第六話:『勇者のレベルアップ通知をする頭の中の声の人』

「女神様、後6秒でカップ麺できますよ」

『きっかり三分、随分と精確ですね』

「体内時計が随分と洗練されまして」

『時計の針でしたからね』

「それにしても女神様がカップ麺と言うのはどうなんですか」

『そう言う気分の日もあります、普段は霞を食べていることにしていますよ』

「仙人かな、でも俺にだけ普段の姿を見せてくれると言うのは嬉しいですね」

『無機物暦の方が長いですからね、扱いは無機物です』

「当面は有機物に転生しなきゃ」

『次で終らせるつもりで転生してください』

「では目安箱、女神様引いてみますか。たまには女神様の運にあやかりたい」

『あやからせたくないですけど良いですよ、ええとペンネームwestさんより「勇者のレベルアップ通知をする頭の中の声の人」』

「おお、当たりだ」

『当たり、いや、うーん、まあ土や扉に比べればマシだとは思いますが』

「流石女神様、今度ソーシャルゲームのガチャ代わりに引いてください」

『死んだ分際でまだやってるんですか、携帯電話解約されているでしょう』

「Wifiあればなんとか」

『ここに回線繋げないでください』

「でもテレビとか見てませんでしたっけ」

『見たい時に繋げていますからね、私は良いのです』

「ではオプションを付けていきましょう、喋るのは入れても大丈夫ですか」

『喋らないでどうやってレベルアップ通知をするつもりですか』

「ここはこう、勇者の頭の中で看板を掲げる感じで」

『雑念になりますね、つけておいてください』

「勇者は女の子が良いですね」

『下心見え見えなので阻止したいですが』

「失礼ですね、そもそも脳内にいる存在なので悪さ出来ないですよ」

『では下心を持っていたら男性勇者になるように設定しておきます』



『お、ピックアップの最高レアが来ましたね』

「ただいま戻りました、勇者の野郎にしてやられましたよ」

『やはり下心ありましたか』

「延々と卑猥な言葉を呟いていく計画が丸つぶれでしたよ」

『今日は私自身を褒めてあげたいですね』

「それはそうとして報告しましょうか、勇者ミッシュのレベルアップ通知をする頭の中の声の人になりました」

『その報告だけでも中々カオスですね』

「担当になったのは彼が10才に成長し勇者レベル1にまでなった時のことです」

『生まれた当時からレベル1と言うわけではないのですね』

「そうなると村人レベル1とか赤子程度と言う感じになりますからね」

『確かに、そう考えると10才でなんらかのレベル1になれるのは才能がありますね』

【おめでとう勇者ミッシュ、君はレベル1になったよ】

「と言うのが始まりの挨拶でしたね」

『なんですかこれ』

「通知に使う際に頭の中に出現させるウインドウです、その気になれば外にも出せます」

『突然頭の中に湧く光景に驚きそうですが、一応は穏便なスタートですね』

「『うわ、なにこれ怖っ趣味悪っ』と返されたのでその日一日デスメタルを絶叫してやりました」

『大人気ない』

「次の日にガラガラの声で自分はレベルアップ通知の人だよと挨拶をしました」

『余計酷い印象を植え付けましたね』

「勇者ミッシュは最初はこちらを否定していましたが、5年間の説得の末ようやくこちらのことを受けて入れてくれました」

『あっという間に15才に、その間レベル上がってそうですね』

「こちらを受け入れてくれないとレベル上がらないんですよ」

『貴方の大人気ない態度のせいで才能ある勇者の5年間が無駄に終りましたね』

【このまま残り人生をレベル1で過ごしていいのかな】

「これを見せ続けると言った説得が効果的でしたね」

『脅しですね』

「そんなわけで勇者ミッシュは冒険の旅にでます」

『勇者としての冒険が始まりましたね』

「最初に戦ったモンスターはスライムです」

『定番ですね』

「少し自分の活躍を再現してみましょう」

【勇者の攻撃、しかし攻撃が外れてしまった】

【勇者の攻撃、しかし攻撃が外れてしまった】

【勇者の攻撃、しかし攻撃が外れてしまった】

【勇者の攻撃、しかし攻撃が外れてしまった】

【勇者の攻撃、しかし攻撃が外れてしまった】

『戦闘下手すぎませんかねその勇者』

【ちょっと代われ】

「と言ってやりましたよ」

『そんな通知は嫌ですね』

「お前レベルアップ通知なんだから黙ってろって怒られました」

