23話 最終決戦(上)


静まり返った洞窟の中、滴る雫の音だけが一定に鳴り響く。

そんな中、彩里と悠人は音を立てないよう息を潜めていた。


悠人は怯える彩里の手を握りしめると小声で「俺が囮になっている間に、その隙に逃げろ。俺の事なら心配はいらない。」と話すが、彩里は首を横に振り「悠人を置いていけない。アタシも一緒に戦うよ。」と言うが悠人は彩里に優しく微笑むと「安心しろ、必ず追いつく。」と抱きしめた。


そんな優しい悠人の言葉に、彩里は涙を堪えながら「やっと出会えたのに、また離れ離れになるのは嫌だよ。悠人の側に……。」と言いかけたところで、悠人は優しく彩里に口付けていた。

あまりの出来事に驚いていると、悠人は彩里から離れ。

敵のいる方へと走り出していた。


彩里もすぐに悠人の後を追おうとしたその刹那。

突如、大きな壁が作られ。その先に進む事は不可能な状況だった。

彩里は壁を一生懸命、グレネードで破壊するが壁はびくとも壊れる事はなかった。



閉ざされた空間の中、悠人は次々と暗殺組織アサシンギルドたちを壊滅させていくと、遠くの方から聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「久しぶり、悠人。」


その声の持ち主は、この組織ギルドを率いるトップであり、今回の原因となる綾燕が立っていた。


悠人はギリッと歯を噛み締めると「綾燕、あの時の決着をつけよじゃねぇか。」と睨みつけていた。


綾燕はニヤリと笑うと「僕は構わないよ。でも、この場にいる時点でお前の負けなんだよ。」と言うと、悠人に無数の蜘蛛たちが襲いかかるのであった。





*************



その頃。義経たちはどこへ向かえばいいのかわからず、ただひたすらに歩き続けていると。

デュラハンのリークが急に足を止めた。

その様子に義経は、どうした、敵襲か!?と言うと凪亮が青ざめた顔で「ここここは、ここは…わ、我に任せるなりよ!」と足を震えさせながら義経の背後に身を潜めていた。


義経は呆れながら「めっちゃひよってんじゃねえかよ、ダッセェ。」と言いながらリークに様子を訊いてみた。

すると紙とペンを取り出すと紙に何かを書き始め、書き終えると義経に紙を見せた。


「なになに、フレデリック様が用事を済ませたみたいなので、もうすぐこちらへ合流しますって師匠がいれば綾燕の野郎なんかクソ雑魚やん!」


義経は少しでも楽できる嬉しさに喜んでいると「随分と余裕だね、義経くんは。」と、突如どこから現れたのかフレデリックがニコニコ笑いながらそう言った。

急に現れたフレデリックに驚きつつも、義経は少し疑問に思ったのか「あれ?確か異世界主人公みたいな奴と女2人はいたけど、まさか師匠、ハブられてボッチになったパターンですか?」と笑いながら言うと、フレデリックは少し深刻そうな顔をして「それが途中で暗殺組織アサシンギルドと応戦状態になって、僕も加勢しようと思ったんだけど、急に僕の目の前に壁が現れて、それで壊したんだけど、向かっている最中に別件でトラブルが起きちゃってさ。そのまま3人とは別々になったって感じなんだよね。」と説明をした。


フレデリックの説明を聞いた、夢姫と愛瞳は慌てた様子で「充さんたちが心配だわ。私たちは仲間の安否を確認いたしますので、ここで別行動させてもらいます。」と夢姫が言うと、愛瞳も頷きながら「そうだねー。充っちたちが心配だし、ここで一旦お別れだねー。」と言った。


義経は2人の少女に「そうですか。まあ、2人かけようが綾燕とかいう雑魚は俺たちだけで余裕よ。」と余裕な発言をしていると、フレデリックは義経の隣に立つと「僕は一言も手伝うなんて言ってないよ。」としれっと言った。

そんなフレデリックに義経は2度見しながら「え、師匠ご冗談をー……え、マジ?」と少し気を落とすのであった。


その後、2人と行動を別にした義経たちは、綾燕がいるであろう拠点に向かっていた。

嫌に静まり返る洞窟の中、義経とフレデリックは前方を歩きながら「本当にこの先に親玉はいるんすか師匠。」と聞きながら進むとフレデリックはニコッと笑いながら「大丈夫、今度こそ2度目の正直だよ!」とピースをした。


