4話 チンピラ追っ払ったら舎弟ができました。




周りは静かに授業を始め、俺も集中して字の練習をしていた。

なんか、すげぇ書きづらいな。と思っていると、俺たちの席にも先生が見に来た。



「あら、桃太郎くん。字を覚えるのが早いのね!字も綺麗で素晴らしいわ!

牛若丸くんは……まあ、個性のある字ね!書いていけば上達するものよ……たぶん」



このクソ教師、遅刻した上に遠回しに字が汚ねえとか言ってんじゃねえよ!

こう見えても生前の頃は習字とか習ってたんだよ!

俺だって本気を出せば字の一つや二つ綺麗に書けるわ!!



………あ、そういえば俺左利きだったわ。

なんで右利きで書いていたんだ?


それから数分が経ち、先生が手を叩くと「はい。今日はここまで、みんな気をつけて帰るのよ!」と言った。



やっと終わったー!

ただ字書いてるだけなのに、こんなクソだるいなんて……

俺は早速帰る準備をしていると、さっきの少女たちがまた集まろうとしてきた。


うわぁー、めんどくせぇ。

どうせ一緒に帰ろうとかクソつまんないこと言うだろ。

それを回避するには……



隣に座っていた桃太郎の腕を掴むと「すみません。今日は桃太郎と野球について話し合う約束をしているので、これにて私は失礼します。でわ、桃太郎がずっと行きたかった京セラドームへ行きましょうか」と言い、強引に外へと連れ出した。

桃太郎は、状況を把握していないため。

え!野球?京セラドーム?と頭が混乱していたのは言うまでもない。

まあ、俺だって逃げるための口実であって、本気で大阪まで行く体力はない!そもそもこの世界に野球があるのか知らんが流石に京セラドームはないだろう。

まあ何はともあれ、あの子らに話しかけられずに、なんとか逃げれたから別にいいか。



「若くん。僕、あまり野球は詳しくないけど、流石に大阪まで行く運賃はないかな」



桃太郎は苦笑いでそう言った。

この世界に野球があっても驚かないが、京セラドーム大阪あるのか……そこに驚きだわ。

これ聞いたら、スタジアム広島とかあっても、もう驚かない自信あるな。

というより俺のイメージの異世界とかって普通、ゲームズ・オブ・フローンズみたいな中世ヨーロッパみたいなのが理想なんだけど、よくよく考えたらここ日本だし、平安かと思ったら幕末からの明治で普通に電気通ってる上に、この前観光に来た夏目漱石に会った時点で、もう色々とおかしいんだよな……

まあ、とりあえず桃太郎とは、これからも小蝿を排除する為にも仲良くしといたほうがいいな。



「桃太郎さん。本当に大阪に行く訳ではありませんから安心してください。ただ、帰るときだけ毎回野球ネタ言うかもしれませんが、何卒、私のワガママにお付き合いしてくださると助かります」



俺がそう言うと、桃太郎はニコッと笑い。はい。僕でよければ!それと……と、少し間を開けると、僕と友達になってください!と言った。

俺はニコニコ笑うと、ええ。いいですよ。と返事をした。

その後は、たわいもない会話をしながら道を歩いていたら、前から大きな声で叫ぶチンピラの声が聞こえてきた。



「おい、クソガキ!!どこ見て歩いとんねん!!」


「う、うるせぇ!お、お前らからぶつかって来たんやろ!!」



あーまたなんかトラブルみたいなやつね。

でもこういうトラブルってヒロイン候補の女の子が登場するのに、何で俺の場合、チンピラ対クソガキなわけ?

意味わかんない。

まあ、そんなの遭遇しても100パー助けないんだけどね。

だって俺が助けたことで何のメリットもないじゃん。

だからこういう場合は、無視が一番。


俺は平然と横を通り過ぎようとした時。

咄嗟に誰かに腕を掴まれた。

まあ、俺の腕を掴んできた奴は寺子屋で喧嘩売ってきたクソガキなんだけどね。

正直言うけど、クソめんどくせぇわ……

俺はクソガキを睨むと、私に何の用です?と言うと、クソガキは今にも泣きそうなのを我慢して俺に助けを求め始めた。



「俺たち友達やろ?ダチが困ってる時は助けるのが当たり前やないか!」



ダチって、え?俺たちいつ友達になった?

