24話 最終決戦(下)


義経と綾燕が戦っている中、悠人は重たい身体を動かしながら安全な場所に移動すると、手が空いているフレデリックが悠人の隣に立っていた。


「フレデリック、お前は一体何を考えているんだ?」


悠人がそう言うと、フレデリックは2人の戦いを眺めながら「僕はただ、ある女の子を助けたいだけだよ。彼女が助かるなら他はどうなっても構わない。」と意外なことを言うと、悠人は目を大きく見開姫「驚いた。お前にも大切に思う人がいるんだな。」と言った。


フレデリックはクスッと笑い「僕だって人と同じ気持ちはあるよ。まあ、今回の原因となった人物には逃げられたんだけどね。」と言うと、悠人は驚きながら「原因ってどういう事だ!?」とフレデリックに訊いた。



フレデリックはニッと笑い「そんなに知りたいの?」と尋ねてきた。

悠人はフレデリックの問いに「当たり前だろ!アイツのせいで何人の犠牲者が出たと思っているんだ!」と息を荒げながら言うと、フレデリックは何か思い付いたのか「教えてあげてもいいよ。ただし、綾燕の額にある眼球を取ってきたらの話だけど。どうする?」と楽しげに話すが、その話を聞いていた彩里は「フレデリック、貴方それ正気なの?悠人、こんな人の言う事なんて聞かなくていいよ!」と呆れていた。



フレデリックはニコッと笑うと「それは残念だ。でも、あの眼球を早く何とかしないと大変な事になるよ。」と言った。

2人は困惑しながらも彩里が「それってどいう事なの?」とフレデリックに訊くと。



彩里の反応にフレデリックは嬉しさを隠しつつも「綾燕の力は、ある魔術師によって与えられた力なんだよ。その力っていうのが悪の契約で得た、異例の力でね。あと数分もすれば、悪に精神を完全に乗っ取られ。確実にここにいる人たちは、ほぼ全滅するだろうね。」と説明をした。


説明を聞き終えた彩里は顔色を変えると「それって本当なの?」と言うと、フレデリックはコクリと頷き「別に嘘つくような話じゃないしね。どうするかは君たち次第だよ。」と言った。

悠人は綾燕を睨みながら「眼球を持ってくればいいんだろう?なら、俺がやる。」と言った。

彩里は悠人の腕を掴むと「そんな身体で無理に決まっているでしょ!その役割、アタシに任せて!」と言うが悠人は首を横に振り「彩葉にそんな危険なことさせるわけないだろ。お前はここで待ってろ。」と言うが彩里は食い下がらなかった。

そんなやり取りを呆れながら見るフレデリックは、ため息を吐きながら「なんか今なら義経くんの気持ちが分かるような気がする。しょうがないなぁ、今回だけ特別だよ。」とフレデリックがそう言うと、悠人の額に触れ、身体全体に緑色のオーラの魔力が注がれてゆく。そして治癒魔法が終わると悠人の身体は健康状態にまで回復していた。


2人はフレデリックの行動に驚きつつも、ありがとう。と悠人がお礼を言った。

フレデリックはニコッと笑うと「別に気にしなくていいよ。それに目の前でイチャつかれても気分が悪いだけだし。」と素直な感想を伝えると、2人は少し顔を赤らめながら否定をし出した。

そんな様子にフレデリックは「そんなにお互い心配しているなら2人で行けばいいじゃん。それに少し頼りないけど僕の弟子もいるわけだし、3人なら何とかなるんじゃない。」と提案をした。

フレデリックの提案にまだ不満があるのか、悠人は少し悩むと「彩葉、俺が危険だと判断したら、すぐに安全な場所に移動する事を条件とする。この約束をちゃんと守れるなら一緒についてきても構わない。」と言うと彩里は軽く頷き「わかった、約束は守るよ。」と返事を返した。

そして2人は綾燕の元へ向かい、フレデリックは2人を見送るように「気をつけて行ってらっしゃい。」と言うと、少し口角を上げ「どんなスパイスが味わえるかな?」と笑った。



