序章 3 協力


翌朝狐太郎は小鳥のさえずりで目を覚ます

いつもの自分の部屋だ

8畳ひと間の畳敷の部屋にベッドと机と収納用タンスの簡素な部屋である

狐太郎は伸びをしてベッドから這い出すと、顔を洗うべく井戸へ向かう


廊下を歩いているとすれ違う精霊達がおはようと挨拶してくる

いつもの景色だ

同じように挨拶を返していると、先の部屋のふすまから顔だけをだしてキョロキョロしているメアリーを発見した

狐太郎はさりげなく近づき声をかける


『おはようメアリーさん』

「ひゃう!!お、おはようございますコタロー様」


微妙に変な声を出し驚きで立ち上がるメアリー


『どうしたんですか?』

「い、いえあの顔を洗おうと思いまして・・・」

『あぁ、井戸の場所教えてなかったか。ごめん、俺もこれから行くところだから一緒にどう?』

「ぅえ?あ、じゃあお願いします・・」


そう言いながら一旦部屋へ戻り、少しして部屋から出てくる

クリスティアも一緒に出てきた


「おはようございますコタロー様」


と可愛らしくペコリとお辞儀をする


『おはようクリスさん、井戸はこっちだよ』


と先を歩く狐太郎に遅れないように付いていく2人

途中精霊達ともすれ違い挨拶されるが、メアリーはいまだ精霊達と話すのに慣れないのかぎこちない

対してクリスティアは慣れたのか普通に挨拶をしている


井戸はすぐに着いた

手前にポンプが付いていてポンプの上に拳くらいの石?がはめ込まれている

ポンプの先に桶を置きポンプの上の石に触れる

するとポンプから水がばしゃばしゃ出てきた

それを後ろの2人はポカンと固まって見ている

狐太郎は桶に十分水が溜まったのを確認して石から手を離すと水も止まった


「なな、なんですかこれ?」


メアリーが驚愕の表情で恐る恐る聞く


『ん?俺が作った魔道具だよ。魔石は精霊にお願いしたんだけどね。便利でしょ』


ごく普通に答える狐太郎


「コタロー様が作られたんですか?」


クリスティアはまさか狐太郎が作ったとは思わなかったのだろう、かなりビックリしている

メアリーは隣で固まっている


『うん、俺魔力はあるくせに魔法はまったく使えなくてさ、でもこっちは昔から得意だったんだ』


顔を洗い終えると魔道具を触りながら答える


「そうだったんですか?でもこんな凄い魔道具が作れるなんてすごいですね」

『そう?でもこのくらいのなら誰でも作れるでしょ?』


大したことじゃない風な言い方に2人は異を唱える


「全然凄いことですわ。うちの国にもこんな凄い魔道具はありませんし、魔道技師もいませんわ」

「そうですよ。コタロー様は凄いです」


と力説する2人に狐太郎は若干引く

ありがとうと礼を言う狐太郎に2人はまだ納得いかないようだ


『あ、そろそろ朝食の時間だ。俺は準備してくるから2人は部屋に戻ってて』


思い出したように言いながら狐太郎は駆けていった

残された2人も部屋に戻ろうとするもまだ顔を洗ってない事に気づき、慌てて持ってきた桶を置きポンプの石に触れる

さっきも見た筈なのに触れるだけで出てくる水に改めて感心し、桶に満たされた冷たい水で顔を洗うと部屋へ戻った


部屋に戻るとちょうど朝食が準備されている所だった

給仕の精霊達がせわしなく動くなか彼女達は席に促されて席に着く

しかしソワソワ落ち着きがない

精霊を使いっパシリにしているようで居心地が悪そうだ

そんなこんなで準備ができる頃、狐太郎が入ってきた

シェリーは連れていない

なんでも用事があるとかで来れないらしい


『お待たせしました。それではいただきましょうか』


3人でいただきますと唱和し箸を手に取る

ちなみに彼女ら2人はナイフとフォーク、スプーンだ

昨日箸を勧めてみたがうまく扱えなかった

箸の概念がないのだろう


ちなみに今日の朝食は山菜の炊き込みご飯に、焼き鮭、豆腐とワカメの味噌汁に卵焼きと漬物だ

今回は2人共躊躇わずに手を伸ばして食べている

昨日美味しかったから警戒心が薄れたのだろうか、なんにしろ狐太郎はホッとしていた


「「ごちそうさまでした」」


狐太郎はすでに食べ終わりお茶をすすっている

食べ終えた2人の食器を精霊達が片付けながらお茶を入れてくれる

それを口に含み一息つくとクリスティアは意を決したように狐太郎へ視線を向ける

メアリーは黙っている。


『それでは話せる範囲で構わないので話してもらえますか?』


狐太郎が切り出すとクリスティアは二つ返事ではい頷くとポツリポツリと話し始める


自分達は近くのラグアニア王国の第三王女である事、元国王が原因不明の病に伏せっている事、兄(第二王子)が大臣とクーデターを起こして国を乗っ取ろうとしている事

阻止しようとした第一王子と第二王女は捉えられて幽閉されている事(第一王女はすでに嫁いでいていない)、そば付きも全て大臣側の息のかかった者達で信用できなく、唯一信用できたのは幼い頃から一緒だった侍女見習いのメアリーだけだった事、味方だった人達が次々殺されてしまい、さらには自分にも追っ手がかかり命からがら逃げてきた事