もう怒り通り越して笑えてくるわ。

もはやそれ、都合のいい上辺だけの友達じゃねえか。

俺は笑いを我慢しながら鼻で笑い。



「友達だね……なら、私の名前くらい知ってますよね?ちゃんと名前で言ってくれたら助ける事を考えてあげてもいいですよ」



我ながらに思うが、俺の性格ってマジでクソだな。

まあ、転生してそこらの一般人より、ちょい強くらいになってイキってしまうのは仕方ない……いや、転生する前もこんな性格だったわ。

やっぱり俺ってクソ性格悪いな。

ま、そこが俺の良いところなんだけどね。

それはさておき、このチンパンくんはどう命乞いするか見物みものだな。



クソガキは、身体をブルブルと震えさせ言葉を詰まらせていると、今まで存在感を忘れていたチンピラが、なぜか俺に喧嘩を売り始めてきた。



「おい、そこの女みてえなガキ。用がないなら引っ込んでろ。それとも俺にボコされたいんか?あぁ?」



チンピラはそう言いながらズボンのポケットに手を入れながら俺の方へと来やがった。

もうね、正直言うと朝から不機嫌絶好調なわけ。

それプラス、クソガキとチンピラ相手に爆発寸前なの。わかる?


俺が怒りを抑えているなか、チンピラは俺が怖がって黙っているのかと思い。在ろう事か、懐からナイフを取り出すと俺の頬にナイフをあててきた。

そのせいで、俺の頬は鋭いナイフによって血が垂れ流れてきた。


あー……コイツ、俺の地雷踏んだわ。

というわけで容赦なくボコボコに泣かしていきたいと思いまーす。



「あれ、もしかして痛すぎて声も出えへんのかなー?そこのガキたちと違って大人しくてかわええなー」



チンピラはそう言いながらゲラゲラと笑いだした。

それに対し俺は舌打ちをすると、頬に当てられたナイフを手で弾き飛ばした。



「ゲラゲラうっせーんだよ。あとお前、口くせぇから喋んな。気持ち悪りぃほど反吐がでるんだよ、ボケェ」



俺が挑発的に暴言を吐くと、チンピラは俺の胸倉を掴むと、調子付いてじゃねえぞ!ガキが!!!とキレ始めた。


てか唾飛んで汚いんだけど、マジ最悪だわ。

ホント、ありえないんですけどー。


俺はチンピラの手首を握り潰し、この時点でバキバキ骨が折れる音が鳴っていたが、そんな事は無視してそのまま手首を捻り曲げた。

そして俺は素早くチンピラの背後に回り地面に倒させると、常に隠し持っている小刀でチンピラの首元に刃を向け、俺は無情にも低い声で、俺さぁ、子供だから手加減とか知らないんだよねー。と言った。


その言葉を聞いたチンピラは、非常にも情けないほどに声を震えさせながら、い、命だけは……!!と、命乞いをし始めた。


別に俺は人を殺す趣味はないからな。とりあえず、また同じことがあってもクソ面倒だし、ここは脅しとくか。



「安心して、別にお前をここで殺しても何のメリットもないわけだし。でも……次に会った時は命がないと思えよな」



俺はそう言うと、チンピラから退け。

チンピラは手首を抑えながら立ち上がると、素早くその場から走り去って行った。


雑魚のくせに俺に楯突くからそうなるんだよ。

まあ、これで一件落着だな。



さてと、チンピラも追い払ったことだし帰るとするか。



「お、おい……待てよ!」



今まで空気だった、ガキ大将が俺の目の前まで来ると、突然ガキ大将は地面につく勢いで土下座をし始めた。



「助けてくれて、ありがとう!俺は3年前までは大阪におったんや。生まれも育ちも大阪生まれの浪花やけど。親の都合でこっちに越してきたんや。

正直、京の人間を少し馬鹿にしてた……けどお前は違う!だから、その…子分でも舎弟でもええから兄貴って呼ばせてくれ!!」



はぁ?

