魔王のスキルを使いこなせた!!…と思う

 冒険者生活を初めて一月余りが経過しようとした、街の木々も赤や黄色に染まり……街はすっかり秋模様となっていた


 そんな街の中を、今日も今日とてクエスト達成してきた凛汰郎とアリアは…これまた服や肌が赤く染まり…まさしく秋模様……


 なんてことは無く、ただ単にアリアの変態発言に困惑させられ油断し、モンスターの返り血をモロに浴びた結果である


「あぁ魔王様…わたくしは…下劣なモンスターに(血で)汚されてしまいました…ハァ…ハァ…」


「主語を抜かすな!! 大体こうなったのはお前が原因だろうが!!」


 それは遡ること二時間前、リブレント内にある集団墓地にモンスターが現れたとの報告を聞き、討伐しにいった時のことである……



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 現れたモンスターというのは、ざっと5,6mはある【化け蜘蛛ジャイアントスパイダー】の群れだった


 最初は問題なく殲滅していた凛汰郎達であったが……途中でアリアは化け蜘蛛ジャイアントスパイダーが射出するネバネバとした糸に絡まった


「魔王様!! この糸に触れるとまともに身動きが取れなくなります、わたくしに構わずに蜘蛛共を殺してください」


 アリアは若干興奮気味に凛汰郎にそう言うが…凛汰郎は目の前の一匹を殴り飛ばし、他の蜘蛛の足止めをした


 その後、凛汰郎はアリアの元に駆け寄りアリアに絡みついた糸を外そうと試みる


「この糸に毒でもあったら大変だからな、流石の変態なアリアでも毒には適わないだろ」


 凛汰郎はそう言った後、一旦アリアから離れてそこらに落ちていた石(砕けた墓石)を拾い上げ、その石に力を込める


 すると、石が真っ黒に輝く鋭利な刃物に変わり、アリアの糸を切りにかかる


固有ユニークスキル魔王サタニシア―【不条理な贈物アブノーマルギフト】》


 《魔王サタニシア》の能力の一つ、【不条理な贈物アブノーマルギフト

 凛汰郎が強く念じればその想像が具現化するが、生命体を作る事は出来ない

 この生命体とは明確な知能を持つモノに限る為、モンスターの具現化は可能である


 凛汰郎はこのスキルを使って僅かに振動するナイフを作り出したのだ


 普通の刃物だったら切っている最中に側面に糸がくっつき更に面倒な事になると考えた凛汰郎は、細かく振動させる事でくっ付くのを阻止するのだ



「絶対に動くなよ? まだ創り立てで操作が難しいんだからな?」


 凛汰郎はそう言って慎重にナイフをアリアの糸に近付ける


 手始めに腰辺りの糸を切る…まるで豆腐の様に滑らかに切れた感触はしばらくは飽きないだろうと確信させられた


「ンン/// 魔王様……この刃物…振動して…少しくすぐったいでございます」


 アリアは身を揺すり甘い吐息を出し始める

 凛汰郎は最初こそ無視していたが、一本切る事に身悶えする為、ナイフのコントロールが効かずに度々落としてしまう


「変な声を出すのをやめろォ!! 集中出来ないんだよ!!」


 凛汰郎がそう叫ぶと同時に殴り飛ばした蜘蛛達が体制を立て直し、飛びかかってきた


 凛汰郎は不意を突かれた驚きとアリアの媚声への戸惑いから、右手に込める力が必要以上に大きくなり殴られた蜘蛛は爆発四散した


 凛汰郎とアリアの真上にいた蜘蛛の死体から、虫な筈なのに真っ赤な血が降り注いだ

 残りの蜘蛛は、仲間のあられもない姿を見て本能が危険信号を発したのか……正に【蜘蛛の子を散らすよう】に逃げていった




________________________


「結局あのナイフは操作法がムズいから今後は使えないし、墓地が破壊されてたからその罰賞金で報酬も無くなったし……踏んだり蹴ったりとはこの事だよ!!」


 凛汰郎はそう嘆きを含んだ声はリブレントの街並みに溶けて無くなっていく……


 何故、全身返り血の人間が街中を彷徨いていても目立ち過ぎていない理由は……この世界にも【ハロウィン】の文化があるらしく、街の人からすれば……


――ハロウィンの仮装の先取りか?……としか思われていないのである



 そんな時、背後から聞き覚え…と言うよりもほぼ毎日聴こえる声がする…一度は無視しようとするが……無視をしたら半泣き状態になる為しようにもできないのだ


「レティーナさん…良く飽きもせずにやってくるな? 勇者様のパーティってのはそんなに暇なの? 仕事がないの?」


 凛汰郎は嘲笑を混じえながら振り返り、声の主であるレティーナの名を呼ぶ


「ひ…暇なのではない! 貴様等が早くその不健全極まりない身なりと服装を改めればもう来ないと言っているだろう!!」


 レティーナは地団駄を踏みながら頬を膨らませ凛汰郎とアリアの服装に突っ込む


 凛汰郎は異世界に来てから洗濯して使い回している学生服

 アリアは清潔感溢れる純白のドレス


「一体何が問題なんだ? わかるかアリア」

「いいえ…皆目検討もつきません…」


 二人は真剣に頭を悩ませ、レティーナが言っている不健全な服装とやらを考える


「……っ!! 上半身裸と下着を露にしている二人組…変態そのものではないか!!」


 レティーナはそう言って二人を指さす


 確かに、凛汰郎は10月も半ばとなり肌寒い季節となったが上半身裸のままである

 アリアはドレス姿と言っても、露出度が高く肌色が見え隠れしドレスの下の下着も血で濡れて透けている


「しょうがないだろ……ハロウィンとかクリスマスだかの行事とかはこっちと変わらないのに、服の作りが気に入らないんだよ」


 他の種族はどうか知らないが、人類種ヒューマンの服の作りは現代と比べてあまり重要視されてなく……売られている服はダサい物ばかりであった


 その為、街を歩く人々の殆どは服ら自分の納得のいく服を頼んで作るオーダーメイド式である

 だがしかし、相談料だけでも金を取られ…作るとなると酒場で二三日は飲み明かせる様な莫大な金を取られるのだ


「態々高い金を払って着る必要は無いよ」

「それに何故かわかんないが、上半身裸でも特に寒さは感じないんだから尚更だ」


 アリアに至ってはこれしか服が無いと言うよりも服に頓着が無い、裸でも良いという主義である為、着ていること自体を誉めて良い


「それでは……服を作れば着るのだな?」


 レティーナは凛汰郎等にそう確認すると…クックックと薄ら寒い笑みを浮かべる


「ならば今すぐ私の家に来るが良い、一時間もあれば服を作ってやる」

「貴様が言ったのだからな? 貴様が満足いく服さえ作れば着ると言ったのだからな?」


 レティーナはそう言うと、凛汰郎とアリアの腕を引いて自分の家へ引っ張っていった 

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