義経は少しイラつきながら「そう言ってかれこれ6度目になるが!!これでスカだったら流石の俺も堪忍袋の緒が切れるぞ!」と言いながら壁をぶち壊した。

すると、音に反応したのか、一斉に柄の悪い男たちが集まって来た。


義経はニッと笑うと「どうやら此処が当たりみてぇだな。」と呟くと、男たちの方を睨みつけながら大声で「おい、クソッタレ集団ども!!お前らのクソみてぇな親玉は何処だッ!今すぐ呼びやがれ、このクソ雑魚どもがッ!!!」と怒りをぶち撒けると、3人ほどの男たちが義経に向かって「舐めるんじゃねえぞ!クソガキがッ!!」と近接武器を構えながら義経に斬りかかろうとするが、その一瞬の隙を見せずに義経は宙を舞うと、暗黒物質ダーク・マターを発動させ。そのまま3人の男の頭を貫いた。


ドサッと倒れ込んだ男に近づくと「師匠、人って呆気なく死ぬんですねー。」と言うとフレデリックは不思議そうに「もしかして罪悪感とかあるの?」と訊かれると、義経は他の敵たちを睨みつけながら「いや、罪悪感というよりも。悪さをしているヴィランどもを抹消できて俺は寧ろ清々しいよ。それに俺はヒーローにはなれない。でもその分、悪事を働いている奴らを制裁できるって事だろ。それってダーク・ヒーローの素質ありって事じゃん。最高すぎるだろ。」と不気味な笑みを敵たちに向けた。


男たちはゾクッと冷や汗をかきながら武器を握りしめると1人の大男が「相手はガキと貧弱な男しかいない。それに数はこっちの方が……」と話している最中に義経は大男の首を斬り落とすと「ガタガタ、ガタガタうるせぇんだよッ!こっちは綾燕とかいう野郎を始末するイベントが発生してて、ずっとイライラしてるんだよ!グダグダ言ってねぇで、さっさと親玉出しやがれ三下どもがッ!!」と刀をブンブン振り回しながらキレていると、奥の方から「随分と騒がしいですね。一体何事なんですか?」と話しながら現れた男を見て、義経とその場にいた人たちは驚いていた。


「あ、あれって周殿の殿方ではないでござらんか……死んでないでござらんよな。」


ガクガク震える凪亮をよそに義経は「綾燕とかいうクソ野郎はお前か?本当、やる事が回りくどくて悪趣味だな。」と睨みながら言うと綾燕はニッと笑い「初対面の子供にここまで言われるとは、まあ、いいだろう。この男を殺す前に、先ずはお前らと遊んであげるとしましょう。」と綾燕が言うと、右手に掴んでいた悠人を離した。


そしてゆっくりと義経に近づくと、綾燕の腕から無数の蜘蛛たちが義経に向かって行く。

義経は苦い顔をすると「うげッ!2、3匹ならまだしも何万匹の数となると気持ち悪りぃな。」と言いながら義経は刀を構えると、そのまま素早く無数の蜘蛛たちを斬り刻んでいく。

すると、斬られた蜘蛛たちの体内からベタベタした糸が義経の身体に纏わりつき、動きを鈍らせ体力を消耗させるという罠にまんまと引っかかった義経は一生懸命、糸を振り解こうとしていた。


「なんだよこれ!!動きづらくてクソうぜぇッ!」


イライラしている義経にフレデリックが呆れた様子で「それはトラップ用の小蜘蛛たちだよ。わざと斬らせて、相手の体力を消耗させる厄介なトラップだけど熱には弱いんだよな。」と説明をすると、右手から黒炎を出し。

そのまま義経に纏わりつく蜘蛛たちを払い除けた。


「サンキュー師匠!」


身体に纏わりついてた蜘蛛や糸が払い除けられ、自由になった義経はフレデリックにお礼を言うと、再び綾燕の方を向き「小賢しいクソ野郎が、男なら正々堂々と戦え!じゃなきゃ俺だってもっと卑劣な能力スキル使うぞ!いや、使わせてもらう!」と半ギレになりながら喚いていた。


