第十八話 鏡の国の俺 2

「さあ、のえる。パパにお願いしなさい。『脱がせて』って」


 落ち着いた声が命令する。

 頬に触れる冷たい感触に固く閉じていたまぶたを開くと、金属の鋭い輝きが目に入る。

 ナイフだ。途端に首と背中の筋肉がつってしまったように痙攣して、まるで快感に耐えているように身体が震えてしまう。


「ぬ……脱がせ……て。パパ……」


 片腕を掴まれてバスルームの壁に押し付けられているだけなのに、俺の心は散り散りに折られてしまい、まったく抵抗することができない。


「のえるはまだまだ子供だなあ。パパがいないと何もできないなんて」


 奴はとても嬉しそうにそう言うと、失禁でぐっしょり濡れたデニムパンツのボタンを外して一気に引き下ろす。

 淡いブルーの下着が現れたが、濡れた生地が肌に張り付いてしまって太腿までしか下ろせない。


「しょうがないなあ」


 デニムパンツの股の部分にナイフが当てられる。俺は無意識に腰を引いて刃から逃れようとした。


「のえる。危ないから動いちゃダメだろう!」


 ナイフの冷たい刃が躾けるように太腿に押し当てられる。

 デニムパンツの股部分はナイフによって切断され、太腿に張り付いて残っていた生地は丁寧に切り刻まれて浴室の床に散らばる。

 ブルーの下着も鋭い刃によって切り裂かれた。


「はっ!」


 下着をとられたショックで自分でも予期しない声が漏れ出る。

 ナイフの刃は下半身を完全に露出させると、焦らすように太腿の内側をゆっくりと撫で上げていく。刃の背が股間に触れる前に太腿を離れると、逆の内腿に当てられて再びゆっくりと肌を這い上がっていく。

 その間、俺の背が何度も小さく震えた。

 反応に満足したかのように刃は内腿を離れティーシャツの中に潜り込んだ。ナイフを握る拳がヘソの上からみぞおちを通って胸に向かって上がっていく。胸の真ん中あたりがテントを張るように出っ張ると、その先端が布地を切り裂いて凶暴な輝きを露出する。


