5話 牛若丸様と秘密の部屋



朝日が差し込む大浴場の中、湯船に浸かる弥生の姿があった。

弥生は大浴場から見渡せる京の町を眺めていた。


「御子様ー!ただいま戻りました!」


そう呼びながら現れた竜に弥生は、朝からうるさいわ。と呟いた。


「それで、牛若丸の情報はどうだったのかしら?」



弥生がそう訊くと、竜は昨日のチンピラを追っ払った話から隠し神について見たもの全てを話した。



「どうですか御子様?我輩の情報は役に立ちましたか?」



と、キラキラ目を輝かせる竜に対して弥生は、普通ね。と答えた。


「まあ、竜ちゃんから普通の情報をもらっても、近いうちに、弥生は牛若丸に会いに行くんだけどね」


弥生はそう言うと湯船からゆっくり上がり、タオルが入った籠の中からタオルを一枚取ると、濡れた身体を拭きながら脱衣所へと向かった。



「え!我輩の行った意味ってなんだったんですか!?」



竜がそう言うと、弥生は振り返ることもなく、そうね、ただの暇つぶし?と疑問系で返すとそのまま浴場から出て行き、大浴場に残された竜は、溜息を吐くと。



「御子様。もう少し我輩を他の瑞獣たちと同じ扱いをしてほしいでっせ……」



と、誰もいない大浴場で竜の虚しさだけが響くのであった。




***********




朝からドッと疲れが出たな。

いや無理もないか、なんせ昨日は隠し神に会ったんだ。

しかも子供がまた攫われたわけだし。俺がもっと早く行動していれば、助けられたのかもしれないのに…

まあ、過ぎたことをあまり悔やんでいても仕方ない。

どうせこの事件は国がなんとかするだろうし、俺が気にすることではない。


俺が1人でそう考え込んでいると、襖が急に開くと、勢いよく誰かに抱きつかれた。



「義経えええええ!!ぎみが無事でよがっだあああああああ!!!」



そう言いながら抱きついてきたのは、俺の叔父のクソ星である。

俺は近くに置いてあった小刀を彦星の首に当てると、気安く触るな、クソ星。と言った。


彦星は、いつもの俺の態度を無視して少し怒った口調でクソうざいお説教が始まった。



「義経!なんだその態度は!僕は義経が隠し神に襲われそうになったと聞いて心配してるんだぞ!少しは危機感というものを待たないとダメだよ!」



と、いつにもなく真剣に話す彦星の顔を見て、マジで気持ち悪いと思った。

まあ、心配かけたことは謝るが。

別にお前に心配されなくても俺は自分の身は自分で守れるし。

だから彦星に心配される筋合いはない。と言ったら、また説教が始まるから言わないでおこう。


俺は眉を八の字にさせ、悲しい表情の演技を彦星に見せた。


「ごめんなさい…彦星兄さんがそこまで心配してたなんて、次からは気をつけるよ」


俺がそう言うと、彦星はニコッと気持ち悪い笑顔を見せると、反省したのならもう充分だよ。と言った。


なんだコイツの態度、まるで俺が悪いみたいな言い方しやがって。

まあ、ここでイラついても無駄なエネルギー使うだけだし、ささっとこのアホを追い出すか。


俺は彦星に優しい微笑みを見せ、彦星兄さん……と言うと、すぐにいつものバカにしたよな顔を見せた。


「私あまり暇じゃないので、そろそろどっかに消え失せてくれませんか?といよりこれから学校なので空気読んで今すぐ失せろ」


と毒を吐くと、彦星はまた怒り出し、もう!なんで義経は反省をしないの!と言い出したので、俺は鼻で笑うと、謝ったからいいじゃん、まっ反省はしないがな。と言い返した。


そんなくだらない喧嘩じみた事をしていると、いつまで言い争ってるんだよ。と、呆れた顔で範頼が登場してきた。


範頼はそのまま部屋に入ってくると、彦星の方に顔を向けニッと笑うと、彦星さん、こんな所にいたんだ。と言うと、彦星は何かを思い出したかのように顔が真っ青になり始めた。