そんな義経の態度に綾燕はニコニコ笑いながら「それじゃあ僕も少々遊んであげようじゃないか。」と言った刹那。

義経との間を一気に詰め寄り、刀を振り翳すが、瞬時に義経は刀で身を受け鈍い金属音が洞窟内に響き渡った。


「ふっざけるなぁッ!危ねえじゃねえかよ!一方遅れてたら俺の身体が真っ二つになるところだったじゃねぇかッ!殺す気かボケッ!……いや、そういえば殺し合いだから間違ってはないか。」


少し冷静に自分でツッコミを入れると、義経は一旦綾燕との距離をとり。

腐食の鉄槌を2段階に上げ、綾燕に刀を向けた。


「10分、10分で全て方を付けさせてやるよ。」


睨みつける義経に、ニヤッと不気味な笑みを見せると「粋がんなよクソガキが。」と言いながら、綾燕は複数の猛毒蜘蛛を召喚させた。

義経は苛立ちを抑えながらも、軽やかに蜘蛛たちを躱すと暗黒物質ダーク・マターで蜘蛛たちを排除していく。



義経が蜘蛛を相手している中、ピクリと悠人の手が微かに動くと。

ゆっくりと重たい身体を起こし、刀を握りしめ。綾燕へと立ち向かって行った。

その行動にすぐに気づいた綾燕は、悠人の攻撃を最も容易く躱すと、眉をひそめながら「ゴキブリの生命力だな。本当に鬱陶しい。」と言いながら悠人に斬りつけようとした、その刹那。

カキンッと何かを弾く音が鳴ると、綾燕の持っていた刀が弾き飛ばされ。そのまま地面に突き刺さった。


「綾燕ッ!これ以上、悠人には傷一つつけさせないッ!!」


そこには魔法銃を構えながら言う彩里が立っていた。


「悠人さん、大丈夫ですか!」


そのすぐ背後には途中で彩里と合流した。桃太郎とビスと、そして遠くの安全な位置からことねが様子を伺っていた。

「みんな、俺なら大丈夫だから安心して!」と言いながらガクブル震えることねを呆れながらビスが「誰もことねの心配なんて、してないから。」とすかさずツッコミを入れた。



「おい!手が空いとるなら早よこっちの方、手伝えやボケッ!!」



怒りを抑えきれない義経が怒鳴ると、フレデリックが「え、まさかこんな雑魚1匹もろくに倒せないの?」と煽ると、義経は「はぁ?師匠だからって舐めた口聞くなよ!こんな雑魚俺1人で十分だよクソがッ!!」と蜘蛛を一掃していく。

そしてその場にいた人たちが、上手く利用されているな。と思いながらも誰も義経の加勢には入る事はなかった。



義経たちがそんなやりとりをしている中。

綾燕は彩里の顔を見るなり、うっとりした表情で「やっと僕の元に来てくれたんだね。もう大丈夫だよ。今すぐ悠人や他の者を始末し終えたら僕と彩葉で静かに暮らそう。」と愛おしそうに話すが、彩里は綾燕を睨みつけると「ふざけないで!誰がアンタと一緒に暮らすものよ!もう、昔のアタシとは違うの。今此処で全てを終わらせる。」と言うと綾燕に魔法銃を向けた。


綾燕は彩里の態度が気に入らなかったのか、懐から魔操銃を取り出すと悠人の頭に銃口を向けトリガーに指をかけたその刹那。

鋭い針のような黒い物体が綾燕の右腕を素早く切断させた。

そして宙を舞った腕は地面にドサッと落ちると、義経がニッと笑いながら「俺のことも忘れるなよ。クソ野郎が。」と、吐き台詞を吐いた。



そして綾燕は、自分の腕を斬られた事により。

凄まじい形相の顔で義経を睨みつけると「ガキが、調子に乗るんじゃねぇぞ!お前だけは楽には殺してやらねぇッ!!」と怒りに満ちると、綾燕の額の眼が見開き、徐々に人ではない形へと変化していく。


「マジか、腕が再生されてやがる。しかもあれってどう見てもアラクネだよな……でもアラクネって女じゃなかったか。いやでも、スパイダー系のヒーローで女もいたからアリなのか?」


1人で自問自答していると、綾燕は義経に蜘蛛の糸で攻撃をし始めた。

義経は綾燕の攻撃を躱しながら自分がターゲットにされている事に少し不満に思いながらも、今夜の晩ごはんは松坂牛の特上カルビが食べたいな。と思いながら戦うのであった。

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