終幕

 白雪は拳を突き上げた。

 倒れたまま、そのままで。

「やりましたわ……」

 黒檀のように黒い髪は乱れ、

 雪のように白い肌は焼けただれ、

 血のように赤いドレスは燃え破れ、ぼろぼろだ。


 だがしかし、勝利は確かにこの拳の中にあった。

「よし! ではこれからが、私の女王としての始まりですわね」

 王にとって、勝利とは結果では無い。

 覇を成すための前提条件なのだ。

「では早速、お父様のお見舞いに……あ、それよりも、師匠たちにお礼を言うのが先ですわね」 

 むくりと起き上がる白雪。

 3分ほど横になっていたから、体力もだいぶ回復していた。これで歩ける。仲間のもとへ帰る道を探して、部屋を見回した。

「階段が崩れてますのよね……この足では、外壁を這い降りるのは不安がありますし……」

 

 うーんと頭をひねっていると。

 ひゅぅぅぅぅぅぅん……ドベシャッ!

 何かが落ちてきた。

 天井に開いた穴から。

「あっ!」

 王妃だった。

「お義母さま!」

 近くに行ってみる。

 かすかに呼吸があるようだ。

「……生きていらっしゃるわ」

「死ぬのはこれからだ。お前と一緒にな!」

 燃え上がる地獄の炎!


「ハイホォ!」

 反射的に、雪は王妃を突き飛ばした。

 紙くずのように床を転がり、力なく横たわる王妃。悲鳴すら上げない。もう戦う力は残っていないようだ。

 だが、地獄の炎は燃え続けている。

 いままでよりも黒く、なお黒く。

「うへぁへぁへぁへぁ」

 血も淀むような笑い声。

 いや笑っているのか?

「死ね。死ね」

 王妃は立ち上がった。


「おやめ下さい、お義母さま。もう決着はつきました」

「うへぁへぁへぁ。死ね」


 靴から吹き出た黒い炎が、うねる。

 王妃の全身を包んで燃えさかる。

「! すぐに、炎を止めるのです! いけません!」

 白雪は駆け寄って、王妃の手をとった。

 王妃は白雪を殴った。

「死ねぇぇ! お前は死ねぇ! あたい以外の奴は、みんな死ねぇぇぇぇ!!」

 炎よりもどす黒い怨念が、

 その顔を覆い尽くしたとき。


 地獄の炎は、王妃を焼き尽くした。


 王妃は、

 まっ赤な血を吐いて、

 まっ白な灰を散らし、

 まっ黒な炭と化した。


 戦いは終わった。

 

   ※   ※


 その後。

 白雪姫は、正式に女王となった。そのまわりには、常に7人の小さな従者の姿があったという。

 おわり。

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白雪姫武闘伝 @empire

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