No.THREEアイツとスキャンダル。



昔々、あるところに、千年の時を生きた一人の青年がおりました。

青年は、自分の長き人生を終わらせたくて、たまりませんでした。

なぜなら、もう、これ以上、誰かと新しい出逢いを重ねることが、嫌だったからです。


出逢ってしまえば、別れが待っている。

青年にとって、それ以上に、恐ろしく、悲しいことはありませんでした。


青年は、神様に、祈りました。

「神様、どうか、この人生を終わりにしてください。死のうと思っても、死ねないのは、なぜですか。もう、これ以上、生きていたくはないのです」


青年が、何度も願ってきた祈りが、神様に届きました。

神様は、言うのです。

「お前は、この世界を終わりに導かねばならぬ者。この世界が、時を刻む限り、お前は、自分の人生を終わらせることなく、生きていくしかないのだ。しかし、この世界を生かしたままで、自らに死を迎えたいというのなら、お前に、新しく宿命を与えよう」

神様は、青年に、古ぼけた小瓶を与えました。

この小瓶に、青年が年をとった数だけの、乙女の涙を入れよと言うのです。

乙女のティアドロップを集めた小瓶には、青年を迎える黄泉ができるのです。


青年は、死を求めて、神様から渡された小瓶を手に、乙女の涙を集める旅に出ました。





――あたしは、あにさまには生きていて欲しいよ。例えあにさまが死を望んでいても。だって、あにさまはあたしと出逢った。独りぼっちのあたしと、出逢ってくれたんだ。


スーリアは、目覚めたベッドから起き上がり、カーテンを開ける。

東向きの窓から、力強い朝日が部屋へと射し込む。昨夜見た素晴らしい夜景と星空のように、この朝も晴れている。

窓の外には、高層ビルの連なるガーネシアの街を、冬の清廉な空気が包んでいる。

心がシャキッとして、体が新しい一日のために動き出そうとしている。

思い出している。

昔、あにさまが話してくれた「青年」の話。青年は、誰と出逢っても、死を思っていた。どんな出逢いも、青年を死への渇望から解放することはなかった。


――あたしは、あにさまの初めてにはなれないのかな。ただ一人の人になれないのかな。あにさまがあたしと共に生きていく、そういう選択肢はないのかな。

昔、確か、言ってくれたはずだ。


「スーリアが、小生の特別だよ」


スーリアは、それを今でも信じている。

パジャマ姿のままダイニングキッチンに行くと、そこにも設置されている監視カメラに向かい、笑顔をつくった。

「おはよう皆。今日も起きれたかな?スーリアは今日も元気。皆も、これから作るスーリア特製のスムージーで、元気に行ってみよう!」

と、まな板と包丁とミキサーと冷蔵庫の野菜やハーブやフルーツにミネラルウォーターを並べて見せる。

「今日も、野菜とか切ってミキサーにかけるだけ。いつもいつも単調だよねー…おっと、そんなことはどうでもよくって。栄養がたっぷり入って、力つけたい人にもダイエットしたい人にもオススメだから、ぜひやってみて!」

監視カメラの前で、切られた野菜やハーブやフルーツが、ミネラルウォーターと共にミキサーにかけられる。一人の部屋に響くガーっという音。

――そう言えば、シン、言ってたな。故郷を壊されて、両親を殺されたって。あにさまに?本当に、あにさまに?あの穏やかな人が、そんなことするのかな?


ガーっという音が止まると、監視カメラに差し出されたのは、お洒落なグラスに入ったスムージー。

「出来上がり!昨日の夜は、コンビニで売ってる添加物とか気になるご飯食べちゃったの。このスムージーでリセットかな。皆、今日も元気で過ごしてね〜」

監視カメラに笑顔で手を振るスーリア。


――シンは、あにさまを殺すために一緒にいるって言ってた。それは、あにさまが望んで、そんなシンを側に置いてるってことになるのかな。だとしたら、青年はまだ死にたがりのままなんだ。あにさまは、自分の人生を終わらせることを、あたしと出逢ったとしても、諦めてない。