「彦星さん、織姫さんに謝るなら今のうちだよ。さっき廊下で織姫さんと出くわしたけど、鬼のような形相で探し回ってたし、きっと見つかったらタダでは済まないね。あの様子だと。

ま、俺に関係ないけど」



と、範頼はニヤニヤ笑いながら言った。

コイツもなかなかの性格の悪さだな。

それを聞いた彦星は、急いで部屋から出て行った。


彦星が出て行ったのを確認すると、小声で、まあ、嘘なんだけどね。と笑いながら言った。

俺がなんとも言えない顔で見ていると。



「昨日はお疲れさん!というより昨日は色々と大変だったね。ま、これで鬼に目をつけられないよう、この1週間は気をつけなよ」



と、澄ました顔で言った。

何が気をつけろだ。絶対コイツ何か隠してやがるな。

俺が警戒していると、範頼はニコッと笑い。


「そんなに警戒しなくても俺は何もしないよ。だって俺が義経を殺したってなんのメリットもないわけだし」



確かに本当に殺すならとっくのとうに殺してるよな。

それにコイツは謎だらけだし、何より訊きたいことも沢山あるけど、ここは一番訊きたい事をコイツに訊いてみるか。


「範頼、一つ訊きたいことがあるんだけど、隠し神の件について、何か知っていたりするのか?それともこの事件に関与しているのか?」


俺がそう訊くと、範頼はニコニコ笑いながら、さあ?俺は何も知らないよ。と答えた。



「それよりも、こんな無駄話してていいの?もう学校行く時間じゃない?」



範頼が時計の針を見ると、そろそろ学校へ行く時間が迫っていた。

結局話は、はぐらかして本当のことは訊けなかったし。

まあ、事件に関与してたりしたら話すわけないか。

ってそんなこと考えてる暇はない!

俺はダッシュで部屋を出ると、寺子屋へと急いで向かった。



寺子屋へ着くと、入り口付近に何やら人が集まっていた。

俺は入り口付近まで行くと、そこには、どうしたらこんな壊れ方をするんだ?と思う引き戸が悲惨な状態で壊れていた。

しかも取っ手部分に血が付いている……



「あら、驚かせちゃってごめんね。

結構前からこの引き戸立て付けが悪くて、直そうと思ったら、思いっきり左手を怪我しちゃったの」



と、言いながら現れたのは寺子屋の先生だった。

いや、どんだけ不器用なんだよ。直せないのなら業者に頼めよ。

先生の話を聞いて呆れていると、おはよう、若。と言う桃の声が聞こえた。


俺も挨拶を返すと桃は、何かあったの?と尋ねてきた。



「なんか先生が立て付けの悪い引き戸を直そうとしたら、手は怪我するは引き戸はこの有様ってわけ」



俺がそう説明すると桃は苦笑いしながら、前にも机壊してたな。と言った。


もう本当に最初っから業者の人頼めよ

じゃなきゃ、マジでいつか寺子屋壊れるぞ。



そう思いながら俺たちは寺子屋の中に入ると、スッと俺の前に現れた舎弟1号が元気よく俺に挨拶してきた。



「おはようございます、兄貴!」



ボス猿がそう言うと、続けて2号3号も元気よく挨拶してきた。

朝からうるせぇな、コイツら。

てか1号2号とか呼ぶのめんどくさいから、ボス猿は猿みたいだから悟空でその後ろのヒョロガリは沙悟浄で隣のデブは猪八戒でいいか。


俺は軽く挨拶を返すと、自分の席に座り。

授業の準備を始めると、悟空が目をキラキラ輝かせながらこちらを見ている。

俺が、何見てんの?と言うと、悟空は、何かご命令を!と言い出した。

は?何言ってんだコイツ?

ご命令って……何か指示すればいいのか?

