32話 悪魔の蛇兄弟


 

最終日、義経たちはイグニスの協力により、何とか目標達成の魔物3000体の討伐を終え。

ギルド本社へと訪れていた。



「で、なんでイグニス、お前がいるんだよ。」



そう話す義経にイグニスは呆れた様子で「誰のおかげで魔物を倒せたと思っている。紛れもなくこのわたくし、イグニスだぞ。忘れたとは言わせぬ。報酬の6割はもらうぞ。」と言うと、義経は少し切れ気味で「ふざけんなッ!お前なんて1割りで十分だッ!」と食いつくがイグニスは睨むように「劣等種がどの口を言う、これは指導代も含まれるんだ。わたくしだって暇じゃないんだぞ。それをわざわざ貴様らガキの面倒を見なくてはならんのだ。寧ろ有難いと思え。」と言った。



そんな2人のやり取りを西大は大笑いしながら「ワーッハッハッハ、義経。流石に無償で働かせるのは良くないぞ。2割の報酬で手を打つのが妥当だろッ!」と二カッと笑うと、イグニスは西大の方を睨みながら「2割りだと?ふざけやがって、上位悪魔のわたくしに喧嘩を売るなどいい度胸をしているな。今すぐにでも消し炭にしてやるぞ。」と本気でやりかねないイグニスを宥めるように、ことねは必死にイグニスを止めに入った。



「脳筋ダルマがムカつくのはわかるけど、今は抑えて!てかこの場合、一番活躍した人が報酬多めで良くない?」



ことねがそう提案すると、義経はことねの方を向き「てことは一番活躍してないゲロ先輩が報酬1割ってことじゃん。良かったな、これで解決して。」とゲスの顔になっていた。


ことねは急いで弁明するように「待って!最初っから話し合わない?ね、俺が1割とかなんかの冗談でしょ?え、待って何勝手に報酬の申請書出しているの?人の話聞いてた?ね、無視しないでよ!おい、筋肉バカ!話聞けってばッ!」と言い続けるが、虚しくも3人はことねの事を無視するのであった。



「え、報酬1割とかドッキリでしょ?俺一応アイドルだよ、こんな扱い方ってある!!」





***************




その後、ギルド本社で西大とはそこで別れを告げ。

フレデリックの事務所へと戻って来た3人。

イグニスはフレデリックに用があるとのことでそのままフレデリックの所へ向かった。

義経とことねは疲れていたのでリビングルームへと一緒に行くことにした。

そしてことねは項垂れるようにダイニングテーブルの椅子に座り込むと「マジで通帳に1割分しか入ってなかったんだけど、あのクソ筋肉一生恨んでやる!俺の今までの努力を返せッ!」と嘆いていることねを呆れた顔で義経が「いや、お前ゲロ吐いてただけじゃん。」と言うと、ことねは怒った表情で「スライムの時助けてやっただろ!恩を仇で返しやがって!」と膨れっ面になった。



義経は軽く流すように、はいはい。と言いながらソファーに向かうと、そこにはソファーで寝そべりながらゲームをしている少年がいた。



「え、誰?」


義経がそう言うと、少年はチラッと義経の方を見ると再度ゲームに集中し始めた。


「いや、誰だよお前!!」


義経がそう叫ぶと、少年はやっと気付いたのか「もしかして僕に話しかけてるの?」と言うと、義経は「もしかしなくても、お前以外誰がいるんだよッ!」と言った。



少年はソファーに座り直すと「それで何の用?僕も暇じゃないから手短に話してくれると助かるよー。」と言うと義経は少年の態度に少しイラッとくるが、よくよく少年の顔を見てみると誰かの顔に似たのを思い出したのか、義経は「お前のその態度は気に入らないが、どこかで見たような顔をしているな。」と、少年の顔をじっと見ていると、絆創膏からはみ出る鱗のようなものに気づいた義経は「お前もしかして、半魚人か?」と訊くと少年は「半魚人?あーこれねー。うん、全然違うよー。僕は魚類よりも爬虫類だよ。」と答えた。



すると横から入ってくるように、ことねは「わかった!鱗があるって事は蛇でしょ!」と言うと、少年はことねにグッドサインを送ると「正解、ご褒美に僕の食べ終わったアイスのゴミクズをあげるよー。」と言いながら義経にアイスのゴミを渡した。

義経はキレながら「なんで俺なんだよ!当てたのはことねだろ!」と言うが少年は不思議そうな顔をしながら「だって目の前にいる人に渡すのが道理でしょー。」と話す少年に少し頭を悩ませながら「お前の価値観はかなりズレてるんだよ。」と呆れるのだった。