周りの応戦状況は、桃太郎とビスと寧々とリークが綾燕の下っ端を相手に戦い。

義経と悠人と彩葉が綾燕と戦っている状況でうち2名は身を潜め、そしてフレデリックは戦いの場を観戦しながら楽しんでいた。

そして義経と綾燕が激しい死闘を繰り広げる中。

悠人が綾燕の背後をとり首を狙うが、斬りかかった刀は傷一つつかない程の硬さで、それはまるで甲虫類の硬さを誇る防御力でもあった。


(クソッ!綾燕自体が化け物並みに強化されていて、これじゃあ斬るどころか眼球一つまともに奪う事もどできないじゃないか……フレデリックは知ったうえでわざと俺に行かせたのか?もしかしたら最初っから罠の可能性も、いや今は考えている暇はない。あの少年、義経と協力して奴をッ!?)


悠人は間一髪のところで綾燕の攻撃を回避すると、義経の隣に並び「義経、協力してほしい。綾燕のアイツの眼を狙え。嘘かどうかは知らないが、あの眼のせいで今の現状が起きているらしいんだ。」と説明をすると、義経は「あの、気色悪い眼を壊せばいいってことか?」と悠人に訊き返すと悠人は「できれば眼は壊さずに残した状態で倒してほしい。」と言った。

義経は少し難しい顔をすると「なんか無茶な要求されているような。俺、趣味のもの以外は壊すのは得意だけど、器用なことは苦手なんだよな。」と苦笑いすると、悠人は攻撃を躱しながら「無理を言っているのはわかるが、俺は知りたいんだ。綾燕を利用した真の黒幕をッ!」と言った。


義経も蜘蛛の糸を斬り裂きながら「え、黒幕ってアイツじゃないのか?」と驚くと、悠人はフレデリックから聞いた話を義経に説明した。

そして悠人は義経に忠告するように「義経、少し言いづらいんだが、フレデリックの事はあまり信用するな。アイツは何を企んでいるのか俺には理解ができない。」と言った。


義経は少し考えると「正直俺も師匠が何を考えているのかはわからない。例えこの先もし俺を裏切ることがあったとしても、あの日、師匠に弟子入りした時のあの眼は、俺に何かを期待しているような眼差しだった。だから今は師匠のことを信じて行動する。それが俺の出した答えだ。」と言いながら義経は糸の上を走りながら綾燕の胴体を斬り落とした。

だが、胴体は糸状に繋がれていて、すぐに胴体がくっつき。元の身体の状態に治ってしまう。


「チッ、めんどくせぇ身体の構成だな!」


義経が苛立っていると、綾燕は彩里の方を見ると「彩葉、どうして僕から逃げようとするんだい?どうして悠人アイツばかり選ぶんだ……僕のものにならないのなら、殺すまでだッ!!」と言うと、綾燕は義経と悠人への攻撃をやめ。彩里へと標的を変えた。


義経は急いで彩里の所まで走って行くが(ヤバイ、このままじゃ間に合わないッ!)と思いながらも足を止める事はなかった。

そして綾燕の攻撃は彩里へと集中攻撃され。

その時間だけがゆっくりとスローモーションのような感覚で、そして一瞬にして血の滴が飛び散るのであった。

そして少しの間が空いた感覚で「いやああああああぁぁぁぁッ!」と彩里の悲鳴声が聞こえると、彩里のすぐ側には血塗れに倒れている悠人の姿があった。

その姿を見た綾燕は高笑いをすると「やっと目障りだった悠人を瀕死状態までに追い込む事ができた!どうせ長くは生きられない。せいぜい苦しんで死ねッ!」と笑いながら喜んでいると、背後から義経が綾燕の首を思いっきり斬り落とした。


「ごちゃごちゃうるせぇんだよッ!安心しろ、お前は今すぐ俺が殺すからよ。」



義経はそう言うと、暗黒物質ダーク・マターで綾燕の身体を縛りつけ始めた。

すると綾燕は急いで首を身体につけようとするが、義経は綾燕の頭に刀を突き刺すと「言ったろ。すぐにあの世に逝かせてやるって。死よりも辛い、地獄を見せてやるよ。」と言うと義経は地獄門ヘル・ゲートを発動させた。


