無限転生の召喚士

阿澄龍ノ輔

プロローグ

『・・・・ん、まぶし・・』


木の上で寝ていた上杉狐太郎はいきなり眩しい光に目を覚ます

寝ぐせだらけの耳まで掛かる少しクセっ毛かかった黒髪に、鋭い鷹を思わせるような射るような目

その鋭すぎる目のお陰で周りからは敬遠されるので友達は少ない

まだ眠そうな目を擦りながら光の方へ目を向ければ、地上から天へ光の柱が立っていた

次第に小さくなる光の柱に上杉狐太郎は1人ため息をつく


『また召喚の儀式か・・・よくやるねあいつらも』


そう呟くと下から声が聞こえてきた


「コタロー?どこー?」


どうやら狐太郎を探しに来たらしい

声は徐々に近づいてくる

ちなみにここは木の上だ、しかも世界樹の

なんて罰当たりなとこの世界の人が見れば激怒せずにはいられないだろう

しかし狐太郎の場合は別である

狐太郎は遥か昔にこの世界樹から召喚され

いわば世界樹は親みたいな存在だ

狐太郎にとっては親の温もりが感じれる唯一の場所である

すでに4度目の転生を終えた狐太郎は慣れたものだった


『ここだよシェリー』


狐太郎は上がってくる声に向かって声をかける

すると狐太郎の前に1人の少女が姿を現した

エメラルドグリーンの肩まである髪に将来は美人になるであろう要素が詰め込まれている容姿

10人中10人は振り向くであろう

しかしシェリーと呼ばれた少女は宙に浮いていた

それ以外はほぼ人間そのままだ

シェリーは風の精霊であった


「またこんな所で昼寝?風邪引いても知らないよ?」


プクっと頬を可愛いく膨らませシェリーは怒る


『悪い、ここ寝心地が良くてさ』


光の柱があった方からシェリーへ目を向けながら、悪びれもせず答える

どうやらしょっちゅうここで寝ているらしい

狐太郎が見ていた方をチラリと見て再度狐太郎に視線を戻す


「どしたのコタロー?」

『ん?いや、また召喚の儀式が行われてたみたいだ』

「また?最近多いね~」


シェリーは呆れた視線を光の柱があった方へ向ける

すでに光は収まり景色は普段と変わらない


『ま、俺には関係ない。所で何か用か?飯にはまだ早い時間だと思うけど』


狐太郎は疑問を口にする

普段は食事の時にならないと呼びにはこない


「あ、そうだった。コタローちょっと事件だよ。早く降りてきて」


シェリーは思い出したように口に出し、急ぎ下へ飛んでいった


『ちょ・・・ったく説明くらいしろよな』


頭をポリポリかきながらため息をつく


『おはよ、ちょっと出かけてくる』


と世界樹をひとなでする

世界樹は答えるように枝葉を揺らす

それを見て満足そうに狐太郎はスルスル降り始めた

下へ到着するとシェリーが待っていた

周りには大人から子供まで様々な人達がいる

外見は様々だが全員実は精霊である


『なんだみんな集まって』

「近くで誰か争ってるの。たぶん人間だと思うけど・・・」

『なんだって!?場所は?』

「ん~あっちの方。2キロもいかない場所」

『ちょっと行ってくる』

「あ、これ忘れないで。コタローはまだ転生したばかりで弱いんだから」


魔法の袋を受け取りながら狐太郎はそういやそうだったと立ち止まる

転生後は能力が一般人並に戻る


『でも見捨てられない。これがあればなんとかなるだろう。大人数なのか?』

「ううん、10人はいないと思う」


魔法の袋を腰に着けながらそんな会話をする

争ってるなら全員は相手にしなくて済むかもしれない

半分くらいで済めば僥倖だ


『最悪助けを借りるかもしれない』

「ほんと?そうなったら任せて」


申し訳なさそうに言う狐太郎に嬉しそうに答えるシェリー

シェリーは狐太郎の役に立ちたいのだ

この世界に転生してきた時からの付き合いでシェリーは狐太郎に懐いていた


「危なくなったら遠慮なくわしらを呼ぶがいい」


そう声をかけたのはガッシリした体型に筋肉質な中年だ

髪は燃えるような赤、火の精霊だ


『ありがとう、たぶん大丈夫だと思う。こいつもあるから』


狐太郎はそう言いながら腰に着けた魔法の袋をポンポンと叩く

魔法の袋は狐太郎がこの世界に来てからお世話になってるアイテムで今までずっと身につけているものだ

4回転性する今までに貯めた色々なアイテムが詰まっている


「うむ、気をつけて行ってこい」

「気をつけてね~」


精霊達に見送られ、狐太郎は走り出す



争ってる場所は遠目からでもすぐに見つかった

手前側に女性2人、奥に盗賊っぽい格好した男が6人程


女性の方は1人は侍女だろうか

整った愛嬌のある顔立ちに若干タレ目気味の目が特徴的だ

肩まであるくせっ毛の茶色の髪

15歳前後だろうか、侍女っぽい服を着てはいるが侍女にしては若すぎる感じがする