誰がお前みたいな雑魚を舎弟にするかよ。めんどくせぇ。

……いや、待てよ。ここでコイツを下僕にすれば、小蝿女子も寄ってこなくて結果的にいいのでわ。



「舎弟ねぇ……お前の好きにしていいよ。ただ、俺とお前との間に友情なんて関係は何一つない。次からは俺を巻き込むんじゃねえぞ。それと、今朝お前の手首を治してやったが、あれは痛みを和らげだけでヒビの入った骨を完全に治しているわけじゃないから、ちゃんと医者に診てもらえよな」



俺はそう言い残すと、桃太郎のところへ行き、それじゃあ行こう。と言った。

桃太郎は先ほどと慌てた様子はなく、黙って俺の横について歩いていたが、さっきのクソガキどもが視界から見えなくなると、桃太郎は目の色が変わったように、若くん!君はやっぱり凄いよ!と、俺の手を取り嬉しそうに笑った。


いや、凄いも何も相手は雑魚のチンピラだから普通じゃねえ?

正直に言うとスライム以下の雑魚を追っ払ったくらいで俺を賞賛するのは間違ってるぞ。


桃太郎はその後も俺の事を褒めまくり、そして桃太郎は遊んでいる子供たちの方を見ると、小さく何かを呟き始めた。



「若くんの実力があれば、きっと隠し神も退治できるんだろうな。そしたら京の町も平和に過ごせるのに」



確か今噂の隠し神って言うやつか、なんでも夕暮れ時に現れ、遅くまで遊んでいる子供を攫うという話があったな。

最近また子供が攫われたとかで町が騒いでたっけ。



「確かに私は普通の子供とは少し違うかもしれませんが、この事件に関しては流石に何もできませんよ」



俺がそう言うと、桃太郎は少し困った笑いをみせた。


「そうだよね。無理言っちゃってごめん。それと若くん。僕の前では気を使わなくて大丈夫だから」


桃太郎はそう言うと今度はニコッと笑ってみせた。



「そう。じゃあ、いつも通りの俺で接するわ。それと親しみやすく桃って呼ぶよ。桃も俺の事は呼び捨てでいいから、改めてよろしく」



俺がニッと笑うと、桃は嬉しそうに笑うと、うん!よろしく!と言った。

その後、俺たちは少し駄菓子屋に寄りお菓子を食べながら話していたら、いつの間にか、だいぶ日が暮れていた。



「あ!もうこんな時間だ!ごめん、若。僕もうそろそろ帰らないといけないんだ」



桃にそう言われ、外を見渡すと空の色はオレンジ色に変わろうとしていた。

まずいな、俺も早く帰らないと鶴婆に怒られる。

そういえば隠し神の件もあるし、いくら噂でも桃を1人で帰らせるわけにはいかない。ここは家まで送り届けるとしよう。



「桃、この時間帯は1人で帰るのは危険だ。だから俺が家まで一緒について行くよ」



俺がそう言うと桃は驚いた表情を見せると、そんな、悪いよ。と断った。

まあ、桃の性格からして人に迷惑をかけないタイプだから、そう言うとは思っていた。


「遠慮すんなよ。それに駄菓子屋行こうって誘ったの俺なわけだし。ほら、行くぞ」



俺はそう言いながら駄菓子屋を出ると、その後ろから嬉しそうにニコニコ笑う桃が出て来た。



「ありがとう、若。暗くならないうちに早く帰ろ」




************




桃の家に着く頃にはオレンジ色から少し青紫色の夕空へと変わっていた。



「送ってくれて本当にありがとう。でも1人で帰って大丈夫なの?それに隠し神のこともあるし……」



不安げな表情をする桃に、それなら大丈夫と俺は返した。


「実は迎えを頼んでいるから、その辺は気にしないで。それじゃあまた」



と言うと、桃も、そっか、うん。またね!と返した。

まあ、迎えなんて呼んでないんだけどね。

ヤベッ!早く帰んないと説教が更に倍増しちまう!


