28話 脳筋頭による地獄の訓練


翌朝。

義経はダイニングルームへ向かうと、すでに3人は朝食をとっていたところだった。

桃太郎が義経の存在に気づくと、おはよう、若。と挨拶をした。

すると、ことねもおはよう。と言いながら義経の方に顔を向けると「うお!随分とバッサリ髪切ったな。何々、イメチェン?」と訊かれると義経は「イメチェンも何も俺はロングが嫌いだから髪切ったんだよ。本当はジョン・ステイモスみたいなイケメンと同じ髪型にして可愛い姪っ子にワカお兄たんって呼ばれてみたかったけど、姪もいなければ、髪型も絶望的に似合ってないから秒でやめたよ。クソがッ!どうせ生まれ変わるならブラピみたいなイケメンが良かったわ!」と、3人が少しドン引きしていると桃太郎が「でも若。髪の毛って切っていいんだっけ?」と言われると義経は何かを悟ったように「源家の格上とか、どうでもいい。俺に残されたのは虚無だけだ。」と穏やかな表情を見せると、ことねが「それもう終わってんじゃん。」とつかさずツッコミをいれるのであった。


そして朝食を終えた4人は、2組に分かれてそれぞれの訓練所へと向かっていた。


義経は隣を歩くことねに「なぁ、俺たちの指導者って、どんな奴なんだろうな。」と言うと、ことねは「きっとめちゃくちゃ美人なお姉さんだよ、絶対!」と下心丸見えなことねを見て義経は「めでたい頭だな。師匠のことだから脳筋バカみたいな筋肉野郎を雇いそうだな。」と会話をしながら訓練所に着くと、やたらガタイのいい男性が仁王立ちしながら待っていた。


「マジかよ、本当に筋肉バカみたいな野郎がいるじゃねぇか。」


義経がそう云うと、ことねは義経の肩に手を乗せると「義経、責任は取れよ。俺はビス達の方に入れてもらうからさ。あとは任せたぞ。」と言いながら来た道を戻るが、義経がすかさず肩を掴むと「いやいやいや、馬鹿言うなよ。ここは潔く共倒れの道だ。逃げるという選択は俺が絶対許さない。」と引き留めた。

そんなやりとりをしていると、ガタイのいい男が2人に近づきながら「君たちが、義経とことねか?」と話しかけられると、2人は真顔で「いや、人違いだと思いますよ」と答えた。


男は大きく口を開けると、ワッハッハッハッハッハ。と大笑いしながら「2人のことはフレデリックから聞いている。なんでも俺みたいに美しい筋肉のある男になりたくて、俺に頼み込んできたみたいだな。見よ、この綺麗な上腕二頭筋を!」とニッと笑う男に対して2人は冷めた表情をしていた。


義経は呆れながら「いや、俺たちはゴリマッチョになりたいわけじゃなくて、魔法と剣術を極めにきたわけで、筋トレしにきたわけじゃないんだが。」と強く否認した。



男はまた大きく笑うと「ワッハッハッハー!冗談はこの辺にしておき、改めて挨拶をする。俺の名は西代大毅にしだい だいき。筋肉ギルドのギルマスでもあるんだぞ、よろしく頼むな!」と義経に手を差し伸べた。


義経も、あぁ、よろしく頼む。というと西代の手を握り返した。

すると西代はいつもの加減で握り返すと義経は涙目になりながら「あだだだだだだーッ!痛いってバカ!死ぬ、これ死んじゃうやつだよ!本当、いい加減にせえやーッ!」と喚くと、西代は笑いながら「こんなもんで根を上げていたら、この先が思いやられるぞー。」とニコニコ笑っていると、義経は睨むように「クソが、そう云う話じゃねぇだろうがッ!」と手首を掴みながら涙を堪えていた。

そんな西代は気にせず、ことねの方へ向くと「さ、ドラゴンの討伐に行くぞッ!」というと、ことねの背中をバシッと大きな音が鳴るくらいに掌で強く叩いた。

その衝撃に、ことねは地面に倒れ込むと「絶対わざとだろ、この筋肉バカ。」と涙目を浮かべていた。


そんなこともお構いなしに西代は2人に「時間が惜しい、強くなりたいんだろ。なら、俺に任せろ!」と自信たっぷりに話す笑顔が2人にとっては憎らしくたまらないようだった。


「ねぇ、義経。この訓練が終わったらフレデリックさんに抗議しに行かない?」


「あぁ、同意だぜ。もし拒否られたらボイコットだな。」


「そうだね。」


2人は西代に聞こえないように話しながら、ドラゴンの狩場へ着くと。

西代がニカッと笑いながら「じゃあ早速、あのドラゴンを倒してみろ。俺はここでお前たちの実力を見ているから、遠慮せずにドンドン行け!」と話す西代に2人はイラつきながらも、義経はことねに「そういえば、ことねってどんな魔法が使えるんだ?」と訊いた。




