魔王城は無いってどういう事!?

 ブレナーク大陸―コルドット王国


 コルドット王国 首都コルドットにて、現在とある魔族の襲撃にあっていた


だぁぁ!!!」

「早く避難しろ! 殺されるぞ!!!」


 コルドット内の民家から火の手があがり、人々の泣き声や悲鳴が響いていた

 妖霊種デモーニアになり損ねた、知能無きモンスター達があちらこちらで大量虐殺を始めていた


「ハァ…ハァ……キャッ!!」


 一人の女の子がモンスターの群れを掻い潜り、コルドットから逃げ出し他国…もしくは隣町に援軍を頼む為走っていた


「お父様…お母様……待っていてください、絶対に援軍を呼んできますから…」



 女の子の名前は《エルネ・コルドット》

 コルドット王の一人娘であった


 三日三番、森の中を走り抜け、遂に隣町のリスティの建物が見えてきた


「やった…お父様…お母様…エルネはやりました…早く、えん…ぐ…んを……」


 エルネは何が起きたのか理解出来なかった

 また転んでしまったのか―そうではない

 立ち上がろうとする―立ち上がれない


 エルネは恐る恐る足を見ると…そこには何も無かった、本来ならばあるべき筈の膝から下が…

 まるで削り取られた様に切断面から血を吹き出し、


「はぁい、残念でしたァ♪」


 頭上から声が聞こえ、上を見ると…

 そこには、赤い髪に紫色の瞳、オシャレなシルクハットを被り服装はタキシードを思わせる黒い礼服に手には黒く長いステッキ、真っ黒な2枚の羽を生やし…口元には鋭い牙を生やした女の子がいた


「【吸血鬼ヴァンピール】…いつから…私を着けていた…のですか…ハァ…ハァ…」


 エルネは霞み出す視界をよそに、赤髪の女の子に問いかける


「凄い凄〜い♪ 一瞬でウチの種族を見破るなんて…流石はコルダットの王女様…コルトットだっけ? まぁ何でも良いや♪」

「それと…ウチは王女様が街から抜け出してからず〜っと?」


 まるであどけない子どもの様に、悪戯に成功した時の無邪気な子どもの様に笑う赤髪の女の子

 そして…一気に絶望の淵に叩き込まれたエルネは、突然股の間から湯気が立ち上る


「うぇ〜…王女様が漏らしたァ…汚ったなぁ〜い、えんがちょ〜」


 赤髪の女の子は右手の人差し指と中指を交差させ、舌を出してエルネを見下す


「た…助けてください…殺さないで…ください…お願い…します……」


 エルネは歯をガタガタと震わせて大粒の涙を流し元の綺麗な顔はどこへやら…涙と鼻水で醜い顔となってしまった


「う〜〜ん…いいよ♪ 気が変わらない内に早く行きな、もう王女様には飽きちゃった」


 赤髪の女の子はそう言ってくるりと反対側を向き、飛んでいった

 エルネは【喜び】と【感動】により地を這って進んで行く



「あっ、ごっめ〜ん…気が変わっちゃった♪ テヘッ♡」


 赤髪の女の子はそう言ってちっちゃく舌を出して笑うと…

 エルネは全身が肥大化していき…まるで空気を入れすぎた風船のように破裂し、辺りに元エルネの肉片が枝にぶら下がる


「相変わらずえげつねぇなぁおい、あの王女様が可哀想じゃあねぇかよ キシシシ」


 エルネと赤髪の女の子の一連のやり取りを終始見ていた男が、ガラガラな声で笑いながら木陰から出てきた

 オレンジ色の髪に黄色の瞳、猫背に上半身裸で腰布だけを巻き、自分の舌と耳にびっしりとピアスを着けた男


「王女様? 誰それ?」


 赤髪の女の子はそう言って不思議そうな顔をした後、オレンジ髪の男の背を叩く


「こんな所でボケっとしてないで、早く魔王ちゃんの元へ行くよ…まったくもぅ…アルフはいつも自分勝手に行動するんだから!!」


 赤髪の女の子は音を置き去りにしてその場から飛んで消えていった


「お守役も大変だぜ…キシシ…」


 アルフはそう小さく呟くと…スゥと姿が消えていった




________________________


 ブレナーク大陸―リブレント王国近辺


「それじゃあ…先ずは一旦魔王城に帰って作戦会議を始めよう!! 待っていろよ異世界のおんにゃのこ達よ!!」


 凛汰郎はフハハハと大きな声で笑いながら明日の方向へ指を指しアリアに帰るように伝えるが…


「魔王様、あの…その…実は…魔王城はございません…その為、この神殿が拠点でございます」


 アリアは申し訳なさそうに片膝をついて凛汰郎にそう進言するが…


「は? イヤイヤイヤ…そんな訳ないでしょ〜、だってさっきアリアが見せたのは魔王の部屋でしょ?」

「だったら魔王城だって……え?」


 凛汰郎は頭を抱え悩み出す

――魔王城がない? こんな石とか変なオブジェしか無い神殿から世界征服? いくら何でも様にならないだろォォォ?!


