魔王の力の片鱗が出たんですけど?!

「おい、いい加減にしろよ シスターさんが嫌がってるだろうが…」


 凛汰郎はシスターのアゴを掴んでいる男の手を掴み引き離した


「なんやぁワレ、関係ない奴はすっこんでてくれや…それとも何か? 沈みたいんか?」


 太った男が指を鳴らすとお付の黒服の一人、身長は3mはありそうな程巨大な男が教会の外から入ってきた

 その手には巨大な棍棒の様な武器を持っており、赤黒く変色している


「女性が嫌がってる事をするなんて…男として恥ずかしくないのか? 今なら見逃してやるからとっとと失せ……」


 凛汰郎がそこまで言うと巨大な男が振り上げた棍棒に殴り飛ばされ、教会の奥にある祭壇に叩き付けられた

 激しい砂煙と人が物にぶつかった音とは程遠い爆音に似た音が教会に響く


「ええ加減にせぇはワイのセリフや…ったく、シスターさんよぉ…あんさんが早ぅ決断せえへんからあの兄ちゃんが死んだんやで」


 シスターは呼吸を荒くし、心の中で凛汰郎に対する謝罪を始める

――私の性で人が死んだ…私が早くこの教会を手放していれば…あの人が死ぬ事はなかった…ごめんなさい…ごめんなさい…


 シスターは等々膝から崩れ落ち、顔を抑えて泣き崩れてしまった



 そんな時、ガラガラと祭壇と床が崩れて出来た木の板等をどかす音が聞こえてきた


「あ〜びっくりした、何だよ…単なる見掛け倒しじゃねぇか…派手に受け身をとったのは間違いだったな…」

「げっ! 祭壇が崩れてる!? すみませんシスターさん!! これは必ず弁償しますので…!!」


 その後、凛汰郎は体に降り掛かった埃等を払い立ち上がる

 そして、一歩足を踏み込み巨大な男の懐に潜り込み、みぞに渾身の掌底を叩き込む


「ゲフバッ!!……グフッ…」


 巨大な男の体は浮き上がり、後方へ吹っ飛んでいく……その着地点にいた太った男ごと地面に倒れ込んだ


「何だ? すっげぇ軽かったんだが…まるでバスケのボールを打ち返した感じだ…」

「見掛け倒しも大概にしろよ…これじゃあシスターさんにカッコイイ所見せられねぇじゃん…しょうがない、さっさと終わらせよ」


 凛汰郎はそう言ってポキポキと指を鳴らす

 瞳から赤い閃光が飛び、口から白い煙が噴き出す…様な描写が似合う絵面になっていた


「もう一度言うぞ…今すぐこの教会から出ていって二度とこの教会に近付くなよ?」


 凛汰郎は太った男の胸ぐらを掴み上げ、先程シスターにやっていた語りかける様な脅し口調で警告する


――ふざけるのも大概にしぃや…このまま引き下がったら…ボスに愛想つかされて…死…ぬ…?



