心の闇を照らしてくれるのは、誰ですか?

 人間と妖魔や妖獣が共存する「大陸」と呼ばれる世界の物語です。
 あたかも実在するかのように、緻密に練り上げられた世界観は、圧巻のひとことです。
 積み上げられた歴史があり、文化があってこその価値観があり、この世界で、人々は確かに生きています。
 海外ファンタジー作品がお好きな方なら、この世界観を感じた瞬間に、物語の虜になると思います。

 しかし、実は私、海外ファンタジー作品を殆ど読んだことがないのです。
 なのに、この物語の虜です。
 それは何故か。――この物語世界の人々が、「生きている」からです。

 登場人物は、皆、心に闇を抱えています。
 ヒロインのシルルースは、精霊の声を聴くことができますが、心の清らかな天使のような娘、ではありません。
 苦しい恋と闇を抱えながら生きる、生身の少女です。
 物語の第1章では陰謀に巻き込まれ、第2章では彼女の過去が語られます。決して恵まれた環境ではありません。けれど、彼女は懸命に生きています。

 彼女と、彼女を取り巻く人々のやり取りが、実に人間らしい。
 人と人が触れ合うことで、時にぶつかるかもしれないけれど、支え合う。その強さ、切なさは、現実の世界にも共通するもので、激しく胸を打ちます。

 ぜひ、あなたもご一緒に、彼らの世界を覗いてみませんか?

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