【その3】

 「アルちゃん、キャロちゃん! 今度は病院に影の魔物が出たわ。急いで!」

 背中に羽の生えた緑の髪の小さな女性──いわゆる妖精(?)に促されて、ライトブラウンのブレザーにグレーのミニスカートという星河丘学園中等部の制服を着たふたりの少女も頷いた。

 「わかったよ、リン。キャロ!」

 「うん、アルちゃん、変身だね!」

 普段は腕時計に偽装している魔法のブレスレットを着けた左腕を、ふたりは天高く掲げる。


 「夜空に輝く星の瞬きよ!」

 「原野をたゆたいし大河のうねりよ!」

 「「願わくば、御身の祝福を我にもたらしたまえ!!」」


 少女達の声が重なるとともに、ブレスレットからあふれ出た光がふたりを包み込んだ。

 ──そう、いわゆる「魔法少女の変身シーン」である。


 光に包まれると同時に、少女達が着ていた服も光へと分解され、ふたりは一糸まとわぬ生まれたままの姿に……なってるはずなのだが、そこは午後6時の番組。光の加減によりシルエットがわかるだけで、細部は確認できない。

 ほんの一瞬、可憐な膨らみを見せる胸部(のシルエット)がアップになるが、ハッキリ視認する前に黒に紫色の縁取りのあるノースリーブドレスで隠される。

 キャラが切り替わり、背中を向けた裸の少女がピンクのジャケットを装着、次の瞬間、下半身には白のロングスカートが現れる。

 再びキャラが変わり、黒衣の少女の腰でミニスカートの裾が翻り(見えそうで見えない絶妙なアングルだ)、カメラが下方へと移動して健康的な色気をたたえた白い太腿、そして膝、ふくらはぎ、つま先を映し出す。

 次の瞬間、少女の脚は白いニーソックスに覆われていた。ソックスの上部を留める黒&紫のガーターと、絶対領域がいかにも男の萌え心をくすぐりそうだ。

 キャラチェンジとともに、先程の少女以上に華奢な素足に紺色のショートブーツが装着される。カメラが上にパンして、後ろ向きになった少女の首のあたりからマントのようなものが出現して、少女の背中を覆う。

 対してノースリーブの少女の手が何かを求めるように伸ばされ、白い繊手を、甲に紫色の宝玉が嵌った黒い指無し手袋が保護する。

 ピンクの少女の手にも桜色の宝玉が嵌った手袋が装着され、両拳を胸の前でガキンと打ち合わせると、マントの胸元にブローチが現れる。

 黒衣の少女の方が、その長い髪をかき上げると、首の後ろに出現したリボンがしゅるりと巻き付き、髪を束ねる。

 そのまま、シュタッとモデル立ちを決める少女。そして相方の少女は、「頑張るぞ」とばかりに両手を握りしめてガッツポーズをとる。

 「ファントムサモナー・アルピーノ!」

 「ドラゴンメイデン・キャロライン!」

 「「この街を護るため、ここに顕現!!」」


 …………


 「うわぁ、エラい長尺の変身シーンだな、ヲイ。て言うか、普通こういうシーンって、バンクで適当にカットして誤魔化すんじゃないの?」

 キャロルと並んでテレビを観ていた俺は、思わず呆れたような声を漏らしてしまう。

 言うまでもないと思うが、例のパチモンくさいタイトルのCGアニメとやらを観賞しているのだ。

 実のところ、オーソドックスな設定とストーリーではあったが、少なくとも魔法少女物というくくりで観る限り、この番組は案外悪くないデキだった。それなりに人気が出るのもうなずける。

 ──まぁ、その主役の片割れ(のモデル)が、女の子に変身した自分であるということを考えなければ、の話だが。


 「うーん、今日のは、アルキャロのふたりが揃って変身する初めての回だったからじゃないかな。これまで、別々に変身してたし」

 一緒に観ていたキャロルが弁護するように言ったあと、ぷぅっと膨れる。

 「……アルピナスくん、ズルい!」

 「はぁ、なんだよ、藪から棒に?」

 「だって、ふたり同時の変身シーンなのに、美味しいトコはみんなアルピーノばっか写ってたよ? キャロラインなんか、まともに顔が写るの最後のキメカットだけだし」


 ──またかよ。知らんがな。

 そもそも、俺としては、いくらCG化されてるとは言え、あんなカメラ小僧がコスプレイヤー撮るみたいな視線向けられるのは勘弁願いたいぜ、まったく。

 まぁ、シビアなことを言えば、貧乳&ずんどーなお子様体型のキャロラインより、それなりに出るトコ出てる俺(の女性化した姿アルピーノ)を写した方が、大きなお友達のウケがいいと踏んだんだろう。


 ……でも、コレを言ったら、キャロルのヤツ、絶対泣くよな。

 「うーうーうー」

 納得いかないとばかりに唸ってるキャロルを置いて、俺はコッソリとソファを離れたのだった。

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