第23話

 狐のお面が懐に手を突っ込んだのが分かった。

 手を引き出したとき、その手には、手のひらサイズのひょうたんが握られていた。

 あれだ! 佳恋のお爺さんとやらが、鬼どもを吸い取ったときに使ったのと同じやつだ。

 僕を吸い取って、持ち去ろうという魂胆に違いない。

 ポン! と、ひょうたんの栓が引き抜かれる。

 途端に、君太は顔が吸い取られそうになった。顔ばかりではない。胃の中のものまで、逆流するような気持ち悪さ。

 君太の周囲で、風速何十メートルはあろうかという風の渦が生じたのだ。

 前方に引っ張られそうになりながら、君太は、ザクッと刀の刃を床に突き刺した。

 両手で柄にしがみつき、風の渦に逆らってかろうじて踏ん張る。

 よろけたら最後。あの小さなひょうたんの中に吸い込まれているに違いない。

 風の渦はどんどん強くなる。今や、風の力だけで、顔の皮膚がはがれてしまうのではないかと思うほどだ。

「無駄な抵抗はよせ……。さっさと楽になるがよい……」

 負けるもんか!

 でも、このまま突っ立っていても、いずれ、吸い込まれてしまうのは明白。

 ならば、いっそのこと……。

 君太は、床から刃を引き抜く。

「えいっ!」

 と気合を発すると同時に、狐のお面が握るひょうたんを割るつもりで斬り上げた。

 刃は届いていない。

 ならばもう一閃!

 刀を上段に構えたところで、君太は気づいた。風の渦が止んでいた。

「ほほう……。風を斬るとは大した奴だ……」

 狐のお面の手の中で、ひょうたんが割れていた。

 妙だ。僕の一撃は、ひょうたんに届いていなかったはずだ。なのに、なぜ、ひょうたんが割れる?

「ならば、少々痛い目に合わせてでも引きずっていかねばならぬ……。お前がそう望んでいるなら」

 狐のお面が刀をさっと振るった。

 刃がはばきの部分で折れて、飛んできた! と君太は、錯覚した。

 だがよく見ると、狐のお面の刀の刃は折れていない。君太に向かって飛んできたのは、衝撃波のようなものだ。

 君太はとっさに、その衝撃波の形に合わせて、刀を振るった。

 ズズッ……。と水の中で刀を振るったような、重い衝撃が伝わってくる。君太の刃がブルブルと震え、ばらばらに砕け散ってしまうのではないかと思うほどだった。

 衝撃波は消えていた。相殺に成功したに違いないと理解した。

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