すると、地面の下から忌々しい大きな扉が現れると。扉は大きく開き、そこから無数の手が綾燕の身体に纏わりつき、扉の中へと引き摺り込もうとしている。

綾燕は義経を睨むと「ふざけんじゃねぇぞ、ガキッ!」と言うが義経はニッと笑うと「地獄に行く前に教えてやるよ。俺の能力スキル地獄門ヘル・ゲートは今までに行った罪が重いほど刑罰が重なる。その罪が100年だとすると、100年間休む事なく拷問され続けるみたいだぜ。その後どうなるかは俺も知らないけど。まあ、地獄で反省するんだな。」と嫌な笑みを見せた。

綾燕は奇声を上げながら、身体は扉の中に完全に入り込み。そして扉が閉まると同時に綾燕の頭は燃え尽きて、眼球だけが残された。

その眼球をフレデリックが拾うが、眼球は触れる前に砕け散った。


「マーリンの言ってた通り、今回は失敗作……大丈夫、まだ時間はある。」


義経はフレデリックに近づくと「師匠、マーリンっていうやつが今回裏で糸を引いてた人物なんですか?」と訊くとフレデリックは義経の方を向き「そうだよ。君のよく知っている人物で、いずれ初めて会うだろう人物だよ。」と意味深なことを言うと、義経は頭の上に疑問符を浮かべながら「つまり、会ってるけど会ってない?いや、え?なるほど、さっぱり理解できない。」と言った。

フレデリックは「今はまだ教えられないけど、そのうちマーリンから正体を教えてくれると思うよ。彼もまた……いや、何でもない。」と言ったフレデリックの目はどこか悲しそうな眼差しをしていた。


「そっか、でも今はそれよりも……。」


義経は彩里と悠人の方を見つめながら、自分が助けてやれなかった悔しさから、何と声をかけたらいいのか分からずフレデリックの方を見ると「師匠、悠人さんを助けることってできないですかね?」と言うが、フレデリックは「流石にあの状態は無理かな。あ、でも風雲児にいるシリル・ブラックウェル先生なら助けることができるけど、彼は今イギリスに帰国しているから無理だね。」と話した。



遠くから見守る義経をよそに、彩里は悠人の顔を包むように泣きながら「嫌だ、お願い。アタシを置いていかないでッ……。」と涙を流しながら話す彩里に、悠人は一生懸命息を吸いながら「彩葉…最期にお前に会えて……俺は十分に満足している。何より……彩葉を守れた事が……できてよかった。」と、苦しさを抑えながら笑う悠人に彩里は「最期なんて言わないで……お願い、一緒に生きて!」と言った。

悠人は彩里の涙を手で拭ってやると「彩葉、俺からのお願い聞いてくれるか?」と言うと、彩里はゆっくりと頷いた。

悠人は笑いながら「俺は…彩葉が泣いているよりも……笑っている彩葉が好き。だから……笑え。」と弱々しく笑う悠人に涙でぐちゃぐちゃの彩里は精一杯の笑顔を悠人に向けた。


「やっぱり、彩葉の笑顔は……素敵だ。」


悠人はそう言うと、ゆっくりと目を閉じた。

その瞬間、彩里は悠人を抱きしめながら大声で泣き叫んでいた。

そして洞窟の中で響き渡る女性の泣き声が、いつまでも続くのであった。




**************




その後、死者や負傷者が多く出たとなり魔物討伐戦は中止となった。

また、途中で別行動となった充たちは暗殺組織アサシンギルドとの戦い終えた辺りから記憶がないと報告を受けている。

そして暗殺組織アサシンギルドの数十名は、組織ギルド管理局が一時収容する事になり、その後の処罰は国が決めることが決定されている。

義経たちは無償で治療を受け、回復次第。帰宅していいとのことだった。



そんな義経はフレデリックと少し話をしていた。


「師匠、もう少し残らないの?」


義経がそう言うとフレデリックは「次の仕事があるからね。まあ、何か聞きたい事があったら連絡先だけ教えるから、寂しくなったら電話の相手くらいならしてもいいよ。」と笑った。

