勝負あり!? これぞ悪魔と海溝の大一番!!!

「《レヴィアタン》ねぇ…噂には聞いていたが…本当にまだいるとはよ」

「旦那からは【七つの大罪あんた等】を見付けたら確実に殺せって言われてんだ」


 アルフは苦笑し一呼吸置く…ここで焦って殺りに行けばこちらが殺られると、本能で察知したからだ


『あらあら? わたくしの事を存じているとは…犬っころにも少しは博がある様で…吐き気がします』


 アリアはそう呟き手をかざすと、噴水の水が空中に大きな水槽のように貯まっていく

 その後、アリアの足元にはレンガを割って茨のツルが擬似的な草原を作り出す


 アルフの足下に一つのツボミがぷくっの膨らみ、中から弾丸の様に種がアルフに放たれるが……横に半歩避けるだけでかわす


「奇妙な魔法だな、前に殺ったドワーフも中々の使い手だったが…【二重詠唱デュールキャスト】を生で見るのは初めての経験だぜ…キシシ」


 アルフの笑いと一緒に、アリアはクスクスとまるで小馬鹿にする様な態度で笑い出す


『【二重詠唱デュールキャスト】……確かに凡庸な下等種族共には大変な荒行でしょう…の話ですが』


 アリアがそう言って耳まで裂けた口が更に釣り上がり笑う様は…【恐怖の体現】と言うも足りない表現だろう


 すると大地が激しく揺れ始め、何かが近付いてくるのを察知したアルフは後ろを振り返ると…直ぐに後悔した


――なぜ俺様はこんなのに手を出したんだ


 目の前に表れたのは、家や割れた道のレンガ等が人形に纏まり動く巨大な

 言うなれば…そう《古代兵器ゴーレム》であった


『【三重詠唱トールキャスト】、犬風情が永久に到達しえない叡智の暴力チカラ

『その身で得と味わって逝きなさい』


 アルフの姿が消える、これは高速で動いてその場からいなくなったという比喩ではない

 言葉通り


 それは【人狼族ワーウルフ】が持つ二つの固有ユニークスキルの一つ《気配遮断サイレント》という物だ


 これにより、壁すらもアルフを認識する事が出来なくなり通り抜けるという

 並大抵の生物であれば…アルフが存在していた事にすら忘れるというスキル




だが…並大抵では無いが相手ならばどうだろう…

 答えは…【無意味】だ


『見つけましたよ、大戦の時からあなた達は好きでしたね…かくれんぼが』


 アリアの耳元で囁かれる声と共に…宙に浮かんでいた水の塊がアルフの顔を覆い包む

 呼吸が出来なくなったアルフは首を掻きむしりその場で激しく転がり回る


『あらあらあらあら? みっともないですねぇ? でも…魔王様に逆らったのですからその程度では終わらせませんよ』

『そう言えば…依然魔王様にあなた達の目的を吐かせる様に命じられてました…』


『それでは…質問拷問を始めますよ?』

『魔王様の世界にこんな言葉があります…《自分にしかやられたい事は自分にしかわからない》と…ですので、わたくしが犬風情には勿体ない程に極上の快楽痛みを与えましょう』