俺は急いで鞍馬へ帰るため、近見ルートを選択した。

辺りは街灯なんてものはなく、暗過ぎて正直灯りが欲しいものだ。


突然、遠くの方から物音が微かに聞こえると、子供の声らしきものも聞こえて来た。

俺は恐る恐る曲がり角を曲がると、遠くの方から人らしき影が見える。


おいおい、マジかよ。

あれ絶対に隠し神だよな。

まさかこんな所で出会うなんて……

それよりもあの子供を見捨てて逃げるわけには行かないし、ここは超音速スーパー・ソニックで一気に背後まで詰め寄るか。


俺は相手に気づかれないように、一気に背後まで詰め寄ると、常に隠し持っている小刀を鞘から引き抜いた。


だが相手は俺の気配に気づき、子供を担ぐとそのまま塀の上へと飛び乗り、走り去って行く。

俺も奴から見失わないように急いで塀に飛び乗ると急いで奴の後を追った。


クソッ!!逃げ足の速い奴だなッ!!

こっちはスキルを使ってるというのに全く追いつけねぇ!!

相手は妖魔か?いや、妖魔だったら物理攻撃と攻撃魔法と回復魔法しか使えないはず……てことは隠し神の正体って俺と同じく転生者なのか?


そんな事を考えていると奴は塀から今度は飛び降りた。

あーもう!ちょこまかちょこまかと鬱陶しいな!

急いで俺も下へ降りると、奴は子供を担いだまま、その場に立っていた。

俺はある程度距離を保ちながら、奴の容姿をよく観察した。

体格はスラっとした細身で恐らく女性である可能性が高い。

顔はフードを被っており、その下はお面をしているため顔はわからない。

とりあえず何か話してみるか。



「お前が隠し神の正体かはどうでもいい、そこにいる子供を置いて行くなら痛い目に遭わずに見逃してやる」


俺がそう言うと相手は何も喋らず黙って左手を前に出すと同時に、左手からイナズマの蛇が飛び出して来た。

俺は咄嗟に避けなんとか回避できたが、後ろの壁がズドンッと貫通した。


どうやら相手はまともに話にならないみたいだな。

なら遠慮なくこっちは暗黒物質ダーク・マターで怯ませるとしようか。


周りが暗いおかげで黒助の存在に気づいてないみたいだな。

これはチャンスだ。俺は黒助たちに子供を傷つけないように指示を出すと、一斉に相手へと向かって行ったが、相手もうまく交わしたが、恐らく左手部分に黒助が当たったみたいだな。

それじゃあ、お次は足を狙うか。

俺が次の指示を出そうとした時、急にお前ら何をしている!と誰かの声で戦闘が中断されてしまった。

俺は急いでスキルを解除すると、相手は煙幕を使いその場から去って行ってしまった。


俺が、クソッ!待てッ!!と追いかけようとしたが、誰かに腕を掴まれ、そのまま相手を逃がしてしまった。

俺はムスッと相手の顔を見ると、そこには浅葱色の服を着た新撰組がいた。

噂では聞いていたが、生で見たのは初めてだな。

俺がそんな事を考えていると、俺の腕を掴んだ新撰組が、子供がこんな夜遅くに出歩くんじゃねぇ。と言うと、まあ、怪我がなくて良かった。と続けて言った。


そして後ろから、原田さん、見てくださいよー!と、ニコニコと笑う青年が現れた。


「この道って元は壁だったんですねー、見事に綺麗に貫通してて凄いですよ!」


青年がそう言うと、恐らく死に損ないで有名の原田が呆れた顔で。


「おい、総司!俺たちは遊びに京を巡回してるんじゃねぇぞ!もっと緊張感を持てよ!」


と言うと、青年はヘラッと笑いながら、僕はいつでも真面目にやってるつもりなんだけどなーと返した。


というより、この青年が新撰組で有名な天才剣士か。

まあ、俺が新撰組で知ってる知識は、日本の歴史が好きな外人が、新撰組・侍!っていういかにもB級映画のタイトルだが、まさにクソ映画オブ・ザ・イヤーの5位にも匹敵するほどのクソ映画。だが俺は外人が片言でサムライ ダマシィー!と最後に語尾が上がる感じで叫ぶシーンは好きなんだよね。個人的に。


まあ、そんな事はどうでもいい。さっさと俺の腕を離しやがれ!

