序章 2 精霊の村

『ただいまー』


狐太郎が世界樹の麓の村へ帰ってくる間、数回程休憩をとった

どうやら彼女らは夜通し逃げてきたようでヘトヘトだったらしい

さらに歩きなれない森の中とあって疲れは倍増したようだ

途中狐太郎が丈夫な木の枝で杖を作ってあげた程だ

すぐにも説明を受けたかったが2人の疲れようで、明日にしてもらい今日は休んでもらうことにしよう


世界樹の麓の村に着いてから彼女らは驚きの連続だったらしい

世界樹の麓に建っている建物を見て驚き

普段目にすることのできない神聖な精霊を何十人も見て驚き

そして精霊が狐太郎に対して楽しそうに接してる所を見て驚き


2人は疲れと驚きでその場にヘタリこんでしまった

そんな2人を尻目に狐太郎と精霊達は話を進め、とりあえず空いている一室で休んでもらうことにする


案内は狐太郎だ

精霊に任せようとしたら彼女らが恐れ多いと拒否した為である

長い廊下を通り、空き室に到着して中へ招き入れる

8畳から10畳くらいの和風な部屋だ

囲炉裏も設置されている

しかも畳に障子やふすま

転生してから全部狐太郎が知識をフル動員して完成させたものだ

もちろんここにしかなく、この世界には異質だろう

案の定彼女らはポカンと口を開けていた


『とりあえずこの部屋を使ってください。食事は何か暖かいものを後でお持ちします。トイレとお風呂は・・・』

「お、お風呂があるんですか!?」


侍女?がびっくりしたような声をあげる

この世界では風呂と言うのは高級なものだそうで、王族や貴族とかお金持ちしか持っていないらしく、侍女?ももちろんそうそうお目にかかったことはないらしい


『あ、はい。一応あることはありますが、個室ごととかではなく温泉ぽいものですけど』


むしろ温泉の方が贅沢感は増すと思うのだが狐太郎は違うらしい


「お、温泉・・・入っていいんですか!?」

『えぇ、構いませんよ。先に入りますか?』

「はいっ!!」


勢いよく返事をした侍女?は王女?と一緒だったのを思い出し、王女?をチラ見しすいませんと顔を赤らめうつむいた

狐太郎と王女?は物凄い食いつきの侍女に苦笑する


『それではえ~と・・・すいません名前まだ名乗ってませんでしたね。俺・・いや僕は狐太郎と言います』

「あ、こちらこそ失礼しました。助けてもらったのにお礼も名乗りもせず。私はメアリーといいます。こちらの王・・こちらの方の身の回りの世話をさせてもらってます」


言い直して、ペコリと頭を下げる

すでに服装とかからなんとなくバレてはいるのだが詮索はしないでおこう

時期に話してくれるだろう


「私はクリスティアと申します。お察しだと思いますが王女です」


と思っていたらいきなり爆弾発言をしながらスカートを軽くつまみながらお辞儀をする


「クリスティア様っ!!」

「いずれバレると思いますし、コタロー様はすでに薄々気づいていらっしゃった様子」


ですよね?と視線を向けるクリスティア


『薄々ですよ。確信はありませんでしたけど』


苦笑いの狐太郎に、驚くメアリー

まぁ身の回りの世話をするという時点で貴族以上だとは思っていたけど、やはり王族だったか・・・


『まぁ事情は後回しで先に疲れを取るのがいいと思いますがクリスティア様』

「クリスで構いませんわコタロー様」

「クリスティア様」


メアリーが咎めようとする


「メアリー、ここは王宮でもなければ私達の国ではありません。私たちは招かざれる客です。場所がかわれば礼儀や作法も変わります」

「わかりました・・」


不承不承メアリーは納得したようだ


『では自分の事も狐太郎と呼んでください』

「わ、私もメアリーで構いませんので・・」

『わかりましたクリスさんにメアリーさん』

「よろしくお願いしますね、コタロー様」

『とりあえず挨拶も終わったのでお風呂に案内しますね。さすがに女性用のお風呂は僕では案内できないので代わりを呼びます』


そういうと、いきなりふすま?が開く


「お風呂の案内でしょ?私がするよー。丁度入りに行く所だし」


勢いよく手をあげながら入ってきたのはシェリーだった

ふすま向こうで盗み聞きしてたらしい


『それじゃシェリーにお願いするよ。でも先に彼女らを入れてあげて。シェリーはあとだ』


大人数で入る習慣と言うのはないだろうと狐太郎は気を利かせる

シェリーはブーたれた顔をしている


「私たちは構いません。シェリー様、よければご一緒にどうですか?」


クリスティアがそう誘うとシェリーはやったーと喜びながら辺りを飛び回る


『クリスさんいいんですか?』


シェリーに落ち着けと釘を差しながら、迷惑なんじゃないかと聞く


