18話 一瞬で武器がお釈迦になりました。



失礼な返しをした義経にたいしフレデリックは気にもせずに「情報屋のフレデリックだよ。君に大事な話があるんだけど、その前に彩葉さんに合わせたいお客様がいるんだよ。貴女がよくご存知の方ですよ。」と、フレデリックが言うと、彩里の表情が一瞬で変わるのがわかった。


彩里は両手で頬を包むと「待って、まだ心の準備が……。」と言っている途中で、彩里の背後に人の気配がすると、そのまま彩里の身体を優しく包み込むように抱きしめる男性の姿があった。


「彩葉。すぐに迎えに行けなくて、ごめん。」


そう話す男性に彩里は首を横に振りながら「ううん、大丈夫だよ。だって悠人が生きていてくれたから、今のアタシがいるんだよ。」と再開を喜ぶ2人を遠目から「チッ、イチャつきやがって、公衆の面前で恥ずかしくねえのかよ。」と僻む義経の姿があった。


すかさず隣に座っていた沖田が「公衆の面前というよりも個室だから問題なくない。」と言うが義経は「そういう問題じゃねぇんだよ。俺の目の前でイチャつくカップルは、この世から抹消すべき存在なんだよ。分かるか?」とイラつきながら話すが沖田は呆れた様子で、捻くれてるなー。と呟いた。


不貞腐れしている義経にフレデリックが「嫉妬しているのはどうでもいいけど、そろそろ新しい武器を取りに行かなくていいの?」と、何食わぬ顔で言うと、義経は少し驚いた様子で「何故、その情報を知っている?」と訊くと、フレデリックは、情報屋ですから。と返した。


義経は少し呆れた様子で「いや、答えになってねえよ。」とフレデリックに言った。


その後、お店を出た8人は、兼房が紹介してくれた鍛冶屋へと向かっていた。


最後尾に歩くフレデリックと義経と沖田は先程の話をしていた。



フレデリックは少し小さな声で「さっきの2人の話で違和感があったのは気づいている?」と話すフレデリックに義経が「ちょっと待て、お前いつからあの場にいたんだ?」と訊くとフレデリックはニコッと笑い「さぁ、いつからいたんだろうね。それで話の内容の中に違和感があったのは勿論、気づいているよね。」と、知っていて当然だろ。と言いたげに訊くと義経は「え、ああ……沖田も気づいているよな?当然なんだからさ。(やべぇ、ことねの話なんて殆ど聞いてなかったわ。)」と言いながら、チラチラと目で沖田に合図した。


その様子に気づいたのか沖田はニッと笑いながら「あー、僕わからないなー。だって話聞いてかなったしー。」と棒読みで嘘の演技をすると義経は「テメェわざとやってんだろ。」と声を最小限に言いながら沖田を睨みつけた。


そんな2人の様子を見ながらフレデリックが「ごめん。少し意地悪し過ぎたかな。簡潔に説明すると、2人の話の違いは、語り手の心の会話かな。まず彩葉さんの話の中には自分の心に思った事を話として入れていたけど読心術がない限り、他の人の心を読む事は出来ないから、話の中には当然だけど一切なかった。そしてことねくんの話の内容は自分だけではなく友達の心までも話の内容に入れていた。つまりこの話の内容は、彼なりの警告のサインだって捉えた方が妥当だと思うよ。」と話をしていると、沖田がフレデリックに「警告って事は、そのイベントに参加すると何か危険な罠があるってことが言いたいの?」と訊いた。



「まあ、あの小賢しい綾燕の事だから罠はあるだろうね。参加するには十分に警戒した方がいいよ。」



フレデリックがそう言うと、義経は「いや、大丈夫だろ。俺たちがいれば綾燕とかいう雑魚、一撃で終わるだろ。」と自信満々に言うが、フレデリックと沖田が少し間を開けるとフレデリックが「義経くん。凄く自信に満ちたことを言っているみたいけど、僕は協力するなんて一言も言ってないよ。」と言うと、沖田も申し訳なさそうに「実は僕も、この後大事なお客さんと会う用があって参加できないんだー、ごめんねー。」と一応、義経に謝った。


そんな2人の言葉に義経は「え、いやいやいや、え!マジで言ってんの!?」と驚いているとフレデリックが「僕に関してはノーリスクハイリターンで基本仕事をしているからね。わざわざリスクを冒してまでやる必要性はないでしょ。」と言いながら、話を続けるフレデリックは、まあ。と言うと両手を使って7の数字を見せると「これくらいの報酬額だったら考えなくもないよ。」と提案をした。