「……アホ吐かせぃ…ここで引き下がる訳あらへんやろ! ゴリ!! 力の解放を許可するでぇ、この兄ちゃん殺したりや!!!」


 太った男がそう叫ぶと…巨大な男は立ち上がり、鼓膜がはち切れそうな程の大声…否、産声をあげる


 ゴリと呼ばれた男はみるみる内に筋肉が膨張し、上半身の黒服が破り捨てられる

 筋肉が脈動し、全身や顔面に血管が浮き出て肌が黒く変色した


「このゴリはなぁ! 【巨人種ギガント】の血液を人類種ヒューマンの身体に注入した、要するに【改造人間】や!!!」


「グガァァァァァァァァアァァァアァア!!!」


 太った男が凛汰郎を嘲笑うかの様に変形したゴリの説明を始め、ゴリはその説明に呼応するかの様に雄叫びをあげる


「へぇ…今度こそ見た目通りの強さがあって欲しいものだ…」


 凛汰郎は来ていた学生服の上だけを脱ぎ捨てシスターに預ける



 その後、肩を回し先程と同様に一歩踏み込み、懐に潜り込もうとするが…

 ゴリはその行動を先読みしたのか…はたまた勘か…ゴリの拳は潜り込んできた凛汰郎を正確に捉え凛汰郎を殴り飛ばす


 凛汰郎は咄嗟に顔をガードするが…その分足の踏ん張りを失い、遥か後方に縦に回転して頭から着地する


「……っテテ」


 起き上がった凛汰郎にダメ押しの如くゴリはその場で飛び上がり、凛汰郎の真上で着地する

 だが、凛汰郎は直ぐに右に避け九死に一生を得た……だが


 ゴリは視界の隅で凛汰郎を捉えており、ゴリの左スイングが凛汰郎に直撃し、教会の壁に激突する


「そんな……リンタローさぁぁぁぁん!!!」


 シスターの凛汰郎を呼ぶ声が教会内を駆け巡る…だが、無情にも返事が返ってくることはなかった


「ワイらを舐めてはるからこうなるんや……興が醒めたで…帰るでゴリ」


 太った男はそう言って後ろを振り向き帰ろうとするが、ゴリは今なお凛汰郎の方を向き息を荒くしている


「どないしたんや? もうあの兄ちゃんは死んだんやで、何を見てはるんや?」


 太った男はゴリの後ろから覗くように、ゴリが見ている凛汰郎が叩き付けられ崩れた壁を見ると…そこには人影があった


「な…バカな……そんなの有り得るわけ…」


 そこには凛汰郎が立っていたのだ

 だが、流石に無傷という訳ではなく全身の至る所に教会の瓦礫で切った傷や、ゴリによる打撲の痣が痛々しく刻まれている



『束の間の優勢は楽しかったか? もう充分だな?』


 凛汰郎はそう呟いて一歩一歩ゴリに近付いていく…その目は先程までの人間味を帯びた目ではなく…

 まるでゴミを見るような目…もがき苦しむアリをただ興味も無く潰す時の目をしている


「や……殺れ! ゴリィィィ!!」


 太った男はゴリに向かって命令すると、ゴリは助走をつけて勢い良く凛汰郎の顔面目掛けて拳を振り抜く…


 だが、凛汰郎は片手で軽く受け止め…ゴリの拳を捻り潰す

 ゴリはその痛みから声にならない声…と言うよりも悲鳴を出す


 凛汰郎はゴリの手を放すと、ゴリは凛汰郎に背を向けて出口に向かって逃げ出した


『まったく……逃がすとでも思っているのか? この雑種の脳は随分とお花畑な様だな、狩りの途中で我を笑わせてきた…その意気や良し』

『その行動に褒美をやろう…一撃でおわらせてやるから、【 】』


 凛汰郎……の様ながそう言うと、ゴリはその場で立ち止まり凛汰郎の方を向いて呆然と立ち尽くす


 凛汰郎の腕に黒い帯の様なモノが巻き付き、帯の至る所にびっしりと目が付いていた

 そして、手の甲には不思議な紋章が浮き出てきて、その紋章に黒い球体が集まっていく


『【魔王の拳サタン・ナックル】』


 凛汰郎の拳はゴリの脈動する腹筋をめり込ませ、内蔵を破壊するまで達した後……

 ゴリの体は教会の扉を超え…教会の向かい側にある時計塔を貫通し、遥か彼方まで吹き飛んだ


『カッカッカッ…筋肉ダルマは良く…飛んだ…な……』


 遠くへ飛んで行き、キランと星になったゴリを見た凛汰郎は、急に激しい眠気に襲われその場に倒れてしまった


「な…くっ……覚えてろやァァ〜!!」


 ゴリの飛んで行った姿を見た太った男はその場から足速に逃げ去っていった



「リンタローさん……貴方は…一体……」


 シスターはビクビクと怯えながらも凛汰郎の頬に優しく触れる


 暖かい……人間の温もり…

 だが、よく良く見ると…身体中にあった切り傷や打撲痕等は綺麗さっぱり消えているのに気付く


「……まさか、リンタローさんは…あの伝承の……」


 シスターは小さく呟くと……突然、祭壇があった辺りに黒い薔薇の様な花びらが渦状に巻い…渦の中から銀髪巨乳で…頭に2本の角を生やした女性が現れた


「その角……まさか、妖霊種デモーニアの……」


 シスターがそこまで言うと、銀髪の女性の足元から茨の鞭の様なモノが飛び出し、シスターの身体を縛り付ける


「あぁ……魔王様、遂にその力を顕現なされたのですね…ですが、今は一旦はあの場所へお戻りになりましょう」


 銀髪の女性はそう言って地に落ちた凛汰郎をお姫様抱っこの形で抱き上げ、黒薔薇の渦の中に戻ろうとする


「待ってください! リンタローさんを一体どこに連れていく気ですか?!」


 シスターはそう言ってアリアを呼び止めようとするが…アリアは一瞬振り向き、見下す様な冷徹な目を向けた後、何も言わずに消えてしまった



 「………リンタローさん…」


 凛汰郎とゴリの戦闘でボロボロになった教会の中で一人取り残されたシスターは…ただ呆然と凛汰郎の学生服を持って立ち尽くすだけであった

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