遂に癒し要員現る!!…と思っていた時期がありました…

 凛汰郎が目を覚ますと、この世界に来て初めて見た石の部屋の天井だった

 毛布がかけられ、周りには凛汰郎の為に確保しているのか大量の激突猪ラッシュボア灼熱鳥インフェルトチキン等の死体が山積みになっている


 アリアの姿は確認出来ず、辺りには人っ子一人すらいないようだ


 そんな時、ふと毛布に視線を向けると足元にモッコリと不自然に膨れ上がっていた

 凛汰郎は一瞬、生理現象朝○ちかと思ったが…そんな感覚は下腹部からは感じ取れず、息子ジュニアも平常心を保っている


 凛汰郎は恐る恐る毛布をめくると…

 そこにはスっースっーと寝息を立てながら気持ち良さそうに眠る、全長20cm程の小さな女の子がいた


 その愛くるしい姿に凛汰郎は、キュンと胸が締め付けられる様な感覚になる


 凛汰郎は起こさない様に、小さな女の子の頬をそォーッとぷにぷにとつつくと…女の子の顔が緩み笑い出した


――可愛い過ぎだろ!!! え? 何この娘…殺伐としたこの世界に舞い降りた天使か!?


 凛汰郎が、涙を流しながらそう心の中で叫んでいると…女の子が寝ぼけ眼でムクリと体を起こし目を擦りだす


「お…起こしちゃったか? ごめんごめん」


 そう言って凛汰郎は、ぷにぷにとまた頬を弄りだすと…女の子は黒い羽を背中から生やして凛汰郎の肩に乗る


 その後、女の子は凛汰郎の首筋を摩った後小さな牙を立てて凛汰郎の首を噛んだ


――甘噛みかな? まぁ痛くなければ……


 凛汰郎は愛らしい仕草に頬を緩ませていたのも束の間…段々と牙が食い込んで女の子はチューチューと血を吸い始めた


「何やってんだァァァァァァ!!」


 肩に乗っていた女の子を優しく掴み、毛布の上に投げ落とす


「も~…ちょっと位吸わせて貰っても良いじゃ~ん…自称・魔王がケチくさいぞ☆」


 その口調には聞き覚えがあった…更によくよく見れば似ている点も幾つかある

 赤い髪に紫の瞳、タキシードを思わせる黒の礼服と手にはキャンディと見間違える程小さなステッキを持っている


「お前…まさかシャルか?」


 名前を呼ばれたミニシャルは、腰を突き出して手をやや上目に敬礼のポーズをとりながら返事をする


「イェーイ!! ミニ版になったシャルちゃんだよん♡ ねぇねぇ、ときめいた? ときめいちゃった? キャハハハ☆」


 先程まで感じていたこそばゆい感情は綺麗さっぱり消え去りる

 大きな脱力感が残った凛汰郎は、ミニシャルを掴んでいた手を力いっぱい握りしめる、目はハイライトを無くし乾いた笑いが出る



「そう言えば…お前あの時レティーナに殺されてたじゃないか…何で今生きてるんだ?」


 握っていた手を緩ませ、宙に浮かんだミニシャルは舌をちょっと出し、テヘッと聞こえてくる様な清々しい表情を見せる


「【吸血鬼ヴァンピール】はねぇ…首を跳ねられない限りは大抵の傷は再生するんだ♡」

「でも…流石に死ぬ寸前の傷を再生するには魔力をたくさん使うんだけど…最近全然血を吸ってなくて魔力が底を尽きててさぁ」


「完全再生って事は出来なくてこんな姿になっちゃったの」

「んで、自称・魔王ちゃんがあの変な繭に包まれていってたから…その中には潜り込んで事なきを得たって事☆」


 レティーナの決死の戦闘はまるっきり無意味という訳では無かったが…結果的にいえばレティーナは負けてたという事だ


 この事…ミニシャルはピンピンとしているという事はレティーナには黙っておこうと、凛汰郎は心に誓ったのだった


「そしてぇ…その時にちょこ~っとだけ血を吸わせて貰ったんだけど…」

「あの芳醇な甘さと口の中に広がる香り…そして喉を通った時の清らかな血の温度……何をとっても最っ高♡」


