかね』

「うーん。今回はお土産話はなしということで」

『どうしてでしょうか』

「女神様が嫉妬するから――というのは冗談で。冗談ですので消し飛ばそうとしないでください。まあ、不甲斐ない夫としてのケジメと言うやつです。最期まで愛してくれたのに、俺だけこうしてまた人生をやり直すことになっちゃったわけですし。女神様に彼女との思い出を語っちゃうのは、なんというか申し訳ないというか」

『一生寄り添ったのに。そんな夫が別の女のところに行くのは確かにクズだと思うでしょうね』

「それなのに『私は十分に愛してもらいました。後は貴方の好きなように生きてください』なんて言われちゃうと……」

『なるほど。よくできた妻でしたね。今回はその方の立場を考慮して報告はなくて構いません』

「心の中に大事にしまわせてもらいます」

『……ちょっと妬ましいですね』

「あれ、嫉妬しちゃいましたか」

『貴方にではなく、その女性にです。こんな他の女に未練たらたらな男を前に、満たされたままでいられるのですから』

「それってどういう――」

『さて、戻ってきたくせに報告もないわけですから。さっさと私の食事でも作りなさい』

「あ、はい」

『……そうだ言い忘れていました』

「なんでしょうか」

『おかえりなさい』

「はい。ただいまです」

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女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」 安泰 @antai_bunan

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