「大丈夫です。それに精霊様と一緒に入れるなんてそうない事でしょうから」


と王女は嬉しそうに言う

実際そうなのだろう

うまく行けば精霊と知己になれるかもしれないのだ

さらに力になってもらえるかもと言う打算があるのかは定かではないが


『クリスさんが構わないならそれでいいですよ。それじゃシェリー案内よろしくね。後で着替え持っていかせるから』

「は~い」


と元気よく返事をすると王女達を連れて出ていく

狐太郎は小さくため息をつくとシェリルを呼ぶ

すぐにシェリルが横に現れる


『後で浴衣を3着持って行ってくれないかな?』

「いいわよ。彼女達が着ていたものは洗濯しちゃって良いのよね?」

『あぁ、うん。よろしく頼むよ』


わかったわと消えようとするシェリルを慌てて呼び止めると、シェリルはなぁに?と首を可愛くかしげる

『あのさ盗賊達の時なんだけど、シェリルあの時手加減した?』

「もちろんしたわよー」

『あれで?』

「したわよ。7~8割くらいに抑えたわ」

『それは手加減て言うのか・・・?』

「ご飯だって腹八分目って言うんでしょ。同じじゃない」


と、無駄に豊満な胸をそらしドヤ顔するシェリル

腹八分目と一緒にされてもな・・・


『シェリーはまだ手加減できないからシェリルを呼んだんだけど、もう少し手加減してよ。じゃないとシェリーと一緒じゃないか』

「ひどーい。私とシェリーの差はそこだけなのー?」


とぎゅうと抱きついてくる

胸をぐいぐい押し付けてくる辺り面白がってわざとやってるに違いない


『わ、わかったわかった。ごめん。だから抱きつくなって』


やんわりと引き離すとシェリルは物足りなさそうに狐太郎を睨む

こんな所をシェリーや王女達に見られたらたまらない


『とにかく洗濯と浴衣の方をよろしくね。俺は食事の準備をしてくるから』


と言って部屋を離れ、そのまま厨房へ向かう

近づくにつれ遠くからでもわかる怒鳴り声や喧騒が聞こえてくる


「お、コタロー遅かったな。こっちはもうほぼ終わってるぜ」


厨房へ顔を出すと真っ赤な真紅の髪を後ろに撫であげた美丈夫が料理を作っていた

外見は30歳前後に見えるが精霊なので実年齢は不明である

コックコートとコック帽を装着した姿はどう見ても料理人だ

ただし色が赤でなければ

狐太郎はコックコートとコック帽は白だと教えたのだが、この精霊は赤を選んだ

そこは火の精霊だからなのだろう

いい感じに日焼けした肌と精悍な顔つきで戦場の料理人っぽい

他にも厨房には数人いるが全員白いコックコートとコック帽だ


『ごめんアグニス、シェリルに捕まっちゃって』

「またあいつか。まぁ仕方ない、コタローはアイツのお気に入りだからな。多少は許してやれ、役得だろう」


わははと豪快に笑い飛ばす


「んで飯はどこへ運ぶ?いつもの広間か?それともゲストの部屋か?」


ちなみに料理は和食だ

こっちの世界ではないので狐太郎がアグニスにレシピを教えたら瞬く間に習得した

村には畑や田んぼもある

今回はお刺身と天ぷらだ


『とりあえずは彼女達の部屋でいいんじゃないかな。2人分で』

「オッケーだ。すぐに運ぶ。おい、ゲストの間へ2人分運んでくれ。残りはいつもの広間だ」


呼ばれた給仕?がてきぱきと運び出す

ちなみに全員精霊である

世界樹の麓の村は狐太郎以外の人間はいないのだ

他の人間がこの光景を見たら絶句すること間違いなしである

なんせ神聖な精霊が料理人や給仕をしているのだから

だが、嫌々やってる人は誰一人いない

みんな楽しそうに笑顔で仕事をしているので適材適所と言う奴であろう


王女達の部屋に料理が運び込まれる

まだ彼女らはお風呂から帰ってきてない

まさかシェリーが何かやらかしたんじゃないだろうか

一度頭をよぎるとどうしても不安になる

シェリーはあれでまだ子供だ

困らせてないか心配になってきた

廊下をウロウロしていると王女達が歩いてきた

シェリーも一緒だ

どうやら問題は起きなかったらしい


3人は浴衣を着ていた

風呂上がりの女性はどうしてこうも色っぽいのか

濡れた髪に火照った肌

アップした髪に見えるうなじ

狐太郎は直視できず目をそらす、シェリーへと

シェリーは大丈夫のようだ

子供だからだろうか


そんなことを考えていると3人が部屋の前まで来た


「コタロー見てみてー。似合うー?」


浴衣を着たままクルクル回る

うーむ、やはり色っぽくない

そんな心の声が聞こえるはずはないがシェリーはジト目で狐太郎を見る


「何か失礼な事考えてなかったコタロー?」

『え?まさか、よく似合うって思っただけだよ』


そんな言葉にシェリーはパッと笑顔になる

