勇者御一行様とエンカウントしちゃった!?

 凛汰郎は草木に隠れて様子を伺っていた

 目の前には化け蛙ジャイアントトードの雄と雌の2匹が並び、共に微動だにせずじっとしていた


 最初遠目で見つけた凛汰郎も、なぜ動かないのか分からなかったが…しばらく観察を続けてわかった

 あの2匹は、じっと餌が通りかかるのを待っているのだ……かれこれ30分近くは凛汰郎は観察しているが、それよりも長い間待っているのであろう


 そんな2匹を見て、普通の人はこう思う

――動かない今がチャンスなのでは?…と


 だが、それは大きな間違いなのだ

 逆に……今の状態の化け蛙ジャイアントトードは最も危険なのだ、なぜなら…2匹は動かないのではなく…動くけないからだ


 そして、遂に化け蛙ジャイアントトードの雄が地面の中から出てきた【一角兎ホーンラビット】を見つけ、舌を伸ばす


 凛汰郎は舌を伸ばしたと同時に無防備となった雌の方へ走り、先程大岩に食らわせた威力とほぼ同等の黒い球体を集め…一気に放つ


 当然、雌は殴られた箇所を中心に破裂し始める…そんな雌を見て激昴した雄は凛汰郎へ攻撃を仕掛けようとするが……


 一旦伸ばした舌が引っ込むのを待つほど、凛汰郎は悠長ではない

 同様に今度は手のひらを差し出し、黒い野球ボール程の球体を作り出しレーザー状にして放つ


 黒いレーザーは化け蛙ジャイアントトードの急所を撃ち抜き…力尽きた


「ふぅ……こんなところかな?」


 そして、凛汰郎は最後の仕上げにと…化け蛙ジャイアントトードが動けなかった理由へ手を伸ばす


 【巨大な卵】…卵焼きにすればざっと20人前は作れる位の巨大な卵が元々雌がいた場所に転がっていた


 あの雄と雌は、卵を温めていたのだ

 その為、餌を取りに行こうにも行く事が出来ずにいたのであった


「これは、今回の戦利品としてギルドに提出するかな……何Gゴールド貰えるかな?」


 凛汰郎はそう呟いて卵を担ぎ、置いていったアリアの元へ歩き出した

 既に30匹程討伐した為、とっくにクエストはクリアノルマは達成していた




 戻ってくると……まだアリアは興奮状態のままであり、熱弁を続けていた


「いいえ…そもそも魔王様はあの先代様が用いていたスキル…《魔王サタニシア》も使う事が出来るのです…」

「あぁ……そんな最強で最凶な魔王様にお仕え出来る喜び…それは何よりも勝る名誉…」


 まだまだ続きそうな熱弁を、凛汰郎はアリアの額に岩を砕く程の威力のデコピンを味合わせ口を閉じさせる


「もう行くぞ、それからお前は俺の事を過大評価し過ぎだ……魔王様だって言っても俺はまだ何もしてないんだ」


「せめて、魔王城を取り返してから俺は自分の魔王の血筋って奴を誇りたい……だからアリアもしばらくはそうやって崇め奉るのをもう少し抑えてくれ」


 凛汰郎はそう言い放ち、スタスタと英雄の酒場ヘルリアンに向かって歩き出した


「……《仰せのままにYes,your,Majesty》」


 アリアは凛汰郎に聞こえない程小さな声で、忠誠の言葉と共に命令に従うという意思表示をした



________________________


 リブレント王国―首都リブレント中央広場


 街の中を巨大な卵を担いで歩く上半身裸の男の様子は、賑わう街中では特に目立つ…

 それだけではなく、その後ろにいる凛汰郎の命令により先程の紐ではなく、ちゃんとした純白のドレスに身を包んでいるが……


 逆により一層、ただでさえ黙っていれば完璧な美女であるアリアは街の中では神々しい程に輝いていた


 だが……当の本人アリアはというと……


「あぁ//…なにやら下等生物である人類種ムシケラ共に凝視されているこの感覚……」

「そそるモノがございますぅ…魔王様ぁ…」


 アリアはそう言って胸の上に乗せるように両手を置き、更に胸を強調させる



「はぁ…本当にお前は留まることを知らないな……近くで歩く俺の身にもなってくれ」


 凛汰郎は半ば諦め気味に歩いていると……目の前に3人の女性が現れる


「そこの変態2人! 止まりなさい!!」

「我々は3代目勇者様のパーティである、貴様等は公序良俗を激しく乱している…貴様等のねじ曲がった性癖を正してやる、大人しく着いてきてもらおう」


