【その4】

 「ひとつ気になることがあるんだが……」

 中学生らしく学校の図書館で勉強していた俺達だが、休憩時間の息抜きに、ふと前々から疑問に思っていたことを相方にブツけてみる。

 「何、アルピナスくん?」

 「例のアニメさ、アレ、なんであんなにアルキャロの戦いについて、正確に描写できるんだろ?」


 俺とキャロル──が、魔法少女(W)に変身した姿であるアルピーノ&キャロラインの戦いは、確かに異次元とか時間の止まった空間とかで行われているワケではない。

 一応、人払いと認識阻害の結界は(主に苦労性の俺が)張ってはいるが、それだって限界はある。

 「人払い」と言っても、せいぜい「なんとなく其処に近づきたくない」という気分にさせる程度のものだし、「認識阻害」も見た人の常識から外れることを「見間違い、気のせいだろう」という気にさせる程度。

 いや、手抜きしてるワケじゃなく、俺の魔法の腕前と魔力ではその程度が限界なのだ。

 これでも魔法の「師匠」いわく、魔法を習い始めて(と言うか、魔法というモノの実在を知って)1月足らずにしては驚異的な技量なんだそうだ。


 もっとも、隣で「お腹空いたねー」なんて呑気なコト言ってるおてんこ娘がもし同じ魔法を使えば、半径1キロ内から人影が絶え、たとえ砲撃魔法の直撃でビルが倒壊しても周囲の認識は「不幸な事故」で済むらしいが。ぬぁんてインチキ!

 ただし、「使えば」。その魔力の高さは、あの緑髪の小悪魔をして「魔法界でも100年にひとりの逸材」と呼ばしめるキャロルだが、複雑な魔法を覚えるのはどうやら少々苦手らしい。

 しかしながら、学習速度については俺の方がむしろ異常で、このホエホエ娘でも標準よりは上、士官予備校での魔法実習に十分ついていけるレベルなのだとのこと。

 ──て言うか、魔法の国でも、士官学校とか軍隊があるのな。またひとつ少年の純粋な夢が壊れた気分だ。


 とまれ、某フレ〇ムヘイズの封絶みたく一般人完全お断りな効果は無いのだが、それでもそれなりには人目を避けることはできるはずなのだ。

 現に、俺達は「逃げ遅れた一般人を人質に取られて形勢逆転!」とかいったヒーロー物のお約束なメに遭ったことはないし。そもそも、関係者以外、現場で目にしたこともない。


 「あれ、言ってなかったっけ? あれの元動画って、リンさんの提供らしいよ?」

 ……は?

 「「リンさん」って、もしかしなくてもあの緑色の若作り妖精のコトだよな?」

 「うん、もちろん。あ、それとレディーに年齢の話は禁句なんだよ~」

 キャロルが腰に手を当てて怒ってるが、俺としては知ったこっちゃない。

 「魔法少女の活動は部外秘が大原則! もし、関係者以外にバレたら、それなりの処罰があると思ってくださいね♪」

 とか笑顔で脅してきた本人が秘密バラしまくりってのは、一体どーゆーことだよ!?


 「で、どーいうコトなのか、キリキリ白状してもらいましょうか、ええっ?」

 図書館を出て家に帰るや否や、俺はキャロルの部屋(俺ン家の斜め向かいだ)に押し掛け、非常時以外は食っちゃ寝するニート妖精と化している緑髪の若作りババァを、むんずと掴んで詰問していた。


 「ひ、ヒドいわ、アルくん、若作りババアだなんて……。せめて、「年甲斐もなく白スク水を着て妖艶な人妻のお色気を無意味に振り撒く、けなげなマスコット」って言ってよ」

 どこがけなげだ! つーか、アンタ既婚者かよ? それと、年甲斐もないと自覚してるならヤメレ!! そもそも脳内発言じのぶんを読むなよ……。

 はぁ~、この人(妖精?)との会話は、いつもツッコミどころ満載過ぎて疲れるから、なるべく話したくないんだが、今回はそうも言ってられない。


 溜め息を押し殺して、俺は手に掴んだ小妖精女にジト目で話しかけた。

 「単刀直入に聞くけど、な・ん・で、部外秘が大原則のはずの俺達の戦闘記録を、テレビ局に流してるんだ?」

 俺の手に掴まれたまま、きょとんとした顔でコチラを見返してくるリンドーさん。

 「?? せっかくアルキャロのアニメを作ってもらうなら、できるだけ本物に忠実な方がいいんじゃないかしら。あ、もしかしてアルくんって、コミックやラノベをアニメ化するとき、原作のまんまだと「手抜きだ!」って騒ぐタイプ?」

 「え~、わたしは、あんまりオリジナルエピソードから入るの、好きじゃないなぁ」

 俺達のやりとりをよそに、我関せずとベッドに寝そべってポテチを食べながら、マンガを読んでるキャロルが口を挟んできた。黙れ、おてんこ。


 「ちゃうがな! そもそも、なんであんなCGアニメが作られてるんだよ? まさか、企画段階から、リンドーさんが噛んでたんじゃないだろうな?」

 サッと顔をそむけて口笛を吹く緑髪の小悪魔。

 うん、その反応だけで十分。クロだ!


 「し、仕方なかったのよ~。当初の予算を大幅に上回る状況になって、追加予算も雀の涙だし、現地調達するしかなくて……」

 あれから数十秒のにらめっこの末、根負けしたリンドーさんが泣きを入れながら事情を説明を始めた。

 て言うか、そもそも、この悪戯羽虫女が、官費でコッチに来てたとは驚きだ。

 しかも、多次元世界魔法管理機構(略称MMO)とかいうところに所属する、「渉外部第一課長」だというのだから!

 (……こんな上司のいる職場にだけは勤めたくないなぁ)

 中学生にあるまじく、しみじみと世の不条理に思いを馳せて俺は深い溜め息をついた。

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