第七話:『宝箱に付いてる錠前』

『さて、そろそろ異世界転生のお時間です』

【うつくしい めがみ が あらわれた】

『不快な表示機能ですね』

「ああ、俺のウインドウがデリートされてしまった」

『前回はレベルアップ通知だったでしょうに、少しはその辺の成長はないのですか』

「女神様の胸はもうレベルアップしないようです」

『勇敢さに磨きが掛かったようですね』

「この部屋って復活早いですよね、残りレベルアップまでの経験値とか見れるようになったことを証明しようかと思ったのですが」

『女神ですから、もう完成されています』

「つまりもう成長しないと」

『全く、何度も力を使わせないでください』

「それくらいで消し炭にしないでください」

『不敬罪は消し炭です、覚えておきなさい』

「上告は無理でも審議くらいして欲しい」

『私が法で私が処刑人です』

「なんて独立国家だ、それはそうと目安箱引きますか」

『貴重なガチャ運を貴方のために使いたくありませんので自分でどうぞ』

「すっかりソシャゲの沼に、ええとやっぴー336さんより『宝箱に付いてる錠前』」

『また無生物ですね』

「得意分野ですね」

『前向きな所は評価します、オプションを決めましょう』

「先ずは宝箱の中身は宝にするかミミックにするかですかね」

『宝にする場合、貴方を開けないと世界が救えない系のアイテムは禁止したいところです』

「伝説の武器とか魔王を弱らせるアイテムとかですかね。別に普通に渡しますよ」

『貴方程油断の出来ない方は中々いませんからね』

「女神様には負けますよ」

『不敬罪』

「そんな、お世辞のつもりだったのに」

『前後の言葉を考えましょう、魔物にする案も別に反対と言うわけではないのですが貴方の場合魔王を超える存在になりそうですからね』

「女神様には負けますよ」

『不敬罪』

「実力的な意味でと言いたかったのですが」

『貴方と比べた時点で不敬罪です』

「法が厳しすぎる、弁護士が欲しいです」

『私が弁護士です、被告人は多分有罪です』

「味方がいない法廷は辛い。次は錠前のオプションですね、定番の高圧電流をつけてっと」

※正しくは大電流です。高圧はV、電流はAです。

『外します』

「そんな」

『敵意持ちすぎです、錠前らしくしてください』

「ふむふむ、なるほど鍵の仕組みはこうなっているのか」

『急に真面目に錠前の仕組みを調べ出しましたね』

「マスターキーの仕組みってこうなってるのかーへー」

『脱線し始めましたね、なるほどこれは興味深い』

※マスターキーの仕組みって分かれば簡単です、小説好きならば知っておいて損はないです。

「でもピッキングされると嫌だなぁ、高圧電流流せないし。ディンプルキーとか良いかな」

※ディンプルキーで画像検索しよう、マスターキーの仕組みとか分かるとこの鍵の凄さも分かります

『ファンタジー世界にディンプルキーは中々無いと思いますがね』

「となると今回はローファンタジーでしょうか」

『ディンプルキーの様な存在があるということは鍵開けの魔法とかが稀有な世界、盗賊系のジョブも活躍し難い感じですね』

「できたらハイファンタジーな世界が良いですね、なのでここをこうしてっと。それじゃあ行って来ます、中身をお土産に持ってこれるよう頑張りますね」

『早く成仏してください』



『おや、彼に食べられまいとおやつを入れていた金庫の鍵が見当たりませんね』

「ただいま帰ってきました」

『丁度良かった、この鍵を開けてください錠前』

「感動の再会なのに世知辛い、開けましたよ」

『流石錠前になっていただけあって仕組みに詳しくなっていますね』

「今なら女神様の心の鍵だって開けられます」

『不敬罪』

「懐かしいこの復活する感覚、キザな台詞くらい許してくださいよ」

『不法侵入ですから』

「言われて見れば、それでは報告します。何から説明しましょうかね」

『そうですね、先ずは宝箱の中身が気になります』

「ちゃんと俺を開けないと世界が救われないという中身は避けましたよ」

『それは感心、それで中身は』

「魔王です」

『開けないでいると世界が救われるようにしてきましたか』

「魔王スペイシャスと言う奴でした」

『生き方に相反した名前ですね』

※spacious、意味は『広々とした』だよ

