序章 1 保護

「コタローもっと早く呼んでよ。見ていて心臓に悪かったわ」


開口一番その女性は口を尖らせ狐太郎に文句を言った

見ていた、召喚された女性はそういった

精霊というのは基本人の目には見えない

人の目には見えないだけで近くにはいる

それを魔法使いは詠唱をして火の玉やら風の刃を具現化するのである

精霊自体を召喚する召喚士も昔はいたのだが廃れてしまい今はいない

ちなみに狐太郎は世界樹から離れても精霊がどこにいるか見ることができる

召喚士の末裔とかではないが

なので召喚された女性が近くにいたのは知っていた


『俺1人でも行けるかと思ったんだ。ごめんシェリル』

「まぁいいわ。コタローも怪我してるみたいだし、早く片付けちゃうわ」

『一応手加減してくれよ・・』


わかってるわよと言いながらシェリルと呼ばれた精霊はスッと右手を前に出す

それだけで目の前に数十もの風の刃が生まれ盗賊達に襲い掛かる


「無詠唱でなんて数・・・」


後ろの侍女?が何かつぶやいているのが聞こえる

たしかにこの数は尋常じゃない

通常の魔法は詠唱して5~7の風の刃を生む

上級でも20はいかない

それを無詠唱で数十の風の刃だ

驚かない方がおかしい

しかし狐太郎はシェリルを咎めるような目で見る

手加減しろって言ったのに・・・

その視線を気づいてるのか無視してるのか、涼しい顔で受け流す

盗賊AとBは精霊の召喚に驚いていたが風の刃が放たれた瞬間我に返り回避行動を取る

間一髪でかわしたが、後ろに痺れ薬で倒れていた盗賊達はそうはいかない

起き上がるまもなく風の刃で蹂躙される

盗賊AとBは後ろに倒れている仲間達の惨状を振り返り冷や汗を流す


一気に形勢逆転した形になり、残った盗賊AとBは分が悪すぎると撤退を選択する

倒れている仲間の元へ駆け寄り脈をとったりと何かをしていたが、連れ帰るのを無理と断念したのかそのまま身を翻して撤退していった


「どうする、追う?」


シェリルはのほほんと狐太郎に尋ねる


『いや、もう遅い。目的は果たせたからいいんじゃないか?』

「でもこの盗賊達はどうするの?このまま放置するわけにもいかないし」


シェリルが無造作に倒れた盗賊達に近づく

狐太郎はそれに嫌なものを感じた


『近づくなシェリル!!』

「え?」


急に怒鳴られシェリルが止まる

狐太郎は落ちていた投げナイフを拾い

盗賊達の方へ投げた

投げナイフが盗賊達に触れる瞬間どーんと言う音とともに大爆発が起きて煙が辺りを覆う

離れていた侍女?達は大丈夫だが、狐太郎とシェリルは巻き込まれはしなかったが煙を吸い込みむせている


「ケホッケホッ・・・有爆させるならもっと離れてからにしてよ」


若干涙目になりながらシェリルはジト目で狐太郎を睨む


『ごめん、まさかこんなに煙が出てくるなんて思わなかった、でも無用心に近づかないようにね。召喚されれば生身と似たようなもんなんだから』

「は~い・・・」


同じく涙目でむせながら狐太郎はシェリルに釘を刺す

前にも似たような事があったからだ

精霊は精神体の時は物理攻撃は効かない

召喚されて具現化した時は物理攻撃も効いてしまう

シェリルは具現化した時も精神体の時のように振舞う事が多々ある

昔はそれでよく怪我をしたものだ



煙が晴れると、盗賊達の亡骸は跡形もなくなっていた


『相手に情報を渡さない為か・・・徹底してるな』


もしかしたら中には息のあった盗賊もいたかもしれないが、もはや確かめる術はない

一段落着いたと判断した狐太郎は魔法の袋から緑色の液体が入った小瓶を取り出し蓋を開けて傷口にかけると傷口はみるみるうちに塞がった


「もう大丈夫かな?そろそろ帰るわ。そっちの2人は害なさそうだし。それにちょっと長めに居たから狐太郎の負担が大きそう」

『そうだね、さすがにまだ長時間の召喚は無理っぽい。先に帰って準備していて。説明は後でする。ちょっとこっちの人達にも事情聞きたいし』


それじゃあね、と愛想よく手を振りなが消えていくシェリル

完全に消え去るまで見ていた狐太郎は侍女?達に向き直る


『えと、撃退しちゃったけどよかったかな?なんか有無を言わせず襲いかかってきたから・・』


バツが悪そうに答える狐太郎に侍女?はしばらく呆気にとられてたが


「い、いえ助かりました。有難うございます」


と勢いよく頭を下げた


『ん~と、説明してほしいんだけどどうかな?無理そうならいいんだけど・・』


侍女?はチラチラ後ろの女性を見ながらどうしようか迷っている

まぁ助けてもらったとはいえ、まだ味方かどうかもわからない男においそれと話せるわけがない


「私から説明いたしましょう」

「しかし・・・」


侍女?の後ろで今まで口も開かなかった女性が話しかけてきた

盗賊達を撃退して一息つけたのか、顔色が戻っている


「かまいません。帰るにしても馬車もない状態でこの森を出れるとは思えませんし。それに、見た感じ悪い人ではなさそうですしね」


ニッコリと狐太郎へ笑みを向ける


『実はさっきの盗賊達の仲間かもしれませんよ?』

「私達を生かしておく理由がありません。さっきの仲間なら尚更。それに・・・私は人を見る目はあるつもりですから」


そう言われれば狐太郎はどうしようもない


『わかりました。そしたら一旦安全な場所に移動しましょう。付いて来てください』


そういいながら狐太郎が促して歩き出す


「歩けますか、王女様」


と侍女?が小声で話しかけてるのを聞きながら狐太郎はやっぱり厄介事に巻き込まれたと小さくため息をついた






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る