義経は少し呆れながら「連絡先はありがたいが、別にかまってちゃんじゃないし。」と否定した。



「そっか。じゃあ、僕はもう行くね。」


フレデリックは手を振りながらそう言うと、義経も手を振りながら、またな。とだけ返した。

フレデリックが去った後、義経は寧々のところへ行き。

少し気まづそうに「星宮さん。その、あの時約束した、誰も死なせないっていう約束。守れなくてごめん。」と謝った。

すると寧々は首を横に振りながら「義経くんは誰よりも頑張っていたと思いますよ。それに比べて私は……。」と落ち込む寧々に優しく頭を撫でると「いや、星宮さんもよく頑張ったよ。」と笑った。

義経の笑顔につられて寧々も笑うと「私ももっと強くなりたいです。」と義経の顔を見つめながら言った。

すると義経は「そういえば星宮さんって俺と同い年くらいだよね。でも何で白ノ帝国陸軍にいるわけ?」と不思議そうに訊くと寧々は素直に「小さい頃に両親に奴隷職人の人に売られて、でも日本は奴隷買収が違法な国だから、そのおかげもあって白ノ帝国陸軍が、たまたま私のいる奴隷市場のガサ入れで、その時に周さんに助けられたんですよね。一部の人は帰る場所があったんですけど、私だけ帰る場所がなく。私の命の恩人でもある白ノ帝国陸軍に入ることを決断したんです。」と話した。

義経は罰が悪そうに「ごめん。なんか思い出させたくない事まで話させて。そっか、色々大変な事があったんだな。」と言うと「いえ、私は寧ろ捨てられて良かったと思います。だってこうして皆さんと出会えた事が何よりも嬉しいですから。」と笑った。


「でも、一度でいいから学校には通ってみたかったですね。」


寧々がそう言うと義経は「じゃあ一緒に冒険者養成学院に行ってみない?」と誘った。

寧々は少し驚きながらも少し考えながら「え、でも……私は…。」と悩んでいると義経は笑いながら「いや、無理にとは言わないよ。でも少しは考えてくれると嬉しいな。」と言った。


「ありがとう。そうだね、よく考えて決断します。」


寧々がそう返事を返すと、義経は「そうだな。じゃあ俺は人を待たせているから、また会えたらその時はよろしく。」と言うと病院の外に出て行った。

寧々は義経の背中を見ながら「義経くんと一緒なら楽しい学校生活が送れるんだろうな。」と微笑んでいた。


外に出ると桃太郎とビスとことねと、いつの間にか戻って来ていた沖田と、もう1人イケメンの爽やかな外国人が揃っていた。

義経に気づいた沖田が手を振ると、義経は沖田を睨みながら「こっちはクッソ大変だったんだぞッ!」と言った。

沖田はヘラヘラ笑いながら「みたいだねー。桃太郎くんから色々聞いたよ。でも彩里ちゃんの彼氏に関しては、すごく残念だったね。」と少し切なそうな表情をしていた。

沖田のその言葉に義経は眉を顰めると、まだまだ自分の弱さを痛感したのか「もっと俺が早く対処すべきだったよ。それに悠人さんから聞いたんだ。今回の黒幕は綾燕ではなく裏で糸を引いていたマーリンという人物らしいんだ。」と話すと「君が義経くんかい?」と外国人の男性が話しかけてきた。

義経は、はい。と返事をすると男性は「初めまして、シリル・ブラックウェルと申します。君に話があってここへ来ました。」と言った。

義経は「俺に何の用ですか?」というとシリルは険しい顔つきになると「マーリン、彼のことについてお話ししたいと思いまして。」と話すと、ビスとことねは次の仕事があるからここで帰るといい。義経と最後に連絡先を交換し、2人はその場を離れた。

そして沖田と桃太郎も席を外すとのことで、2人になった義経とシリルは近くのベンチに腰をかけると先程のイギリスで起きている事件とマーリンについて話をしていた。


「なるほど、イギリスで鬼神?とかいう問題が起きているのか。師匠だったら絶対何か知ってそう。それでマーリンっていう奴が俺のことを知っていたんだよな?師匠も言っていたけど、俺のよく知っている人物で初めて会う人物でもあるって言われたんだが、意味わかります?」


義経がそう言うと、シリルは真面目に考察し始めると「私の憶測に過ぎないですが、もしマーリンが別人になりすましているとしたら、関わりはあるんじゃないんですかね。それか今回のように裏で糸を引いているとか。まだ断言はできませんが可能性としては十分にありますよ。そして初めて会うの意味は、マーリンの姿で義経くんの前に現れるという事じゃないですか。」と話した。

