【その7】

 「そろそろテコ入れが必要だと思うの!」

 珍しく人間大バージョンになって、俺達をわざわざ喫茶店に呼び出したかと思うと、若作り人妻妖精がシリアス顔で、そんなことをほざいてきた。

 「そうだよねー、魔法少女物のお約束なら、もう1クール過ぎた頃だし、そろそろ新必殺技かパワーアップモードが欲しいよねー」

 キャロルのヤツ、目を輝かせて頷いてやがる。アニメじゃないんだぞ……って、アニメだった!(正確には俺達の魔法少女活動を基にCGアニメが作られてるんだけど)

 「……でもまぁ確かに近頃“影の魔物”の出現頻度が上がってるし、苦戦と言わないまでも、無駄に時間がかかるのは好ましくないか」

 その新必殺技なりパワーアップモードなりがあれば、手っ取り早く敵を倒せるって言うんなら、俺としても反対する理由はない。

 「あ~~えっと、ちょっと違うのよね。ほら、もうひとつ“お約束”があるでしょ、魔法少女物の」

 なぜかバツの悪そうな表情になる熟女妖精リンドー

 そう言われても、俺としては「?」と首を捻るばかりだったが、キャロルには即座にピンときたらしい。

 「あ……もしかして、追加戦士?」

 ふむ。特撮5人戦隊物とかだと、番組後半で6番目のヒーローが追加されるのが様式美になってるけど、そんな感じか?

 「うんうん、さすがにキャロちゃんは“わかって”るわねぇ。アルくんも、大体その理解で問題ないわ♪」

 つまり3人目の魔法少女を増やす、と。

 ──ガシッ!

 「え!? あ、アルくん、何でリンドーさんの頭をアイアンクローで掴んでいるのかしら、そんなコトされるとリンドーさん……痛いイタイいたたたたたッ!」

 頭蓋骨にミシミシと圧力を加えられ、(見かけ上は)いい歳した成人女性があげる情けない悲鳴に、周囲の視線が一瞬集まるが、すぐに「あぁまたか」という表情になって目を逸らされる。

 (打ち合わせの時、いっつもこの店使ってるからなぁ……)

 なおかつ2回に一回くらいの割合で、俺がアホなことをほざくこのクサレ妖精(ごくまれにキャロル)に折檻しているから、従業員や常連客も慣れたものだ。

 俺だって、こんな暴力系ツッコミ芸人みたいな真似は別段したくないんだが……。

 「俺が幻獣召喚士このやくめを引き受ける際に、確か言ったはずだよな? これ以上、迷惑な魔法少女ぎせいしゃを増やすなって」

 「ちょ、ちょっと待って! アルくん、タンマプリーズ!!」

 声色が切実なものに変わったのを確認してから、とりあえずいったん手を放す。

 乱暴に見えるかもしれないが、コレくらい厳しい態度を示しておかないと、この妖精女は伊達ノリ酔狂シュミで色々暴走しかねないのだ。

 (と言うか、むしろコレだけキツく言っておいても、性懲りもなくヤラカしやがるし)

 できればさっさと手を切りたいんだが、この腹黒愉快犯的妖精のそばに、脳筋能天気娘キャロルを放置しておくと、はてしなく暴走と被害が拡大しそうで怖い。

 「アイタタタタ……うぅ、ひどいわ、アルくん。リンドーさん、まだ3人目の魔法少女は作ってないのに」

 “まだ”って言ってる時点で、作る気満々だろ。

 「まぁまぁ、アルピナスくん、落ちついて。実際、今のペースで影の魔物がわいてくると、アルキャロふたりだけだと、けっこうキツいのも事実だし」

 む、理詰めで説得してくるとは、キャロルのクセに生意気な!

 ──まぁ、でも言いたいことはわからないでもない。

 敵──影の魔物の“強度しつ”自体は、戦い始めた当初からたいして変わってない(たまに多少手ごわいのがいるくらいだ)けど、その“りょう”が徐々に増えつつあるのは確かだしな。

 前回の“触手畑”みたいな例は極端にしても、最近じゃあ2対5、6は当たり前、10体以上いることも珍しくなくなってる。

 そうなると、魔法少女の個々の強さを上げるより、手数ひとでを増やす方が効率的……って理屈は、妥当と言えば妥当ではあるか。

 「そう言ってもらえると思って、実は候補者の子をココに呼んであるの♪」

 ふむ。珍しくいつもの事後承諾(テヘッ)じゃなくて先に話を通しておこうとした誠意は認めよう。

 「それじゃあ、早速顔合わせしましょ♪」

 ポケットから取り出したスマホ(に見える魔法界製の通信端末)で何やらメッセージを送る緑髪妖精。

 本当にすぐ近くまで来ていたのか、20数えるか否かというタイミングで、喫茶店のドアが開き、入って来たのは……。

 「え……まさか、理央姉ぇ!?」

 近所に住んでる大学生で、俺とキャロルにとっても旧知の「近所の優しいお姉さん」的な存在の、三浦理央さんだったんだ。

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まほじょッ! ~魔法少女は気楽な稼業……なワケあるかッ!~ 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama

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