27話 鬼の書



倉庫の中に入ると、散乱した食料や血痕の跡があり、倉庫全体から血と食材の異臭が漂っていた。

義経はルークスの光の魔法を使いながら、鼻を抑えつつ前へと進むと、何かがグチャグチャと貪る様な音が聞こえてくる。

義経は得体の知れない嫌な予感を感じながら、それを確認してみると、そこにはこの世のものとは思えない形をした何かが、人の腸を貪り喰っていた。


義経はその光景に嗚咽をしそうになるが、それと同時に助けられなかったことに後悔するのであった。


(クソッ、もっと早く来ていれば助けられたのに。それよりもこの化物を桃太郎たちがくる前に倒さなければ!)


義経は暗黒物質ダーク・マターを発動させると、化物目掛けて攻撃を開始した。

すると化物は素早い動きで攻撃を躱すと、さっき貪っていた死体を義経の方へと投げ飛ばした。

義経も死体を躱しながらイライラさせていた。


(化物のくせに魔物より知性あるとかアリなのかよ!)


義経は次の攻撃をしようとした瞬間。

化物は涙を流しながら「通りゃんせ……通りゃんせ……ここは…どこの細道じゃ……鬼神様の……お願い、私を……ろして。」と訴える化物に困惑し始める義経。

その背後から桃太郎たちも来て「なに、あの化物……。」と桃太郎が怯えた表情で義経に訊くと、義経は「わからない。ただ、アレは人だったのか?」と疑問に思っていると「その人はもう助からへんよ。やから俺らが優しく葬ってやるのが最善の策や。」と車掌の男性が現れた。


「葬るってこの化物は元は人間だったのか?」


義経がそう訊くと男性は「その話は後にしてくれへん。今は悪鬼と化した人間を解放しはるのが、その人のためにもなるんやからさ。」と言うと男性は化物の近くまで行くと、化物は叫びながら殺してー!と男性に襲いかかってくるが、化物は男性に触れる前に身体全体が切り刻まれたかの様に血飛沫を噴き出すと、そのまま息絶えて倒れてしまった。


義経たちは驚きながらも「お前、ただのこの夜行列車の車掌ってわけじゃなさそうだな。一体何者なんだ?」と訊く義経に、男性はニコッと笑うと「それは今は答えられへんけど、ただ言えるのは、この悪鬼を作り出した人物は鬼神を探し求めてはる。やからこれで終わりやない、これは始まりにすぎん。一つ忠告しはるけど、マーリンには気いつけた方がええよ。アイツは何しはるかわからんからな。」と言うと、義経は「マーリンって師匠が言ってた、兎に角ヤバいやつだな。その悪鬼とかいうバケモンを生み出したのもマーリンなのか?一体そいつは何が目的なんだよ!」と男性に訊いた。


男性は少し困った様に「あまり外部に漏洩するなって上から強く言われはってるけど、まあ、あんさんは特別やな。すんまへんけど、そこのお二方は席を外してくれへんか?」と言った。

桃太郎とリーシェは男性に言われるように倉庫から出ようとすると、男性が思い出したかの様にリーシェに「そういえば、そこのお嬢さん。迷子センターに、君の家族が来てはったよ。」と言いながら赤い竜の縫いぐるみを渡すと、リーシェは嬉しそうに「桃龍くん!謝謝!本当にありがとうございます、車掌さんのお兄さん!」と縫いぐるみを抱きしめながらお礼を言うと、男性はリーシェの頭を優しく撫でると「次は目を離さんように、気いつけなよ。」と言った。