俺は少し考え込むと、じゃあ…と言い。



「3分以内にコンビニで、ヤングジャックとスプライト買って来てください。

もし1秒でも過ぎたら…1週間俺に近寄るな。話しかけるな。わかったな?」



俺がそう言うと悟空たちは、うん!任せときぃ!と言い残して、ダッシュで走り去って行った。

まあ、3分で買いに行くのは無理だろう。

だって今日は、ヤングジャックの発売日じゃないし。


その後、三馬鹿が戻って来ることはなかった。

アイツら最初の印象は悪かったけど、実は俺より真面目で純粋なんだな。



これであの三馬鹿が1週間、俺に近寄ることはないな。

まあ、いつまた隠し神に会うか分からんし。

人との関わりはなるべく避ける方がいいよな。

あとは桃をどうするかだが……

まあ、真っ直ぐ家に帰ればいいだけの話か。



そして何事もなく授業は終わり、それと珍しく小蝿女子たちもたかることなく。というより俺とあの三馬鹿の関係で少し距離を置かれてるような気がする。

まあ、俺的には嬉しいんだがな。

そんな感じで1日は終わった。



俺は寄り道もすることもなく、桃と一緒に家に帰りながら無事家に着くと、廊下の方で兼房と会い。

兼房は、若様。お帰りなさいませ。と言った。

俺も、ただいま。と言いながら自室へ戻ろうとしたら、兼房に呼び止められた。



「若様。少しお時間よろしいですか?

若様について来て欲しい場所があるので」



と言うと、ある場所へと案内された。

兼房の後をついて行くとそこは、たまに利用する書斎部屋に着いた。

兼房はそのまま奥の方へ行くと、右に置いてある赤い本と左上に置いてある黒い本を取り出すと、本の中から半分になった鍵を取り出し、もう一つの本からも同じ鍵を取り出した。

そして、その鍵を組み合わせて一つの鍵を作り出すと兼房はそのまま、さらに奥の部屋へと足を進めた。


なんかこういう仕掛けのある部屋ってワクワクするな。

マダムスファミリーみたいに地下に行くために小舟に乗って、それで大金の部屋があったら最高だな。


兼房は足を止め、しゃがみ込みながら手を床にかざすと、フリーデンと呟いた。

兼房がそう言うと、床の方に魔法陣が浮かび上がり、そして地下へと続く階段が現れた。



「何このとある魔法学校みたいな隠し通路、この下に秘密の部屋があったりするの?」



俺がそう訊くと、兼房は、まあ、そんな感じですかね。と言うと階段を下り、俺も兼房の後に続いた。

兼房は、シュテルネンリヒト、とまた唱えると、青い炎が順番につき始めた。

そして炎の光によって周りが明るくなり、階段以外は宇宙空間みたく、壁一面、星いっぱいに広がっていた。

最近のプロジェクターってスゲェー開発が進んでんだな。と、小並感で思った。


そして数分下りると大きな扉があり、先ほどの鍵を使い、扉を開けると、また螺旋階段が続いている。


また階段かよ!

これ上がる時一番ダルいやつじゃん!!


そんな事を思いながら、階段を下りると次は宇宙空間ではなく、壁一面が本棚で本や巻物類が沢山置いてある。


下まで下りると、そこは広い空間が広がっている。

俺は兼房に、ここって何の場所なの?と訊くと、兼房は壁に掛けられた太刀を俺に渡して来た。



「若様は私にバレないように、スキルの使い方を練習していたみたいですが、外で練習するのは、やめて欲しいものですね。いつ、親族や使用人にバレてもおかしくないんですよ?

ですから私は、僭越ながら練習場を、若様のために作りました。」



え?これ兼房が作ったの?

お前もうここやめて、建築士になれよマジで。

しかも練習してたのバレてたのね。



「兼房、お前どんだけハイスペックなの…

でも作ってくれたのは有難いんだが、ここまで来るのに徒歩はキツイし帰りがダルいんだわ」



俺がそう言うと、兼房は、テレポートもまだ使えないのですか?と訊いてきた。

コイツ少し俺のこと馬鹿にしてるな。

まあ、今に始まったことじゃないんだけど、なんかスゲェー腹立つわ。


俺は笑顔を絶やさず。


「えぇ、他の転生者からしたら簡単なスキル獲得なんだろうけど、俺はまだスキルを獲得していない。

何故だかわかるか?俺がクソみたいなスキルを獲得しているから未だにテレポートの一つや二つ覚えることができないわけ。

兼房からしたら、はい。言い訳乙!とか言うだろうけど、俺は今まで覚えようと努力したよ!