結局、少年は自分が何者なのかも名乗らずにいると、ドタドタと走る音が鳴り響きながらドアを勢いよく開けられ。

息を切らしながら入ってくるイグニスの姿があった。


「イグニス、そんなに慌ててどうしたんだよ。」


義経がそう訊くと、イグニスは眉をピクリと動かしながら「どうしたもこうしたでもない。イザク、何故お前がここにいる!」と物凄い剣幕とした顔つきで少年の所へ行くと少年は呑気そうに「あ、イグ兄おかえりー。」と手をひらひらさせると、イグニスは嬉しそうに手を振りかえしながらハッと我に帰ると「そうではない!イザク、今すぐお家に帰りなさい!こんなゴミみたい生物たちといたら可愛いイザクが汚染されてしまうではないか!イザク、お兄ちゃんは心配しているんだぞ、兄上のいる所に早く帰るんだ、今すぐに!」と過保護なイグニスを横目に見ながら義経は「俺たちはゴミ扱いかよ。てか、この生意気な奴、イグニスの弟かよ。どおりで見たことある顔だと思った。」と言った。


イグニスは義経を睨みつけると「イザクが生意気だと?貴様みたいな性格ゴミみたいやつに、私の可愛い弟の良さが、わからぬようだな。」と話してる最中に、イザクは身体を起き上がらせると、イグニスの方を向きながら「イグ兄、その辺にしてあげて。僕はフレデリックに呼ばれてここに来たんだよー。それに報酬も貰い済だよー。」と説明すると、イグニスは不思議に「報酬ってイザクお前は金品には興味ないだろ。何故、引き受ける気になったんだ?」と訊いた。



イザクはゲーム画面を見せながら「僕の好きなゲームの期間限定レアパック10万円相当+50万ギフト相当のプリペイドカード貰えたんだー。これで重課金者PKが捗るんだよー。」と嬉しそうに話すイザクに義経は「今流行りのWORLD SLAYER《ワールド・スレイヤー》かMMO+PVPの世界で課金とかしまくった武器を壊されたり最弱ギルドの拠点をレイドされ壊滅させるクソゲーだろ。」と言うと、ことねも「俺もそれ配信でやったけど、ボス部屋挑んだ時にアンチにゴースティングされてさ、あと少しのところでボス倒された挙句、俺まで殺られたんだよ。しかもそのプレイヤー海パン一丁に丁髷でパーティメガネかけてて、おまけに武器はオタマとかふざけた奴だったよ。プレイヤー名は今でも覚えてるよ確か……」と言いかけたところでイザクが、こんな感じ。と画面を見せると、ことねは「そうそう、パーティ侍!ってお前かよッ!」とすかさずツッコミを入れた。


3人のやり取りについていけないイグニスは話を戻すようにイザクに「それで、アイツに何を頼まれたんだ。」と訊くと、イザクは少し間を空けると「僕にしかできない、ある調査を頼まれたんだ。」と話すと、イグニスは「それは極秘調査か?」と訊くと、イザクは黙って頷いた。



「わかった。その調査が終わったら兄上の所にずくに帰るんだ。わかったな。」



イグニスがそう言うと、イザクは首を傾げながら「それはできない話かなー。それに卵はまだ孵化されていない。その正体がわからない限り僕は帰れないし、当の本人はそれにすら気づけてないからねー。」と呑気に話すイザクにイグニスは、弟を利用しているフレデリックが許せないのか、あの野郎、ちょっと抗議してくる。と部屋を出ようとしたところで、イザクはイグニスを止めるよう、自分の体内に潜めさせている兄弟たちを、イグニスの足に絡めさせ身動き取れないようさせた。


「イザク、お前卑怯ではないか!私が可愛い弟たちに攻撃できないのを知って!」


そう言いながら一生懸命前に進むイグニスの前にイザクが現れると、ゆったりとした口調で「イグ兄は昔からキレると周りが見えなくなるから、そこ直した方がいいよー。ま、僕はそんなイグ兄が好きだけどねー。」と話すイザクに、イグニスは顔をニヤけながらイザクが可愛すぎる。と喜ぶのであった。


「なぁ、ことね。俺たちはあの兄弟の茶番に付き合わされているのか?」


「茶番もなにも、兄弟の仲良いアピールとか完全に嫌味だね。」


「お前、兄弟と仲悪いの?まぁ、俺も似たようなもんだけどな。」


「義経も苦労してるんだ。お互い様だね。」


自分達のやり取りに気づいたのか、イザクはイグニスに「僕に構ってる暇があるなら、まずは2人に鍛錬をさせたらどうなの?まともに魔力の使い方もわからないようじゃ、幸先が思いやられるよー。それにこの世界じゃあ、魔物なんかよりも人間の方が恐ろしいからねー。」と話すと、義経はイザクに、どういう意味だ?と訊いた。


イザクは不敵な笑みを見せると「あれ?僕はてっきり知っているのかと思ったよ。前回の魔物討伐戦の時に戦ったでしょ。元人間だったものと。まあ、相手が雑魚だったからいいものの、今後現れる強敵は、今のお前じゃあ倒せずにすぐ死ぬよー。」と言った。