リーシェも、うん。と頷くと、桃太郎と一緒に倉庫を出て行った。


2人だけになった義経と男性は、静かな空間の中。

男性が部屋の電気をつけると、部屋中が物の散乱から血の跡で散らかっていた。

そして化物だった悪鬼は殺されたことによって人の姿へと戻っていた。


「本当に人だったんだな。その悪鬼とかいう化物になったら、もう正気に戻ることはできないのか?」


義経がそう訊くと、男性は、そうやな。と言うと「悪鬼の幼体を植え付けられた人間は、ほぼ100パー助からへん。そして何故マーリンが悪鬼を生み出せるかというと、とある場所の保管書から鬼の書が盗まれはったんや。その本は本来禁書として使用を禁止されとるらしいんやけど、どこぞのアホがその禁忌を犯し、その禁書を悪に手渡した。その悪がマーリンなんや。」と説明をした。

その話を聞いた義経は「その話って何年前の話になるんだ?」と訊くと、男性は嘲笑うかのように「何年前とかの話やない。そやな、100年以上前のタイタニック号がイギリスから出発する前の日に、保管書から鬼の書が盗まれたと言われている、やけどその犯人はその前から逃亡してはる。そう考えると内部に内通者がおって、その犯人に手薄な時期を教えはったと考えるのが妥当。俺も人から聞いた話やから詳しい事はそこまで言えへんのや。」と話す男性に義経は「100年以上前って……いや、待てよ。この世界でタイタニック号の沈没の事件の話は聞いたことがない。て事は前世での時系列の話になるよな?お前は一体どこから来たんだ?」と、疑い始めた。


そして軽くボロを出してしまった男性は「またやってしもうた!あれほど瑠花ちゃんに注意されたばかりやのに!また口論する羽目になってまうな。まあ、あれや。この世界も地球と同じ一つの惑星と考えはって、そして幾つもの惑星の星が何億光年という距離に存在しはってるから、この星も今まで気づかれんかったんよ。」と話すと、義経の目の色が変わり「じゃあ、この宇宙のどこかに地球は存在するって事なのか?異世界とかそういう次元の話じゃないんだよな?」と詰め寄る義経に、男性は鬱陶しい雰囲気を出しつつ「そういう事や。てか話が脱線してるんよな。もうこの話終わってもええか?」と言った。


義経は「あぁ、話を変えて悪かった。それで鬼の書ってただの本じゃないよな。禁書って言われるほどだから相当ヤバい本なんだろ?その鬼の書って。」と訊くと、男性は「確かにヤバい本なのはヤバいんやけど、あの本を一刻も早くマーリンから回収せえへんといけないんやけど、何せ俺らはマーリンを殺して奪い取ることができひんのや。まあ、これについても契約上話せへんのやけど、そこであんさんに頼み事なんやけど、マーリンを殺せとまでは言わない。やからマーリンから鬼の書を取り返してほしいねん。勿論、俺たちも全力でサポートしはる。もしここで断ったら、あんさんの大切な人らが鬼の書によって悪鬼と化する。それでもええなら。無理強いはせえへんよ。」と、義経に強制的に協力させる言い方をすると「俺に拒否権はないって事ね。ほんまクソゲーシステムだな。んで、そのマーリンはどこに居るんだ?」と訊いた。


男性は「それは俺もわからへん。けど今行ったところで、あんさんがマーリンから本を奪える確率はほぼ0や。そもそも俺より弱い人がマーリンのところ行っても、一瞬で天国行きやん。俺もそこまで鬼やないで。」と笑いながら話すと、義経は不機嫌そうに「なんで俺が名前も知らない初対面のお前にここまで馬鹿にされへんといけんのや!!」と怒ると、男性は笑いながら「すんまへん、あんさんみたいな人おると、つい構ってまうねん。自己紹介が遅れ張ったな。俺の名は染井響夜そめい きょうや。どうぞ宜しゅう申し上げますわ、義経ちゃん。」と挨拶をした。


響夜が自分の名前を知っていることに驚く義経は「なんか最近名乗ってもないのに俺の名前を知ってるやつ多いよな。まさか、俺ってかなり有名人だったりするのか?」と、少し喜んでいると響夜が「いや……まあ、そんなとこやな。」と話を濁した。