義経は「そうか、それなら辻褄が合うな。シリル先生のおかげで少しスッキリしました。ありがとうございます。」とお礼を言った。

シリルは「いえ、お役に立てたのなら良かったです。」と言うと義経に警告をするように「義経くん。マーリンは凄く危険な人物です。どうか、私と同じ道を辿らないでください。」と、どこか悲しい表情をしていた。

シリルの言った言葉に義経はキョトンとすると「シリル先生、それってどういう意味ですか?」と訊くと、シリルが話をしようとした瞬間。

義経の背後から「話はもう終わった?」と沖田と桃太郎が迎えに来ていた。

義経は「いや、今大事な話の途中なんだけど、空気読めよ。」と睨むと、シリルは苦笑いしながら「私の事なら大丈夫ですよ。それにまだ残っている仕事があるので、私はまだ大阪ここに残らないといけないんですよ。義経くん、また今度ゆっくりお話ししましょう。」と言った。

沖田は「シリル先生、医者だから大変だもんねー。まあ、今度の休みの日にゆっくり京都の美味しい居酒屋でも呑みに行こー!あ、義経も来ていいよー、義経はお酒飲めないけど!」と嫌味ったらしく言うと、義経は怒りを抑えながら「別に俺、お酒好きじゃないし!それにウォッカとかテキーラとか飲みたくないしッ!」と涙を堪えている義経を見て、わかりやすい性格だと思いながらも沖田は意地悪するように「僕、お酒強いから義経の目の前で義経の大好きなお酒飲みまくるねー。」とゲスな笑みを浮かべていた。

シリルは呆れながら「総司くん。もうその辺にしてあげてください。」と止めると、義経はシリルに甘え始めた。


「シリル先生、沖田とかいうクソ野郎がイジメてくるよー!」


義経はそう言いながらシリルに抱きつくと、シリルは苦笑いしながら「総司くんも言い過ぎですけど、だからと言って義経くんは未成年だからお酒は飲めませんよ。」とニコッと笑っていた。

義経はシリルから離れると、チッと舌打ちしながら「うまく行くと思ったのに。」と可愛くない発言をしていた。

その後は、シリルと別れ。そして3人は京都へと帰路についた。




義経と別れだ後、自分の事務所に戻ったフレデリックは、椅子に腰をかけ一息休んでいた。

すると勢いよくドアが開かれ、息を切らしながら入ってくる青年が立っていた。

フレデリックは青年の顔を見るなり「ちゃんと手紙は届けたの?」と言うと、青年はフレデリックに怯えながら何度も強く頷いていた。

フレデリックはニコッと笑うと「それじゃあ次の仕事だけど。」と言いかけたところで青年はフレデリックに「どうして……あの時、少年に嘘をついたんですか?」と言うとフレデリックは笑みを崩さずに「嘘って何のこと?」と訊くと、青年は目を泳がせながら「暗殺組織アサシンギルドでの戦いの日……フレデリック、様なら、あの男性を見殺しにせずに助けッ!」と言いかけのところで、フレデリックは青年の両頬を思いっきり掴むと、冷たい眼差しで「他人の心配するよりも自分の心配をした方がいいんじゃない?それともまた独房部屋に入れられて調教されたいの?」と笑うと、青年は顔を青ざめながら「か、過去のことは凄く反省してます。もうこれ以上、余計な口出しはしませんから、どうか許してくださいッ。」と怯える青年にフレデリックはニコッと微笑みながら「ごめん、ごめん。冗談だよ。何せ、君だけが僕の前世での繋がりだからね。これからもしようね、アベルくん。」と笑った。

