5-3
朝。宿屋の前で朝日を浴びて待つ。
「遅いな」とエリオット。
「寝坊なら簡単だ」
アンナが言った。
「何が簡単なんだよ」
「起こす方法は一つだけだ」
殴る気だ。
まだロビンが出てこない。昨晩のことを思い返す。女とやったのなら、遅れるのもわかる。だが腹は立つ。
「昨日はどうだった?」
アンナが聞いてきた。
「結構、遅くまで飲んだよ。ロビンの機嫌を損ねてもしょうがないし、付き合った」
「お前がうまく制御できないからこうなる」
「様子を見に行こう」
エリオットは言った。宿屋へ戻ろうとする。
「待て、何か隠してるな」とアンナ。
エリオットは足を止める。
「何も隠してない」
「昨日、何があった」
「俺の言ったこと理解してるのか? 何もない」
「エリオット、私は誰も殴りたくない。だが馬鹿は別だ。馬鹿は殴っていいという法律があるんだ」
「女と寝た」
白状した。
「お前が?」
「ロビンだ。女もその気だった。奇跡の夜だったんだ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。あんな不細工に女が寄り付くか? 美人局に決まってる」
「可愛そうなこと言うなよ」
「現実は甘くない。確認だ。世界に奇跡はないんだよ」
■
ロビンの部屋に来た。
アンナはノックもせずに扉を開けて入る。エリオットも続いた。
「なんだよ、この状態」とエリオット。
「問題発生だな」
アンナがぼやく。
部屋は引っ繰り返されていた。引き出し、収納棚、全てが開かれて、中身が部屋中に散乱している。ベッドの上には上半身裸のロビン。何かを探すようにシーツを両手で広げ、はためかせている。
「女はどこだ、ロビン」とアンナ。
「消えた――。消えちまったよ」
ロビンが言った。
「お前、もしかして昨日の女を捜してるのか?」
エリオットが言う。「こんな小さな引き出しに入ってるはずないだろ」
「小人じゃないんだろ?」とアンナ。
「胸はでかかったよ。ロビン、何があった」
「腕輪だよ」
ベッドの上に蹲る。「腕輪がなくなった」
「腕輪ってあれか? ネクロポリスに入るのに必要とか言ってた腕輪か?」とエリオット。
「昨日の女だ。きっとあいつが盗んで――」
ロビンが呟く。エリオットの質問に答えたわけではない様子だった。「絶対にそうだ」
「エリオット、もしかしてネクロポリスに入るために必要な腕輪がなくなったのか?」
アンナも言った。
「そのようだ」
「ははぁ~ん。その女はもしかしたらモロウ・リー盗賊団かもな。向こうデイジーの死体が必要なら、腕輪が欲しいはずだ」
「狙われていたのか?」
「盗みは奴らの本業だ」
「やっぱり美人過ぎるのもよくないな」
「どうする?」とアンナ。
「殴らないのか?」
エリオットがアンナに尋ねる。
「いいのか?」
「本音を言えば、そうしてくれるとありがたい」
すぐアンナはロビンを殴った。
■
半べそをかいているロビンを外に連れ出す。
「とりあえずネクロポリスまで案内しろ、そこからは私たちがどうにかする」
アンナが言った。
「行っても無駄だ。絶対に中には入れない。腕輪がないんだ」
ロビンは地面に力なく座り込んでいる。「無理だ」
「予備の腕輪は?」
「そんなものあるわけない。あれは俺だけのものだ」
「錯乱してるな。馬に縛り付けろ、エリオット。今後は殴って道を聞き出しながら行くぞ」
「やめてくれ。意味ないんだ。死体運びの腕輪なしで行っても殺されるだけだ」
「墓守りたちはそんなに強いのか?」
「強いよ」
「知るか」
「なら聞くな」
「だが、ロビン。ここで戻るという選択肢はない」とエリオット。「行くしかない。お前はついに仕事を失ったんだ。禁止されているのに街を出て、死体運びの証である腕輪を失くした。もう戻れない。死刑執行人になりたいんだろ? 俺たちをネクロポリスに連れて行け」
「けど、エリオット。本当に無意味なんだよ。行っても中には入れない」
「こいつを馬に縛り付けろ」
アンナが言った。「言い訳をきいても意味ない」
「ロビン、乗れ。俺はお前を縛りたくない」
「エリオット、本当なんだ。行っても墓守りに殺されるだけだ」
「じゃ街に戻るか?」とエリオット。
ロビンは黙った。
「少し落ち着け。仕事を斡旋するんだ。憧れの死刑執行人になれる機会だぞ。お前は殺されない。ネクロポリスの近くまで連れて行ってくれるだけでいい。冷静になれよ。な?」
「本当か?」
「俺は嘘だけは大嫌いだ。信じろ」と嘘を吐くエリオット。
「そ――、そうだな。わかった――、わかったよ、エリオット。近くまでだ。近くまで案内する」
ロビンは自ら馬に乗った。
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