「さてと、義経ちゃんとも会えたことやし、俺はそろそろお暇させてもらいますわ。」


響夜がそう言うと義経は「え、もう行くのか?てかこの死体とか散乱した物はどうするんだよ。」と言うと、響夜は「それなら心配要らへん。義経ちゃんの付き人がなおしてくれはるから。」と言うと、義経は後ろを振り向くとそこには兼房が立っていた。

義経が、わッ!吃驚したー。と言うと「兼房もいるなら一言何か言えよ。」と言った。

すると兼房は「お二方の会話を割って入るのは失礼かと思い。話の会話が終わるまで待っていただけですよ。」と返した。

義経は納得したように、それもそうだな。と言う。

そして響夜は別の空間を移動するゲートを開くと「義経ちゃん、約束は守ってよ。それと最後に忠告しはるけど、間違っても現世の地球に瞬間移動テレポートなんかしようと思うなよ。瞬間移動テレポート中は凄い速さで移動しとるから、そうしたら磁力によって身体に熱を持ってしまうんよ。そした熱に耐えきれない上に宇宙やから酸素のない場所は身体が圧迫するねん、そうしたら内臓が破裂して、地球に着いた頃には肉片しか残らんからオススメはせえへんよ。」と言った。

義経は顔を引き攣らせながら「あぁ、肝に銘じておく。」と言うと、響夜はフッと笑うと「ほな、次は学校の入試で。」とだけを言い残すと、そのままゲート中に入り。やがてゲートは閉じて消えてしまった。


響夜の最後の残した言葉に義経は「入試でって、アイツも試験を受けるのか?まあ、響夜から聞きたい事は山ほどあるし、それにアイツとはなんだかんだ上手くやっていけそうだな。あ、兼房。ここの片付け手伝ってくれるか?って待てよ。響夜のやつ!ここを手伝ってから帰れよな!」と思い出したかのように腹を立てるのであった。



そして義経と兼房が倉庫を片付け終えた頃。

桃太郎たちが倉庫の中の様子を見に来ると、義経が「桃太郎、話はもう終わって先に響夜のやつは帰ったぞ。それより飯食って早く寝るぞ。明日は朝早いしな。」と言うと「そっか、車掌さんだから忙しいんだね。」と桃太郎が言うと義経は「そうそう、忙しいみたい(いや、アイツ絶対、駅員じゃないだろ。)」と思っていると、リーシェが「今日は色々とありがとう!本当に助かったよ!でもその分犠牲もあったけど……でも過ぎたことをいつまでも悔いたらダメ!リーシェも明日は朝早いからもう行くね。それじゃあ再見またね!」と大きく手を振りながら去って行くと、2人は、またな(ね)!と見送った。


「さて、俺たちも行きますか。」


「うん、そうだね。」


そして夜は更け、時刻は朝6時。

東京駅に着いた3人は、フレデリックに指示された場所に向かうと、黒いスーツを着た紳士な老人が出迎えてくれた。



紳士な老人は深々と頭を下げると「お待ちしておりました。義経様とお付き添い様方。私はフレデリック様専属の秘書、ウィズでございます。どうぞお見知り置きを。」と丁寧な挨拶をすると、義経も深々と頭を下げ「こちらこそ、お世話になります。」と挨拶を返した。

