俺の王道は心の道、ここから始めよう…偽物の討伐を!!!

「ここは…どこだ……」


 周りには何もなく…唯々黒いだけの異質な空間…空気の流れも感じず、光さえ無い空間は凛汰郎に虚無感を与えてくる


『お前…まさかあの女に高貴なる我が魔力を与えるつもりか?』


 急に背後から声が聞こえ振り返る

 スポットライトが当たり一人腕を組んで佇み、全身真っ黒で2本の禍々しい角が生え…4枚のそれぞれが赤青緑黄と別々の色をした男がいた


「そのつもりだが…何か問題でも…『おおありだよ…この下等生物が』」


 凛汰郎の言葉を遮る様に黒い男は言う


人類種ヒューマン如きに与える等…魔王として愚の極み、下賎な行為…我が【王道】から逸れた行為…』

『そんな阿呆を見捨てる程、我は甘くない』


 黒い男がそう言うと、急に全身に重りがのしかかった様に地面に倒れる


「【王道】…だと…テメェ…一体何者だ…」


 凛汰郎は苦悶の表情を浮かべながら顔を上げ尋ねると…男は笑い出した


『我が解らぬか…理解出来ぬか…』

『まぁ良い、知りたくば教えてやろう…【】お前の中にいるもう一人のお前…【魔王】である…』


 魔王はそう言うと後ろを向きどこかへ向かって歩き出した


「待てよ…何故お前は拒むんだ…」

「人命救助が愚かだと…随分と器が小さいんだな…魔王って奴はよ」


 凛汰郎のその言葉に反応し、凛汰郎の近くへ歩み寄り頭を掴み上げて目線を合わせる


『喚くな雑種、貴様は我が肉体である為生かしているだけだ…次その下衆な口を開けば……


 魔王はそう言い放つと凛汰郎を地面に叩き付けまた歩み出した


「……ふざけんな…何が王道だ!!」


 歯が折れ鼻から血を流し、苦痛に表情を歪めながらも凛汰郎は魔王にそう叫ぶ様に言う


 魔王は呆れからくるため息をつき、振り返ってレーザーを撃つ体制になる


『もう忠告はしたぞ、死ね下等生物が』


 魔王はそう言いレーザーを放つ


 凛汰郎は目の前に死が迫る瞬間、周りの時がゆっくりと流れる様に感じた

 全身の力が強張り、歯が震え始める


「死んでたまるかよ!!!」


 凛汰郎は地面を踏まこみ、立ち上がったと同時に放たれたレーザーを手をかざして打ち消した


『なん…だと……』


 渾身のレーザーを掻き消された魔王が絶句している中、凛汰郎は魔王の胸ぐらを掴みこう言い放った


「何が【王道】だ!! 目の前の人を助けない様なふざけた道なんて俺は歩まねぇし歩みたくもねぇ!!!」

「お前がそんなに【王道】を唯々貫きてぇんなら…俺は俺の…俺が定めた【王道】を行く!!」


「だから、テメェは黙って俺に力を託して消えやがれ!! 【魔王は俺だ!!!!!】」


 はぁはぁと息を荒らげながら魔王に言い切った凛汰郎はまた魔王に課せられた重みを思い出したかの様に地面に叩きつけられた


『……良かろう、我は今しばらく眠っておいてやる…だが忘れるな…全てを助けようとすれば…必ずその両手から零れる命もあるのだとな…』


 魔王はそう呟くと、砂のようになってサラサラと消えていった


「…そうかもな…だが、俺はそう言って割り切れる程…まだ残忍にはなれないよ」


 凛汰郎がそう呟くと…今度は目の前が真っ白に染まっていき木が燃える臭いがしてきた



 ________________________


 気が付くと目の前にはレティーナが倒れ、頭痛がした瞬間の時に戻ってきていた


「とにかく早く助けねぇと!!」


 凛汰郎はそう言って手をかざして魔力を注ごうとするが…今度は何かに弾かれる様な感覚があり注ぐ事が出来ない


「くそがっ!! 勇者の加護ってか? ふざけやがって……」


 凛汰郎は下唇を噛み締め、どうにか出来ないか考え始める…その時、たった一つ…たった一つだけ方法を思い付いた


 だが…それはあまりにも抵抗が大きく……後でレティーナに怒られそうな行為であった


「……ごめんレティーナ…そして…これはあくまで人命救助だからな? 決してやましい行為じゃないからな?」


 凛汰郎は誰に言っているかも分からない言い訳の言葉を重ね、早速始めた


 レティーナの頭を少し起こし、凛汰郎はレティーナの唇に近付いていく…


 ――柔らかい…まるでプリンの様だ…そしてどことなく甘いな…


 《ズキュゥゥゥン》と効果音が鳴りそうな行為

 本来ならば恋人同士でなければ行えない神聖な行為…凛汰郎は…禁忌を犯した


 【人工呼吸】この行為を空気を送り込むのでは無く、魔力を送り込んだのだ

 そして、今度は抵抗なくスルスルと凛汰郎の魔力がレティーナに注がれていく


 十五秒程唇を重ねた後、凛汰郎はレティーナを楽な姿勢にし…何故か合掌しレティーナに感謝の念を送る


