第四十九話:『百合ハーレム勇者が3番目におとした、王道属性はメインとサブの二人に取られ、インパクトは後発優勢で、中盤辺りでは名前ぐらいしか描写されず、終盤では名前すら出てこなくなる美少女ヒロイン』

「くっ、右腕が疼く……鎮まれ……」

『前触れもなく厨二病を再発しないように。良い大人でしょうに』

「あ、いえ。蚊に刺されまして」

『どうしてこの空間に蚊が発生しているのでしょうか』

「それがさっぱり。あ、それはそうと夏もいよいよ終わりですし、最後に夏気分を満喫するために異世界から常夏セットを仕入れて来ました。天然のヤシの木とか湖とかも完備ですよ」

『それが原因ですね。外来種の被害に苦しむ人間の気持ちが少しだけ理解できそうになりました。しかし羽音をたてられては不快なので、この空間にいる私以外の生物を一度死滅させましょう。てい』

「リスポン。虫と同じように殺されるってのはなかなかに新鮮。できればもう少し配慮が欲しい」

『配慮ならしていますよ。ググゲグデレスタフやフォークドゥレクラは除外しています』

※世界樹らしいマンドレイクと、不死である最強(女神様を除く)のリス。

「その配慮に俺も混ぜて欲しかった」

『貴方は死んでもリスポンするじゃないですか。配慮する手間が惜しいです』

「でもまあリスポンしたおかげで虫刺されも直りましたね。あ、これは実は女神様の配慮なのでは」

『蚊の痒くなる成分を動脈に注射しましょうか』

※蚊の唾液が原因だよ、多分。

「それは痒くなる以上に危険かと」

『空気でもいいですよ』

「それもリスポン案件です」

『しかしこうして自然に囲まれるというのも悪くありませんね』

「そうですね。湖に大量の魚の死骸が浮いていることを除けば」

『なかなかホラー。魚までいましたか』

「即死魔法で死んだようなものですし、このまま料理に使っちゃいましょう」

『少々複雑な気分ですね。それに量も多いですし』

「何匹かはググゲグデレスタフの苗床にでも」

『世界樹ですよね』

「生物というのは巡るものですし」

『過程を端折り過ぎです。というよりフォークドゥレクラも魚を食べていますね。リスなのに』

「不死のリスですし、グルメなのかと」

『見てる方はなかなかくるものがある光景ですね。ああ、刺身のわさびは醤油皿とは分けてください』

「夏も終われば秋になりますが、日本じゃ春秋の間隔が短くなっている気がするんですよね。ちょっと油断したらすぐに寒くなる」

『四季を誇る日本としては悩ましいところではありますね。紅葉の季節が限られると私としても寂しいところです』

「栗とかさんまとかの旬が短くなりそうですしね」

『その通り。速やかな食材確保を希望します』

「そこは抜かりなく。そもそも四季がずれている世界線の日本から仕入れればいつでも旬の食材を集められますけどね」

『女神の前で人間らしからぬ発想をするのはどうかと思いますが。そもそも四季を大切にしているのは貴方でしょうに』

「ふるさとには思い入れがありますから。おっと、そろそろ異世界転生の時間ですね」

『珍しく話をぶった切らずに入りましたね。食事も終わりましたし』

「食べるの早くないですかね。ではまあがさごそっと。みす太さんより『百合ハーレム勇者が3番目におとした、王道属性はメインとサブの二人に取られ、インパクトは後発優勢で、中盤辺りでは名前ぐらいしか描写されず、終盤では名前すら出てこなくなる美少女ヒロイン』」

『また随分とピンポイントなお題ですね』

「でも転生先としてはまともなんですよね『の靴』くらいはあるかなと思いましたが」

『無生物転生や概念転生の際には裏方に回りがちですから、丁度良いのでは』

「でも百合ハーレムのヒロインかぁ。俺としてはちょっと複雑です」

『私としてもBLの方が捗りますね。オプションはどのようにしていくつもりでしょうか』

「チートスキルとかなくてもチートプレイはできますからね。ちょっと使って見たかった系のスキルをピックアップしていくつもりです」

『いますよね、ゲームとかで変わったスキル構成で遊びだす人』

「王道属性がないので許されるかと。ただインパクトがなぁ……後発優勢となると加減が難しくなりそうですね。まあ上手いことやってみます」



『確かに世界線を問わなければ様々な旬の食材を自由に食べられますが、やはりどこかの世界線一つに四季感を絞るのは大事ですね。いつでも食べられるというのはありがたみが落ちると言うか』

