4-5
金を持って、ならずの王の家へ戻った。
「仕事が早いな。けっ」
ならずの王はテーブルに積まれた金貨を袋に入れた。「お前らは優秀だ。けっ」
まだ正午を回っていない。
「骨が折れる作業だった」とアンナ。
「実際に折ったのは俺だ」
エリオットが言った。「指を二本折った」
ニーナは外で待たせている。
「ニベス会の情報を寄越せ、クソじじい」
アンナは容赦ない。
「お前、もっとましな相棒はいないのか? けっ」
ならずの王がエリオットを見た。
「俺と話せばいい。こいつは無視」
「そうする。けっ」
「で、ニベス会はどこだ」
「ここから北に一時間ほど行った場所だ。けっ。モンティック川を上れ。森の中に魚一匹もいない小さな池と滝がある。けっ、けっ。ニベス会の聖域はその滝の裏だ。けっ」
「どうしてそれを知っている」
エリオットが聞いた。
「けっ。物乞いに元ニベス会司祭がいた。けっ、けっ」
「ありがとうな、ニーナのことも。教えてくれた」
「昔の借りだ」とならずの王は言った。「さっさと出て行け。けっ」
■
ならずの王の家を出た。ニーナが待っていた。
「ゆっくりしていくの?」とエリオットに聞く。
「仕事だからもう行く」
「私もついて行っていい?」
「だめ」
「きっと役に立つ」
ニーナが押してくる。「退屈なの、毎日」
アンナを見る。首を振った。エリオットも同感だ。
「弱いだろ?」とアンナ。
「一応、ペトラサの魔導大学にいた」
ニーナが言った。
「魔導の才能があるのか?」
アンナが聞く。魔導は誰でも使えるものじゃない。数千、数万とも言われる中の一握りの才能を持った者だけが、魔導を使える。
「才能あり」
ニーナは魔導士っぽく人差し指を立てくるくるっと回した。
「中退だろ」とエリオット。「風を起こせる魔導の適正はあったが、よそ風程度しか起こせなかった。だから途中で辞めさせられた」
「言わないでよ」
「そよ風なら口で息を吹いたほうが早い。わざわざ魔力を使う必要もない」とエリオットは続ける。ニーナには来て欲しくない。
「両腕の長さの三倍までだから。そこまでなら風を届けられる」
ニーナが得意げに言った。
火や水などを扱う魔道士にも同じ問題はある。多くの魔道士たちは、才能がある選ばれた人間と言っても、火ならばマッチ一本分、水ならば雫程度しか発生させられず、戦場などでは役に立たないことがほとんどだ。ゆえに魔導大学に進んでも、ほとんどは訓練途中で辞めさせられていく、本当の意味での魔導、文明の利器を越える奇跡を起こせる魔道士は、非常に少ない。
「使えないな」とアンナ。容赦ない。
「そういうことだ。また連絡するよ」
エリオットも言った。
ニーナを危険な旅に付き合わせる気はさらさらない。
「馬鹿」
ニーナが言った。
「じゃあな」とエリオット。
「馬鹿」
二度目だ。
ニーナを置いて去った。
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