第5話 まつ子、家出する
※前回までのあらすじ。まつ子が騙された。
ルージュ達は別の馬車に乗って港町ナウマンダー・・・なんとかという町から家に帰りましたが、家に着いた途端、鬼の形相になったお師匠様にこっぴどく怒られました。
次の日の朝、明け方まで涙に明け暮れたルージュは飛び出すように傷心旅行に出かけます。
「まつ子ちゃん〜隣町までナスを買ってきてちょうだ・・・」
昨日のお説教のことなんて、全然気にしない感じで言うおばあさんを振り切って、ルージュは行く当てもなく家を飛び出しました。
汚れひとつない透き通ったクリスタルのような涙を流してルージュは走ります。
「悲しい・・・でも・・・ワンモアリピート!!」
そう、汚れひとつない透き通ったクリスタルのような涙を流して。
お師匠様は夜、ひとしきり怒った後、じっとルージュを見つめて言いました。
ーーーもっと周りを見なさいよ、まつ子ちゃん。全ての
ルージュには今回の事は自分なりに反省をしているつもりでした。それでもお師匠様はまだ足りない、甘いのです、と下がりません。
「お師匠様も私がいなくなって、オロオロすればいいのですわ」
それでも、夕飯のハンバーグまでには帰る予定です。お師匠様が作るハンバーグは絶品でした。
フォークを刺しただけで溢れる肉汁。
芳醇なデミグラスソース。
口の中で奏でられるハーモニー。
涙や鼻水と一緒に、実はよだれが混ざっていることをルージュに気が付いていませんでした。
ルージュは同時に、お気に入りのグレーのマントのアイロンかけも終わっていることも思い出して、今度出かけるときには使わなきゃ、と思いました。
つまり、ルージュは家事いっさい何もしていないのです。オロオロするのはルージュのほうなのですが、ルージュは考えないよういしています。
「もーう。お師匠様もあんなに怒ることないじゃない!!ハンバーグがなければ、もう1週間は余裕で!、いえ長すぎますわ・・・3日くらいは家出するのですのよ!」
ルージュは川沿いに着きました。このあたりで一番大きな川、アンダーロックリバーです。この川は昔神さまが大きな岩を割った下から出てきた水が源流と言われていて、夏になれば澄んだ川に入り、遊ぶ事ができます。そして毎年8月には三大祭りの一つと言われる、「岩下川ちゅるるんまつり」が開催されます。
アンダーロックリバーのほとりに着いたルージュは立ち止まって、平たい石を拾いました。石を頭に掲げ、怒りを魔力に変えて祈ります。
『数多の風よ、流れる川よ、我に水に打ち勝つ力を与えたまえ!』
そう唱えると、ルージュは構えてヒュッと石を投げました。
「水面を切れ!!6連!!」
なんのことはない、平たい石で水面に投げるアレです。ルージュの投げたす石は結局3連で落ちてしまいました。
そうです。さきほどの呪文も魔法も、まるで関係ありません。
「精神が乱れていますわ。いつもなら・・・8連はいくのに!」
魔法をちゃんとまだ教えてもらえていないルージュにとって、それはいつもであって、変わりません。
うまくいかなかった水面を見た後、ルージュはそのまま土手にドテーンと横になりました。
しばらくして。つぶやきます。
「うふふ・・・土手にドテーン」
我ながら勢いのあるシャレになったと、少しルージュは嬉しくなりました。暖かい日差しを全身に受けて、少し落ち着いて来ました。
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