「俺の魔法はそんなに凄くないけど、結界と治癒魔法の初級程度ならいけるけど、俺の家系のエルフはなぜか、能力スキルを使用するとゲロっちまうんだよ。もう滝のようにさ……。」


ことねが泣きながら話していると、義経は「あーオーケー。わかった、無理はするな。」と言いながら眠っているドラゴンの方へ向かっていく。

ことねは申し訳なさそうに「役立たずでごめん。でもサポート役なら任せて!」と義経の後を追った。


義経は眠っているドラゴンに暗黒物質ダーク・マターを撃ち込むと同時にドラゴンは目を開くと、大きな翼で暗黒物質ダーク・マターを撃ち返した。


「え、今までの魔物と桁外れに強くない?あの筋肉バカ、レベル設定ミスしてるだろ……。」


義経は気を取り直して、鞘から刀を素早く抜くと、そのままドラゴンの眼を狙い始めるが、ドラゴンも口から炎のブレスを吐きながら暴れ始めた。


義経は地面から吹き上がりそうなマグマに気をつけながらドラゴンの攻撃を避けていた。そして次の攻撃チャンスを伺いながら、ドラゴンの動きをよく観察し始める。



あれから5分くらい経ち。義経たちは灼熱の炎の中、いつ地面からマグマが噴き上がるかわからない恐怖の中。

硬い鱗で覆われた大きなドラゴンは翼を大きく広げ、義経とことねを狙いながら炎のブレスを吐きながら攻撃をしかけてきていた。


「ひぃぃッ!もう無理だよ!死んじゃうッ!!」


泣きながら岩陰に隠れることねに、義経はブチ切れながら「隠れてねぇでお前も戦えやボケッ!指詰めんぞッ!!」と、ことねに脅迫するも、ことねは恐怖で身動きできない状態に陥っている。


「チッ、クソも役にたたねぇな。仕方ない、ここは俺1人で一気に詰めるしかない!」


義経は暗黒物質ダーク・マターを発動させると、一気にドラゴンめがけて集中攻撃を狙う。

その刹那、義経の背後からもう一体のドラゴンが現れ。

義経の背後を狙う。義経が気づいた時には合間を責められていて、すぐにはスキルを発動できない状態に陥っていた。


(まずい……このままじゃ殺られるッ!?)


そう思った瞬間、義経の周りに強い結界が張られていた。


「お、俺だってオェッ、役オェッ立てるんオエェェェッ。」


間一髪のところで、ことねがゲロを吐きながらも必死に結界を張ったことで2人のみは無事だが、長くは持たないことを考えていると、義経はふと拳を見つめた。


(もしかしたら、拳に魔力を溜め込めれば強いんじゃね?)


「考えてる暇もねぇな。ことね、助かった。もう結界は解いていいぞ。」


「オェッ、大丈夫オェッなのオエェェェ。」


義経は呆れながら「いや、お前が大丈夫じゃないだろ。」というと、ことねも頷きながら限界と云うと同時に結界が解け、そしてドラゴンたちが義経の方へ向かってくると義経は拳に魔力を溜め込みながら「とりあえず何か凄いパンチーッからの右アッパー!」と叫びながらいうと、ドラゴンは失神したのかその場に倒れ込み、もう一体のドラゴンも義経の方へ向かって来るが、義経は地獄門ヘル・ゲートと発すると大きな門が現れると、ドラゴンは無数の手によって門の中へと引き摺り込まれていった。


ドラゴンを倒した義経は「これが俺の実力じゃボケェッ!」と叫ぶと、その場に倒れ込むように気を失ってしまった。


あれから数時間が経ち、日もすっかり落ちた頃に、義経は目が覚めると「よく眠れた?」とフレデリックが話しかけてきた。

義経は昼間のことを思い出して「師匠!眠れたも何も、あのクソ脳筋野郎を今すぐ解雇しろ!じゃなきゃ俺らの身が持たねえ!」と話すが、フレデリックは困ったように笑うと「義経くん、後もう少しだけ我慢すれば、ちゃんとした指導者が来てくれるから、それまでの辛抱だよ。義経くんたちなら大丈夫だって僕信じてるからさ。」と云うと、義経は少し絶望しながら「やっぱりあの脳筋、まともな指導者じゃねぇのかよ。そもそも上腕二頭筋見せて来る時点で怪しいんだよ。なんで師匠はあんなやつ雇ったんだ?」と訊くと、フレデリックは口角を上げると「それは君たちの実力を彼に見せるためだよ。」と言った。


義経は「彼ってことは男なのか?」と訊くとフレデリックは「そうだよ、かなりの曲者だけど相手への洞察力はかなり鋭いよ。だから義経くんの戦い方で瞬時に弱点を把握できるから、それを改善させるために、効率の良い戦い方と魔力の使い方を教えてくれると思うよ。」と説明した。