「ひっ!」


 口から小さな悲鳴が漏れる。


「汚れちゃったものは捨てなさい。パパがもっと可愛い服を買ってあげるから」


 胸から突き出た刃はまっすぐ下に滑ってティーシャツの前を切り開いた。ナイフが首元に戻ると、今度は首回りを上向きに裂いて胸元が完全に開かれた。

 残った袖の部分に刃が差し込まれ、切り裂いてティーシャツが解体される。

 そして、ナイフは胸の谷間にゆっくりと下から差し込まれた。刃の先端がうつむいた俺の鼻先に突き出され、それから逃れるように顔を上げて仰け反る。

 刃がブラのセンターを真っ二つに切断し、左右のストラップを順に切って足元に落とした。


 すっかり裸に剥かれてしまった身体に、いきなり冷水が浴びせられた。


「きゃああああっ!」


 シャワーの冷たさに女のような悲鳴が喉から絞り出され、身体が無意識に飛沫を避けて暴れる。


「大人しくしなさい、のえる。パパが綺麗にしてあげるんだから」


 父親はそう言って身体のあちらこちらに冷水を浴びせる。

 水の冷たさに身体が震え、これから行われるであろう陵辱劇の壮絶さを予感させる。しかし、それよりも俺が気になっていたのは、廊下に倒れていた弟の純次だった。

 彼の顔は血だらけでライダースジャケットもボロボロだった。怪我の程度はわからないが、このまま放置していたら取り返しがつかないことになるかもしれない。

 しかし、俺の思考は浴びせかける冷水によって何度も中断させられる。


「さあ、のえる。後ろを向いて壁に手をつきなさい」


 仕方なく父親の指示に従うと、裸の腰を掴まれて後ろに引っ張られる。壁についていた手の位置がズレて尻を後ろに突き出すようなポーズになった。


「どうした、のえる。『パパ、洗って』って言いなさい」


 奴が命令する。しかし、恐怖と屈辱で声が出せない。


「ほら、言いなさいっ!」


 大きな音とともに尻に衝撃が走る。


「きゃぁ!」


 驚きと痛みに悲鳴が漏れた。続けて何発も叩かれる。


「パっ! パパぁ洗ってぇっ!」


 痛みに耐えかねて叫ぶように懇願すると、やっと制裁の手が止まる。尻にじんじんと鈍い痛みを感じて奴の顔を見ることができなかった。

 冷水を浴びせられているからなのか、胸の先端が痛いほどに尖ってしまっている。

 父親は尻にシャワーを当てながら遠慮もなく女性器に触れた。


「あっ!」


 その途端、俺の背骨に電流が流れ、突き出した尻が抑えきれずにピクンと跳ねた。

 おかしい。この身体になってから女の快感らしきものを何度か体験してきたが、今まで物理的な愛撫で感じたことはなかった。でも、今日は違う。どういうわけか触られただけで快感の波に翻弄されてしまう。

 どうしてだろうか。まさか、長年に渡って性的虐待を加えられてきたために、父親からの愛撫を身体が受け入れてしまうのだろうか。


「ふっ! ぁうぅっ!」


 背中を何度も電流が駆け抜けて、その度に何かを求めるように尻を無意識につき出してしまう。


「そう言えば、昨日はあの男の子の部屋に泊まったようだね。ここも綺麗にしなきゃね」


 身体の中心に何かを突き立てられる。

 おそらく指だろう。それも二本。奥まで入ってくるのがわかった。

 身体の奥から温かな感覚が湧きあがってきて、ゆっくりと広がっていく。この小さな疼きが少しずつ大きくなって限界に達すると、幾重もの鋭い快感の電流となって体幹を駆け上がってくる。

 のえるの身体はそうなることを予期していた。予期した上でそれを期待してもいた。

 父親を求め、抱かれようとするこの身体が……のえるが、もう俺には理解できない。


「や……めろっ! 離……せよ! ダメぇ! あぁっ! じゅ……純次ぃ!」


 喘ぎとも叫びともつかない声で無意識に弟の名前を口走る。


「ぁはうぅっ!」


 身体の奥に突き立てられていた指がいきなり引き抜かれ、その衝撃で喘いだ口から悲鳴が漏れる。

 力が抜けてしまった膝が折れて俺は無様に浴室の床に尻をついた。

 いったい何が起こった?