ある程度挨拶を済ませると、ウィズは3人を車に乗せ、フレデリックの事務所へと向かった。

義経は事務所に向かう道中、興奮しながら「ウィズさん、この車ってイギリス製のロールス・ロイスですよね!ヤバッ!生で見るだけではなく乗れるなんてテンション爆上げなんだけど!」と凄くはしゃいでいると、ウィズは微笑みながら「義経様は車がお好きなのですね。」と言うと義経は急に遠くの方を見つめるように「そりゃあ勿論ですよ!そういえば過去の話なんだが、俺が車の免許を取った時に、爺ちゃんにポルシェのカイエンを祝いだって買ってもらったんだよ。俺あまりにも嬉しくてさ、当時付き合いたての彼女にめっちゃ自慢しまくってたんだよ。そしたら彼女がさ、ドライブデートしたいって言ってきたから、俺はOKを出したんだよ。それで当日、俺の実家にある愛車を自慢して彼女も凄く喜んでたよ。さあ、ドライブデートだってなって、俺は愛車に乗らずレンタカーで借りた適当な軽自動車に乗ると、彼女は不機嫌な態度で、はぁ?ふざけてんの?だぞ、俺は彼女にこう言ったんだよ。俺は一言も愛車でドライブデートするなんて言うてへんやろ。文句あるなら帰れや!って、そしたら何故かビンタされた上に死ね!って暴言吐かれたわけ、意味わからんやろ。そんで3日しか付き合わなかった彼女なのかよくわからない女と別れたわけ。いや3日なら彼女じゃなくセフ、ビッチな女だったな。あと親父は俺の愛車のメンテナンスをちゃんとしてくれているか心配だな。」と義経のグスエピソードを聞かされると、ウィズは苦笑いしながら「何も聞かなかったことにしましょうか。」と話を流した。


それから数分走ること20分。雑貨ビルなどが並ぶオフィス街に着くと、その一角にあるガラス張りのオシャレなオフィスビルに入ると、そのまま最上階へと案内された。

そして部屋に入ると、そこには見慣れた2人の姿があった。

義経は驚きながら「なんでここに、ことねとビスがいるんだ?」と訊くと、ことねはポテトチップスを食べながら「メールでフレデリックに呼ばれたから来たんだよ。何でも……。」と言いかけたところでビスが慌てて「その事ならフレデリックさんが説明するからそれまで待ってよ!」と言った。

義経は2人を怪しむように「何隠してるんだよ。」と言うと背後から「遥々遠い所から来てくれてありがとう。ゆっくり茶菓子でも食べながら話でもしよう。」と話すフレデリックは、義経たちをソファーに座らせて、フレデリックは話の本題に入った。


「今日集まったのは理由があって、君たちにはこれから1年近く強くなるために修行をしてもらう。その為には冒険者であるビスくんとことねくんの2人に協力してもらうことになるんだけど、ことねくん大丈夫?」


フレデリックがそう訊くと、ことねはビスの方を見ながら「ビス、これは一体どういう事か説明してくれるかな?」と何も聞かされていなかったことねがビスに訊くと、ビスは苦笑いしながら「ほら、僕たちのグループって今、活動休止中でしょ。それプラス、ギルドのお仕事もお休みなわけだし、この機会に少しでももっと強くなれたらいいなって思って、フレデリックさんに頼んだわけなんだけど、ことねは嫌だった?」と訊き返すと、ことねは脳内で(今より強くなる、団長より更に強くなる、周りにチヤホヤされる、強い魔物をワンパンで倒す、国に賞賛される、女の子にモテる、最高じゃん!)と馬鹿な事を考えながらことねは「俺、魔物は素手で倒したい派なんだ。その話乗ったよ。」と爽やかに答えると義経が呆れた様子で「お前、単純馬鹿ってよく言われるだろ。」と素直な感想を言った。


そして義経はフレデリックに「修行って単純にどんな事をするんだ?」と訊くと、フレデリックは「それなんだけど、まず2組に別れてもらうんだけど、チームとしてはビスくんと桃太郎くん。そしてトレーニングサポーターとして兼房くんに頼んでもらうよ。そして残りは義経くんとことねくんの2人なんだけど、2人のトレーニングサポーターは明日来ることになってるからよろしく頼むよ。」と言った。


フレデリックの説明を聞いた義経は「え、俺こんなアホエルフと組まないといけないの……せめて誠実なビスと組みたかったんだが。」とショックを受けていると、ことねが「誰がアホエルフだって!どっからどう見ても超絶イケメンのエルフじゃん!」と自信満々にいう、ことねに対して義経は横目で「冗談は顔だけにしておけよ。」と悪態をついた。