悲しい。


スーリアは首を振る。もっと希望のある考え方をしよう、と。

テーブルに並んだスムージーとシリアルに、手をつける。


――今日、あにさまに会ったら、笑顔で挨拶しよう。


テーブルの、スムージーとシリアルの入っていた空いた食器を、流しで洗う。このどうでもいい食器洗いの瞬間も、スーリアは多数の監視の目にさらされている。

――正直、食器洗いなんて観て何が楽しいのか分かんない。嫁イビリの小姑かっつーの。

監視カメラの向こうでは、スーリアの作ったスムージーを肴に朝食を食べる者たちや、仕事やネットの中の長い夜を終えてこれから眠りにつく者たちなどがいる。スーリアの部屋の様子をパソコンの画面に流し観て。

監視カメラに付いているマイクから聞こえるスーリアの声を、頼もしげに聞く者たちから、聞き流す者たちから、煩わしいと思う者たちまで。


洗った食器を乾燥機に入れて、自分はベッドルームに戻る。

――そうだ!あたし、昨日シンとヤバいことになってたんだ!どーしよー。きっと学校は、あたしとシンの話題で持ちきりだよ。

ベッドルームの監視カメラの視線から逃れるように、クローゼットのドアに隠れて制服に着替える。

――シンてば「オレのこと知りてーんじゃねーの」とかってふざけたこと言ってたな。何言ってんのかな、アイツは。ホント失礼しちゃうよ。ホントふざけてる!


制服をバッチリ着て、カバンを持ち部屋を出ると、指紋認証と虹彩認証で玄関に鍵をかける。二重防犯の意味で設置されている無人の受付コンシェルジュに、インターホンでコンタクトをとる。

「おはよう。コンシェルジュさん。今日は誰が担当?」

「おはようございます。スーリア。本日は、山崎が担当します」

「そう。さっそくだけど、今日の外の様子は?」

「本日は、正面玄関にマスコミが押し寄せています。西側裏手のスタッフ出入り口からお出になられますよう。タクシーは手配済みです」

「ありがとう、山崎さん。それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃいませ。本日は早めにお帰りになられますよう、お願い申し上げます」

――あ、そだ。昨日は門限破っちゃったんだ。

「わかってる。今日は早く帰るよ」

スーリアは、インターホン画面の四等身バーチャル山崎さんに手を振る。

――シン、アホに見えて意外とフェミニストだよね。人に絡まれないように、直接家に送ってくれた…なんか…カッコい…

いやいや。と、首を振る。

カッコイイと思うところだったが、それを認めてしまったら、自分のプライドがヤバいのだ。

エレベーターを降り、スタッフ用の出入り口、西側裏手からベバリービルズを出ると、そこにはカメラと録音機片手にマスコミが待ち構えていた。

「スーリアちゃん!おはよう!今日もいい天気だね」

「おはよう。ええ。いい天気ね。あたし学校行かなきゃ。じゃ」

慣れた手つきで、マスコミたちに手を振るスーリア。だけど、マスコミの一人が言う。


「いい天気ねぇ。そう言えばさあ、昨日、天駆天瑰のシンくんと観た星空も晴れてたんでしょ」

「!?」

「知ってるよ〜。夕方コンビニで夕飯買って、見晴らしの良い公園で夜景と星を見たんでしょ?ふ、た、り、で」

「知ってるよー。シンくんの夕飯は、オニギリとサンドウィッチとカレー&ナン。ドリンクは、チャイ二本。スーリアちゃんは、サンドウィッチと無糖の紅茶でしょ」

――マジでか!そこまで知ってるなんて!

「それはウチも掴んでる情報。こっちはもっと詳しく知ってるよ。二人は制服で、周りに、惜しげも無く仲良しな雰囲気を見せつけて、手はカップルつなぎで結ばれてたって情報まで」

「いやいや。カップルつなぎはガセよ。シンくんが、強引に俺様な感じでスーリアちゃんを引っ張ってたのが正解なんじゃないの」

「正解は如何に?スーリアちゃん!」

ズイっとマイクで詰め寄るマスコミたち。

――えぇえー!?