 両腕で自分を抱き締め、恐怖に耐えて背後を振り返って驚いた。

 父親が後ろから羽交い締めにされている。いつのまにか立ち上がっていた純次が、一回り大きな体格と太い腕で父親を押さえ込んでいた。


「逃げろ……早くっ!」


 純次が掠れた声で叫ぶ。だけど、恐怖と恥辱に支配された俺の身体はまったく動かなかった。


「凄いな……君は! ガードレール……まで吹っ飛んだ……のに、まだ……こんなに……」


 奴は驚いたように目を見開いてそう言った。しかし、口元には壮絶な笑みが刻まれている。

 笑いながら脚を振り上げて自ら身体を空中に投げ出すと、純次の腕から開放された身体が床に倒れる。その瞬間、ナイフを握った腕を伸ばして光る刃を突き出した。

 一連の動作はまるでスローモーションのようにゆっくりと俺の目の前で繰り広げられていく。


「ぐうぅぅぅぅ!」


 純次が叫び声を上げて倒れる。その太腿にはナイフの柄が突き立っていた。

 プールでの痴漢野郎の姿が脳裏をよぎる。


「誰と遊んでも構わないけど、パパからお前を奪おうとする奴は許すわけにはいかないなぁ」


 そう言って父親は立ち上がり、純次の太腿に突き立ったナイフの柄を足で踏みつける。


「ぐあぁぁぁっ!」


 強烈な痛みに耐えかねて純次が叫んだ。刃創から血が溢れ出してバスルームの床に広がっていく。


「やめてぇっ!」


 俺の喉から絶叫が絞り出される。このまま出血が酷くなると命に関わる。


「ごめんなさい、パパぁっ! もうどこにも行かない。パパの言うことを聞きます。のえるは良い子になります。だから……許してっ!」


 すでにぐしょぐしょの顔なのに後から後から涙が溢れて止まらない。奴の足先がナイフの柄から離れたのを見て、その脚にすがり付いた。


「わかったよ、のえる。お前が本当は良い子だって知っているんだ。だからパパはこんな乱暴な男の子と付き合って欲しくないんだよ。わかるよね?」


 奴の問いに必死に首肯して答える。


「良い子だね ……のえる。じゃあ、いつものようにしておくれ。それでこの子は許してあげよう」


 奴はそう言って優しく微笑んだ。

 いつものようにって、どうすればいい? おそらく如何わしいことをやれと言うのだろう。でもそんなことをした経験がない俺にできるのか。


「どうしたんだ、のえる? 早くしないとこの子が死んでしまうよ」


 奴は抱きつかれた脚を持ち上げようとする。

 それを必死に押さえつけて奴の顔を見上げる。


「大丈夫だよぉ、のえるぅ」


 突然、緊張感の欠片もないほわほわした声が耳に響いた。

 俺のすぐ横に、同じように一糸纏わぬ姿の女の子がペタンと座り込んで微笑んでいた。


「あたしがちゃぁーんと教えてあげるぅ」


 ああ、助けに来てくれたんだ。

 ありがとう、紗江。

 目の前に突然現れた少女に俺はまるで違和感を感じなかった。


「まずぅ、大好きなパパの腰に両手で抱きついてぇ。ジッパーのとこを歯で噛んでゆっくり下げるのぉ」


 俺は紗江の指示通りジッパーのタブを咥えて引っ張る。


「ジッパーが開いたらそこに鼻を突っ込んでぇ、顔を小さく振りながら刺激して。で、パンツの上からパパのアレにキスするのぉ。やってみてねぇ」


 息を止めてジッパーの中に鼻先を近づける。男性器に顔を近づける嫌悪感に全身が軽く震える。意を決して鼻を突っ込むと、弾力のある膨らみに鼻や頬を押し返される。俺は屈辱を抑えて唇をそれに押し当てた。


「上手だよぉ、のえる。そしたら手を入れて優しく撫でるのぉ。あ、まだパンツの上からだよぉ」


 紗江の言うとおり手で刺激すると、父親の下着はさらに強く立ち上がって、ジッパーから突き出すくらいになってきた。


「ベルト外してぇ、ホックも外してぇ、ズボンを下ろしてね。その間はパンツの上からキスするんだよぉ。こう、唇ではむはむってするんだよぉ」


 俺は唇で性器を刺激する。


「それでぇ、はむはむしながらぁ、パンツをゆっくり下ろすのぉ。はぁーい、大好きなパパとご対面だよぉ」


 下着で押さえ付けられていたものが開放されて勢いよく頬に当たる。

 目の前に突き出されたそれはとても硬くて威圧感があった。


「んではぁ、下からタマタマのところに手を添えてぇ、さわさわしてね。んで、横から先っぽに向かってぇ、またはむはむするのぉ。あっ! パパの太腿におっぱい押し付けるのも忘れずにぃ。」


 頭上から父親の荒い息遣いが聞こえてくる。どうやらここまでは上手くできているようだ。


「さて、今度は舌を思いっきり出してぇ、舌でパパのを感じさせるんだよぉ。舌の上に唾をたっぷり乗せてぇ、塗りつけていくようにして舐めまわしてあげるのぉ。根元と周りは少し強めに。裏側と先っぽはゆぅーっくりと優しく。ほら、パパが感じてきてるよぉ」


 抱きついた腰が微妙に動いているのがわかる。

 感じているのだ。


「さぁ、パパのを咥えてみよーぉね。まずぅ、またまた唾をいっぱい貯めてぇ、舌を出しながら口に入れてねぇ。そしたら舌を動かしながらゆっくり奥まで入れるのぉ。歯が当たらないように気をつけてねぇ」


 ついに咥えることになってしまった。

 歯が当たらないように唇を軽くすぼめて先端にゆっくり近づける。触れた唇の感触で口を開ける大きさを調整した。唇で触れる亀頭はまるでグミのような柔らかい感触で、意外にも嫌悪感はほとんどない。

 しかし、口の中に含んだそれは見た目のイメージよりも大きくて、先端を咥えただけで口の中がいっぱいになってしまった。この後どうすればいいんだろう?


