偽魔王軍の猛攻!!…そこで第三の変身が!?

 ゾンビ共の呻き声が、リブレントの街を恐怖の底に沈めようと人々を襲い掛かる

 傷付けられた者はゾンビ特有の【呪い】にかかり、やがてはゾンビの仲間となる


 逃げ惑う人々を見て愉悦感を味わうのは、満月をバックにキシシと笑う人狼


「この分なら俺様達は何もせずとも首都陥落か? 随分と呆気ないんだな…キシシ」


 そんな時、街に散らばったゾンビ共の気配が一斉に無くなっていくのを感じる

 更に幼い魂も屋内や…冒険者が待機しているギルドの中へ避難し始めていた


「対応が早ぇな…このまま行けばあと数分でゾンビ共は全滅だぜキシシ…」

「それは旦那に叱られちまうな…仕方ねぇ…行くとしますか」


 アルフは臭いや周りの音からゾンビ共を殺している者の場所を特定し…全身に茶色の体毛が生え、口と鼻が出っ張り全ての歯が牙に変わる


 その後、屋根を伝いながら察知したアリアの所まで音速の壁にぶつかる程の速度で進み始めた




________________________


 先手を仕掛けた凛汰郎は、この間ゴリと呼ばれる男に出した程の力を拳に込めてシャルに向かって殴り付ける


「【魔王の拳サタン・ナックル】!!」


 シャルの顔面を捉えたと思ったのも束の間、拳は空を切り不発に終わる


 背後に回り込まれた凛汰郎は、足払いをしながら振り返るがシャルは既に上に飛んでおり凛汰郎の顔に数発の蹴りを入れる


 蹴り飛ばされた凛汰郎は体制を崩してしまう、その隙を見逃す筈もないシャルは今度はステッキの先で凛汰郎の溝をつく


 その後、吹き飛ばされた凛汰郎は墓石を砕く勢いで激突し血を吐き出す

 先程の攻防だけで鼻の骨は折れて呼吸はままならなくなり、あばら骨も折れたのだろう


「意気揚々とやってきたのに~…まさかこの程度なの? つまんないつまんないつ~ま~ん~な~い~!!!」


 シャルはまるで駄々っ子の様に地団駄を踏み始める


「ねぇねぇ、君は魔王なんでしょ?」

「魔王がこんなに弱い筈ないでしょ? まだまだ奥の手があるんだよね?」


 シャルはそう言って凛汰郎の上に跨り、往復ビンタを始める


――奥の手? そんなモノねぇよ…だがよ…


「アリアには大きな事を任せといて……」

「俺がこんな所でくたばる訳には行かないんだよ!!」


 凛汰郎はそう言うと、今度は両手に力を込めて地面に拳を叩き付ける

 すると、大地に大穴が空きシャルはバランスを崩す


「奥の手が見たきゃ見せてやるよ!」


 凜汰郎はシャルの手を掴んで地面に叩き付けた後、【超魔道的紋章アブノーマルシール】を右腕に発動し流星の如くシャルに向かって落ちる


 《超魔道的紋章アブノーマルシール》のデメリットにより、右腕以外の器官の既存能力が著しく低下してしまい足腰の踏ん張りが無くなってしまうが……

 後はただ落下するだけな為、逆に体の無駄な力が抜けてデメリットがメリットに変わっていた


 赤黒い光と土煙が巻き起こり、凜汰郎とシャルの姿を覆い隠す


 確かに手応えはあり、凜汰郎の拳には深紅の跡が付着している

 だが…視界が回復していくと同時に凜汰郎の心臓が爆音を出しながら動き出し"今すぐ逃げろ"と脳からの命令が鳴り止まない


「危ないなぁ…まったくぅ…もう少しで死んじゃう所だったじゃ~ん♪」


 頭上から声が聞こえ、その方向を向くと…

 そこには身長や胸の大きさに至るまでの全てが魅惑的なボディに成長し、腰にまで到達しそうな程長く伸びた赤い髪が揺れる


「うそ…だろ……」