そしてフレデリックは「それじゃあ今日はゆっくり休んで、明日からはキツい訓練があるから覚悟しておくんだよ!ウィズ、みんなを部屋に案内してあげて。」と言うと、ウィズは畏まりました。と言い。

部屋を案内させるなか、義経だけフレデリックに呼び止められた。


「義経くん、ちょっと話があるんだけどいいかな?」


フレデリックに呼び止められた義経は「あぁ、別に構わないけど。」と言い。

フレデリックと2人で奥の部屋へと案内された。

奥の部屋に入ると、本棚や資料やら綺麗にきちんと整理されていて、フレデリックにソファーに座るよう言われると、義経は1人掛け用のソファーに座った。


「急に呼び止めてごめんね。義経はコーヒーと紅茶どっちがいい?」


フレデリックがそう訊くと「んーコーヒーだと口臭気になるけど紅茶も何だかんだでカフェイン、いやコーヒーと変わらんか。じゃあミルクたっぷりのコーヒーで!」と言うとフレデリックは苦笑いしながら「それじゃあ、キャラメルラテにしよっか。」と言いながら自分の分と義経の分を用意した。


フレデリックもソファーに腰をかけると「さてと、本題に入るけど昨日は鬼に出くわさなかった?」と聞かれると、義経は昨晩の悪鬼と響夜との出会いを思い出した。


「そうそう!昨晩、夜行列車の中で悪鬼?とかいう化物と染井響夜っていう少年と出会ったんだけど、師匠は響夜っていう人物を知ってたりする?なんか悪鬼とか鬼の書について、色々と知ってたみたいだし。」


義経がそう訊くと、フレデリックは「さぁ、僕もいろんな人の情報を知っているけど、僕の情報の中に染井響夜はいないかな。」と言うと、義経は「そっか、師匠でも知らない情報はあるんだな。」と言った。

フレデリックは困った表情を見せると「基本、僕の仕事は依頼された人の情報を探って提供するくらいだから、流石に全世界の人の情報を知り得ないよ。」と少し冗談ぽく言った。

義経も、だよなー。と苦笑いした。


フレデリックはコーヒーを一口飲み終えると「それで鬼の話はどうでもいいんだけど、義経くんの能力スキル暗黒物質ダーク・マター。あれとはまた別のマグマターを習得して欲しいんだ。」と言うと義経は「暗黒物質ダーク・マターの親戚かなんかか?」と訊いた。


「宇宙関連の系統としては同じなんだけど、マグマターはどちらかというとブラックホールに近い存在でブラックホール以上にヤバいやつだと考えたほうがいいかも。」


フレデリックがそういうと義経は「え、暗黒物質ダーク・マターってギャラクシーな感じなの!?あの見た目で?」と驚くと、フレデリックは少し呆れた様子で「なんでそんな事も知らないの。まぁ、その話はいいんだけど。暗黒物質ダーク・マターは質量をあるけど電磁波を放射しないのが……そうだね、義経くんの暗黒物質ダーク・マターは吸収力のない物体だと思えばいいよ。それで、マグマターなんだけど、暗黒物質ダーク・マターとは逆の全ての物も吸収する力を持っている。」と説明をすると、目が点だった義経は「吸収って人も吸収するのか?」と訊いた。

フレデリックはコクリと頷くと「能力スキルも人もできるよ。マグマターに吸収された者は宇宙のどこかに吐き捨てられるんだけど、何せ宇宙は知っての通り、酸素がない。酸素がなければ死んだも当然。仮にどこかの星に辿り着いたとしても最悪な環境の僻地に飛ばされた上に能力スキルも魔力も奪わられた人間はまず生きれないだろうね。」と説明した。

その話を聞いた義経は顔を青ざめながら「師匠ってたまに凄いこと言うよな。」と言うとフレデリックはニコッと笑いながら「悪いことしようとする人が悪いんじゃない。」と答えた。