 凛汰郎は壁に頭を打ち付け心の中で絶叫する、いきなり世界征服を始める拠点が薄暗く神殿だと言われれば誰でもこうなるからだ


「あぁ//魔王様ぁ…その様に自らの身体を傷付けるなんていけません…ハァン…どうしてもと仰るのであれば…」

「この《嫉妬のアリア》…全力で魔王様の欲望のはけ口となりますぅぅぅ///」


 アリアは頬を紅潮させ、息を荒らげながら服を脱ぎ始める


「しないよ!!! …そ、それじゃあ前の魔王城はどうなったんだ? あの勇者って奴との戦闘で崩れたとか?」


 アリアはその言葉に一瞬戸惑いつつも、服を着直し凛汰郎に外に出るように頼む




 神殿の外に出た凛汰郎とアリア、辺りはすっかり暗くなっており…遠くに見えるシンデ○ラ城やその城下町の光が美しく光っていた


「あれが…元魔王城であり…現人類種ヒューマン最大の王城…リブレント城でございます」


 アリアはそう言って凛汰郎に深く頭を下げながら遠くに見えるシンデ○ラ城を指さす


「え? あれが…先代の魔王の城…」




 神殿内に戻った凛汰郎とアリア

 凛汰郎は神殿の中の召喚された魔法陣の上にあぐらで座り、頭を抱える


「申し訳ございません…わたくしが至らないばっかりに…麗しき魔王様のお城を人類種ムシケラ共に明け渡してしまい…」


 アリアはそう言って深々と自らの行いを悔いる様に凛汰郎に対し、片膝を付くのではなく…地に頭をつけていた


「……いや、これでいい」


 凛汰郎はそう言って立ち上がり、神殿の壁に落ちていた鋭い石を使い文字を書き始める



 数分程経った頃

 神殿の壁にびっしりと文字が敷き詰められていた、だがその書いていた言葉は日本語であり…アリアには読む事ができなかった


「あの…魔王様、この文字は一体…」


 アリアは不思議に思い凛汰郎に質問すると…凛汰郎は笑ってアリアの肩をつかむ


「これはな…あのリブレント城…及びあの国を乗っ取る計画を書き記したものだ!!!」


 凛汰郎はそう言ってドヤ顔をしていると…アリアはまるで神を崇拝するかの如く両手を合わせ凛汰郎を拝み始める


「あぁ…やはり魔王様はわたくし如きとは格が違います…直ぐに2手3手先を考え始めるその姿勢…この《嫉妬のアリア》…お恥ずかしながら…濡れて……」

「よぉし!! 夜が開けたら早速出発だぁ!!」


 アリアの問題発言を途中で遮断して、凛汰郎はそう宣言し…石ではあるが眠くなってきた為、眠る事にした


「アリアは寝ないのか?」


 寝る準備を始めた凛汰郎に対し、その姿をジーと不思議そうに見つめるアリア


「あ…いぇ、妖霊種デモーニアには眠る種族もございますが…わたくしは睡眠も…食事も必要ありません」

「あ……勿論、衣服も必要ありませんから脱いで出歩いても…」


「はいわかりました! 必要ないんですね、でも俺は必要なので寝ます!」

「おやすみなさい!!!」


 凛汰郎は最後まで言わせず深い眠りに落ちていった…たったの数時間程度であったが色々あった凛汰郎は……

 直ぐに寝息を立てて眠っていった


「ふふふ…魔王様ぁ…お寒いでしょう…わたくしが暖めて……」


 アリアはヨダレを垂らして凛汰郎の腕の中に忍び込もうとしたが…凛汰郎のあどけない子どもの様な寝顔を見て、そっと立ち上がる


「おやすみなさいませ、魔王様」


 アリアは凛汰郎の頬にキスをして、寝ている凛汰郎の隣に座り…念の為防御魔法を展開し、アリアは大人しく朝を待つ事にした

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