つい最近の日本は銭貨から硬貨や紙幣に変わり、より一層、現代の日本と変わらなくなり、義経でもフレデリックの7の数字の意味を即座に理解した。


「よし、7000円で交渉成立だな!」


義経が嬉しそうにそう言うと、フレデリックは「僕も暇じゃないから、もう帰るよ。」と言うと義経はフレデリックの腕を掴み「うそうそうそ!いくらなら大丈夫なんだよ!」と慌てて言う義経に対しフレデリックは「本来なら700万が妥当なんだけど、初めての方限定で70万で手を打つよ。」と、ニコッと笑うフレデリックに義経は「おい、待て。70万の大金なんてガキの俺が持ってるはずないだろ。それ本気で言ってんのか?」と訊いた。


確かに子供が70万という大金を持っているはずもなく、フレデリックはそれでも値下げするような発言をせず「そこは大丈夫だよ。ダンジョンの地下50層辺りまで行けば、高価な鉱石が採掘できるから、それを換金所で売れば100万以上の値はつくんじゃない。」と淡々と説明をした。


その話を聞いた義経は目を輝かせながら「え、マジ!かなり集めれば桃のやつもスマホ買えるようになって俺と連絡できるようになるじゃん!」と嬉しそうに話す義経にフレデリックが「そうだね、そのまま学校資金も集めるといいよ。今後のためにもね。」と言った。


フレデリックの学校の単語に嫌な顔をしながら「学校なんて行く必要あんのか?」と訊くとフレデリックは「義務教育ってのもあるんだけど、東京にある冒険者養成学院。君は必ずそこに行くことになるよ。まあ、この話はまた後で色々と説明するよ。」と言った。


義経は今説明すればいいのに、と思ったけど、フレデリックは今、この場の状況では説明できないと直感を感じた為、あえて聞き流す事にした。



数分後。

兼房から紹介された特注の武器専門店の鍛冶屋に着いた義経たち。

外観は木造でできていて、少し年季の入ったお洒落な鍛冶屋といった感じだ。

お店の中に入ると、人の気配はなく。色んな武器が並べられていた。


「うわー、色んな武器があっていいなー!俺も新しい武器買っちゃおうかなー。」


嬉しそうに話すことねは、値段を見て一気に現実へと引き戻されるのであった。


「ネットで、この武器欲しいなー!買ってくれた人には俺と1日デート!って呟いたらファンの子ガチで買ってくれそうだな……でもそこまでクズに落ちたくない。」


そんなことねの哀れな葛藤を無視して義経は主人を呼ぶべく、呼び鈴を押した。

すると部屋の奥から「はーい、今行きまーす!」と女性の声がすると。


お待たせー。と義経たちの前に現れる、綺麗な黒髪に空色の青い瞳の猫耳少女が姿を見せると義経がニコニコと微笑みながら「猫耳もふもふの獣人族とか最高じゃねえか。」と呟きながら思い出したかのように「あ、兼房から話は通してると伺ったのですが。」と言うと少女は嬉しそうに「兼房様の身内ですか!話は親方から聞いてます、後はお客様の刀を魔晶石で強化させれば終わりなんですよ。さっき成功させたばかりなので任せてください!」とガッツポーズを見せると、鍛冶場へと移動しようとするが義経は、さっき成功させたばかり。という言葉に嫌な感じがし。少女を引き止めるが、少女は「安心しなって、お客様の大事な刀はウチが完璧に仕上げてあるから!」と言い、聞く耳持たずという感じであった。

義経は周りに助けを求めるが、殆どの人は目を合わせず、ご愁傷様です。という顔をしていた。


「この人でなしどもが!」


と、義経は叫びながら少女の方へと走って向かって行った。

鍛冶場へと着くと、少女は台に置かれた刀を魔晶石で強化するところだった。

義経は「やめてくれえええええ!!」と止めるが時は既に遅し。光放った先にあるのは異様に黒く変色した可哀想な刀がそこにはあった。


義経は涙を流しながら「俺の愛刀が……ああああああああ、間に合わなくてごめん。」と謝ると少女は申し訳なさそうに「お客様、申し訳ございません!さっきは上手くいったのに、何で失敗したんだろ?」と言っているが今の義経には、その言葉すら耳に入らなかった。


そして、ダンッと強く扉を開ける音が鳴ると、ズガズガと鍛冶場の中へ入り。

少女に向かって「この大馬鹿者がああああああ!!フィン、お前はお客様の大事な刀に何しとるんじゃ!あれほど触るなと言うとるのにお前と言うやつは!!」と怒鳴る親方に「まあまあ、そのくらいにしたらどうですか。源次郎げんじろう様。」と話すフレデリックの姿があった。