________________________


 シャルによって血を吸われかけた時


「《二重結界デュールキャスト退魔族撃滅の陣ゴスペルゲート》!!!」


 そう詠唱が聞こえると、凛汰郎とシャルの足元に巨大な二重の魔法陣が展開される

 すると、シャルの体から黒い煙が立ち昇り苦痛の悲鳴が墓地に響き渡る


「無様な姿だな、それでも魔王なのか?」


 ザッザッとゆっくりと歩きながら近付いてくる二つの人影を凛汰郎は視界の隅で捉える


「事情は聞かせて貰いました…微々たる力ですが…この前の恩をお返しに来ました」


 満月の灯りに照らされて光る二人の金の髪、一人は銀の鎧に身を包み…一人は十字架ロザリオを首に下げ…

 表れたのは…エベレストシスターマリアナ海溝レティーナであった


「おい、今とてつもなく失礼な事を言われた気がしたぞ」

「お、落ち着いてくださいレティーナさん」


「私は抉れてなどいない! ちゃんと触ればあるのだ!!! リンタロー触ってみるがいい!!」

「柔らかいだろう? 脂肪があるだろう?」


 突然現れた二人に驚きを隠せない凛汰郎は開いた口が塞がらなくなり、目をぱちぱちと瞬きを繰り返していた


「何でこんな所に…それにレティーナさんは腹の傷は大丈夫なのか!?」


 凛汰郎はそう言って立ち上がろうとするが…足に力が入らなく転んでしまう


「あぁ、ここに来るまでは少し痛む時があったが…ここに来てからは体が軽くてなり…むしろ絶好調だ」

「貴様はここで休んでいるが良い、私がケリをつけてくる」


 レティーナはそう言ってニコッと微笑んだあと、近くで悶え苦しんでいたシャルが牙を剥き出しにして睨み付ける


「ウチの食事を…邪魔してんじゃねぇぞ!!! ゴミカス共がァァァァァ!!!」


 シャルはそう吠えると、妖艶な魅力を醸し出していた肉体は更なる進化を遂げる

 その変化は…まるでレティーナへの当て付けのごとく魅惑的なボディへと変わった


「シスター援護を」

「わかりました…レティーナさんは病み上がりですので無理はしないでくださいね」


 シスターは今度は魔法陣を四つ展開し、後方の安全な場所でレティーナの援護に回る


 レティーナは【銀の剣】を突きの構えでシャルとの間合いを一気に詰める


 目前まで迫った剣に物怖じる事なくシャルは右手の魔力を解放し、爪を模した形に変型させて剣を砕こうとする


 レティーナはシャルの爪が当たる直前に下にしゃがみ避ける

 すると反撃する為に飛んだシャルの真下の位置になり、がら空きとなった首元目掛けて一突きする


 だが、シャルは辛うじて首を横に動かして即死の攻撃を首の皮一枚を斬らせる程度に抑える


 その後シャルは避けた時の勢いをそのまま活かし、体を反転させレティーナのうなじ目掛けて踵を振り下ろす


 レティーナは即座に反応、銀の剣を地面に突き刺してそれを支えにして飛び、体を半回転させると同時にシャルを元いた位置まで蹴り飛ばした


 攻防を始める前の初期位置に戻った二人は、肩で呼吸をして既に相手の動向を伺い始めた



 そして、最も驚くべきところは…この攻防戦に要した時間は僅か3秒足らずであった

 互いの神経を研ぎ澄ませ作り出された3秒は…同時に集中力と精神力…体力を著しく消耗した


 このまま先程と同様な密度の攻防を繰り返せば、人の身であるレティーナの圧倒的不利なのは火を見るよりも明らかであった


 だが、凛汰郎はそんな二人を見て絶句しているだけだった…そして激しく後悔する

 なぜ自分は何も出来ずにこんな所で倒れているのだと…後悔からの涙まで零れていた



 先に動き出したのはレティーナだった

 今度は剣を鞘に収め、居合の型でシャルに突っ込んでいく


 このまま逃げ切れば100%必ず勝てる勝負に態々応じる必要のないシャルは……後ろへ飛んで避ける


 だがしかし、その行動が命取りとなった

 後ろへ飛んだシャルは突如出現した大きな岩にぶつかり、制止させられた


 その大岩の下を見ると…先程シスターが予め設置しておいた魔法陣が発動していた


「今です!! レティーナさん!!!」


 シスターのその掛け声と共にレティーナは大地が震える程踏み込み、シャルと己の間合いを充分に詰めたあと…


 銀色の閃光と共に抜刀し、シャルの上半身と下半身を両断した


「今まで手に掛けた者達の憎しみを背負って…安らかに眠るが良い」


 シャルの腹から血飛沫が上がり、大地には紅い大量の華が咲き乱れた


「あは…は……こんな所で死ぬとはね…☆」

「もっと…もっと……たくさん血を飲みたかった…な…」


 シャルは膝を付き、瞼を閉じて眠る様に息絶えた

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