俺がそんな事を思っていると、今度は前から隊士の人が現れると。


「原田さん、隠し神と思われる人物はもう何処にも見当たりません」


と隊士がそう言うと、俺は呆れるように大きく溜息を吐いた。


「取り逃がすも以前に貴方たちが来たせいで、既に1人の子供が犠牲になったんですよ。それといつまで私の腕を掴んでいるんですか?いい加減離してください」



俺がそう言うと、原田という男は、おう、悪りぃ。と言うと俺の腕を離してくれた。

そして原田は、俺の顔を不思議そうにマジマジと俺のことを見ると。


「子供が犠牲になった?……子供なら目の前にいるだろ」


と言った。

いや、俺も身体は子供だけどさ、どうしたら俺の言葉を信じてくれるんだ?と考えていると、原田の隣でニコニコ笑っていた沖田が急に真面目な顔で。


「その子の言っていることは本当ですよ。僕も見てましたから、犯人が逃げる際に子供を担いでいたとこを」


と言うと、原田は一瞬、目を大きく見開くと、真剣な顔で沖田に指示を出した。


「総司、お前はそのチビ助を家まで送り届けろ。俺は一旦屯所に戻ってこの事を局長と副長に報告しに行く。残りの者は、引き続き巡回を続けろ!」


原田はそう言うと沖田は、りょーかーい!と返した。

そして原田が急いでその場から去って行くと、沖田は俺の方を向き、じゃあ、家まで送るね。と言うと一緒に鞍馬へと向かった。


というより原田の奴、俺のことチビ助って言ったよな。まあ、気にしないから別にいいけど。




***********




鞍馬へ向かう最中、俺は気になった事を沖田に訊いた。


「あの一つ気になることがあるんですが、なぜ新撰組がわざわざここまで巡回しているんですか?妖魔とかの関連は白ノ帝国陸軍の仕事ですよね?」


俺がそう訊くと、沖田は少し悩むと、んー僕もよくわからないんだよねーと答えた。


「それよりも君。どうして、こんな遅い夜にあんな人気のない場所にいたの?もし僕たちがいなかったら、君が神隠しにあってたんだよー!」


沖田はそう注意したが、なぜか俺は、沖田が何かを隠すように、はぐらかして言ってるような気がした。



「ご心配をかけて、すみません。ですが私の友達を1人で帰らせるわけにはいかなくて、家まで送っていたら日が暮れていて、隠し神に遭遇したという感じですかね。

次からは遅くならないように気をつけます」



俺がそう言うと沖田は眉を八の字にして、少し呆れると。


「今回は1人の子供が犠牲になっちゃったけど、もう無茶だけはしちゃダメだよ」


と、ニコッと笑った。

その後、何事もなく鞍馬寺に着くと、沖田は鶴婆や兼房たちに、遅くなった事情の経緯を説明をし終わると自分の持ち場へと戻って行った。

そして珍しく鶴婆が怒るかと思ったら優しく接してきたので、逆にそれはそれで怖かった。




**********




時刻は深夜2時を過ぎており、一室の部屋だけ、まだ明かりがついている。その部屋の中では、デスクの上で書類をまとめる。女性の姿があった。



女性は書類に目を通していると、コンコンと叩く音が響くと、女性は、入れ。と言った。

許可を得た人物は扉が開くと、女性の前まで行き、隠し神の件について報告に参りました。と言った。


女性は書類に目を通しながら、それは今、新撰組の仕事だろ?と訊くと、青年は女性の書類を奪い取った。


「貴様、アタシの……ってなんだ、総司か。……じゃなくて!なんで総司がここにいるの!?」


女性がそう言うと、総司はヘラッと笑いながら隠し神の件についてだけど?と言った。

女性は、それがどうしたっていうの?と訊くと、沖田は不敵な笑みを浮かべた。


「範頼さんが今日、話していたんだけど、範頼さんの弟、源義経が実力のある者か試すみたい。恐らく前から計画はしていたんだろうけど、本格的に実力者テストが始まったんだよね。