親方はフレデリックの顔を見ると「おお、これはフレデリック殿!その節はお世話になったな。」と挨拶をした。

フレデリックはニコッと笑いながら、お釈迦になった刀に手を置くと、瞬く間に刀は黒色から元の刀の姿へと戻った。


元に戻った刀を見た親方は驚きながら「流石フレデリック殿!一流の魔術師ですな!」と褒めるとフレデリックは「僕は凄くもなければ魔術師でもありません。ただの情報屋です。」と言うが親方は「フレデリック殿はホンマ謙遜なところがあるな。まあ、そこがええんやけどな。」と言った。


そしてこの状況を放心状態で見つめる2人は、ハッとしたようにフレデリックに義経が「え、フレデリックって直すこともできるの?」と訊くとフレデリックは「そうだよ。まあ、最初から失敗すると分かってたんだけど、なんか面白そうだから黙って見てたんだよね。」と笑いながら話すフレデリックに「分かっていたなら止めろよ。」と呆れる義経だった。


そんな様子に少女のフィンが「それじゃあ何度失敗してもいいって事だね!」と喜ぶフィンに、義経と親方が一緒に口を揃えて「お前は何もするな!!」と怒ったのであった。


それから親方に最後の仕上げを丁寧にしてもらい。

ついに完成出来た刀を手に取り、少年の目のようにキラキラと輝かさせた。


「俺の愛刀の名前、どうしようかな。」


義経が名前に悩んでいると「コトネソードなんてカッコいいよ。」とことねが言うと少し間が空き「後で決めるか。」と無視した。


その後、弟子のやらかしを詫びる為、好きな武器を一本くれるという事で、桃にプレゼントとし好きな武器を選ばさせた。



「本当に僕が貰ってもいいんですか?」


と言う桃に遠慮という概念のないことねが「代わりに俺が選んで貰ってもいいんだよ?」と言うと義経が「桃、この馬鹿はほっといて好きなの選びな。その方が武器も喜ぶ。」と言うとことねは「その言い方酷くない!」と言った。

桃はそんなやりとりの姿に笑うと「じゃあ、お言葉に甘えて、この刀にしようかな。」と手に取った。


義経は桃の選んだ刀を見ると「桃らしくていいんじゃねえの。」と微笑んだ。

桃もニコッと笑うと「うん。ありがとう、若。」とお礼を言った。


そして義経は今更になって「そういえば、彩里さん達はどこに行ったの?」と訊くと、沖田が「3人は先にイベント会場で参加申込書を出しに行ってるよ。」と言うと、義経は本当は参加もしたくないイベントに「俺、フレデリックとかいう最強戦士に姫プされながら鉱石集めるよ。」と遠くの方を見つめながら言った。

すかさずことねが「当初の趣旨と変わってるよね!僕の親友、一緒に助けに行ってよ!!」と言うことねに対し「知らねえよ!自分で何とかしろよ!俺痛いのとか嫌だし、痛い思いしてまで助けるとか無理ゲーだから!」と駄々をこねる情けない義経。


だが義経はある映画のワンシーンを思い出し"完璧な兵士なんかではなく、良い人間であってくれ"という台詞を思い出したのであった。


「あああああああああああああ!!よし、弱音は吐いたことだし、綾燕とかいうクソ野郎を潰しに行くぞ。」


義経がそう言うと、ことねは涙を流しながら「よじづね、ありがどゔゔゔ!!この事は1日だけ忘れないでおくよ!」と泣いて喜んでいるが義経は、やっぱり助けに行くのやめようかな。と冗談を言った。


それから義経達は、鍛冶屋を出ると時に親方と一応フィンにお礼を言うとイベント会場へと向かった。


「それじゃ僕は、この辺で別れるよ。義経、君なら大丈夫だと思うけど、幸運を祈ってるよ。」


「おう、沖田も用事が終わったら助太刀しに来てもいいんだぞ。」


義経がそう言うと沖田はフレデリックの方を見ると「いや、僕よりも強い人がいるから大丈夫でしょ。」と言うがフレデリックは「僕は自分の身しか守らないよ。」とあっさり断った。


その態度に義経は「可愛くねえな。お前その性格直さないと誰からも愛されねえぞ。」と言うがフレデリックは「別に僕は君らに何と思われようが構わないよ。」と返した。


義経は少し苛々させながら「ささっと終わらせに行くぞ。」と言い。

沖田と別れて、会場へと向かうのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る