「曲者は気になるが、それで強くなれるなら我慢だよな。そういえば師匠。俺の戦い方って第三者から見た感想はどんな感じなの?」


「結構辛辣なこと言うけど、義経くんの戦い方は、まだ基礎がまるでなっていない。例えるなら5歳児の子供が的当てゲームで当てずっぽうで撃ってる感覚だし、周りの状況をよく見ていない感じがするかな。もしあの場にことねくんがいなかったら、もう一体のドラゴンによって片腕を失ってた可能性が高いよ。君は綾燕との戦いで何も学んでいないし成長もしていない。強くなりたければ魔力の使い方の基礎を学ぶべきだね。」


フレデリックにそう言われ、義経は今日の戦い方に思い当たるのか素直に「確かに周りの状況を把握せずに一体のドラゴンに集中して、もう一体のドラゴンの気配すら気づけなかった。これからは真っ直ぐ前を見るんだけじゃなく、もっと視野を広めて戦おうと思う。」と、少しづつ成長していく義経にフレデリックは嬉しそうに「うん、義経くんならきっと上手くいけるよ。それじゃあ僕はもう戻るよ。」と云うと部屋を出ていった。


フレデリックが出た後、義経は重たい身体をお越しリビングルームへ向かうと、桃太郎が1番に心配そうに「若、身体はもう大丈夫なの?もう少し休んだら?」と云うと、ソファーで寛ぐことねも「そうだぞ!俺みたいに喉を休ませてだな、のど飴をいっぱい舐めろ!」と言い張るが、呆れた様子でビスが「それはことねの場合でしょ。義経くんも大丈夫そうだったら夕食を食べるといいよ。」と言った。

義経は椅子に座ると「それもそうだな、とりあえず軽いものでも食べようと思うよ。それと桃も心配してくれてありがとう。俺ならもう大丈夫だ。」と笑うと、桃太郎は「それならいいんだけど、あまり無理しないでね。それじゃあ僕たちは先にお風呂もらうね。」と云うと、桃太郎とビスはお風呂場へと向かった。


そして義経は予め用意されていた夕食を温めると、テレビのリモコンを入れた。

テレビ画面には少女が写っており何やら取材をしている様子だった。


『モデルでタレントの汐田庵美さんが、あの名門高校を受験!?

モデルでタレントの汐田庵美さんが人気ゲームのモンスタークエストのイベントで重大な発表を。』


アナウンサーがそう説明すると、映像に写る少女の音声が入ってきた。



『汐田さん、来年受験生ですよね。噂で聞いたのですが、あの難関とも呼ばれる冒険者養成学院の特待生組を受けると聞いたのですが、あの噂は本当なんですか?』


男性がそう話すと、汐田は『はい、本当です。』と答えると『なぜ受けようと思ったのですか?』と次は女性が質問をしだした。

汐田は女性の質問に答えるように『そうですね。この業界でやっていくのも全然いいんですが、やっぱり新しい事に挑戦といいますか。私自身、冒険者に強く憧れがありまして、この機会に本気で取り組みたいと思ったんです。』と云うと先ほどの男性が『つまりそれは冒険者を本業にするという事ですか?』と訊かれると、汐田は『今はまだタレントとして活動しますが、いずれかは冒険者を本業にしたいと思っています。』と答えた。

そして司会者の女性が『汐田庵美さん、ありがとうございました。続いてのゲームの紹介をしたいと思います。』と流れたところで映像が切り替わり、女性アナウンサーが別のニュースの話題を紹介し始めた。



そしてニュースを見ていたことねが「そういえば義経も冒険者養成学院を受けるんだっけ?」と云うと、義経はお茶を飲み終えると「まぁ、師匠に勧められたし。それに昨日のアイツも気になるしな。」と話すと、ことねはニヤニヤしながら「なになに、好きな子も受けるわけ?」と冷やかすが、義経は呆れた表情で「残念だけど、女じゃなくて野郎の話だよ。」と答えると、ことねは苦笑いしながら「あー……そっち系ね。理解した。」と勝手に解釈し義経は更に呆れた様子で「なんでそう解釈する。俺はノンケじゃねぇぞ。」と否定した。


「俺が気になるって話は、ちょくちょく世界でニュースになっている鬼化の話題の方な。それで昨日会ったやつが鬼について知ってそうって話なわけ。」


義経がそう説明すると、ことねはポテトチップを食べながら「そういえばそんな話あったね。何かの疫病か知らないけど、最初の発症場所が確かイギリスだったっけ?急に化物に変化して人を喰らうことから悪魔だなんだで世界中がパンデミック状態なのに、日本は平和ボケなのか知らないけど危機感が欠けてると思うよ本当に。」と呆れながら話すことねに義経は「その危機感に欠けてる部類にお前も入るけどな。」と話すと、ことねは口を尖らせながら「それは侵害だな。俺だって自分に危機が迫った時は、いつでも逃げれるよう訓練してきたからな、そこは安心しろ!」と自信を持って話すことねに対して義経は「それでも冒険者かよ。」と呆れていた。


そして夜は更け、義経たちは明日の訓練に備え。早めの就寝についた。

この時の義経たちはまだ知らないでいた。

明日の訓練が更なる地獄が待っているとも知らずに……。

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