祭りの後

 「聞いたわよ。派手にやってくれたみたいね」

 一夜明けて昼休み、購買のパンを買いに廊下を歩いていると、向こうから牧島先輩がやって来た。

 「貴良ちゃん救出を建前にコースレコード塗り替えたんですって? 」

 「は? 何すかそれ」

 「あれ、荻原くんが言ってたんだけどな」

 残念そうにわざとらしく肩を落とす牧島。何そのデマ情報。後荻原君って誰。

 「え、知らないの? 荻原卓典君、ウチのクラス委員。布団屋さんの息子で、配達で毎日朝早くから走ってるんだって」

 「どっかで聞いたことある奴ですね」

 「やーね、他人の空似よ」

 とりあえずその萩原ってのを見つけたら文句言いに行こう。

 「君達はのんきでいいねぇ。こっちは大変だったよ」

 げ、また面倒なのが来やがった。俺はクルッと回れ右して逃げようとしたが既に遅く、仏頂面の瀬雄に行く手を阻まれた。

 「朝から先生達に呼び出されて、さっきやっと解放されたんだよ。ホント疲れた~、見てよこれ」

 どうもお騒がせしました、と謝る隙も与えず、自動車部の渉外担当はスマホの画面を見せた。

 それは昨日のニュース番組らしく、見覚えのあるパトカーと、これまたよく見覚えのあるロードスターのカーチェイスを映している。お、ロードスターが派手にスピンターンした

 「地元テレビ局で放映されてたみたいだね。一応、ネットの掲示板には自主映画の撮影って誤魔化しといたけど」

 「人騒がせな後輩ね。今度ふざけたマネしたら、バッテリー上げるわよ」

 「すまん、瀬雄、牧島先輩」

 二人はノリこそいつも通りだったが、目は笑っていなかった。もし一歩間違ってたら、こんなやり取りも出来なかったと思うと、胸が痛くなる。

 さて、楓姉さんの話だと、苑浦は一週間ほど入院してから復帰するらしく、その間は活動しなくていいだろう。さぁ昼飯、と購買に向かったところで、ポケットの携帯が振動した。見覚えのあるアドレスだが、題名はない。

 「あれ、今のメール何? ちょっと見せなさいよ」」

 そこで、興味津々そうに牧島先輩が手元を覗き込んできた。ったく、手元で操作したのに、めざとい人だ。

 「え、勝手に抜け駆けするなんて聞いてないよ!こらーっ」

 それにつられて瀬雄がギャーギャー喚くと、なぜか他の生徒が妙に冷たい視線を送ってきた。温度にすると摂氏十五度くらい。あいつらファンクラブの連中か。

 居心地の悪さを振り払うようにして、校舎裏の階段へと逃げる。そこでもう一度携帯を開くと、簡潔に一言。

 「夜七時、碧宮大学病院の屋上に」

 いかにもアイツらしい文面だ。メールを送れるってことは、一応体調は回復したのだろう。そして、自分の運命を聞かされたに違いない。

 だから、俺は俺なりに答えを用意してやらないと。

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