スーリアは、バンザイをして、マスコミたちに振る。

「あ、あたし、学校行かなきゃだから!」

逃げるようにして高級タクシーに乗り込んだ。

――ヤバっ。そこまで事実を知られてるなんて、予想外。カップルつなぎだのシンが俺様だのはなんか違うけど。

後部座席から、マンション出入り口に溢れているマスコミたちを見ながら、ドライバーに話しかける。

「運転手さん、私立ガーネシア高校行ける?」

「あ、はい。もちろん」

「いや、あのね。追ってくると思うんだ。マスコミの人たち。撒けるかな?」

「…やってみます」

「ありが…!」

スーリアが言おうとした瞬間、ドライバーがエンジンをいっぱいにふかした。

「キャー!」

勢いよく飛ぶタクシー。高速で過ぎていく景色。あっという間に高校へと到着した。


私立ガーネシア高校は、天駆天瑰のシンとその彼女のことで持ちきりだった。

「シン君、今日こそは彼女と一緒だったね」

「見た見た。ラブラブだったよね。見せつけてくれてた」

「シンがイチャイチャしてるぞー」

「なあ、知ってるか?シンが、あの子を校門で見つけるやいなや、自分のモノだと言わんばかりにお姫様抱っこして、独り占めしながら教室までそのまま行ったんだよ」

「人前でキスしてたぞ。あいつら!」

――やっばーい!学校中あたしとシンの話題で持ちきり!あることないこと騒がれてるー!

スーリアはタクシーを降りると、校門で待ち構えていたマスコミたちをかいくぐり、ざわつく校内を一人、多数の視線を感じながら歩いた。

――どーしよー。あたしってば、やっぱり人気者なのね。あたしはミステリアスなのが売りなのに、どーしよー。やー、やっぱスーパースターは辛いね!

すると、教室へと歩くスーリアの前にハルさんが走り寄ってきた。

「スーリアちゃーん!」

笑顔をつくるスーリア。

「どうしたの?ハルさん」

「聞いた?スーリアちゃん。シン君、彼女と学校中で噂になってる!」

――もうハルさんも知っているんだ。あたしとシンのこと。

「ごめんね。びっくりしたでしょ。あたしとシンは昨日のデートでフライデーされちゃったみたい」

と、スーリアが苦笑すると、ハルさんが二の句をつぐまで間があった。

「…?違うの。スーリアちゃん。シン君てば、彼女を校門でみつけるやいなや、皆を差し置いて独り占めしたの。シン君てば、あのカワイイ子を自分のモノにする気なんだよ!」

「え?」

――おかしいぞ。なんかおかしいぞ。あたしは、校門でシンと出会ってない。さっき聞いた校内のざわつきの中に、校門でお姫様抱っこしたとか、キスしたとか言う声が聞こえたけど、あたしは、そう言えば、今日登校してから一度もシンと一緒にいたことなんてないし、そんなことした覚えないのに!


「スーリアちゃん、シン君をどうにかして!昨日、一緒にデートしたスーリアちゃんの言うことなら聞くかも。あのカワイイ子をシン君みたいな野獣が貰い受けるなんて許せない!」

――そりゃ、あたしはカワイイけど。シンみたいな野獣には勿体無いほどカワイイけど。…て、なんか違くない!?なんか言葉的におかしくない?

「あの、ハルさん。それ、どういうこと?シンの彼女って?」

「あー、スーリアちゃん!あのね、スーリアちゃん。何から話したらいいのか分かんないんだけど、スーリアちゃん!とりあえずスーリアちゃん!スーリアちゃんのことスーちゃんって呼んでいい?」