『ごもっともで』

「戦闘通知の方に」

『いたんですか』

「コマンド通知の人、ステータス通知の人とかもいますよ」

『一人の勇者の中に何人いるのやら』

「人の仕事を奪うのは流石に悪いと思いまして、とりあえずレベルアップまではBGMとしてボイパしてました」

『地味に邪魔ですね』

「BGM担当の人に怒られました」

『いましたか』

「やるならこっちの曲に合わせてセッションしろと言われましたよ」

『人の演奏中にボイパで演奏してたんですか、それでよくセッションに誘われましたね』

「俺のボイパとBGM担当の人のアカペラはそれは見事なハーモニーを奏で戦場を盛り上げます」

『BGMの存在が悪いとはいえませんけどそれ勇者の頭の中に響いているんですよね』

「他の通知の方もそれぞれ得意な楽器を持ち出して軽いオーケストラになりましたね」

『ノリが良い方々ですね』

「その後勇者ミッシュに全員怒られました」

『でしょうね』

【ごめんなさい、あとレベル2になってましたよ】

「と謝りました」

『職務放棄までしていましたか。ちなみにレベルアップ通知だけですか』

「ステータス上昇とかの説明もありましたね」

【攻撃力が10あがった、守備力が10あがった、体力が20あがった、魔力が20あがった、かしこさが10あがった、うんはあがらないけどしょせん飾りさ】

『地味にムカつきますね』

【ファイアの魔法を覚えた、でもこれって序盤は魔力勿体無いし後半は弱いしで使いどころないんだよねー】

『余計なお世話ですね』

「序盤火に耐性のある魔物が多いんですよ」

『わりと有益な情報でしたね』

「順調にレベルを10まで上げたころには勇者ミッシュも随分強くなっていました。そこまでの俺の活躍をダイジェストでまとめてみましょう」

【勇者はレベル3になった、まあまだ雑魚だね】

『イラつきますね』

【勇者はレベル4になっていた】

『通知忘れしましたね』

【勇者はレベル5、だがこんな見かけだけの数値に意味はあるのだろうか】

『自分の存在を否定してますね、哲学でしょうか』

【勇者はレベル5になった、やったね】

『数え間違えしてますね』

【勇者はレベル7になった、一気に二つ上がったね】

『間違いを誤魔化しましたね』

【勇者はレベル8の時期もあったよ】

『また通知し忘れましたね』

【勇者はレベル――あ、はい今いきまーす。いやー宅配便屋さんいつもご苦労様です】

『人の頭の中に宅配便を寄越さないでください』

【勇者はレベル10に――おい、どうした選択肢通知担当、息をしろ、息をしてくれ】

『選択肢通知担当に一体何が』

「勇者ミッシュの精神がレベル10の倍数に成長する際に頭の中に存在している人がランダムに一人死ぬシステムだったんですよ」

『急にホラーですね』

「設定したのをすっかり忘れていましたよ」

『貴方の仕業でしたか』

「このことを知った勇者ミッシュは残酷なことにレベリングに取り組んで頭の中にいる俺達を皆殺しにしようと決意します」

『頭の中を平和にするために効果的な方法ですね』

「俺たちは頭の中の住人、語りかける以外に抵抗する手段がありません」

『それでも結構嫌がらせになっていますけどね』

「勇者が出会う人たちに助けを求め続けました」

『なんで頭の中の人が外の人に話しかけられるんですか』

「喋るのは入れても良いって女神様が言っていたじゃないですか」

『そう言う意味でしたか、油断しました』

「勇者ミッシュと話していると突如助けを呼ぶ声が聞こえると噂になった事で勇者ミッシュは人々に恐れられるようになります」

『ホラーですね、余計恨まれたでしょうね』

「そしてあっという間にレベル20に上がる勇者ミッシュ」

『ロシアンルーレットの時間ですね』

【勇者はレベル20に――た、宅配便屋さーん】

『酷いとばっちりを見た』

【よくも宅配便屋さんを、だが直ぐにまた第二、第三の宅配便屋さんが現れる――あ、はーい、代引きですよね】

『本当に直ぐに現れましたね、どれだけ注文しているんですか』

「レベル30の時はピザ屋さん、レベル40の時は水道屋さん、レベル50の時は電気屋さんが被害に……」

『軒並み第三者が被害に、頭の中に普通の家でもあるんですかね』

「3LDKのマンションですね、外には出れない欠点がありますが住み心地は悪くないですね」

『外からどうやって人が来るのかのメカニズムは今のところ不明なままですね』

