第12話

 大翔の家は、学校を挟んで反対方向なため、滅多に行くことがない。だから場所を間違えないか心配だったが、よく考えたら、あんなボロボロなアパート、間違えるわけないか。


「お兄ちゃん、人様の家をボロボロとか言っちゃ駄目だよ」

「人の心を読むな」


大翔は金に困っているので、今にも倒壊しそうな小さいアパートに住んでいる。たしか今は、妹と同居か。

部屋の前まで来ると、ドアをノックする(インターホンは無い)。


「お、なんだ仁、こんな遅くに」

「よぉ、ちょっと訊きたいことがあるんだ」

「そうか、ま、とりあえず入れよ」


俺と凪はお邪魔させてもらい、適当なところに座る。見ると、あの妹は奥の部屋で寝ていた。


「悪いな、あいつ、まだ時差ボケがあるみたいで」

「そうか、ところで大翔、お前かその妹で、何か変わったことないか?昨日の夜以降だ」

「いや、特に無いな」

「こういうブレスレット、見たことない?もしくは宝石単体で」

凪が右腕のブレスレットを見せると大翔は一瞬動揺し、ブレスレットを見つめたが、すぐに平静を取り戻した。

「いや、無いな。なんだそれ?」


どうする、大翔には見せるべきか、まぁいずれはバレてしまうことかもしれない。

「凪、大翔には教えよう」

「...分かった、あれ結構恥ずかしいんだけどな」

凪はブレスレットに手をかざす。

「『マジックアップ・トランスフォーム』‼」


変身したNAGIの姿を見て、大翔はまた動揺したが、普通より早く落ち着くと、軽く笑った。

「なるほどな、お前の妄想が、現実になったってことか」

「なんか冷静過ぎないか?」

「いや驚いてるぜ?ただ、お前ならいつかこういうことを起こす気がしてたからな。変に納得したよ」

「そうか」

どうも、それだけでは無いような気がしたが、俺にはそれを問いただす理由も、度胸もなかった。


「しかし、すごいな凪ちゃん、魔法少女か!」

凪はとたんに赤面し、変身を解除する。イケメンの発言力。


「実は今日もな...」

俺はNAGIと怪物との戦いを、大翔に話した。大翔はたまにリアクションをとるも、やはり不思議なほどに落ち着いていた。

原因の説明まで来ると。

「つまりあれか?お前の考えだと、俺やアリスも凪ちゃんみたいに変身できるかもしれない。と?」

「まぁ、男の俺やお前は、残念ながら可能性が低いが、お前の妹のアリスは、多分そうだ」

「どうかな~。自分の胸からブレスレットが出たりなんかしたら、あいつ大喜びで報告してきそうだが」

「まぁ、まだなにも起こっていないなら、それでいい。俺達はそろそろ帰るよ」

「そうか、また明日な」


俺達は、大翔の部屋を後にした。多少の疑問はあるが、まだ喜城兄妹にはなにも起きていない。

「もしかしたら、凪だけなのかもな」

そんなことを呟きながら、アパートに背を向けると、周りが歪み、別の空間へと変わる。


「まじかよ、一日に一度だけっていうセオリーを守る気はないらしい」


目の前には、あのときのやつと似ている、少し小型の怪物が、まるで行く手を阻むように立っていた。


「凪、また助けてもらっていいか?」

「いいけど、明日のチャンネル権と引き換えね」

「仕方ない」


「『マジックアップ・トランスフォーム』!」


魔法少女初日にして三度目の変身をしたNAGIは、すぐにゲートから剣を取り出し、構えた。


「ギュオオオ!」


怪物の拳を交わしながら、その腕を切り落とす。

驚く怪物の足元に移動し、片足を切り落とすと、怪物がよろける。

そのまま怪物の背後をとり、大きく跳躍してから一刀両断する。

怪物が霧となって消えるまで、実に5分もかからない速業だった。


「なぁお前、急にすごい強くなってないか?」

「なんか、一回目で慣れちゃった」

「ん、待てよ、なんかおかしいぞ」

怪物は倒されたのに、この変な空間が解除されていない。


「やぁ~、さすがだね、魔法少女NAGI。二回目にして、その天才的な戦闘センス、僕っちの判断に間違いはなかった」

そう言いながら現れたのは、背中に羽根を生やす、犬とも猫ともいえない小生物だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る