義経は前回の記憶がフラッシュバックしたのか、救えなかった命に後悔と悔しさが入り混じった感情に気づいたイザクは心無い言葉を放った。



「たかが人間1人死んだくらいで、そこまで感情を出せるのが凄いなー、僕には一生理解できないやー。」



イザクがそう言うと、義経はイザクの胸ぐらを掴みながら「あぁ、お前みたいなクソ野郎には一生理解できねぇだろうな。俺は人を救えなかったことに一生後悔する、後悔するからこそ前に進むんだ。前に進んで俺はもっと強くなる、この世で一番のな!」と言った。



イグニスは眉間に皺を寄せながら「貴様、いつまでイザクの胸ぐらを掴んでいるつもりだ。」と言うが、イザクは、僕なら大丈夫だよー。とイグニスを止めると、今度は義経の方を見ながら「今は源義経だっけ。うん、その言葉忘れないから。」と言った。


義経はイザクの胸ぐらを離すと「お前はどこまでこの世界のことを知っているんだ?」と訊いた。

するとイザクは義経の目をまっすぐ見ると、イザク。と言った。

義経は、は?と言い返すと「僕のことはイザクって呼んでよ。僕も義経って呼ぶからさー。」と言った。

義経はイザクの行動がよくわからないでいると、イザクは「そういう事だから、これからよろしくねー、それじゃあ僕はフレデリックの所に戻るよー。それからこれは僕からの記念日のプレゼントだよー。」と言うと、義経にチョコレートをあげた。

義経はイザクからチョコレートを受け取ると、ますますその行動が理解できずに、何故にチョコレート。と呟いていた。


「じゃあ、また後でねー。」


イザクは手を振りながら部屋を出て行ったのであった。

イグニスもイザクの行動に驚きながらも後を追うように出ていくのであった。


「なんか凄い子が来たみたいだね。それに義経も気に入られてよかったじゃん。」


ことねがそう言うと、義経はなんとも言えない表現で「今ので気に入られる要素があったか?」と話すと、ことねは「たぶん、世界一の英雄王に俺はなる!って言ったからじゃない。」と言うと、義経は苦虫を噛んだような表情をしながら「どこぞの海賊の台詞だよそれ。確かに痛い台詞は言ったが、全て忘れろ。」と言った。


ことねはニヤニヤ笑いながら「また痛い歴史が刻まれて、良かったねー。」と笑うことねに「まずはお前の記憶から抹消さてやろうか。」と睨むと、ことねは笑いながら「はいはい。お茶入れるから、そこに座ってな。」と話を流すのであった。



***************



部屋を出たイザクを急いで追いかけるイグニスに、イザクは「イグ兄、僕決めたんだ。」と言った。

イグニスは不満そうに「何を決めたんだ。」と訊くと、イザクはクルリと後ろを振り返り「義経かれの最期を見届けたくなったんだよ。それがどんな結末でもね。」と話した。


イザクの言葉にイグニスは驚きながらも「何故、あの男にこだわる必要性がある?私としては、これ以上アイツと関わってほしくないのだが。」とイザクを止めた。

だがイザクは「んー、それもそうなんだけど。感情が似てるからかなー。」と言うとイザクに、イグニスは不思議そうに、似ている?と訊いた。


イザクは前を向き直すと「そう、イグ兄は知らない僕の秘密の話だよー。」と微笑んだ。


「イザク、お兄ちゃんに内緒事はしないと、兄弟3人で決めただろ!」


「うん、だからラフ兄は知ってるよー。」


「え、わたくしが知らないで兄上は知っている……わたくしだけが除け者ということか。」


イグニスはしゃがみ込み、壁の隅で落ち込んでいると、イザクはイグニスの頭を撫でながら「除け者にしてごめんねー。もしイグ兄が夜暇だったら、僕と一緒に夜ご飯食べに行こう。外食の時は僕を独り占めにしていいから。いっぱい僕を可愛がってねー。」と言った。

イザクの可愛い誘いに、イグニスは興奮する鼻血を抑えながら「やはり私の弟は銀河一可愛くて尊い。なんとしても今夜のディナーはイザクと2人で食事をする。となると銀座の高くて評価の高いお店を予約して、イザクに美味しいものをいっぱい貢がなくては。」とブツブツ独り言を話し始めた。


イザクは「あんまり無理しないでねー。それじゃあ僕は、報告しに行ってくるよ。イグ兄、2人で行く外食、楽しみに待ってるねー。」と言うと、イグニスは「あぁ、任せておけ。」と返事を返した。



(義経、彼の感情はどことなく彼女に少し似ている気がするなー。義経と一緒にいれば、きっとあの時の感情が分かるはず。僕になかった感情、この答えが。)

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