 凛汰郎は文字通り全てを出し切り膝から崩れ落ちるが…目の前にいるシャルの魔力は墓場を包み込む程の莫大に成長している


「私に真の姿を出させるなんて…やっぱり自称・魔王君は凄いよ…」

「でも…ウチの方がもっと凄いみたい☆」


 シャルは一言そう呟くと…4枚の深淵が覗いてきそうな闇を纏った翼を翻し凛汰郎の側に降りる


 牙を立てて凛汰郎の首元を露出させる

 涎を垂らしながら餌を待ちわびた犬のように頬張ろうと口を開く


「最近生き血を吸う機会が無くって…」

「久しぶりのご馳走よ☆ ウチの中で永劫を生きなさい…自称・魔王君♡」




________________________


 凛汰郎に命じられるままにゾンビの駆逐を執行しているアリアの元に人狼が降り立った


「初めまして…いや、姿が変わってるだけで臭いは嗅いだことがあるな…この間はうちのワガママ娘シャルが世話になったな」

「大量にゾンビを倒してるところ悪いが…テメェには死んでもらうぜ、姉ちゃん」


 アルフはそう呟くと、アリアに向かって敵意をむき出しにする


 アリアも初めは無視しようと決めたが…向けられた敵意に反応してしまい薔薇のツタをアルフに向かって放つ


 だが、攻撃がアルフに当たる前に薔薇のツタは一瞬で細切れになり風に飛ばされた


「植物を操る魔法…【森精種エルフ】の【森古精ドワーフ】が得意とする魔法だ」

「だがテメェは見る限り森古精ドワーフって感じじゃねぇしな…まぁ、どうでもいいか」


 アルフはそう呟いた後、アリアに向かって歩き出した

 仕方なくアリアは一旦ゾンビの殲滅を止め、目の前のアルフに集中する


「犬風情が目障りよ、消えなさい」


 そう言われたアルフはキシシと頭を抱えて笑い始める…だが、手を離した瞬間

 野獣の眼光がアリアに鋭く突き刺さり、アルフの姿が消える


 急に消えた事に驚いたアリアは一瞬隙を見せてしまい胴から顎にかけてのガードが緩み、そこにアルフの拳が重くのしかかる


 殴られた事で宙に浮かんだアリアに、アルフは二激目,三激目と連打を重ねる


 遂にはアリアは地上から20m程離れ、アルフは止めと言わんばかりにアリアを近くの噴水広場へ殴り飛ばした



 噴水に激突したアリアは腕の関節があらぬ方向へ折れ曲がり、口から血を流していた


「"遠距離戦が強い奴は近距離戦は弱い"」

「これ昔からの定石だぜ?」


 アルフは一瞬で移動し、アリアの折れた腕を踏み更なる苦痛を与える


「ア…あぁぁぁあぁぁぁああああぁああ!!!」


 アリアの叫びが噴水広場に響き渡る

 その悲鳴を聞いたアルフは夢心地の様に聞き入り、笑が零れる


「それじゃあ…そろそろ終わりだ…キシシ」

「じゃあな」


 アルフはそう言うと、アリアの不敵な笑い声が聞こえてくる

 

 不気味に思ったアルフはアリアの表情を見ると……息を荒らげて正に絶頂状態に達しているその顔は…【化け物】と呼ぶに相応しい


「犬風情に見せる事になるとは思わなかったけど…条件が揃った以上は見せなければ勿体ないわ」


 辺りの空気がガラリと変わり、噴水の水が渦を巻き始める


わたくしの真名をお聞きなさい』

『【恐れ】【おそれて】【おそれなさい】』


 アリアの足が無くなっていき、黒い宝石の様な鱗が並ぶ尾ひれとなる

 口が尖った耳まで裂け、瞳孔が開き切り完全な黒目となった


わたくしの名は【嫉妬の悪魔レヴィアタン】』

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