27話目

「そういう意味ではない。この日本には、明治維新以来、近代化の進む日本で暮らしてきた人々と、江戸時代からの変わらぬ生活を守り続けてきた人々がいる。前者のことを我らは、刀を差していない者という意味で、腰無し。あるいは腰抜けと呼んでおる」

「つまり、普通の人のことですか?」

「こっちの世界から見れば、普通の人ということになろうのう。じゃが、わしらからすれば、わしらの世界の方が普通なんじゃよ」

 それもそうだろう。誰しも、自分の属する世界のことを当たり前と考えて、そうでないものを異質ととらえる。

「わしらの世界の人々は、正式には、葉隠人と名乗っておる。江戸時代からの変わらぬ、武士の魂を受け継いでいる人々じゃよ」

「葉隠人ですか。僕も、葉隠人だと?」

「そうじゃ。本来ならば、里見君太殿、そなたは、葉隠人の頂点に立つべき人なのじゃ」

「頂点?」

「江戸時代でいえば、将軍家じゃな。徳川将軍家じゃ」

「はあ……?」

「何しろ、明治維新の際、葉隠人の世界を開拓した者たちを率いていたのが、そなたのご先祖様なのじゃから」


 よくわからないけど、僕のご先祖様は、葉隠人と言って、普通の世界の人ではないらしい。

 僕は、今、普通の世界で暮らしているけど、ご先祖様に当たる人はいない。ご先祖様が普通の世界の人じゃないからなのか……。

「でも、僕の両親は、海外で災害に巻き込まれて死んだって……」

「葉隠人が、災害で死ぬわけがなかろう。たとえ、こっちに暮らしていたとしても、いざというときは、災害から逃れる術を心得ておる。葉隠人の世界に逃げ込めばいいだけじゃて」

「じゃあ、僕の両親はどこに? もしかして、葉隠人の世界で生きているんですか?」

 君太が急き込んで身を乗り出すと、紋兵衛が、気の毒そうな眼差しを浮かべた。

「まあ、落ち着きなさい。そなたの両親がすでに亡くなっていることは、間違いない」

「そう……ですか。でも、どうして亡くなったんですか?」

「初めから話せば長くなる。一言でいえば、葉隠人の世界を救うために、恐ろしい妖魔のボスと戦って、相討ちになった。ということじゃ」

「はあ……?」

 なんだそれ。ファンタジーの世界に、よく出てきそうなベターな話じゃないか……。で、僕は、勇者の血を引く生き残りとして、復活した妖魔のボスと対決しなければならないってことか?

「まさに、その通りじゃよ」

 紋兵衛が、うなずく。

「は?」

 君太が目を丸くすると、紋兵衛がからからと笑った。

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