第4話 マナの形と初魔術

 エルの家から少し離れた、森が開けている場所。そこまで陣を連れてきたエルは地面にがりがりと魔法陣を描き始める。

「ねぇ、ジン」

興味深そうに魔法陣を見ている陣に、エルが相変わらず描きながら声を掛ける。

「想像力と感性、どっちに自信ある?」

「……いや、どっちも、それほどには」

そっか、と呟きながらエルは魔法陣を描き進め……それが完成すると軽く息をつく。

「じゃあジン……始める前に、魔術について説明するね?」

自身の身長を超える杖を両手で持ち、薄いローブを纏ったエルの姿は、まるでRPGに出てくるエルフの魔術師そのものだ。ふとそんな事を陣は考える。

「魔術は、大きく分けて3つに分類される……魔導魔術ワードマジック精霊魔術エレメントスペル神意魔術プリエスティエの3つ。ワードマジックは自分の想像力で描き出した現実を、マナを介して世界に実体化させる魔術で、エレメントスペルはこの世界に遍く精霊たちに手助けしてもらって、マナを媒体にその力を顕現させる、プリエスティエは……簡易版神の奇跡」

さらにそこから各種属性や分類別の魔術に分かれるらしいが、使う時に大切な事は一つ、とエルは続ける。

「大切なのは……魔術は奇跡じゃなくて「すべ」だという事、媒体が目に見えなくて、やってる事がちょっと常識ブン投げてるだけで……手順の一つ一つは「やり方を知っていれば出来て当然」の事」

「……その常識ブン投げてるって一言がすげー怖いんだけど」

「……何もない所に火を作り出したり、千切れた腕を即引っ付けるようなのは流石に常識の範疇にはあり得ないと思うよ?」

……言われてみればそうだ。と陣がへんな納得の仕方をした所で、エルは今度は土をこね、脛ほどの高さの泥人形を作り出す。「見てて」と陣に声を掛けると泥人形に杖をかざす。

「汝、泥中より出でて命持たぬ者、我、そのシンに仮初の命を与えん。ゆえに仮初のモノよ、我に従い、我が意に沿いてあれ……泥の小人形ゴーレム

詠唱が終わると同時に、脛程の大きさであった泥人形は、陣の頭を優に超える大きさの泥人形となり、そのまま膝をついた。それはまるで巨大ロボットの降着姿勢のような、正座して両腕をだらりと下げているような、そんな格好だった。

「これがワードマジック、動くはずのない泥人形に、「これは私の命令どうりに動く」という現実をねじ込んだ」

「……すごいな、じゃあ火の玉飛ばしたり、岩石の雨を降らせたりもできるんだ?」

陣の率直な感想に、再度エルは軽く考える。

「……できなくはない、けど、やる意味薄いと思う。特に火の玉飛ばすほう」

……え?という表情の陣を見ながら、エルはその可能性について考える。

「……まず、火の玉が飛んで行って炸裂する……これは容易い。けど、容易いがために対策も容易」

試みに、と一つ小さな火を飛ばして小爆発を起こして見せる。

「飛んでいく所が見えるって事はどこに当たるか判るって事で……直撃は期待できなくなる」

その場で突然に爆発が起こるのと、弾丸が飛んで行って着弾して爆発する。どっちのほうが回避が困難かは考えるまでも無かった。

「距離が離れれば離れるほど、その不利は明確になる……牽制とか、威圧目的なら有効かもしれないけど」

遠距離攻撃用なのに距離が離れるほど使えなくなる。回避が難しいほど速度を上げれば威力が犠牲になる。その辺りのバランスをうまく取れれば中距離ではそこそこ使える牽制術になるかもしれない、とエルが見解を述べる。

「じゃあ……魔力を動かす感じ、掴んでみようか?」

雑談も一区切り、とエルは改めて泥人形を杖で指す。

「……の、前に……ジン、自分の魔力って感じ取れる?」

「いや、全然」

それを聞いて、エルは自分の手に魔力の流れを生み出し、そのまま陣と手を繋ぐ。

「……判る?」

「手、柔らかい」

はぁ……と嘆息。

「やっぱり、弾かれる……」

今度は、と気合を込めて、エルは再度陣の手を握る。

「……なんか、さらさらする……というか、水?風?そんなもんが手の間を流れてる……様な?」

「それが、マナ。目に見えない、けど確実にそこにあるもの」

良く判らない、そんな表情を見てエルは第一段階突破、と呟く。魔術を習い始めた素人が初めてマナを感じ取った時の、あの良く判らない感覚はエル自身よく覚えている。

「多分、すぐに判らなくなると思う。だから、ジンにとってわかりやすい形を、想像して?」

目を瞑り、想像する。もう感じなくなった、あの風と水の中間の様な感覚。……流れ出て、流れていく……上手く掴めない。目を瞑ったまま、思考を切り替える。判りやすい形……子供のころから慣れ親しんだ、無いけど在るもの……

目を開く、陣は自分の全身が透明なオーラに包まれているような感触を覚えた。

「そう、それがマナ」

エルの声が聞こえる、目を向けると……膨大な光の柱に包まれているエルが居た。

「ジン、教えて……あなたが、マナをどう捉えたのか」

手が差し出される、もう一度、陣はエルと手を繋ぐ。

「っ!」

慌てて目を閉じるエル、強烈な光に目をならす時のように、薄っすらと目を開け、光源を直視しない様にする。

「強い光……それが、ジンのマナなんだね……少し、力を抜いても大丈夫だよ。もう、体がマナを知ったはずだから」

言われた通り気を抜くと、猛烈な光を放つ光の柱も消えた。しかし、陣の意識はその光……エネルギーの奔流がそこら中にある事を認識している。

「じゃあ、後は想像力……ゴーレムを転ばせてみて、手足を使わないで」

佇んでいる泥人形を見て、陣はイメージを始める。

構図が浮かばない。

思考を切り替えて、好きだったアニメのイメージに切り替えてみる。

巨大な宇宙戦艦が砲身を持ち上げ、狙いを定めて、撃つ。

周辺に漂う光を集めて、束ねて、加速して……指先という砲口から一気に解き放つ。

放たれた閃光は泥人形の膝から下を消滅させ、支えを失った泥人形はそのまま転がる。

「やっぱり、ちょっと威力が……シャレにならない」

泥人形の脚が砕けるのでも裂かれるのでもなく消滅したのを見て、エルはどうしよう、と言いたげに呟いた。

その横で目を回して倒れている陣の存在も、戸惑う所だった。

一発。いかに恐ろしいほどの威力だとは言え、一発でこの状況。

 その後、どうにか威力を落として利用しようと試行錯誤してみるが少し威力を下げると魔術そのものが発動しなくなる、という大凡予想できた結果の再確認で終わってしまった。

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