 ミニシャルは演劇を披露しているかの様に大げさに身振り手振りで表現し…そして言葉を続ける


「お願い!! 今後も血を吸わせて貰う代わりにウチの力を貸したげるから…ウチと【契約けーやく】して♡」



 するとその時、背後の扉がゆっくりと開くにつれてゴゴゴゴと聴こえてきそうな程の殺気がミニシャルに注がれる


「そこの害虫、今すぐその場でこうべを垂れ、床を舐めなさい」

「至高なる魔王様の目前でのその態度…不敬ですよ…控えなさい」


 ゴミを見るような目付きでミニシャルを見下すのは…《行き過ぎた忠誠 オーバーロイアルティー》の異名を持つ(凛汰郎が勝手に命名)アリアがそこにはいた


「害虫? ウチに向かって何ともまぁ失礼な事を言うわね…このホルスタイン!!」


「ほほ…ホルスタインですって!! 魔王様、今すぐこの害虫駆除のご命令をお与えください!! この程度の害虫…2秒もあれば!!」


 出会って5秒でバトルとは…某サ○デー漫画も本気でこの速さでバトろうとするのは、さぞびっくりであろう


「二人共落ち着け…アリアはお座り、シャルも追い出されたくなかったら静かにしててくれ…今考え事するから…」


 アリアはゾクゾクと身体を捩らせ、息を荒らげながらその場k"お座"ではなく、お尻を突きて"伏せ"のポーズをとる


 ミニシャルはお行儀よくその場にちょこんと正座で座る

 黙っていれば癒しとなる事がわかった凛汰郎は、ついつい頭を撫でてしまう


――さてと…先ずはあの男についての情報が必要だな…


「アリア、あの男は確かに次の満月の時に来ると言ってたんだよな?」


 アリアにそう確認をとると、静かに首を縦に降る


 凛汰郎はその確認だけではまだ確信が取れないのか…まだ頭を抱えて悩む姿勢をとる

 既に《超魔道的紋章アブノーマルシール》を発動して脳の回転を高めているが…まだ何も思い付かない


「シャル、お前吸血鬼ヴァンピールなら満月に何か理由があるのか知ってるんじゃないのか?」

「《夜の王》だとか《不死の王ノーライフキング》だとか言われてるんだしさ」


 凛汰郎がそうミニシャルに話を振るとアリアは伏せのポーズの状態で凛汰郎に進言する


「恐れながら魔王様、吸血鬼ヴァンピールは200年程前にほぼ絶滅しかけております」

「確か…1匹の同胞により全ての吸血鬼ヴァンピールは食されたと聞いておりますが…この様な害虫がその1匹な訳がございません」


 アリアのその説明を聞いてニヤニヤと笑い出したミニシャルは、意地悪そうにアリアに返した


「ウチがその1匹何ですけどぉ? ウチがあの【ミッドナイト・ロット】にいた吸血鬼ヴァンピールを食べたんだよぉ☆」


 ミニシャルのその表情に苛立ちを覚えたアリアは、その場から立ち上がり殺そうとするが…凛汰郎に睨まれて鼻血を出しながらその場に再度伏せをする


「う~ん、ますた~ちゃんの期待に答えたいのは山々なんだけどぉ…」

「細かい事はわかんない☆ 知ってるのは精々満月の夜だと魔素まそが活性化するからその日じゃないといけない…とか?」


 ミニシャルのその言葉に何か心当たりがあるのか…アリアはハッとした顔をするが凛汰郎には何も言わずに口ごもる


 だが、それに気付いた凛汰郎に言う様に命令され…目を泳がせながらも答える



「もしかしたら…【傲慢】は…」

「【魔王種サタニシア】に進化しようとしているのではないかと…」



 アリアのその一言に、凛汰郎とミニシャルは驚きの表情を隠せずアリアに更なる説明を求める


「……この話は先ず我々【七つの大罪】について話さなければなりません」

「あれは今から1000年前の【大戦】以前の話でございます」

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