青ざめながらもう1人の女性をかばう位置に気丈に立っているが足が震えている


そして庇われている女性の方も同年齢くらいだろうか、それより若いかもしれない

侍女?が可愛い系ならこちらは美人系だろうか

解けば腰まであるであろう黄金色の髪をボリュームあるツインテール風に纏めている

パッチリした目も相まってさながらフランス人形のようだが、表情は今は絶望に染まっている

幼いながらも泣かずに気丈に振舞う姿は賞賛に値するかもしれない

しかし格好は森を歩くのにそぐわない格好だ

ドレスである、王女だろうか

逆に盗賊風男達は訓練されてるのか女性二人に対して、油断も奢りもせず陣形を組んでいる

どちらかと言うと盗賊にしては統制がとれすぎている

この状況で、どっちが悪いかなんて考えるまでもない


しかし狐太郎は迷った

絶対お家騒動だと

助けたら100%巻き込まれるだろう

一瞬の葛藤に答えを出し、速度を緩めぬまま走る

助ける。見捨てたら寝覚めが悪い

良くも悪くも放っておけない性格なのである

囲まれる前に先制攻撃をする

もう全員視認できる位置まできた

向こうも狐太郎に気づいたらしく警戒する

狐太郎は魔法の袋から小さな小瓶を取り出すと盗賊達の真ん中辺りに投げ込む

それは即座に地面に落ちて割れ、半径5メートルくらいを薄紫の霧が包む

それを吸い込んだ盗賊達は一様に仰け反り倒れる

弱い痺れ薬だ


「ぐ・・・痺れ薬か・・・・・」


バタバタと倒れる中、吸い込まず無事だった2人が狐太郎を敵とみなし無言で襲いかかってきた


『(やっぱり統制が取れてるな。盗賊じゃなさそうだ。暗殺者アサシンか?)』


狐太郎が使った痺れ薬は弱いもので数分で効果が切れる

それまでにカタをつける

魔法の袋から今度は刀を取り出す

日本刀だ

鞘から抜き放ち迎え撃つ

相手は小振りな短刀を手に持っている

狐太郎は素早く盗賊達と王女?達の間に立ち2人を庇う位置に移動する


『下がっていてくれ。できれば巻き込まれない場所まで』


狐太郎の乱入に新手の敵かと警戒していた2人だったが助けてくれるらしいと気づきホッとする

そして侍女?はしゃがみこんでいる女性を立たせ安全な場所まで下がった


2人の盗賊のうち1人だけこちらに向かってきた

子供相手に2人はいらないと余裕なのか、1人は様子見なのか

とにかく1人ずつは好都合だ

名前がわからないから向かってくる盗賊を盗賊A、残って様子見してる盗賊を盗賊Bにする

森の中でも危なげなくこちらにかけてくる盗賊A

大振りせず小さい動作で最短距離を来る短刀


『何も言わずに攻撃するとか・・・目撃者は消すのか』


やはりお家騒動っぽいなとひとりごちる

有無を言わさず急所への一撃に狐太郎は慌てず対応する

見える、これなら大丈夫そうだ

右足を引き半身捻り短刀をかわすと、そのまま引いた勢いで旋回し右手の刀を横薙ぎに振るう

盗賊Aは短刀で受けるでもなく飛んでかわしそのまま後方に着地

狐太郎は間合いを詰めるべく追撃する

間合いに入る寸前、狐太郎は左足を蹴りあげ地面の土や落ち葉を相手に向かって巻き上げる


「くっ・・」


盗賊Aは顔を手で覆う

その一瞬の隙に狐太郎は正面から消えていた

一瞬で背後を取ると刀を上段から振り下ろす

完璧なタイミング

さすがにかわせない

背後に気づいた盗賊Aが振り返り短刀をかざすが遅い

そう思うが否や狐太郎の左腕に鋭い痛みが走る

そのせいで振り下ろす勢いと狙った位置が微妙にずれる

その一瞬の隙に盗賊Aは狐太郎の間合いから脱出した


狐太郎は自分の左腕を見ると投げナイフが刺さっていた

どうやら盗賊Bが投げたらしい

そいつを引っこ抜き無造作に捨てる

毒は塗ってないようで助かった

てっきり一対一だと思ってて油断した

傷は浅い、が楽観視できるほどでもない

それに二対一になると難しい

痺れ薬の効果も時期に切れる


狐太郎は助けを呼ぶことにした

出かけにあんなタンカを切った自分が恨めしい

まだ自分のレベルでは2人を同時に相手取るには無理そうだ・・・

首から下がっている七色のネックレス

それを右手で包み込み念じる

すると狐太郎の横に一陣の風が渦巻き風が収まると綺麗なエメラルドグリーンの長髪を後ろで束ね踊り子のような格好をした女性が現れた

シェリーを大人にした感じだ

そして宙に浮いている


「な!?精霊だと!!」


盗賊Aは驚愕している

見れば盗賊Bも声に出してないが驚いているようだ

さらに狐太郎の後ろでは女性2人がびっくりして固まっている


召喚された女性は周りを見回し満足そうに頷くが、狐太郎の方を見ると若干不機嫌そうな顔をする

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