「え…いいけど」

「良かった!どうやって呼ぼうか迷ってたんだよね。ありがと」

そうなのだ。スーリアは、ハルさん以外にもそうなのだが、転入してきてから、ちゃん付けで呼ばれたり呼び捨てで呼ばれたりと、色々だったのだ。

「じゃあ、スーちゃん!とりあえず、教室に来てよ!」

教室には、シンの座っている机の周りに人集りができている。

シンは得意げに言っていた。

「見てみろよ。こいつカワイイだろ」

何かを話しているようだ。

「彼女カワイイー」

「ちっちゃいなー」

「目なんてビー玉みたいだぜー」

どうやらクラスメイトたちは、シンの机の上にあるモノを見ながら言っているようだ。ハルさんに手を引かれて、その人集りをかき分け、スーリアが見たモノは…


「!!犬じゃねーか!!」


思わず突っ込んでしまった。そこに居たのは、両手のひらにおさまるほど小さな犬だった。毛は短く、クリーム色をしている。

子犬なのだろうが、手足も胴体も小ぶりで、成長してもそれほど大きくなりそうにない。そのくせ瞳はまん丸で大きく、黒いビー玉のように、きらきらウルウルしている。

大勢の人間の威圧感にビクビクしているのか、興味深々なのか、二つの耳はピクピクあちこちの方向を向いている。

犬種はチワワだろうか。

「スーリアか。ほれ、抱いてみ。オレの彼女」

「彼女?」

シンは、その犬をスーリアに抱き渡した。

――犬が彼女ね。まあ、あたしが彼女なわけないけど。わかってたけど、そんなこと。

スーリアは、犬を腕に抱くと、その小ささと軽さに驚いた。全体的に丸くて柔らかいことを感じる。

そして、ウルウルした視線がスーリアに注がれた。目が合ったスーリアは思わず言うのだった。

「カワイイじゃねーか!」


「じゃねーかって、スーちゃん。キャラ崩れてるよ」

呆れて言うハルさん。スーリアは目をキラキラして、右腕で抱きしめた犬を左手で撫でた。

「カワイイッ!可愛すぎるでしょハルさん!見て!体もまん丸なら、目もまん丸だよー」

「わかったわかった。カワイイよね」

ハルさんはスーリアの頭を撫でた。

「スーちゃん。彼女はシバチワのナナちゃんだよ。高校周辺に住んでるノラ犬なの」

「へー。シバチワって何?初めて聞く犬種」

「この子、お父さんが豆シバベースの雑種のノラ犬で、お母さんが捨て犬のチワワらしいの。ミックス犬ってやつだね」

「ミックス犬!」

「そう。高校の校舎の目立たないとこでこっそり住み着いたノラ犬が産んだ子が、この子。一匹で、兄弟はいないみたい」

「ふうん。そんなナナちゃんが、なんでシンの彼女?」

すると、会話にシンが割り込んできた。

「ナナはさ、オレに一番懐いてんだぜ」

ハルさんが眉を寄せた。

「気に入らない!何でシン君なの?うちだって可愛がってるのに!」

もーう!と腕を組むハルさん。

「お前には懐かねーよ。オレみたいに魅力のある人間じゃねーとな」

シンは得意げだ。

「スーちゃん聞いてよ。シン君てばヒドイの!今朝、校門で久しぶりにナナちゃんが出迎えてくれたと思ったら、横から来たシン君に奪い取られたの!」

ハルさんの話では、ノラ犬のナナちゃんは、度々校門で生徒たちを見ていることがあり、今朝も、校門の前でちょこんと座って尻尾を振りながら出迎えてくれたらしい。

ハルさんはナナちゃんの頭を撫でたそうだ。

そうしたら、ハルさんより後に来たシンが、いきなりナナちゃんを仰向けに抱っこして、誰が声をかける暇もなく教室に連れて来たのだと言う。

これが彼女をお姫様抱っこした真相だ。

シンは道すがら、腕の中のナナちゃんに顔を近づけていて、近づいた顔を、ナナちゃんはペロリと舐めたのだそう。

これがキスしてたということだな。

その一人と一匹の姿は、さながら恋人のようにラブラブだったようだ。


「アホくさっ。あんたそれ、懐かれてるんじゃなくて、強引にスキンシップしてるだけでしょ」

スーリアは苦笑いした。

「はぁ!?ナナは確かにオレのことが好きだぜ!だって、最初に出会った時からナナはオレにだけ尻尾振るしよー、オレにだけウルウルした目で見てくんだぜ?」