それを微笑ましく王女達は眺めている


『せっかく暖まったのに廊下じゃなんですから部屋に入りましょう。もう料理はできてますから』


どうぞと中へ促す

すでに料理は配膳済みだ、2人分

それを見たシェリーは口を尖らせた


「えー、シェリーもここで一緒に食べたいー」


と駄々を捏ねる


「私達は構いませんよ?よければコタロー様もご一緒にいかがですか?」


狐太郎が口を開くより早く王女がフォローする


『えと、いいんですか?うるさくて迷惑じゃないですか?』

「ぶー、シェリーはそんなうるさくないもん」


ぷいっとそっぽを向くシェリー


「はい、構いません。それに2人より4人で食べた方が美味しいと思いますし」

「・・(王宮ではクリスティア様は常に一人で冷めた食事でしたので)」


侍女が狐太郎の耳元でそっとつぶやく

それではおいしい食事も味気ないものだっただろう

冷めた食事と言うのも、毒見役がいるから仕方のない事なのかもしれない


『わかりました。ではシェリーと自分もここでいただきましょう』


そういって給仕に自分達の食事を運んできてもらうよう言う


『とりあえず座りましょうか』

「そうですね、メアリーあなたも一緒に座りなさいな」

「わかりました」


とみんな席へ着く

残ってた給仕の一人がお茶を入れてくれた


「お風呂ありがとうございます。あんな広いお風呂は初めてでした。それにこの浴衣も初めて着ましたが良い物ですね」

『気に入ってくれて良かったです。お風呂も浴衣も、料理もですが全部僕の故郷の物です』

「そうなんですか?全部見たことないものばかりでしたので。失礼かもしれませんが、故郷はどちらで?」

『えと、ずっと遠い場所ですね。もう戻れないですけど』

「それは、失礼しました・・・」


王女は故郷が滅ぼされたとでも思ったのか謝ってきた


『気にしないでください。今はここが故郷ですから』


と笑顔で言う

なせがシェリーも嬉しそうだ

すでに過去の思いでは数百年の知識の中で埋もれて薄れていた

しばらく待つと2人分の料理が運ばれてきた

4人ともすでにお腹がペコペコだ

狐太郎は給仕の精霊にお礼を言って彼(彼女)らにも食事を食べるようにすすめた


『ではいただきましょうか』

『「いだきます」』


王女達も2人にならい、いただきますをする

がなかなか手をつけない

そんな2人を見て、狐太郎は食べるよううながす


『遠慮しないで食べちゃっていいですよ。それとも何か食べれない物とか苦手な物ありました?』

「あ、いえ好き嫌いはないのですが全て見たことない料理ばかりでどうやって食べていいのか・・・」


あぁそういやそうだったと狐太郎は反省する


『すいません、説明してませんでしたね。ここに人が来るのは初めてなもので。まず、こっちの天ぷらと言うんですがこれはこのタレに付けて食べてください。塩を降って食べてもおいしいですよ。そしてこれはお刺身なんですが、こっちの醤油というのを軽く付けて食べて気ださい。このワサビと言うのを少量醤油に溶いて付けて食べるとピリッとして美味しいですよ。たくさん入れると涙が出るくらいツンとくるので気をつけてください』


横でシェリーがワサビ嫌~い!とぶつぶつ言っていたがスルーする

ひとしきり説明を終えると侍女のメアリーが恐る恐る天ぷらに手を出す

そして天つゆに軽く付けて口に運ぶ

よく脂切りがされてるのだろう、サクサクという音だけが響く

一口食べ終えたメアリー驚きの声をあげる


「クリスティア様これものすごく美味しいです!!王宮でもこんな美味しいの食べたことありません」


そう言いながらパクパクと天ぷらを口にする

天ぷらは今回は海産物系でまとめてみた

イカやホタテ、エビ等だ

そしてクリスティアは刺身に手を伸ばす

この世界では海辺近隣でない限り新鮮な海の幸は食べれない

保存方法が確立されてないのだ

王宮暮らしのクリスティアでさえも国が海に面してないので、新鮮な海の幸は食べたことがない

ちょんちょんと醤油を付けて口に運ぶ

しばらくもぐもぐとしていたが飲み込むと同じく驚きの顔になる


「こちらのお刺身もものすごく美味しいですわ。海から離れた場所でこんな新鮮な魚を食べれるなんて・・・それにちっとも生臭くありません」


どうやらお気に召したようだ

2人とも止まってた手が嘘のように動き出す

緊張感から開放されたのかおいしい食事のおかげか、楽しそうに食事をする2人に狐太郎は安堵する


途中メアリーがワサビの入れすぎて涙目で悶絶してたのはここだけの話である

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