「ただいま戻りました」

『おかえりなさい。丁度焼き芋をしようと思っていたので燃える物が欲しかったところです』

「死体を焼きながら焼き芋と言うのは流石にサイコ過ぎるかと。お急ぎ便で枯れ葉を取り寄せますので少しお待ちを」

『枯れ葉を取り扱っている宅配業者があることに驚きですね』

「届きました。では早速セッティングを」

『お急ぎにも程があると思いますが、まあ今は気にしないことにしておきましょう。では焼きあがるまで報告を聞くとしましょうか。百合ハーレム勇者が3番目におとした、王道属性はメインとサブの二人に取られ、インパクトは後発優勢で、中盤辺りでは名前ぐらいしか描写されず、終盤では名前すら出てこなくなる美少女ヒロインでしたか』

「俺が言うのもなんですけど、女神様も記憶力良いですよね。まずは主人公こと勇者、ナンテの紹介から始めましょうか。まあ普通の鈍感熱血系王道勇者ですね」

『ざっくりですね』

「ガードが甘いので色々と楽しめました」

『百合要素を女神特権で抜いておくべきでしたか』

「まずはメインヒロインこと幼馴染のアドメ、世話焼きで回復魔法を得意とするヒーラーポジションです」

『幼馴染設定は王道ですね』

「次にサブヒロインのツレミ、魔王復活に合わせて誕生すると言われた勇者を探して旅をする王国の騎士。近接戦闘が得意なファイターポジションですね。物語は田舎村で平穏に暮らしていたナンテとアドメが村を訪れたツレミと出会うところから始まります」