義経は納得するように確かに。と一言言った。


「それで、どうすればそのマグマターっていうやつの能力スキルを手に入れるんだ?」


義経にそう訊かれ、フレデリックは「簡単だよ。義経くんの暗黒物質ダーク・マターを使いながら更に限界突破の3段階まで上げればマグマターも簡単に習得できるはずだよ。」と言った。

義経も「へぇー、師匠がそう言うなら簡単に……んなわけあるかッ!え、2段階はまぐれでいけたけど、次はそうはいかんだろ!俺、明日から地獄の特訓とか嫌だよ?」と言い出すと、フレデリックは笑顔で「義経くんなら大丈夫だよ。もしできなくても、僕がサポート役として義経くんを特訓させてあげるから安心して。」と言うと、義経は不安そうに「安心できねぇよ。」と言った。


「さて、話はここまでだよ。義経くんも部屋で休むなり、東京で遊びに行くなり自由にしてていいよ。」


フレデリックにそう言われると、義経は「表参道に気になってたスイーツ店があったんだよな。あとで桃太郎と一緒に行くか。あ、そうだ師匠。」と何か思い出したかのように言うと「この世界に転生して思ったんだけど、俺の脳内?というか何というか、ステータスとは別に文字が浮かび上がるんだ。なんかナビゲーター的なアレみたいやつなんだが、どうやら俺以外その機能が使えないんだが、師匠は何か知らないか?」と訊いてみると、フレデリックはフフッと笑うと「そりゃあそうだよ、だってそれ送ってるの僕だったからさ。」と答えた。

フレデリックの言った言葉に義経は、え?という顔をすると「どういうこと?」と訊いた。


「会う前に何かしらコンタクトをとってみたかったんだ。別にすぐ会うのもよかったんだけど、こっちも色々と忙しくてさ。結構役に立ったでしょ?」


フレデリックがそういうと義経は「いや、寧ろ途中から不快だったが。」と返すと、フレデリックは笑いながら「ごめん、なんか返すのめんどくさくて適当になっちゃった。もうこの能力スキルは不要だから使うのはやめるね。」と言った。

義経は少し不機嫌そうに「通りで師匠と会った時から返事がなかったわけか。まぁ、いい。俺はもう行くよ。」と義経はそう言いながら出て行くと、フレデリックは「うん、楽しんでいってらっしゃい。」と見送った。


そして静まり返った部屋に突如ゲートが現れると、そこから響夜の姿が現れた。


「フレデリックちゃん、急で悪いんやけど、お風呂貸してくれへん?」


響夜がそういうとフレデリックは「別にいいけど、何で昨夜の晩、変装もせずに義経くの前に現れたの?」と訊くと響夜はニッと笑うと「別に変装してもよかったんやけど、俺も義経ちゃんと同じ学校に通おうと思おてな。やから最初の挨拶にと思おて会ってみたんよ。」と言うと、フレデリックは察した様子で「そんな回りくどいこと言わないでも、響夜くんが何故、義経くんに会ったか知ってるんだよ。」と言った。

響夜は笑いながら「やっぱりフレデリックちゃんに嘘は通用せんなー。そうや、義経ちゃんはあの忌々しい事件の被害者の関係者やからや。本当のこといいはると、鬼の書やマーリンなんか興味あらへんのや。俺の本当の目的はただ一つ。あの男を地獄に叩き落とすことだけや。その為に義経ちゃんと接点をつなぐ必要があったんよ。」と話すと、フレデリックが「響夜くんを殺した犯人。僕知ってるけど教えようか?」と言うと、響夜はきっぱりと「フレデリックちゃん。これ以上俺に犯人の関わりだけやなくて答えまで教えられたら萎えてまうからやめてくれはる。こういうのは自分で解決して喜びを得たいからさ。わかる?」と言われるとフレデリックは「んー、まあ、響夜くんがそう言うなら僕も黙っておくよ。」と言った。