だけど何故か覚えられないから諦めたんだよ!!」



俺がそう言うと、兼房は不思議にこちらを見た。



「テレポートは獲得するものではなく、習得するものなので覚えられないで当然ですよ」


「へ?」



衝撃的な事実を知り、思わず変な声を出してしまったが、兼房はそのまま話を続けた。



「私はてっきり範頼様から習得したのかと思ったのですが…まあ、いいでしょう。

でわ若様、私の前まで行きください」



兼房にそう言われ、俺は兼房の前まで行った。

兼房は俺の頭に手を乗せると、俺の頭の中に文字が浮かび上がった。



"テレポートを習得しますか?"



そりゃあYesの一択でしょう。

俺が、はい。と選択すると、テレポートの習得に成功しました。と表示された。


これで楽に移動できて大助かりだわ。

いや待てよ、これって兼房が持っているスキルを全て習得できたりするんじゃないか?


俺がそんなことを考えていると、兼房は俺の心を読んでいるのか知らんが、静かに口を開いた。



「私からスキルを習得するのは可能ですが、若様は自分の力でなるべくスキルを獲得して欲しいと私は思っております。なんでも人に頼ってばかりでは、いつまでたっても成長しないで困りますからね」



兼房が毒を吐かずにまともなこと言っている…

俺は気遣っている兼房に恐る恐る、それで本音は?と訊いた。



「そうですね。強いて言えば、なんでも人から習得するクズな大人になって欲しくないというか、楽に人生イージーモードのチート主人公みたいな実は俺強いんですよアピールして、やりたい放題している人間が単純に嫌いなんですよ。

そういう人に関して女性にモテるのは最早テンプレの一種なんでしょうね」



お、おう……ボロクソだな。

まあ、あれだ…現実にモテないから、せめて仮想世界ではチート主人公のハーレムものを見せてあげてもいいと思うんだが。

ただし、この世界に存在したら全力で潰すけど。



「兼房がイキリ野郎を嫌いなのは、よく分かった。

それと練習場も作ってくれてありがとう。

これで思う存分、身内にコソコソ隠れずに練習できるよ。」



軽くお礼を言うと、以前に兼房から、範頼には、あまり近寄らないほうがいいと言われたことが気になり、少し情報を得るため、兼房に範頼のことについて訊いてみることにした。



「あのさぁ、兼房。

前に兼房が、範頼には気をつけたほうがいいって言ってたじゃん。

その言い方だと、範頼がまるで敵みたいな言い方になるけど。実際どうなのよ?」



俺がそう訊くと、兼房はゆっくりと口を開き、範頼について話し始めた。


「そうですね。範頼様についてですが、私もまだ確証を得ているわけではないですが、若様は範頼様が設立させた組織がある事はご存知ですか?」



兼房にそう言われ、俺は首を横に振ると、そんなの初めて聞いたぞ。と答えた。



「まあ、知らなくて当然でしょうね。なんだって極秘組織ですから。

その組織の名前や詳しい詳細までは分かりませんが、範頼様を含む、計6名の転生者がその組織に所属しているとか。

前に若様を送ってくださった新撰組の沖田総司様。彼もその組織の一人ですよ」



「へぇー…って、まじかよ!アイツも同じ転生者かよッ!!

しかも新撰組ってだけで勝ち組じゃねえかよ!

どうせ偉人に転生するなら渋くてかっこいい宮本武蔵が良かったよ!!

まあ、それはさておきだ。訊きたいことは山ほどあるけど、その組織と範頼だけの情報じゃあ、範頼が悪いやつだとは思えないんだけどな」



それに昔は、あまり関わりがなかったわけだし。

いや、寧ろ問題児すぎて、鶴婆に関わるなと強く言われてたんだよな。

そういえば、ガキをいい理由に女湯に普通に入ってやりたい放題してたと聞いた時は呆れたものだ。

まあ、それも一年してやらなくなり、今は少し大人しくなったんだっけ。




んー…俺から見る範頼のイメージがアレなだけに、あまり良い印象がないだけで悪い印象があるかと言えば、ないに等しいな。


俺がそんなことを思っていると、兼房はまたゆっくりと口を開いた。



「私が範頼様を警戒しているのは、範頼様が転生者じゃない可能性が高いからですよ。

理由としてあげられるのが、転生者リストに範頼様の名前がないからです。それともう1名、リストに名前が記載されていない人物がいまして、こちらの人物の詳細は私でも分かりかねませんね」