 ――ありがとう…そして…ごめんなさい…と



 その後、アリアがシスターを連れて来た

 シスターの回復魔法によってレティーナの腹の傷はみるみる内に塞がっていった


 ギルドからも水属性魔法が使える魔導師達がやって来て消火活動に当たった

 勇者パーティの仲間である魔導師と武闘家にレティーナは引き取られた



 ________________________


 英雄の酒場ヘルリアン内の酒場の隅っこのテーブルに、凛汰郎とアリアは二人で深刻そうな顔付きで座っていた


「リンク様…あの放火は一体何だったのでございましょうか…それに一連の通り魔事件…何か関係があるのでしょうか…」


 アリアは凛汰郎にビクビクと物怖じながら恐る恐る進言する

 何故かというと…凛汰郎からは多大な殺気が放たれており…アリアでさえ恐怖を感じる程であった


「ん…あぁごめん…ちょっと一人にさせてくれ…夜風に当たってくる」


 凛汰郎はそう言い残して席を立ち、ギルドの外に出ていった


 アリアは一人にさせてくれと言われた為、着いていきたい気持ちを押し込めて見送った




 凛汰郎は燃え尽き、木炭だらけと成り果てたレティーナの家の前に佇んでいた


「俺等の性なのか…だとしたら一体誰が」


 凛汰郎がそう呟いていると…背後に誰かの気配を感じる


「今の俺の感覚は何故か研ぎ澄まされてんだ…要件があるなら早く言ってどっか行ってくれ…今は誰にも会いたくない…」


「……冒険者のリンクさんですね…レティーナさんから貴方宛に渡したい物が…と私が預かってきました」


 振り返ると、そこには勇者のパーティの一人の魔導師が立っていた

 その手には真っ黒な布を持っている


「レティーナさんがずっと大事そうに懐にしまってあったんです…レティーナさんがリンクさんにって」


 凛汰郎はその黒の布を受け取る…


 それは黒と赤のレザーコートには銀のプレートが組み込まれているが動きやすい

 上の服は身体に引き締まる様に作り込まれ全体的に総じて黒をベースに作られていた


 だが、火事により少し茶色く焦げ…右肩の辺りが切り裂かれていた


「これを…レティーナが……」


 凛汰郎は魔導師に一言だけお礼を言うと、ギルドに置いていったアリアを迎えに行った



 ギルドに到着した凛汰郎は、一人ポツンとテーブルに座りストローでチューチューとジュースを飲みながら黄昏ているアリアがいた


「一度神殿に戻るぞアリア」


 そう一言だけ言われたアリアは立ち上がり、その場で転移の魔法陣を発動して最初の石で出来た神殿へと転移した




 ________________________


 神殿に着いた瞬間、アリアはその場に片膝を付き凛汰郎へ忠誠を捧げる


「アリア…【王道】って言うのはなんだ?」


 質問されたアリアは眉をひそめながら口を開いた


「……失礼ながらわたくし如きには分かりかねる質問でございます…お役立て出来ず申し訳ございません」


 アリアのその返答を聞いた凛汰郎は…真っ黒な世界で会った自称魔王の話をする


「……あいつが言う【王道】ってのは、本当に王として相応しく…最も理にかなったモノなんだろう…」

「俺には到底理解出来ない…理解したくもない事だ」


 凛汰郎はそう呟いた後、さらに続ける


「俺が世界征服を目指した理由は、異世界の女の子達とハーレムを作り上げる為だ」

「だからこそ…俺は全てとは言わない…だけど、拾えるモノは全部拾っていきたい」


「例えいつかは拾ったモノが手の平から零れ落ちようとも、決して諦めたくないんだ」

「アリア、そう言えば俺はお前に命令を下したことはなかったな」


 凛汰郎はそう言うと…一泊おいて呼吸を整える…己の中にいる魔王が言っていた事…それを否定するために…間違っていると堂々と胸を張って言えるように…


『俺が零しそうになったら…それを拾い上げてくれ…俺が見逃しそうになったらお前が教えてくれ…』

『だから…改めて言おう、これからも俺の傍にいてくれないか』


 【命令】…そうは言ったが…これは何方かと言えば【願い】だろう

 だが…アリアは片膝を付いたまま右手を心臓の上に置きこう言う


仰せのままにYes,your,Majesty

わたくしのこの体…心…魂の一遍も残さずに魔王様に捧げます」


 アリアのその言葉を聞いた時

 凛汰郎はレティーナから貰った黒のレザーコートを羽織りながら歩き出す


「俺の王道は心の道だ、ここから始めよう…偽物の討伐を!!!」

「【魔王】を騙ったその代償は高くつくぞ…【偽魔王軍】…これから本当の魔王の力を見せてやる」

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