響夜は嬉しそうに「ありがとう。ほな、風呂借りるよ。はよこの黒髪を落としてピアスを付けはりたいからさ。」と言いながらお風呂場へと向かった。

数分後に響夜が戻ってくると、髪の毛をタオルで乾かしながらドライヤーってどこなん?とフレデリックに訊くと、洗面所の下にあるはずだよ。と答えた。

そして更に数分、黒髪だった赤髪の黒のインナーカラーに戻ると。肩まである髪の毛を少し後ろに結び。そして沢山のピアスを耳や頬などに付け終えると、フレデリックの部屋へと戻った。


「さっぱりしたー、フレデリックちゃん、お風呂貸してくれてありがとう。」


響夜がお礼を言うとフレデリックは「どう致しまして。それより響夜くんも学校に通うんでしょ。」と言うと響夜は「フレデリックちゃん、俺は特訓しひんでも十分に強いから断るよ。」と言った。

フレデリックはクスッと笑い「そうじゃなくて、学校に通ったら君へのサプライズが待ってるから楽しみにしてて、て言おうと思っただけ。」と言うと、響夜は疑問符を浮かべながらサプライズ?と訊き返すと「うん、来年のお楽しみということで。きっと驚くと思うよ。」と言った。

そんなフレデリックの意味ありげな言葉に響夜は「フレデリックちゃんって、他の大罪の人らと違って面倒見ええし、何より思いやりがあるよな。」と言うと、フレデリックは嘲笑うかのように「僕に思いやりなんかあるわけないじゃん。僕は自分のメリットのあることしか行動しないし、それに今までだって切り捨ててきたんだよ。色んな人をさ。」と話すと、響夜は「切り捨ててるなら、俺の本名も知ってはるし。なんならそれ利用に俺をこき使うことだってできるやろ?やけど、フレデリックちゃんはそんな事せえへんし。するとしても頼み事やん。やから俺はフレデリックちゃんの事、実は1番信用してはるし、信頼もしてはるよ。」と笑うと、フレデリックは少し照れ臭そうに「そう言うこと今まで言われた事ないから、いや。うん、ここは素直にありがとうだよね。」と顔を背けると、響夜はニヤニヤ笑いながら「あっれー、フレデリックちゃん、もしかして照れてはる?本当に可愛い人やな。」とからかうが、フレデリックはニコッと笑うと「少し驚いただけだよ。それよりも響夜くんは、復讐なんてできるの?」と訊かれると、響夜は左手に付けられた手錠に触れながら「俺は自分のクソみたいな環境の中で、底辺どもを操って互いに潰し合わせてきはった。ゴミグズどもが争う姿は本当に滑稽で自分の憂さ晴らしにもなったんよ。そんな中で冬夜とうや兄だけが、俺の事を心配しはってくれた。だから許さへんのよ、事件の関係のない俺を殺すのはまだしも、無実の兄貴をも殺した、あのシスコン野郎を絶対に許すわけないやろ。」と怒りに満ちた響夜に「まぁ、あんな惨たらしい殺され方したら復讐したくなるのもわかるよ。それで僕に頼み事があってきたんだろ?」と言った。


響夜は不気味な笑みを浮かべると「あぁ、そうや。あのクソ野郎の妹についてと、消息状況について調べて欲しいねん。」と言うと、フレデリックは「可愛い後輩の頼みだからね、いいよ。その代わり僕からの頼みもあるんだけど大丈夫?」と訊き返すと、響夜はニコッと笑い「別に構わへんよ。で、頼み事ってなんや?」と訊くと、フレデリックは響夜にメモの手紙を渡すと「そのメモに重要なミッションがあるから頼んだよ。まぁ、響夜くんの呪詛があれば余裕な仕事だよ。」と言うと、響夜はニッと笑い「俺に不可能な仕事はあらへんからな。てことで交渉成立やな。」と言いながら、またゲートを開くと「ほな、また後で。」と言うと、そのままゲートの中に入ると、ゲートは閉じ消えてしまった。


再び静かになった部屋で、フレデリックはブレスレットに触ると「あと少しだけ我慢しててね。必ず僕が君を助けるから。」と小さく呟くのであった。

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