『導入としてはまずまずですね』

「展開も王道で村に魔物が訪れ、窮地に追いやられた主人公がアドメとツレミを救おうとした勇気から覚醒すると言ったテンプレートなので省きます」

『熱いシーンだとは思うのですがね。次は貴方の番ですね』

「はい、三番目のヒロインこと俺。宇宙より現れた異星人です」

『ファンタジー世界にいきなりSFをぶち込んできましたね』

「村の酒場の看板娘とか手頃な感じにしたかったんですが、どうも一般人枠だと強さが怪しまれちゃうレベルなんですよね」

『異星人の時点で怪しまれるという発想はなかったのか』

「冒険途中のナンテ達の前に突如落下した隕石、その中からばばーんと登場してやりましたよ」

『後発優勢のインパクトでいきなりハードルを上げてくれましたね。ちなみにおとされたヒロインとありますが、その辺はどういった感じに』

「とりあえず地球侵略だーとか言って襲い掛かって、あとは流れで負けて取り入るといった感じですね」

『ファンタジー世界を創った神に怒られそうな展開ですね。でも負けてやれたのは大きな進歩かと』

「流石に駆け出し勇者相手に本気を出すのは憚られますからね。全身複雑骨折に留めておくことにしました」

『自分を全身複雑骨折に追いやった異星人をヒロインとして囲える勇者の器の広さ』

「熱血系勇者だと骨が折れた程度じゃ倒れませんからね。とりあえずは当分ヒロインライフを満喫してみました。全員女性ってのが最高でしたね」

『中身男を入れる百合ものは本当の百合好きには受けいれられないというのが何となくわかります』

「何より今回の目的はサブヒロインことツレミとナンテをくっつけようと画策していましたからね」

『またニッチな遊び方を』

「せっかくハーレム系勇者の一陣に加わったわけですし、推しヒロインには幸せになってもらいたいじゃないですか」

『それで立場を奪われるメインや他のヒロインがいるのですがね』

「ナンテ達は冒険を進め、ツレミの所属する王国へと到着します。そこで登場するのが四番目のヒロイン、お姫様のリーズリです」

『王国のお姫様もそれなりには王道だとは思いますが、それよりも隕石と共に登場した貴方のインパクトに負けていますよね』

「はい。なので先回りをしてリーズリには隕石属性を付与しておきました。登場すると同時に毎回周囲が吹き飛びます」

『インパクト違いです』

「何をするにも尋常ではない衝撃波が発生しますからね。これにはナンテもドキドキします」

『するでしょうね』

「そんなわけでナンテ達はリーズリに呪いを掛けたとされる魔女を討伐することとなり、迷いの森へと向かいます」

『すぐ横に犯人がいるのですがね』

「ただまあ、リーズリを強くし過ぎて展開が楽過ぎちゃいましたね。元々格闘家属性ありましたし」

『あらゆる技に尋常ではない衝撃波が加われば鬼に金棒ですね』

「ヒロイン力もかなりのもの、ウインク一つでナンテがイチコロでしたからね」

『威力的な意味ででしょうね』

「そして五番目のヒロインこと迷いの森に住む魔女、タードと出会います」

『濡れ衣を着せられた魔女がヒロインでしたか。しかしインパクトを用意するのが大変そうですね』

「ですから先回りをしてタードの身長を五百メートルにしておきました」

『インパクト違いです』

「リーズリの攻撃にもビクともしない頑丈さ、圧倒的な存在感」

『ところで変な属性やら巨大化を施していますが、それがオプションなのでしょうか』

「はい。『魔法少女系悪の幹部が人を怪物にするなんか凄いパワー』を搭載してみました」

『ああ、たまに使いたくなりますよね。そういう力』

「タードのヒロイン力も中々でしたね。嬉しさのあまりに抱擁すればナンテはひとたまりもありません」

『質量的な意味ででしょうね』

「元々豊満だった胸も文字通りの山でしたからね。全身で胸の中に飛び込みたいという夢の一つが叶いました」

『ヒロインとしての役割をまっとうしてください』

「そんなわけでナンテ達はタードに濡れ衣を着せ、呪いを掛けたとされる魔王の幹部を討伐することとなり、魔界にある要塞へと向かいます」

『すぐ横に犯人がいるのですがね』

「ただ先回りした後、再会するタイミングを逃しまして。俺は当分タードの胸の中に隠れておくことにしました」

『単純に色欲で本来の目的を忘れただけでは』

「辛うじてはありましたよ。ツレミに正規ヒロインの座を与えるために暗躍する必要もありますし。なにせヒロイン全員がナンテを狙っていますからね。水面下では熾烈な戦いが繰り広げられているのです」