「それ、誰にでもでしょ」

ため息を吐くスーリアに、ハルさんは鼻息荒くまくし立てる。

「でしょでしょ!スーちゃん。誰にだってナナちゃんは尻尾振るし、ウルウルした目で見てくんの!ナナちゃんは皆のアイドルなんだよ!もっと言ってやって!」

「や、ハルさん。あたしそこまでナナちゃんに情熱を燃やせない」

「えー?スーちゃん。ナナちゃんの魅力が分かんないの?」

「そうだぜスーリア。ナナはかなりカワイイ魔性の女だぜ?」

シンまで、冷めたスーリアを、この可愛さを正当に評価してないというような目で見てくる。

スーリアはナナちゃんと目が合った。愛想笑いをする。

「ナナちゃんカワイイねー。あたしん家来る?」

「あ!それオレがナナに言いたかったこと!」

と、シンが言い終わらないうちに、スーリアが撫でようとした左手をナナちゃんはパクっと噛んだ。

「イタタタっ」

ナナちゃんが、スーリアの左の指先をガシガシと噛んでいる。スーリアは驚いて、ペイっと、しかし、そっと、シンの机の上にナナちゃんを戻した。

「スーリア、何戻してんだよ!」

シンにはスーリアの置き方が乱暴に見えたらしい。ペイっと放られたナナちゃんを慌てて抱き上げる。

「何って、今見たでしょ?噛まれたの!」

左手を庇うスーリアに、

「ん?」

と、シンはナナちゃんの顔を覗き込む。

「ナナ、どーしたんだよ。珍しいな。お前が人を噛むなんて」

ナナちゃんは、シンの腕の中でウルウルした瞳でシンを見つめている。その瞳は、まるでぶりっ子の様だ。

スーリアには、女の勘が働いた。

ナナちゃんは、明らかにシンに媚びている。そして、スーリアをなぜか今、嫌っている。

なぜスーリアに、物言えぬ動物の感情が分かるのかって?

それは、スーリアが見てきた、芸能界という嫉妬と羨望の世界の野心的な…というか、ぶりっ子的な女性の瞳とナナちゃんの瞳が似ているからだ。

――ナナちゃんは、あたしをライバル視してる!学園のアイドルの座を巡って争う気だ!

スーリアは、ナナちゃんと顔を見合わせる。

――ふっふっふ、本気で欲しくなったぞ、お主が。さっきのあたしん家来る?はお愛想だったが…面白い。こんな奴だったのかお主は。なびかぬ女を振り向かせるのも一興よのう。お主をいつかあたしの犬にしてくれようぞ。

スーリアの視線の中の野望に気づいたのか、ナナちゃんはプイっと顔を反らした。

「スーリア、お前、ナナに嫌われてんじゃね?」

シンが歯を見せながら笑ってくる。

「人の気も知らないで。言ってな!今にナナちゃんをあたしの番犬にしてやるから!」

「番犬?ナナが?似合わねー。な?ナナ」

ナナちゃんは、シンに撫でられながらご満悦の様子。絶対にスーリアに屈服することはない、と言いたげだ。

――燃えてきたぜー、ナナちゃんよー。いつかそのツンをデレにしてやるぜぇ。

「ナナはいつかオレん家来るんだよな?カワイイなー、ナナは」

シンが人間には到底見せないような笑顔で触れると、ナナちゃんはリラックスした様子でお腹を見せた。

「つか、シン。お前ずいぶん犬好きなのな。意外」

そう言ったのは、シンの机に集まっていた一人の、頭が坊主のゲイルという男子。

「意外か?オレは、犬どころか動物は皆好きだぜ」

「ほー」

「なんか動物って、ほっとけないっていうか、親近感があるっていうか、でさ」

「ほう。親近感がある?不思議なこと言う奴だな。どんな親近感よソレ」

「そ、それはまー、どうでもいいだろ。つか、見てみろよゲイル」


ーー!?


スーリアは衝撃的な光景を目にした。横に寝転んでお腹を見せたナナちゃんの腹を覗き込む野郎たち。

「乳首が薄ピンク色だぜ」

「マジだ。薄ピンク色だぜー」

と、色が分からないはずのシンがノリノリで血走った目をしている。

「あんたたち、何言ってんの!?」

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