と、兼房がそう言うと、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「稔、久しぶりだな。いや、今は牛若丸とでも呼ぶべきかのう」



そう言いながら現れたのは……ラグドールの猫の姿をした、ミズハだろう。



「久しぶりだな、ミズハ。とりあえずモフらせろ」



「お主、ホント相変わらずよのう。

まあ、よい。妾がここへ来たのは他でもない。その範頼という人物の事だ。

奴について、一つ頼みがあるのだ」



え、俺に頼み事とか何様よ。

それに俺は女神様の頼み事だからって、メリットのないことはやらないし……やっぱりここは断ろう。何より興味ないし、めんどくさいし。



「お主、妾に逆らうとはいい度胸よのう。

別にここで断ってもよいぞ。ただし、お主の身内に知られたくない過去を見せてやるがよいのか?」



ミズハにそう言われ。

俺の知られたくない過去なんてあるはず…



「なんだ、もう忘れたのか?

しょうがない。妾が教えてやろでわないか。

あれは確か、高校2年の夏だったかのう。お主は夏に友人たちとロサンゼルスへ旅行のため、旅費を稼いでおったのう。

だが、あと3万足りなくてお主は……」



と言いかけたところで俺は、急いでミズハの口を押さえた。



「あ、あれは仕方なかったんだ!だってウォーキング・ダイのイベントに行きたかったし!なによりハリウッドスターに会いたいじゃん!!

だから女子の水着を盗んでオークションに売ったのは仕方なかったんだよ!……あ、やべッ…今の話は嘘でーす」



俺がつい口を滑らせ、全て真実を話してしまったが、ここで言わせてもらおう。

俺はずっと憧れていた、ノーマン・ビーダスのために犯罪に手を染めてしまったことを今でも反省しているよ。

その後、クラスが崩壊しかけたのは言うまでもない。

まあ、認めたくないものだな。自分自身の若さゆえの過ちというものを。


(※人の物を盗んで売ることは犯罪なのでやめましょう。)



俺が既に死んでいるからといって、これを身内に知られるのはまずいな。

仕方ないここは大人しくミズハの言うことを聞いてやるか。



「それでミズハの頼み事って、範頼を監視するか接近するかのどっちかでしょ、どうせ」



俺がそう言うと、ミズハは、ふふっ、まあ、そうだな。と答えた。

やっぱりな、まあ、俺の黒歴史を晒されるよりかは別にいいか。


俺から了承を得たミズハは、それじゃあ妾は退散するとしよう。と言うと、最後に「そうだった。範頼とは別に、もう一人の転生者リストいない人物も忘れないよう、探すのだぞ。

勿論、お主には拒否権はないがな」



と言うと、その場から姿を消し去って行った。


いやいや、マジかよ。

どんだけ、こき使えば気がすむの?

俺はただ平穏に過ごしたいだけなのに…



「兼房、お前の主人はどういう教育を受けたら、ああなるわけ?」



「若様、貴方も人のことを言えないのでは」



……確かに言えてる。

仕方ない、まずは範頼に関して接近することが重要だな。

そうと決まれば、明日はラーメン食べに誘いに出かけるかー。






***************




月夜に照らされながら、深くフードを被り、顔はよく見えないが、黒いローブに身を纏った少年とも言える、一人の影がそこにあった。


少年は、伏見稲荷大社の屋根の上を座りながら一人誰かと話していた。



「もう、女神様に勘付かれっちゃったよ。

まあ、それも想定内の範囲だけど。

でも安心して、今回もヘマなんて絶対しないよ。

え、どうしていつも早く終わらせないのって」



少年は口角をあげると、そんなの決まってるじゃん。と言うと「これ以上、不幸な人が現れないように、僕がその人たちを救済してあげるんだよ」と言いながら立ち上がった。



「それじゃあ僕はそろそろ行くね。

これから大事な用があるから、また後で報告するよ」



少年はそう言うと、スキルを使用した。

伏見稲荷大社に綺麗な砂が舞い散ると、少年の姿はもうそこにはなかった。


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