『大奥並みにドロドロしていそうなヒロイン関係ですね』

「そして六番目のヒロインこと魔王の幹部、ミロミスと出会います」

『魔王の幹部ですか。本来ならばインパクトは十分だと思うのですが隕石系ヒロインや巨大系ヒロインの前だとかすみそうですね』

「ですから先回りをしまして」

『またインパクト違いになりそうですね』

「目の前で魔王を惨殺するミロミスと対峙させました」

『インパクト的にはあってる』

「いやぁ、ミロミスの登場に流石のナンテも心ここにあらずと言った状態ですね」

『ヒロインの登場シーンで魔王が倒されたらそうなるでしょうね。しかしそれでは物語そのものが破綻してしまうのでは』

「それはそうなんですが、そもそも魔王の力だとリーズリにも勝てませんでしたし、英断です」

『貴方の介入が世界の調和を乱すのが良く分かる内容ですね』

「ミロミスのヒロイン力も相当でしたよ。ナンテの胃袋をガッチリと掴める料理の腕でしたからね」

『普通なのが逆に強く感じますね』

「まあなんやかんやでミロミスもナンテにおとされて無事ヒロインとなりましたね」

『なんやかんやで済ませて良いのでしょうかね』

「決め手は三本勝負の最後、料理対決だったのですが詳細を話しましょうか」

『思った以上に平和な戦いですね』

「ナンテが『こんなに料理が上手いなんて、是非私のために毎日料理を作ってくれ』という言葉でおちましたね」

『ちょろい』

「そんなわけで世界は平和にはなったのですが、ヒロイン同士の戦いはいよいよ終盤です」

『魔王もいなくなりましたからね。ちなみに貴方はどうなのでしょうか』

「暗躍が過ぎてすっかり名前すら出てこなくなりましたね」

『でしょうね』

「まあずっとタードの胸の中にいましたけど」

『でしょうね』

「現状で有利だったのはやはりナンテの胃袋を掴んだミロミス。しかし今までの人生を常に歩み続けていたアドメも強い」

『勇者を探しに来た騎士では少し辛そうな立場ですね』

「リーズリの行動力は他のヒロインを寄せ付けませんし」

『物理的な意味でもそうでしょうね』

「タードの存在感も驚異的でしたからね」

『胸囲的な意味でもそうでしょうね』

「迫りくるヒロイン達を前にナンテは言います。『わかった。お前達、思うが儘に戦うと良い。私は一番強い奴と添い遂げよう』と」

『熱血を通り越して頭がわいてませんかね、その勇者』

「今まで散々インパクトのあるヒロイン達と出会いましたからね。色々と感覚がおかしくなってしまっているのです」

『貴方の暗躍のせいで勇者の気が狂ってしまっていましたか。しかしそうなると後発のヒロイン達の方が強そうではありますが』

「正々堂々の戦いにチートスキルを与えるのはどうかと思いましたので、全員の呪いは解いておきました」

『ずるい』

「タードは魔女ですがそこまで戦闘が強いというわけでもなく、リーズリも格闘属性はありましたがお姫様としてのレベルがメインだったので戦闘力不足で脱落となります」

『お姫様のレベルがあるのはなかなかに斬新ですね。こうなるとヒーラー役のメインヒロインもきついでしょうし、残るは魔王の幹部と騎士の一騎打ちですね』

「ミロミスは仲間になりたてなのでレベルがまるで足りずに脱落です」

『強敵が仲間になった途端に弱くなるシステムの世界でしたか』

「互いにレベルが高いのはアドメとツレミ、しかし優勢なのはアドメでした」

『ヒーラー幼馴染がなぜ近接特化の騎士に優位をとれるのか』

「田舎村ですからね。なんやかんやでアドメも勇者の血を引いていたのです」

『普通の物語とかでは勇者の血縁は一人だったりしますが、よくよく考えてみれば狭い村なら近しい血縁関係になることは不思議ではありませんよね』

「激しい戦いも終わり、ついに勝負は決着。その場に立っていたのは俺でした」

『そう言えば貴方もヒロインでしたね』

「しかし俺は既に名前すら思い出してもらえないヒロイン。ナンテも『……誰だっけ』と言う状態です」

『普通忘れませんよね』

「ピカソより長い名前でしたから、途中から皆名前を呼ばなくなりましたね」

※パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ

『名前も呼ばれずにヒロインライフを満喫していたのですか』

「まあそれでもナンテは俺を選ぼうとしました」

『誰も勇者の異常に気づかないのでしょうかね』

「しかし俺は異星人。故郷の星からの帰還要請を受け、星に帰らなければならなかったのです」

『唐突に異星人設定を持ち出しましたね』

「そんなこんなで暫定二位だったツレミが正ヒロインとして選ばれることとなりました」

『これ以上にない不服申し立てしたくなる勝利ですね』

「ちなみにこの後俺は故郷の星で他の異星人と激しい戦いを繰り広げる予定だったのですが、うっかり隕石に激突して死にました」

『これ以上にない雑な死に方ですね』

「あ、ちなみにその隕石の欠片をお土産に持ってきました」

『わりと綺麗。ですが多分世界の創造主も余計な世界を創らずにすんで安堵していると思います』

「でもこれで良かったと思いますよ。ナンテはツレミを一番のヒロインとしましたが、他のヒロインも大切にしています。そんな中に男が割り込んでいたら百合の花が綺麗に咲かないでしょう」

『なんやかんやで貴方も純粋な百合好きでしたか』

「男として女性に囲まれたいという願望はありますけどね。見るだけに留めたくなる尊さもありますから」

『その割には下心満載で満喫していましたよね。貴方は焼き芋をアルミホイルごと食べるように』

「へへっ、歯がキーンとしやがる」

『それにしても、せっかくのまともな転生先だったというのに。貴方は当然のように戻ってきますね』

「まともかと言われるとちょっと首を傾げますけど」

『自覚はあるようで』

「でもまあ、こういった何になるかも分からないような転生先の方が色々と楽しみはありますよ。次のくじにも期待が持てますね」

『――残念ですが、貴方の次の転生先はもう決まっています』


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