リズミカルな語り口で紡がれる、痛くて優しいボーイ・ミーツ・ガール

解錠の能力を持つ“僕”は、その能力を使って近所の空き部屋に潜り込むことを繰り返していた。するとある日、空き部屋で時間を潰していたところに紫苑と名乗るクラスメイトがやって来て…?
全編を通して無駄のない構成で、こんな些細なことが後に繋がるのか!と膝を打つほど。意味のないエピソードはない、という事はプロの漫画家さんなども言う事ですが、正しくその通りと感じる構成力がお見事。
語られていることは非常に(精神的に)しんどい事が多かったように思うのですが、何度も繰り返されるフレーズや言葉の数々がとてもリズミカルで、それがまたよかった。また、ライトノベル(という扱いにしてしまっていいのかは分かりませんが)らしく、ドキドキするようなシーンが話の流れで無理なく登場している事も魅力的に感じました。

けれど何より魅力的なのは、“僕”と紫苑の関係性。
ボーイ・ミーツ・ガールと銘打ってしまうほど、これは“僕”と紫苑が出会ったからこそのひたむきな想いの物語。紫苑に出会ったからこその幸せ。紫苑に出会ったからこその不幸せ。
この二人の幸せについて考えさせられる痛くて優しいお話だったと思います。

最低で最高のスクラップ・アンド・ビルドでした。

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