それでなんで隠し神が関わるのかというと、僕たちと同じく隠し神も転生者だよ。まあ、大体は把握してたんだけど」


総司がそう言うと、女性は一瞬驚くが次に見せた表情はどこか悲しそうな目をしていた。


「……正直、あの人の考えていることがわからなくて怖いの。アタシも試された側として、未だにあの感覚が忘れられないし…思い出したくもない」



女性がそう言うと、総司は女性の頭を優しく撫でた。

女性は総司を見つめると、ありがとう。と呟いた。



「それでまだ話は終わってないんだけど、隠し神が転生者ってわかったら、ここからは新撰組の仕事じゃなくて白ノ帝国陸軍の仕事になっちゃうじゃん。せっかくアネットと契約して得た仕事なのにこれじゃあ、意味がない。

なによりも僕はここへ来れなくなって困るんだよねー。だからアネットの権力で僕を雇ってくれる?」



総司は、そう言いながらアネットの顔を包むと、ね、いいでしょ?と言った。

アネットは困った顔をすると、でもアタシだけの判断じゃ……と言いかけたところで、コンコンとドアを叩く音が響くと、アネットは慌てて総司をデスクの下へと隠れさせた。

アネットは、入れ。と言うと、女性の兵士が、失礼します。と言い部屋へと入ってきた。


アネットは兵士の顔を見ると、用件はなんだ?と言い、兵士はアネットに敬礼をした。


「新撰組の近藤局長からの伝達で、隠し神について話があるということで、直接、こちらへお伺うということです!」


伝達を聞き終えたアネットは、そうか。と言い、続けて言葉を言おうとしたら、ーーひゃあッ!?と、なんとも可愛らしい声をあげた。

アネットの様子に兵士は心配そうに、大丈夫ですか?と、言われると、一瞬でいつもの冷酷な表情に戻り、大丈夫だ。気にするな。と言った。



(もー!総司のバカッ!!急に脚触らないでよ!!)



アネットはそう思いながら兵士が部屋を早く出て行ってもらうことを祈った。

兵士は不思議そうに、そうですか。と返した。



「ーーーんッ!……ゴホンッ!ちょっと喉の調子が悪いから、用件が済んだのなら、もう下がって…ーーあッ!」



アネットは手で口を押さえながら小声で、総司を雇うから…もう許して……と言うと、総司はアネットへの悪戯をやめた。

兵士は心配そうに、本当に大丈夫ですか?と言うと、アネットは、本当にもう大丈夫。と言い、その後は兵士は、アネット大将、ゆっくり休んで下さいね。と言うと部屋を出て行った。


兵士が部屋を出て行ったのを確認すると、総司はデスクの下から出てくるとアネットに向かって、ご馳走さま。と、笑って言った。


そんな総司の態度にアネットは総司に近づき、少し怒りながら。


「兵士のいる前であんなことしないでよ!もしバレたら、アタシの名誉が下がるかもしれないのよ!それに…」


と、アネットは少し顔を赤くし、総司から顔を背けてしまった。

そんなアネットの様子に総司は悪戯な笑みを浮かべると、アネットの顔を自分の方へと向けた。


「もう、物足りないのなら言ってよ。そしたら最後まで相手してあげるのに」


と言う総司に、アネットは顔を赤くして、別にそんなの求めてない!と怒った。


「ホント、アネットのそういうところ可愛いよね。まあ、お遊びはここまでにして、ちゃんと契約も成立したことだし、僕は屯所に戻ることにするよ。

もし続きがしたかったら、いつでも僕のところへおいで。

ちゃんと最後まで相手してあげるから」



総司はそう言い残すと、テレポートのスキルを使い、その場から去って行ってしまった。

総司が行った後、アネットは床に座り込むと、小さく、総司のバカ。と呟くのであった。

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