うつくしき童話で描かれる、愛と執着のミステリー

僕は「肉」が食べられない。なぜなら、僕は「父」を食べたことがあるからだ――。
衝撃的な疑惑を土台に据えた、まるで御伽噺のようなはじまりは、そのまま最後までページを捲る手を止めさせない。キャラ文芸らしく、芝居めいた口調の美少女探偵×薄幸の美少年(と、父君の姿から想定できる主人公)の甘酸っぱい関係性もさることながら、描かれているのは静かで重く、そして激しい愛と執着につい引き込まれて読み進んでしまいました。

特に、この作品で最も素晴らしいと感じたのは、作中作で登場する虎と一角獣の童話の話。ミステリーに登場する童話や数え歌の類は、それこそ城平京の「名探偵に薔薇を」やアガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」などお決まりにも思えるけれど、この物語こそがこの作品における全ての本質であり、登場人物の気持ちに結びついた、最高の作中作。個人的にはこの不思議な世界観がかなり魅力的だと感じたので、ミステリーだけじゃなく童話も読んでみたいなと感じる、素敵な筆致でした。

僕は本当に「父」を食べたのか?それはぜひ読んで確かめてみてください!