そして数少ない味方だった人達は逃げる最中に散り散りになってしまって生きてるかわからない事


クリスティアは包み隠さず話した

頼れる人が誰もいなくて誰かに縋りたかったのかもしれない

とにかく誰かに聞いて欲しかった

話しているうちに涙が止まらなくなりメアリーにハンカチをもらって拭っている

見るとメアリーも涙を流していた


しばらく聞いて黙っていた狐太郎だったがゆっくりと口を開いた


『なるほど事情はわかりました。それでこれからどうするつもりですか?』

「・・大臣達のクーデターを阻止します。」

『気持ちはわかりますが、人手が足りなすぎるのでは?』

「わかっています。それでも見過ごせません」

『現状かなり難しいと思いますよ?』

「それでも、決めましたから。私の為に亡くなった人の為にも」


その目には強い光が宿っていた

狐太郎はしばらく見つめていたがやがて小さなため息をつく


『そうですか、では仕方ありませんね・・』


その言葉の意味を悟ったクリスティアは顔には出さずに礼を言う


「今日まで助けてくださりありがとうございました」


お辞儀をするとやおら立ち上がる

メアリーは何か言いたそうな目をしていたがクリスティアにならい頭を下げると同じく立ち上がった

それに狐太郎は慌てて言葉を紡ぐ


『ちょ、ちょっと待ってください。どこへいくんですか?』

「王都へ戻ります」

『急ですね。徒歩だとかなりかかりますよ?』

「承知の上です。それにこれ以上迷惑はかけられませんから・・・」


何かおかしいと狐太郎は一瞬考え、思い当たったのか慌てる


『クリスさん、協力しないとは言ってませんよ?』


え?と一瞬驚きの声を上げる


「でもさっき・・・」

『引き留めようとしたんですが、無理だとわかったんで、仕方ありません協力しましょうって流れですよ』


言葉足らずにバツが悪そうに頬をぽりぽり掻く

その言葉に再びクリスティアの目尻に涙が浮かぶ


「では・・・・・」

『協力しますよもちろん。ここで見捨てたら寝覚めも悪いし、彼女(彼)らに何言われるかわかりませんから』


とニコリと笑う

それを聞いてクリスティアはありがとうございますと床にペタんと座り涙を流した

メアリーがよかったですねクリスティア様と再びハンカチを取り出し涙を拭う


その時部屋のふすまが勢い良く開く


「あー!!コタローが王女様を泣かしてるー」

「何?レディを泣かすなんて許されんぞ」

「あらあら、女性に泣かれるなんてもう一人前ね」

「ワハハ、よく協力を申し付けた!さすがコタローだ」

「あ、王女様めっちゃ綺麗ー」

「何、隣の侍女もなかなか可愛いし捨てがたいぞ」

「もう立派なタラシだな」


見ると廊下にはこっちを指さしたままのポーズのシェリー以下彼女(彼)ら精霊達の面々が所狭しと廊下から部屋をのぞき込んでいる

感動?の場面は一瞬で吹き飛び王女達はビックリしてシェリー達を見ている

驚いてなかったのは狐太郎だけだが、狐太郎は額に手を当て盛大なため息をついている


『また覗き見してたな?しかも全員でってどんだけ野次馬根性逞しいんだよ』

「なに、王女様を見たことない奴らもいたものでな。一目見たいと集まったのよ」

『別に今じゃなくてもいいでしょ』

「今の話の流れでは今すぐに旅立ちそうな勢いだったのでな。それにコタローよ。ちと言葉足らずじゃったな。あれでは王女様が勘違いするのも仕方ない」

『うっ・・それは悪かったと思ってるよ』


チラリとクリスティアを見てしゅんと肩を落とす狐太郎

それを見てひとしきり満足したのか、野次馬達は帰っていった


「さて、それじゃ昼飯の準備でもするか!今日はとびっきり美味い飯を作るから楽しみにしてろよ」


行くぞと料理長のアグニス以下コック軍団は戦場(調理場)へ向かう

各々もそれぞれの仕事場へ戻った


「って違ーう!!」


同じく帰りかけたシェリーが思い出したように戻ってきた

見事なノリツッコミだった


「コタロー例の奴もう少しでできるよー」


と狐太郎に親指を立てる


『お、そうか早いね。さすがシェリーだ』


褒められて嬉しかったのかえへへと照れるシェリー

楽しみにしててねと帰りがけまた止まる


「コタローは女心がわかってないよー。それじゃモテないよ」

『ほっとけ!!』


シェリーに言われたくないわと内心毒づく

あははとシェリーはスキップしながら去っていった

硬直から開放されたクリスティアは戸惑いを隠せない


「あの、どういう事でしょう?」

『ん?ああ、今日も泊まっていけって事だと思うよ』

「それはありがたいのですが」


いいんでしょうか?と申し訳なさそうに答える


『それにまだ疲れとれてないでしょ?今日1日ゆっくりして疲れ取ってからでも遅くはないと思うよ』

「有難うございます」


クリスティアは再度深々と頭を下げた


「しかし精霊様ってあんなに楽しい人達なんですね。もっと寡黙で真面目かと思ってました」


思い出し笑いをしているのか、クリスティアは笑顔だった


『ん?まぁね。精霊も感情はあるし、人間と変わらないよ。怒りもするし泣きもするし笑ったりするよ』


そうですねとクリスティアは笑う

肩の力が抜けたのか、リラックスしているように見える

横では頬に手を当てたメアリーが「可愛いって言われた・・・」とつぶやきながら1人ニヤけていた

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