【第3話】


「彼女についてだけど、やっぱちょっと独特な子らしいぜ」



晴翔がそう声をかけてきたのは僕の告白から2日後だったから、彼は相当に仕事が早いんだろう。


そして彼女のことを変とか変わってるとか言うこともない。晴翔はそういう気遣いが普通にできるやつでもある。



「独特って?」



「いやあ、それがわかんないから独特なんだってさ。周りと極端に関わりが少なくて壁があるんだって。

愛想がないとかひどい態度を取ってくるとかいうわけじゃないけど、踏み込もうとすると突っ放される的な?」



「……相手から突然逃げたりとかは?」


「そういう感じでもないみたいよ、おめでとうレアケース」


「うわあ、じゃあ僕が彼女の何かしらに当てこすったってこと?」




難攻不落の城を前に丸腰、しかも手負い。

なかなかハードな状況である。


そんな僕を笑いながら、晴翔が首を傾げた。




「中学同じだったやつは、高校入ってから変わったとか言ってたけどな。

確かに中学時代から大人しかったみたいだけど、友達は多くて、いつもニコニコしてるような子だったって」



男子人気もかなりあったってさ、頑張れよ。


耳元に口を寄せて落とされた半笑いの爆弾は黙殺しつつ、そっと彼女に想いを馳せた。




…一瞬見ただけだったけれど、その姿は目に焼き付いている。



長い黒髪、よく通った目鼻立ちと薄い唇。


涼しげに整った顔立ちで、他の大多数の女子のように髪をいじくったり化粧で顔面をつくりあげたりしてない分地味ではあったが、素材のままの顔立ちは清廉で、逆に知的な雰囲気を醸し出してすらいた。



「なんかあったのかな、中学で」



「さあ、そっからは俺は首突っ込んじゃだめなゾーンじゃね?あとはご自分でどうぞ」



「だよなあ、わかってる」



晴翔の線引きのタイミングはここだ。

本人が隠してることについて、無関係なやつが引っ掻き回すのは悪趣味だというこのうえなく明快な理由で、たぶん彼はこれ以上情報を集めないだろう。



残りは、僕が。


彼女に想いを寄せる当事者である、つまるところ‘無関係’ではない僕が

直接調べるべきだと。



「俺は晴翔みたく情報網広げてないしなあ、作戦考えてからじゃないと」



「いやでもお前、ちょーっと頭でっかちな気がしないでもないけど。

考えずに突っ込んでみるのもありなんじゃないの、あのテタイプには」



何気なく頷きかけて、首の動きを途中で止めた。あまりにもナチュラルだから流しかけたけど、



「お前……、口ぶり経験者みたいだけど。

さてはお前!あのテのタイプに引っかかったことあんだな…?」




言わずともわかってるとは思うが、晴翔はモテるタイプである。


僻みの入った僕のセリフを、彼はさらりと笑顔で聞き流して

後ろ手で手を振りながら、颯爽と教室を出ていった





「これだから絵になるやつは…!モテるやつは…!」

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