圧倒的な暴力にアリアが暴走!?

「終わったぞリンタロー、街で貴様の仲間が待っているのだろ? 早く帰ろう」


 レティーナはそう呟きながら凛汰郎の方へ振り返り、凛汰郎の元へ歩き出すと…

 遥か後方から何者かが急速に迫ってくる気配を感じ取った


「レティーナ! 後ろだ!!」


 凛汰郎はそう叫ぶと同時に…レティーナの数倍はあるであろう巨体が立ち塞がる


 頭には2本の牛の様な角、片目の瞼に傷が付き隻眼となっている

 どす黒いオーラが滲み出し、背中にはハヤブサの様な真っ黒い羽根が4枚のある


『汝の力を…我に示す事を許そう』


 レティーナは直感した、目の前にいるのは…死を体現した災害であると直感したのだ


 それと同時にレティーナの体が激しい恐怖からか…涙を流し歯をがたがたと震わせながら両の膝をついてしまった


『……この程度か…つまらぬ』

『我が目前で自害する事を許そう、即刻死ぬがよい』


 そうレティーナは、腰に携えた剣を自分の喉元に当て力を込める



 レティーナの剣が、首に傷をつけ始め剣に血が滴り始めた……その時であった


「やめろォォォォォォォォォォオォォォ!!!」


 凛汰郎はレティーナへの制止の雄叫びをあげ、立ち上がりレティーナの剣を奪い取り遠くへ投げ捨てる


 レティーナは目のハイライトを無くし、その場で脱力しへたりこんだ


『ほぅ…我が権能を遮るとは……』

『汝が我が敵となる者か…だが、見る限りわっぱではないか…つまらぬ』


 最後の一言が聞こえると同時に凛汰郎は背後へと回り込まれ、直ぐに反応し振り返るが…巨大な男の拳が凛汰郎の頬を殴り抜ける


 凛汰郎は前歯や奥歯…計七本の歯が口から零れ落ち血がドバドバと口から垂れる


『立てわっぱ、汝が意思を我に示せ』


 うつ伏せ状態で床に大の字になって倒れている凛汰郎の顔を踏み付け地面に擦り付ける


 地面には紅く横に広がった凛汰郎の血で染められる

 凛汰郎は手の指すらも動かなくなり…やがて呼吸が衰えてきた



『……詰まらぬ…やはり既に世は我を楽しませぬか…創り変えて然る可し』

『そこの娘、我に刃を向けるか…敵意を向けてあの世へ行くか…選択する事を許す』


 心が打ち砕かれたレティーナと、圧倒的な暴力で血を舐めさせられた凛汰郎を見て

 シスターは小便を垂れ流し、呼吸を荒くして涙を流し始めた


『……刃向わぬも罪、罪には罰を』

『逝くが良い、勇気なし小娘よ』


 男はそう言うと、自らの羽根を一枚もぎそれを硬化させ擬似的な剣を作る

 羽根の剣が振り上げられ、意識が朦朧としているシスターの首を両断されようとした時



「魔王…さ…ま……?」


 突如として転移してきたアリアは、目を点にして血に伏せている凛汰郎の姿を凝視する

 アリアの心拍が"ドックドック"と周りの人に鮮明に聴こえる程大きくなり…


 やがて…アリアの中にある何かが…音を立てて崩壊していった


「あは…アはハぁ? アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


 墓地の大地が揺れ始め、ジャックの豆の木の様に太く長いツタが墓場を埋め尽くし無差別に攻撃を始める


『死んだシンダ死ンだしんだシんだ死んだ』


 嫉妬は地に伏している凛汰郎に駆け寄り、首を絞めつけながらブンブンと前後に揺らし始める


「何で? ナンデ? 至高のアなタが、なんで? 起きてください、おキロ、起きろおきろおきろおきろおきろおきろおきろ』


 元の姿と、悪魔としての姿が混合し入り乱れたその姿は…【狂】

 【嫉妬の悪魔】故に止められぬ嗚咽、嘆き、悲しみか凛汰郎に降り注がれる


嫉妬の悪魔レヴィアタンよ、彼の者が魔王とはなんたるか』

『その者は我に屈した、故に弱気者が魔王を名乗る資格は「黙れ」』


 嫉妬は凛汰郎を手放し、ふわふわの繭の中に優しく包み込み、その繭を地中深くへ送る


「【傲慢】、あなたがやったのですカ?」

『無論だ、【嫉妬】我が往く道に弱者は必要ない、故に潰したまで…』


 傲慢の言葉を遮る様に、嫉妬の血の涙が凝固して傲慢の両の肩を貫通する


 痛みに一瞬たじろぐも、直ぐに嫉妬の次の攻撃に反応し翼を翻して空を舞う


『愚か也、その男が死した如きでそこまで取り乱すなど』

『滑稽であるぞ、【嫉妬】』


 その時であった、5発の火の玉が街の方角から空を舞う傲慢を直撃する


「見付けたぞ! 女が二人に他種族が二人だ!」


 ギルドの冒険者達が凛汰郎と同じ様な推測で墓場に向けて討伐隊を差し向けたのだ

 その数はざっと50名程であり、その中にはチラホラと実力者も見受けられる


『次の満月の時に戻ってくるぞ、人類種ヒューマン

『さらばだ【嫉妬】、次会う時には汝の首を貰い受けるぞ』


 傲慢はそう言い残すと、風が舞い起こり傲慢の身を包むと…その場から消えていた


「一人は逃げたが…もう一人いるぞ!!」

「倒せば特別報酬だ!!」


 嫉妬は向かってくる討伐隊の姿を目視すると…傲慢に向けていた悲しみをぶつけようと空気中の魔素まそを練り始めた時


 地中深くに送っておいた凛汰郎がピクリと動き出し呟いた


「や…めろ……直ぐに…引き返…すんだ…」


 確かに聴こえてきた凛汰郎の声に、嫉妬は異形であったその身を元の美しい姿へ戻しながら、神殿へと転移した





 その後、奇跡的にもアリアが暴走した時の無差別攻撃を躱していたレティーナとシスターは、ギルドの冒険者達によって教会まで運ばれ、無事正気を取り戻した


 墓場にあった筈のシャルの死体は、上半身があった辺りにツタが倒れており…

 ぐちゃぐちゃに踏み潰されていた為、下半身のみがギルドに引き取られた


 街の噴水広場に全身傷だらけで、白目を向いたアルフは王都にある奴隷収容所に入れられ、現在は売り物に出来る様に療養中である


 街を蔓延っていたゾンビ共は、アリアが完全に駆逐し終わっていた

 多少の被害も出てしまったが街の被害は最小限に抑えられたという


 あの時消えた男は、現在は人類種ヒューマンの住む地域で【SS級討伐対象】となり多額の賞金がかけられた


 こうして、ハロウィンの夜に起きたゾンビ騒動は…表向きは幕を閉じたのであった

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