「無実の人を何人も殺めた勇者ミッシュ、しかし彼は何故かより一層こちらへの怒りを高めていきます」

『何故かと言える貴方の精神もホラーですよね』

「とうとう自分の頭の中に入り込み直接俺達に攻撃できる手段を身に付けたのです」

『大分追い込まれたんですね、気持ちは分かります』

「まあ返り討ちでしたけど」

『なんでレベル50超えている勇者を返り討ちにしているんですか』

「そりゃあ勇者と同じパーティにいるんですから経験値は皆に分配されていますよ」

『経験値吸ってたんですね、寄生プレイもいいところじゃないですか』

「俺のレベルは80でしたしね」

『戦っていた勇者への経験値配分おかしくないですかね』

「勇者ミッシュはレベルがもっとあがればレベル差も関係なくなるとレベリングの鬼と化しました」

『その間追い出したい連中のレベルも上がるのは中々に苦行ですね』

「更に無実の人達の命が失われていきました」

『貴方達他者を生贄にしすぎじゃないですかね』

「そしてついに悲劇は訪れます」

『随分前から起きていましたけどね』

「勇者ミッシュは激闘の末、頭の中の通知担当を次々と殺していったのです」

『やりますね、レベルは相手の方が上だと言うのに』

「レベル99でカンストしてますからね、レベルは一緒でしたよ」

『そこまでやり遂げましたか、ここは逆に応援したくなりますね』

「まあ俺が返り討ちにしてやりましたけどね」

『諸悪の根源が倒せませんでしたか』

「俺のレベルは198でしたから」

『なんで最大レベル超えてるんですか』

「オプションで」

『知ってました、しかも経験値吸収の割合が酷過ぎますね』

「経験値配分は運のステータスで配分率変わります、俺の運はカンストしてましたからね」

『飾りって言ってませんでしたかね』

「しかし俺以外の通知担当が軒並み死に絶えたことで随分と静かになってしまいました」

『勇者も一先ずは落ち着きましたかね』

「俺のボイパも毎日虚しく響き渡ります」

『それでも嫌がらせは続けましたか』

「諦めきれなかった勇者ミッシュは魔王ゴシィと手を組み俺を倒そうとします」

『頭の中に住む人を倒す為だけに勇者と魔王が手を組みましたか、戦いにはならなかったのですか』

「魔王ゴシィのレベルは80、カンストしていた勇者にあっさりと敗北して降伏しちゃったんですよね」

『貴方のせいで世界を救った感動は無かったでしょうけどね』

「二人して頭の中にやってきて挑んできましたが返り討ちでした」

『レベル差が辛いですからね』

【おお、勇者よ負けてしまうとはなさけない】

『煽ってますね』

「ですがここで魔王ゴシィが妙案を考え付きます。それは勇者ミッシュのレベルを初期化してしまえばもう一度レベリングができ、そしてレベルが10の倍数になるタイミングで頭の中を俺一人にできれば俺を倒せるだろうという作戦です」

『貴方の用意したオプションを逆手に取ってきましたか、ちょっとだけ頭脳戦になりましたね』

「しかしいつ関係の無い人物が現れるかわからない頭の中、俺一人にすることは難しいことでした」

『普通関係の無い人物は頭の中に現れませんけどね』

「そこで魔王ゴシィが身を犠牲にして監視を始めたのです、ランダムで死ぬのならば50%の確率で倒せるだろうと。魔王ゴシィは勇者ミッシュの頭の中で死亡しても外に追い出されるだけですからね」

『なるほど、レベルを初期化したのであれば複数回挑めばやがて確実に貴方を葬りされますね』

「まあ100回やって100回魔王ゴシィが死にましたが」

『運がカンストしてましたね貴方、ソーシャルゲームの最高レアを引くより辛そうですね』

「ですがとうとうこの関係にもあることが切っ掛けで決着が付いてしまいます」

『おや、割りと絶望的に見えましたがどうにかなったんですね』

「設定で通知をオフにされてしまいました」

『何で今まで気づかなかったのか』

「結局勇者が生きている間は二度とオンにされずに一生を終えてしまいました」

『まあ私でも二度とオンにしないでしょうね』

「そんなわけでこちらお土産です」

『頭の中にいただけなのにお土産用意できたんですね』

「G○○gleプレイカードです」

『買い物に行ってきただけじゃないですか、貰いますけど』

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