 3人の中で一番身長が高く、金髪ポニーテールで青い瞳

 鋼の鎧を身に纏い……多少残念な胸元にあるプレートには母国であろう国の紋章が刻まれた女騎士


 だが、そんな女性の容姿は今はどうでも良い…今最も気にしなきゃいけないのは……

 目の前の鎧の女性が…過去に魔王を討った勇者のパーティだというのだ


「え~っと…勇者様のお仲間さん? お勤めご苦労さまです、折角のお誘いですが…俺達は急いでますのでこの辺で~…」


 凛汰郎はそう言って鎧の女の隣を横切ろうとした瞬間、鎧の女の青い瞳がギロりと凛汰郎を睨みつけ、腰に携えていた金剛の剣を凛汰郎の首元に付ける


「貴様等に拒否権はない、我々も暇ではないのだ…無駄口を叩かずに我々に着いてこい」


 その時、広場の空気がガラリと変わり…一気に場の空気が息苦しい程の殺意へと変わる


「今すぐその下品な剣を収めなさい、アナタ如き人類種ムシケラが我が主に剣を向けるとは万死に値しますよ」


 その殺意の正体はアリアであった

 アリアの目はいつも見せている、トロンとした目やハート目等ではなく…ハイライトを無くし…明らかに下等な物に対する冷徹な目であった


「なんだと…? このレティーナに向かってムシケラだと? …それこそ万死に値するぞ、冒険者風情が」


 正しく一触即発は状態となってしまった

 そんな状態を見かねた凛汰郎は…口元を引き攣らせ、重い口を開き……こう言い放つ


「レティーナさん…性癖を正すって一体何をするんですか?」


 凛汰郎のその言葉にレティーナは鼻で一蹴したあと、こう言い返す


「我らが誇る最高の学びの施設にてミッチリと正しき人間の心を学ばせるのだ」


 ドヤ顔で返したレティーナに…これまた凛汰郎は鼻で笑って返す


「まさかそれだけか? 人の性癖を直そうとしているのにその程度か? 笑わせんな」

「レティーナ、お前が言う正しき性癖というのが女性を真摯に愛するモノならば…お前が実際に相手をしてくれるんだよなぁ?」


 凛汰郎の言葉を聞いたレティーナは、へっ? キョトンとした顔をする

 だが、更に追い打ちをかける様に言い放つ


「当然だよなぁ? まさか…お前処女なのか? それなのに人の性癖どうこう言ってんのか? へそで茶を沸かすぜ」

「俺もお前がに身体を…貞操を捧げると言うのであれば…俺もに性癖を直してやるよ」


「どんなプレイを御所望だ? 【○縛プレイ】か? 【蝋○プレイ】か? はたまた【純愛プレイ】を御所望か?」

「どうした? "私は胸が残念なのでこの自慢のお尻で相手しますぅ"ってか? だから私の得意な【ア○ルプレイ】を御所望ってか?」


 ズラズラと並ぶセクハラ発言に、レティーナどんどん顔が真っ赤になっていき…


「わ…私が悪かったからもう許してぇぇ!!」


 ……と耳まで真っ赤にし、顔を塞いでその場にしゃがんでしまった


 その後、凛汰郎はレティーナの後ろにいた2人を見てニヤリと笑うと…自称勇者パーティの3人はどこかへ行ってしまった


 広場の人々から送られる冷たい目線と……背後のアリアからの物欲しそうな目線が入り交じる


 凛汰郎は深いため息を一つ…

 その後、ギルドへ向かって全速力で走り出した……その背後にアリアが着いてきていることを確認してから……




「魔王様ァ/// 先程の罵倒の数々…わたくしにもお願いできますか? いえ!是非ともお願い致します!! ハァ…ハァ……」


 アリアは走りながら凛汰郎にそう語りかける…いや、懇願している


「しねぇよ!!! 俺だってあんな事言いたかないが……あの3人に捕まるのはまずいんだ」

「もし俺が魔王種サタニシアだって知られたら絶対に正面衝突になる!! それは最低でも避けるべきなんだ」


「だから…《魔王の力》を俺の舌に集中させたんだ、そうしたら案の定、魔王さながらの口調になってくれたよ」


 凛汰郎はそう苦笑いしながら裏通りをアリアと共に走っていった



「【魔王】……今しばらくは様子を見ておいてあげますわ…新たな魔王種サタニシア…」


 走り去っていく2人の様子を眺める女性はその場から大きく飛び跳ねて消えていった

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