第567話 そんな選択肢は屁理屈だ。
「なぜ、私なのですか。」
「お前さんが暇そうじゃったからの。」
*
普段は反り立つ壁のように閉ざされているはずの扉が、今日はすんなりと開いた。 何かと思って首を伸ばしてみれば、そこに居るのは白服を連れた鼻のでかいあの博士。手元には怪しげな立方体の箱を抱えている。実験の呼び出しかと思ったが、それにしては様子がいつもとは違う。
「実験ですか。それ以外ですか。」
私は床に二本の足を付いてから二通りの選択肢を投げかける。すると博士は大いに笑う。
「やれやれ。お前さんの寄越す選択肢は随分と大雑把じゃの。」
では何と尋ねればいい。私は再び博士に問い掛ける。すると博士はこう答えた。
「実験」か。「それ以外」か。
あるいは「両方」か。あるいは「どちらでもない」か。
「では、あなたはその中から何を選ぶのですか。」
「わしは選ばんよ。選ばんのも選択肢の一つじゃ。…そんな事よりゲームに付き合ってくれんか?」
私は機嫌を損ねた。そんな選択肢は屁理屈だ。
*
立方体の上面をじっと眺める。マス目状の平らな表面には白と黒のチップが規則正しく表示されており、左右の側面にもまた同様のものが表示されている、それ以外には特に何もない。
博士の言う、このゲームのルールというものはとても面倒だ。相手とチップを奪い合い、最後により多くのチップを持っているものが勝利となる。ただし普通に奪う事はできず、相手のチップを奪うにはこちらもチップを使わなくてはならない。相手を殺しても勝ちにならないのがこのゲームの難しい所だろう。
「他の者は皆飽きてしもうてな、今は誰を相手をしてくれん。だからお前さんを選んだのじゃ。」
「何故飽きるのですか。」
「それはわしが強すぎるからじゃよ。」
博士は鼻を高くして大いに笑う。只でさえでかい鼻が余計にでかく見えて滑稽だ。
「さあてまずは側面を見るのじゃ。」
「何故見るのですか。」
「年寄りの言うことは黙って聞き入れるものじゃよ。」
「そうですか。」
理不尽な答えだけれど、私は大人しく側面のスクリーンを見た。側面には立方体の上面と全く同じ並びで白と黒のチップが規則正しく表示されている。違う点を挙げるとすれば、チップの横に変な数字の配列が表示されている点だろう。
「その数値は勝率じゃ。お前さんが勝利を望むなら、画面に表示される最も大きい数字のチップのみを動かし続けるとええじゃろう。」
博士は数字の説明をする。何となくだが、私はそれなりに遊び方を理解した。
しかし、数字の大小はどう区別すればいいのだろうか。三桁の数字は私にはまだ早すぎる。
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