「あれぇ? 意外と大きかったかなぁ。ちょっと苦しいかもだけどぉ、根元までぐぅーっといってみてねぇ」


 ここからさらに押し込むのか。

 言われた通りやってみると、膨らんだ先端が喉の奥に当たって猛烈な吐き気に襲われた。背中が波打ち、喉の奥からくぐもった奇怪な声が漏れて、俺は慌ててソレを吐き出した。

 嘔吐感を我慢していると治まっていた涙が目にふたたび溜まっていく。


「喉の奥まで入れてからぁ、ゆっくり鼻で息をするの。最初は苦しいけどすぐに慣れるよぉ。で、さっきも言ったけどぉ、できるだけ唾を貯めて唇をすぼめて動かすのぉ」


 鼻で息をするようにしながら唇をすぼめる。何度か喉の奥まで押し込んで戻すのを繰り返すと、少しづつ慣れてきて嘔吐感が薄らいできた。

 しかし、今度は口を開けているのが辛くなる。


「顎が疲れちゃったらぁ、いったん口から出して周りを舐めまわしてあげてねぇ。それから、タマタマを舐めたり口で軽くはむはむしてあげてぇ。あ、はむはむしてる間にぃ、手で優しくコスコスしてあげるんだよぉ」


 紗江のレクチャーに従って、咥えたり舐めたりを繰り返していると、父親の息遣いがますます荒くそして早くなってきた。


「ほらほらぁ。パパはすごく気持ち良さそうだよぉ。パパのって愛おしいよねぇ。可愛いよねぇ。お口でしてるとさぁ、こっちまで気持ちよくなってくるよねぇ。頑張ってしゃぶるの早くしていこうかなぁ」


 まるで暗示にでもかかったように言われるままにスピードを上げる。喉の奥を何度も突かれていくうちに苦しくなってきて、口を離そうとした途端髪の毛を掴まれた。そのまま深く咥えるように力ずくで頭を押さえ付けられる。

 まるで自分が性の奴隷にされたように感じて被虐心に身体が震えてしまう。襲いかかる吐き気と苦しさは深呼吸して耐えた。そしてふたたび口を使い始める。


「んっ。んふっ。ふっ。んぅ」


 先端が喉の奥を突くたびに、まるで快感に耐えているような声が鼻から漏れてしまう。それに合わせるように父親の声も聞こえてくる。俺はうまくできているようだ。

 しかし、何のために自分がこんなことをしているのか、すでにわからなくなっていた。父親のそれを咥えながら必死に考えるけれど、まったく頭が回らない。

 すでに顎は疲労の限界を超えてしまって、自分で首を振っているのか髪の毛を掴まれて強引に動かされているのかすらわからない。溢れてくる唾も涎となって顎を滴り落ちていく。


「ほら、のえる! もうちょっとだよぉ。頑張ってぇ!」


 父親の息遣いはいつのまにか喘ぎ声になっていた。俺は気力を振り絞って首を振り続ける。すると、それは口の中で急激に太くなった。


「パパがイクよっ! 熱いのが出てくるから口の中で受け止めてあげてね」


 紗江がそう言った直後、精液が喉の奥に向かって放出される。


「ぐぅうううあぁ!」


 一瞬、何が起こったのかわからず息を止めて硬直する。低く響く怒声が父親の発した声だと気づくのにしばらくかかった。

 父親の腰がガクガクと前後に震えて、さらに強く根元まで咥えさせられる。

 放出が執拗に繰り返されて、唾と精液が口の中で混ざり合った。それをなんとかゴクリと飲み下す。何度飲み込んでもいつまでも口の中に残っている感じがする。


「やったぁー! 初めてでイカせちゃうなんてすごいよぉ、のえるぅ! さあ、まだ中に残ってるのを優しく吸って出してあげてねぇ」


 真っ白になった頭で何も考えられず、俺は言われた通り精液の残りを吸い出す。


「さあ、これでフィニッシュだよぉ、のえるぅ。大好きなパパに歯を立てて、思いっきり咬みちぎっちゃえっ!」

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