アベルという青年は引き攣った笑みで「……勿論だよ、フレデリック様。」と言うと、フレデリックから仕事の依頼を聞き、事務所を静かに出て行った。

また1人になったフレデリックはゆっくりと目を瞑ると「これで僕の思い描く物語は順調に進んでいく……あとは彼女の問題だけだな。」と呟いていた。




**************



福島県 会津若松市。


昼下がりのギルドの集会所に5人の集団が席を囲んでいた。


右眼に眼帯をしたガタイの良い男が「成喜緒なきお、今日も魔物狩りよろしく頼むぜ!」とニカッと歯を見せながら笑う男に、少し青みがかった白髪の少年が涙目で怯えると「ま、魔物ってどんな種族の魔物何ですか?」と訊くと男は「今回の獲物はワイバーンの亜種でな。かなりの上位モンスターなんだぜ。」と言いながら鞄からタブレットを取り出し、テーブルの上にタブレットを置くとそのまま動画を再生させた。


成喜緒はその動画を見るなり、身体を震え上がらせ「僕には無理ですよ!こんな強いドラゴンなんて……僕には倒せないですよ。だって、僕は泣き虫で意気地なしの弱虫だから……無理だよ。」と泣きながら訴えるが男は成喜緒の背中を軽くバシッと叩くと「そんな謙遜するなって!お前は組織ここにいる誰よりも1番強い。団長である俺が言うんだから自信持て!」と元気づける。



「団長の言葉はともかく、確かに成喜緒ちゃんは魔物と戦っている時は別人のようにカッコいいんだから。もし怪我してもアタシが治してあげるし、ついでに夜のお世話も成喜緒ちゃんだけ特別よ。」



色気のある美人な女性がそう言うと、隣に座っていた若い青年が「静香しずかさん、俺も夜のお世話、よろしくお願いします!」と鼻の下を伸ばすが、静香は呆れながら「アタシ弱い男には興味ないのよね。」と振られ、少し落ち込む青年に成喜緒は「僕も強くありませんよ。」と頑なに否定をした。



そんな成喜緒に団長は「そういえばこの前、冒険者養成学院について訊いてきたよな。俺はそこの卒業生だが、成喜緒の強さなら俺が入れなかった特待生クラスに余裕で入れるんじゃないか。」と話す団長に成喜緒は一瞬ピクリと反応した。


(でも僕には無理だよ。僕は吏喜夜りきやみたく強くもないし、それに……。)



『無理だって言いたいのか?確かにお前だけなら無理な話だな。けどよ、俺たちなら余裕だろ。』



「……吏喜夜。」



成喜緒がそう呟くと、周りが不思議な顔をし出し。

そして成喜緒の目つきが変わると「おっさん。その魔物狩りっていう場所は何処にあるんだ?」と言いながら、目までかかった前髪をヘアピンで留めると、団長はニッと笑い「やっとやる気モードの成喜緒になってくれたか!いつもの成喜緒も悪くないが、ずっとやる気モードの成喜緒がいいんだよな。」と笑っていると、鋭い目つきで団長を睨みつけながら「何も知らないくせに。」と小さく呟いた。すると団長が困った表情で「成喜緒、急にどうしたんだ?」と訊くが吏喜夜は「アンタには関係のない話だ。それよりも早く終わらせるぞ。」と言いながら集会所を出て行く。



『吏喜夜、いつも負担かけさせてごめん。でも団長さんの言っている事は一理あると思な。』


卑屈になる成喜緒に吏喜夜は(あんな団長バカの言葉なんて鵜呑みするな。それよりも俺は誰があの手紙を送ったのかが気がかりなんだよ。)と言うと成喜緒は『冒険者養成学院についての手紙?』と訊いた。


(ああ、何故俺たちの存在を知っているのか。何のために送られてきたのか。何にせよ、そこに行けば。いつかは手紙の送り主に会えると思うけどな。)


吏喜夜は送られてきた手紙を見返し、胸ポケットにしまうと、魔物狩りへと向かうのであった。




"冠木成喜緒かむらき なきお様、吏喜夜りきや様。


転移者である貴方がたに、この先の導きを伝えに、この手紙を送り致しました。


1、福島県喜多方市の新宮熊野神社へ向かえよ。そうすれば先は進むだろう。


2、己の精神を気体上げろ。そうすれば限界突破の道が開かれるだろう。


3、冒険者養成学院に行け。新たな仲間の出会いと己の覚悟に向き合えるだろう。


これらの道を辿れば、道は切り開けるが、時として地獄を味わうことにもなるだろう。



この選択を選ぶのは、君ら2人なのだから、覚悟を持った上で行動するように。"





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る