「俺の使命は遥か昔に世界を滅ぼそうとした魔王スペイシャスを封印した宝箱の錠前という設定にしておきました」

『錠前の癖に欲張った設定ですね』

「ちなみに原価20円です」

『謙虚でしたか、もう少し高価な錠前にしても良かったのでは』

「鍵のほうは純金で作られ宝石を散りばめられた高級品でしたから」

『鍵を無駄に豪華にしましたね』

「そりゃあこの設定だと一回開かれたらおしまいですよ、その一回の出会いは良いものにしたいじゃないですか」

『理解したいのですが錠前風情の感情は理解したくありません』

「強大な力を持っていたスペイシャスでしたが体を六つ折にされていては満足に動くこともできませんでした」

『予想以上に狭いですね、むしろ六つ折にされたらその場で人は死にますよ』

「魔王スペイシャスの余暇の趣味はヨガでしたから」

『まさか余暇の趣味が封印される上で助かるとは、いやヨガが出来ても六つ折は無理がありますね』

「魔王スペイシャスはヨガも魔王級でしたからね」

『ヨガの魔王級とか良く分からない次元ですね』

「神様を祭る神殿の最奥、魔王スペイシャスは自分を封印した神様への恨みを毎日口にしていました」

『そりゃあ恨むでしょうね』

「神様の足は臭いとか、神様の服はダサいとか」

『悪口の程度が村人級ですね』

「貸したゲームを転売したとか、一口食べさせたソフトクリームが一口で全部食べられたとか」

『友人だったのでしょうか、神様もあまりろくな方ではないようですね』

「魔界の生き物達と人間達の間に永久に続く争いの種を植え付けたのは良い、だが勝手にから揚げにレモン汁を掛けたことは許さないと」

『前者を怒りましょうよ、気持ちはわからないでもありませんが』

「あと目にレモン汁を掛けたことも許さないと」

『やっぱりどこかクズいですねその神様』

「あまりにも不遇な魔王スペイシャス、つい親身になって話しかけてしまいました」

『やはり話せるオプションつけてましたか』

「錠前風情が喋っただととか言い出したので俺は宝箱の中にレモン汁を流し込む魔法を打ち込みました」

『魔法を使えることは良しとしてもえげつないですね』

「宝箱からレモン汁が滲むほど多量に打ち込んだことで魔王スペイシャスは反省しました」

『それもう目に入るとかではなくて溺れるレベルですね』

「ちなみにそれを目撃した神官達によって不吉の予兆と勘違いされました」

『魔王の封印された宝箱からレモン汁が滲んできたらそう思っても不思議ではありませんね』

「宝箱の錆びもキレイにとれましたからね」

『流石レモン』

「その後調査隊が現れ、様々な調査を行い始めます」

『さすがに調べますか』

「おっさんに触られるのが嫌だったのでレモン汁を目に放ちました」

『えげつない錠前ですね』

「危険と判断され、宝箱の周囲に更なる結界が施されます」

『正しい選択ですね』

「水分と言う水分が蒸発してしまう結界でレモン汁が完全に封じられてしまいましたよ」

『ピンポイントですね』

「宝箱の中で魔王スペイシャスも乾いてましたね」

『元々封印されているでしょうに』

「哀れに思った俺は宝箱の中にサラダ油を流し込む魔法を打ち込みました」

『えげつない錠前ですね』

「魔王スペイシャスは魚人系の魔物だったので水を得た魚のように元気になります」

『油ですけどね、息は出来たのでしょうか』

「宝箱からサラダ油が滲むほど多量に打ち込んだことで魔王スペイシャスは覚醒しました」

『覚醒しちゃましたか、誰も予想できなかったでしょうね』

「ちなみにそれを目撃した神官達によって不吉の予兆と勘違いされました」

『魔王の封印された宝箱からサラダ油が滲んできたらそう思っても不思議ではありませんね』

「錠前の滑りも良くなりましたよ」

『流石サラダ油』

「その後調査隊が現れ、様々な調査を行い始めます」

『また来ましたか、そして貴方の攻撃の餌食に』

「いえ、こぼれたサラダ油に足を滑らせて転倒して瀕死になっていました」

『こぼれた油は簡単に気化しませんからね』

「危険と判断され、宝箱の周囲に更なる結界が施されます」

『正しい選択か少し悩みますね』

「油分と言う油分が炎上してしまう結界でサラダ油が完全に封じられてしまいましたよ」

『間違った選択でしたか、封じられていませんよねそれ、むしろ強化されていますよね』

「宝箱の中で魔王スペイシャスも燃えていましたね」

『この魔王哀れすぎて異世界転生候補でしょうね』

「しかしサラダ油を出す都度に燃やされていてはおちおち天ぷらも揚げられません」

『錠前が料理しないでください』

「なので不燃性、不揮発性の溶解液を使って結界の破壊を試みました」

『今回の貴方は水属性なのでしょうか』

「うっかり間違えて宝箱の中に打ちそうでしたが魔王スペイシャスによって釘を刺されてしまいました」

『中々賢い魔王ですね、貴方の行動を先読みするとは』

「まあ打ちましたけど」

『えげつない錠前ですね』

「いや、何度も打つなよって言われたら打たなきゃダメじゃないですか」

『芸人意識の高い錠前ですね』

「魔王スペイシャスは元々高い魔力を持っているのでたいしたダメージは受けませんからね、多少は大丈夫です」

『六つ折状態でレモン汁、サラダ油、溶解液に浸されている拷問を多少とは言いません』

「宝箱から溶解液が滲むほど多量に打ち込んだことで魔王スペイシャスは進化しました」

『進化しちゃましたか、適応力高いですね』

「ちなみにそれを目撃した神官達によって不吉の予兆と勘違いされました」

『魔王の封印された宝箱から溶解液が滲んできたらそう思っても不思議ではありませんね』

「周囲の封印も破壊されましたからね」

『割と緊急事態ですね』

「その後調査隊が現れ、様々な調査を行い始めます」

『次は何をやらかしてくれるのでしょうかね』

「箱の内部が気になって鍵を使って開けようとしてきました」

『本当にやらかしてくれましたね』

「しかしこんなムードもない開錠なんて誰も求めていません」

『でしょうね、魔王ですら求めてないと思いますよ』

「そう言ったわけでレモン汁で鍵を持ったおっさんを攻撃します」

『レモン汁を無力化する結界が破壊されましたからね』

「おっさんは怒り狂って言いました、神にこのような真似をするとは許せんと」

『おっさんが神でしたか』

「封印されてもなお神に抵抗するとはやはり魔王は邪悪な存在だ、やはりこの手で葬ってくれるわと」

『魔王は無抵抗なのですがね』

「こちらはサラダ油や溶解液で抵抗しましたが流石に神様、全身に浴びながらも怯むことなく鍵を差し込んできます」

『光景を考えると悲しくなってきますね』

「三度ほどサラダ油に滑って転倒していましたね」

『サラダ油が若干弱点なようですね』

「俺に差し込まれた鍵を神様はサラダ油と溶解液塗れのドヤ顔で回します」

『なんて格好つかない』

「そして流れる高圧電流」

『外したはずなのになんで』

「宝箱のオプションにありました」

『今まで一言も喋っていない異世界転生者がいましたか』

「宝箱は喋りませんからね」

『黙りなさい錠前』

「サラダ油だけならば電気は通さなかったのですが溶解液は電気を良く通したので神様は壮大に感電します。鍵も金でしたからね」

『無駄な理科要素、高圧電流の時点で油も関係ありませんけどね』

※油は電気を通さないけど、高圧になればそうでもないよ!

「神様はこの一撃でダウンしてしまいました」

『神様すら倒す高圧電流は凄まじいですね』

「魔王スペイシャスも倒れるほどですからね」

『やはり感電していましたか』

「こうして魔王スペイシャスは勇者に倒されてしまいました」

『宝箱が勇者でしたか』

「魔王だけではなく神様も倒すなんて図々しい宝箱ですよね」

『共犯の錠前がいけしゃあしゃあと』

「結局神様はこの時の負傷が原因で世界への干渉を行わなくなり人間達は自由に生きるようになります。そして魔界との和平を結び世界に平和が訪れました」

『そう言えばクズい神様でしたね、顛末としては良い気味で良い結果でしたね』

「しかし俺はと言えば錠前としての役割をおっさんの手によって終らせられて、ろくな活躍も出来ずじまい」

『錠前の分際で身に余る活躍だったとは思いますがね』

「結局満足することが出来ずにこうして戻ってきました」

『満足、いや確かに満足できるかと言われると悩ましいですね』

「それでお土産ですが、有言実行で宝箱の中身を」

『返してきなさい』

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